0.なぜ紹介するのか
今回、PMDAが公開している JADER というデータベースを紹介します。
私自身、大学院に入学する前はこのデータベースの存在を知らなかったため、「こんなに面白いデータベースもある」という気持ちでまとめました。
いわゆる n番煎じ ではありますが、少しでもお役に立てば幸いです。
1.PMDAとは
JADERについて説明する前に、その運営主体である PMDA について簡単に紹介します。
PMDA(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)は、厚生労働省の所管のもとに設立された独立行政法人で、医薬品に関する以下の業務を担っています。
医薬品を世に出すかどうかを判断する 承認審査
医薬品による副作用が生じた場合の 健康被害救済
副作用報告などに基づく 安全対策
JADERは、これらのうち 安全対策 を支える重要な情報基盤の一つです。
2.JADERとは
独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)は、2004年以降、医療機関や製薬企業等から報告された
日本国内の「副作用が疑われる症例報告」 を集積し、
Japanese Adverse Drug Event Report(JADER) として公開しています。
JADERは、医療機関や製薬企業などから寄せられた 有害事象(副作用)の自発報告 を集めたデータベースです。
詳細な中身については後述します。
なお、このような副作用報告データベースは日本独自のものではなく、海外にも存在します。
このように、分析目的に応じて
日本語で記載されている JADER
件数が非常に多い米国の FAERS
など、さまざまな選択肢があります。
3.JADERのテーブル構成
JADERのデータは、2024年2月時点で 全4ファイル合計 約623MB にも及び、医薬品の安全性を評価するうえで重要な情報源の一つです。
市販後に多くの患者が使用する医薬品を対象としていることから、医薬品の安全対策の観点でも重要な位置づけにあります。
JADERは以下の 4つのテーブル から構成されており、識別番号 を用いて相互に紐付けることができます。
JADER テーブル構成
| 症例一覧テーブル | 医薬品情報テーブル | 副作用情報テーブル | 原疾患テーブル |
|---|---|---|---|
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4.よく行われる分析
JADERは 「副作用の因果関係を証明するデータベース」ではありません が、
特定の医薬品と有害事象の関連が疑われるシグナルを検出する目的 で広く利用されています。
代表的な分析手法として、以下が挙げられます。
報告オッズ比(ROR:Reporting Odds Ratio)
比例報告比(PRR:Proportional Reporting Ratio)
シグナル検出指標の比較
| 指標名 | 略称 | 基本的な考え方 | 算出イメージ | 判定の目安(代表例) | 特徴・注意点 |
|---|---|---|---|---|---|
| 報告オッズ比 | ROR | ある薬剤で特定の副作用が、他の薬剤と比べて 多く報告されているかを見る | 2×2分割表のオッズ比 | ROR > 1 かつ 95%CI下限 > 1 |
・計算が簡単 ・解釈が直感的 ・症例数が少ないと不安定 |
| 比例報告比 | PRR | ある薬剤の副作用構成比が、 全体の副作用構成比より高いかを見る | 副作用の割合の比 | PRR ≥ 2 かつ χ² ≥ 4 など |
・WHOで広く使用 ・RORと結果は似やすい |
このほかにも、複数薬剤の併用(飲み合わせ)を考慮したシグナル検出も行われています。
薬剤名と有害事象の両方が記録されているデータベースだからこそ可能な分析です。
5.JADERを用いた解析の限界
JADERは医薬品の安全性評価において非常に有用なデータベースですが、その特性上、解析結果の解釈には注意が必要です。
① 報告バイアスが存在する
JADERは 自発報告(Spontaneous Reporting) に基づくデータベースであり、すべての副作用が網羅的に報告されているわけではありません。
そのため、以下のような報告バイアスが生じます。
・副作用が軽微な場合は報告されにくい
・新薬や注目度の高い薬剤は報告が増えやすい
・メディア報道や注意喚起後に報告が急増する(stimulated reporting)
この結果、実際の発生頻度とは乖離した報告分布になる可能性があります。
② 因果関係を直接示すものではない
JADERに基づくシグナル検出は、
医薬品と有害事象の 「関連が疑われる組み合わせ」 を抽出する手法であり、
因果関係を証明するものではありません。
原疾患の影響
併用薬の影響
患者背景(年齢・重症度など)
といった交絡因子が十分に制御されていないため、
観測された関連が 真の薬剤起因であるとは限らない 点に注意が必要です。
6.まとめ
JADERは、薬剤に関する統計解析やシグナル検出を行いたい人にとって非常に有用なデータベースです。
限界を理解したうえで活用すれば、医薬品の安全性を考えるうえで多くの示唆が得られます。
ぜひ一度、実際に触ってみてください。