なんとなく脳トレがてら1日1問解説しようと思っただけです.飽きたらやめます.
純粋な変数分離形の問題は一旦ここで終了,次回は同次形です.
予備知識(わからなくても本問は解けます!)
今回は古典力学における数学を 雑に 簡単に取り扱います.
本節の内容は,本文の背景を知ってホヘェ〜ってなりたい人向けです.
問題だけ解きたい方は,画面スクロールしちゃってください.
加速度
加速度 $a$ とは,速度 $v$ の時間変化のことです.例えば,ある物体の速度の大きさがどんどん増えている時,その物体は"加速している" と言います.つまり,時間を $t$ という変数で表せば,加速度 $a$ は, 時間 $t$ に対する速度 $v$ の 変化の割合を意味します.
一般に, $x$ に対する $y$ の変化の割合は,
\frac{(y~の増加量)}{(x~の増加量)}=\frac{\Delta y}{\Delta x}
と表現されます,
同様に,ある時刻 $t_1$ のときに速度 $v_1$ だった物体が, 時刻 $t_2$ のときに速度 $v_2$ まで加速したとすると,この物体の加速度は,
a= \frac{\Delta v}{\Delta t}=\frac{v_2-v_1}{t_2-t_1},
で求めることが出来ます.これを,平均の加速度と呼んだりもします.
"平均" と呼ばれる所以は,時刻 $t_1$ と時刻 $t_2$ の間に "ある程度の間隔" が存在しているからです. この間隔をどんどん小さくして,実質的にある瞬間をみたものを,瞬間の加速度と呼びます,
ちょっと背伸びして,あえて難しめの数学で記述すると,
a= \lim_{\Delta t\rightarrow 0}\frac{\Delta v}{\Delta t}=\dfrac{\mathrm{d}v}{\mathrm{d}t},
で定義されるのが瞬間の加速度です.
以降では,特に指定のない限り,加速度と書いた場合は瞬間の加速度を表すこととします.
運動方程式
質量 $m$ の物体に,大きさ$F$ の力を加えた時,物体の加速度の大きさは,
a=\frac{F}{m},
で表されます.これを変形した $ma =F$ を,ニュートンの運動方程式と呼びます.
ニュートンの運動方程式に, 微分を用いた加速度の定義を代入すると,
m\dfrac{\mathrm{d}v}{\mathrm{d}t}=F,
と書き換えることが出来ます.
重力加速度
物体が重力だけを受けて落下するとき,その運動を自由落下運動といいます.また自由落下運動における物体の加速度を重力加速度といい,その大きさを $g$ で表します.
運動方程式より,大きさ $g$ の重力加速度を受けて自由落下する物体にはたらく力の大きさ $F$ は,
mg=F,
より $mg$ とわかります.
一般に, 質量$m$ にはたらく重力の大きさは,重力加速度の大きさを $g$ としたときに $mg$ で求められます.
空気抵抗
物体が空気中を動く時,物体の運動を妨げる向きに力がはたらきます.これを空気抵抗と呼びます.空気抵抗が無いと,例えば標高$1,000~\mathrm{m}$ から落下した雨粒は,地表到達時に 約 $140~\mathrm{m/s}$ になります.詳しくは,こーじさんの動画などを見てみてください.
空気抵抗の大きさは,運動している物体の速度の大きさ,物体の形状,気体の種類などに影響してきます.
一番わかり易いのは物体の速度の大きさでしょうか.ジェットコースターみたいな速度がとても出るアトラクションに乗ると,空気抵抗を文字通り体験できると思います.
一般に,重力を受けて落下する質量 $m$ の物体に大きさ $\varphi$ の空気抵抗がはたらくとき,鉛直下向きを正としたときの運動方程式は次のようにかけます.
m\dfrac{\mathrm{d}v}{\mathrm{d}t}=mg-\varphi.
問題
速度の二乗に比例する空気抵抗を受けるときの落下運動を考える.
例えば,質量 $m$ の雨粒が落ち始めてから, $t$ 秒後の速度を $v>0$ とすると,
m\dfrac{\mathrm{d}v}{\mathrm{d}t} = mg-Kv^2~~~(m, g, K>0),
が成り立つとしよう.
① 一般解を求め, $t=0$ のとき $v=0$ とした特殊解を求めよ.
② ①の特殊解において,$t\rightarrow \infty$ のときの速度 $v_\infty$ を求めよ.
解説
① 一般解を求め, $t=0$ のとき $v=0$ とした特殊解を求めよ
与式の両辺を $m$ で割ると,次のようになります.
\begin{align*}
\dfrac{\mathrm{d}v}{\mathrm{d}t} &= g-\frac{K}{m}v^2,\\
\dfrac{\mathrm{d}v}{\mathrm{d}t} &= g\left(1-\frac{K}{mg}v^2\right),
\end{align*}
これは紛れもなく変数分離形です.
ちょっとメタな発言にはなりますが,後で部分分数分解を行う関係で,右辺の括弧( ) 内で因数分解の公式$1-x^2=(1+x)(1-x)$ を使いたくなります.そこで,$k=\sqrt{\dfrac{K}{mg}}\rightarrow k^2 =\dfrac{K}{mg}$ とおき,変数分離を行います.また,最終的には $v=\cdots$ の形に変形するので, 定数 $g$ は右辺に置きっぱなしにして変形します.さらにさらに,途中の変形で分母が0になるとまずいので,以降は $v\neq \dfrac{1}{k}$ とおきます($v= \dfrac{1}{k}$ のときは後で検討します.また, $v>0$ より $v=-\dfrac{1}{k}$ となることはありません.).
\begin{align*}
\dfrac{\mathrm{d}v}{\mathrm{d}t} &= g\left(1-k^2v^2\right),\\
\frac{1}{1-k^2v^2}\dfrac{\mathrm{d}v}{\mathrm{d}t} &= g,\\
\frac{1}{(1+kv)(1-kv)}\dfrac{\mathrm{d}v}{\mathrm{d}t} &= g,\\
\int\frac{1}{(1+kv)(1-kv)}\dfrac{\mathrm{d}v}{\mathrm{d}t} \mathrm{d}t&= \int g\mathrm{d}t,\\
\int\frac{1}{(1+kv)(1-kv)}\mathrm{d}v&= \int g\mathrm{d}t.
\end{align*}
じつは,有名な公式,
\int\frac{1}{(ax+b)(cx+d)} \mathrm{d}x=\frac{1}{cb-ad}\log{\left|~\frac{cx+d}{ax+b}~\right|}+C,~~~(C:任意定数)
はあるのですが,今回は知らない体で左辺の被積分関数を部分分数分解して解いていきます.
\frac{1}{(1+kv)(1-kv)}= \frac{a}{1+kv}+\frac{b}{1-kv}
とおくと, $a=b=\dfrac{1}{2}$ とわかります(部分分数分解については 本日の微分方程式(2日目) 【補足1】 部分分数分解 を御覧ください.
よって,
\begin{align*}
\dfrac{1}{2}\int\left(\frac{1}{1+kv}+\frac{1}{1-kv}\right)\mathrm{d}v&= \int g\mathrm{d}t,\\
\dfrac{1}{2}\left(\dfrac{1}{k}\log{|~1+kv~|}-\dfrac{1}{k}\log{|~1-kv~|}\right)&= gt+C_1~~~(C_1: 任意定数),\\
\log{ \frac{|~1+kv~|}{|~1-kv~|} }&= 2kgt+2kC_1,\\
\log{\left| \frac{1+kv}{1-kv} \right|}&= 2kgt+2kC_1,\\
\left| \frac{1+kv}{1-kv} \right|&= e^{2kgt+2kC_1},\\
\frac{1+kv}{1-kv} &= \pm e^{2kC_1}e^{2kgt},\\
\therefore \frac{1+kv}{1-kv} &= C_2e^{2kgt}~~~(C_2\neq 0).\\
\end{align*}
あとはこれを $v$ について解いていきましょう. 両辺に $1-kv$ をかけるところから初めて,
\begin{align*}
1+kv &= C_2e^{2kgt}(1-kv),\\
1+kv &= C_2e^{2kgt}-C_2kve^{2kgt},\\
kv + C_2kve^{2kgt} &= C_2e^{2kgt}-1,\\
\therefore vk\left(1+C_2e^{2kgt}\right) &= C_2e^{2kgt}-1,\\
v &= \frac{1}{k}\frac{C_2e^{2kgt}-1}{1+C_2e^{2kgt}},\\
\end{align*}
ここでストップしても本質的には問題ないのですが, 実はもう少しきれいな形までもっていけるので,多少天下りになりますが変形を続けます.まず,右辺の分母・分子を $e^{kgt}$ で割ることで, 対称的な構造を作ります.
\begin{align*}
v &= \frac{1}{k}\frac{C_2e^{kgt}-e^{-kgt}}{e^{-kgt}+C_2e^{kgt}},\\
\therefore v &= \frac{1}{k}\frac{C_2e^{kgt}-e^{-kgt}}{C_2e^{kgt}+e^{-kgt}},\\
\end{align*}
さて, $v= \dfrac{1}{k}=\sqrt{\dfrac{mg}{K}}$ については, 上記について $C_2$ をどのようにとっても表現できません(特異解).したがって,解は,
\begin{align*}
v &= \sqrt{\dfrac{mg}{K}}\frac{C_2e^{\sqrt{\frac{Kg}{m}}t}-e^{-\sqrt{\frac{Kg}{m}}t}}{C_2e^{\sqrt{\frac{Kg}{m}}t}+e^{-\sqrt{\frac{Kg}{m}}t}}~~~(C_2\neq 0), \sqrt{\dfrac{mg}{K}},\\
\end{align*}
と求まります.前者が一般解です.
$t=0$ のとき $v=0$ とした特殊解を求めるために,一般解に, $t=0$ および $v=0$ を代入し, $C_2$ を求めましょう(特異解では $v=0$ との前提が崩れるので適用外です).
\begin{align*}
0 &= \sqrt{\dfrac{mg}{K}}\frac{C_2e^{\sqrt{\frac{Kg}{m}}\times 0}-e^{-\sqrt{\frac{Kg}{m}}\times 0}}{C_2e^{\sqrt{\frac{Kg}{m}}\times 0}+e^{-\sqrt{\frac{Kg}{m}}\times 0}},\\
0 &= \sqrt{\dfrac{mg}{K}}\frac{C_2 - 1}{C_2 +1},\\
0 &= C_2 - 1,\\
\therefore C_2 &=1.
\end{align*}
有難いことに, $C_2 =0$ とわかったので,特殊解は,
\begin{align*}
v &= \sqrt{\dfrac{mg}{K}}\frac{e^{\sqrt{\frac{Kg}{m}}t}-e^{-\sqrt{\frac{Kg}{m}}t}}{e^{\sqrt{\frac{Kg}{m}}t}+e^{-\sqrt{\frac{Kg}{m}}t}}\\
\therefore v &= \sqrt{\dfrac{mg}{K}}\tanh\left(\sqrt{\frac{Kg}{m}}t\right),\\
\end{align*}
と簡単に表すことが出来ます.
ここで, $\tanh x$ (ハイパボリックタンジェント)の定義,
\begin{align*}
\tanh = \frac{e^x -e^{-x}}{e^x + e^{-x}},\\
\end{align*}
を用いました.
② ①の特殊解において,$t\rightarrow \infty$ のときの速度 $v_\infty$ を求めよ.
$\displaystyle\lim_{x\rightarrow \infty}\tanh x =1$ だとわかれば,
\begin{align*}
v_\infty = \lim_{t\rightarrow \infty}v &= \lim_{t\rightarrow \infty}\sqrt{\dfrac{mg}{K}}\tanh\left(\sqrt{\frac{Kg}{m}}t\right)=\sqrt{\frac{mg}{K}},\\
\end{align*}
だとすぐ求まります.これを簡単に証明しておくと,次のようになります.
\begin{align*}
\lim_{x\rightarrow \infty}\tanh x &= \lim_{x\rightarrow \infty}\frac{e^x -e^{-x}}{e^x + e^{-x}}=\lim_{x\rightarrow \infty}\frac{1 -e^{-2x}}{1 + e^{-2x}}=1.\\
\end{align*}
ハイパボリックタンジェントは機械学習分野でも使われる重要な関数ですので,$y=\tanh x$ のグラフは,イメージとともに抑えておきましょう.
【参考】 終端速度
ここで求めた $v_\infty = \displaystyle \lim_{t\rightarrow \infty}v$ は終端速度と呼ばれ,定数(一定値)で有ることがわかります.
この終端速度 $v_\infty = \sqrt{\dfrac{mg}{K}}$ を運動方程式 $m\dfrac{\mathrm{d}v}{\mathrm{d}t} = mg-Kv^2$ の右辺に代入すると,
\begin{align*}
mg-Kv_{\infty}^2 = mg-K\left(\sqrt{\dfrac{mg}{K}}\right)^2 =0,
\end{align*}
となりますから, 運動方程式の右辺が $0$ であることがわかります.つまり,
\begin{align*}
m\dfrac{\mathrm{d}v}{\mathrm{d}t} &=0,\\
\therefore \dfrac{\mathrm{d}v}{\mathrm{d}t} &=0,
\end{align*}
が成り立つので, "速度の時間変化が $0$" つまり,"加速しない"ことを意味します.このときの運動を等速直線運動といいます.
よって,空気抵抗のある落下運動では,この終端速度を超えて物体が落下することはありません.
これが,弾丸のような速さで雨粒が落ちてこない理由です.空気抵抗に感謝しましょう.