こういう現状を想定したわけではない
私は以前、「AI使うなら全自動やろ」という記事を書きました(Qiita / Zenn)。ネタ出しから作画までを一気通貫で回し、生成ループから人間の拘束を剥がす、という話です。今でもその考えは変えていません。
ただ、最近 YouTube や Web を眺めていて、正直なところ愕然としています。AI で作られた漫画や動画が、それこそ洪水のように流れてくる。そしてその大半が、驚くほどつまらないのです。
確かに私は「全自動で回せる」と書きました。しかし、こういう現状を想定して書いたわけではありません。
誤解のないように言っておくと、これは「AIで漫画を作るな」という話ではありません。むしろ逆です。私自身、AI がなければ漫画など一枚も作れない人間です。それでもなお、今あふれているものの大半がつまらないのはなぜなのか。その原因は AI の側ではなく、使っている人間の側にあると考えています。
街にあふれる「うまいのに、つまらない」
まず、何がつまらないのかを整理しておきます。私の見る限り、ざっと4つに分類できます。
① 絵はうまいが、話がない
作画のクオリティは高い。キャラも可愛い。なのに、読み終えても何も残らない。「何を伝えたかったのか」が存在しないまま、綺麗なコマだけが並んでいるパターンです。面白さの判断そのものを AI に投げてしまった結果でしょう。
② 話はあるが、キャラが別人
3ページ目で髪型が変わる。5ページ目で目の色が変わる。服の柄が毎コマ違う。読者は物語ではなく「間違い探し」をさせられることになります。同一性の維持は AI が最も苦手とする部分であり、そこを人間が押さえていない典型です。
③ どこかで見た
異世界転生、追放もの、ざまぁ展開。テンプレそのものが悪いのではありません。問題は、テンプレから一歩も出ていないこと。AI は「もっともありそうなもの」を出す装置なので、素で回せば当然そうなります。
④ 量だけがある
毎日投稿、1日3本、シリーズ100話。作り手の都合だけがそこにあって、読者がどこにもいない。量産できること自体が目的化してしまっているパターンです。
①〜④に共通しているのは、人間が判断すべきところを判断していないという一点です。
AIの得意・不得意は、はっきり分かれている
なぜこうなるのか。前提として、AI には明確な得意・不得意があります。これは能力の高低ではなく、性質の非対称性です。
| AIが得意なこと | AIが苦手なこと |
|---|---|
| 反復・量産 | 逸脱・意外性 |
| 整合性を取ること | あえて矛盾を残すこと |
| 体裁を整えること | 「間」や省略 |
| 変換(翻訳・清書・形式変換) | 落差やオチの設計 |
| 平均的に上手いものを出すこと | 固有の実体験に根ざした固有性 |
| 言葉で説明すること | 黙って見せること |
そして、私が実際に AI と組んで物語を作ってきた中で、「これは本当に苦手だ」と痛感したものが具体的に5つあります。
1. パラレルワールドが書けない
同時並行で進む別世界を描こうとすると、AI は必ず整合性を取ろうとします。片方の世界の出来事をもう片方に反映させようとしたり、両者をつなぐ理屈を勝手に補ったり。「並行しているが交わらない」という状態を、そのまま保持してくれません。
2. 理屈に合わないことが許容できない
たとえばモノローグ。心の声なのだから、他人に聞こえるはずがありません。それでも他のキャラがツッコむ——漫画ではおなじみの演出です。理屈には合っていませんが、合っていないから面白い。
ところが AI は、この「理屈に合わない状態」を放置できません。聞こえないはずのものに反応しているのはおかしい、と判断して、「実は小さく口に出していた」「たまたま近くで聞かれていた」といった根拠を勝手にでっち上げてくるのです。
こうして、反応するための理屈は通りました。そして、ギャグは死にました。
3. 時空のねじれを埋めようとする
その場にいなかった人物が、なぜかその出来事を知っている。物語ではよくあることですし、そこを説明しないから面白いという場合もあります。しかし AI は、そこに必ず理由をつけようとします。「実は物陰で聞いていた」などと勝手に補完してくる。
4. 話を入れ替えると、勝手に埋めてくる
これが一番厄介でした。一度書いたストーリーを組み直したとき、組み直し後に触れなかった要素——こちらは「後で出そう」と思って意図的に伏せている要素——を、AI は「書き忘れ」と判断します。そして親切心で無理やり本文に混ぜ込んでくる。結果、自分で自分の話をネタバレするという事故が起きます。
5. 絵に語らせるべきところに、文章を入れてくる
そして漫画をやっていて一番効いてくるのが、これです。
漫画は絵で語るメディアです。キャラの表情をひとつ変えれば、それだけで十分に伝わることがたくさんあります。目を見開かせる。口を半開きにする。それで「驚いた」は完全に伝わる。説明する必要はどこにもありません。
ところが AI は、そこに 「麗美は驚いた」 とナレーションを入れてきます。
絵で描いてあるものを、わざわざ文字でもう一度言う。読者はもう絵で理解しているのに、そこへ答え合わせが差し込まれる。読む側の仕事を奪っているわけです。しかもコマの中は、言わなくていい文字で埋まっていく。
「絵に任せて、黙っておく」という選択が、AI にはできません。
なぜそうなるのか
5つとも、根っこは同じです。AI は「穴を埋める」方向に最適化されているからです。
矛盾があれば解消する。説明されていないことがあれば理由を補う。抜けている情報があれば埋める。文章生成としては、これはまったく正しい挙動です。むしろ優秀と言っていい。
しかし物語というのは、まさにその「埋めない部分」で成立しています。
- 伏線とは「まだ説明していないこと」である
- 心理描写の深さとは「言わないこと」で生まれる
- 意外性とは「整合しない何か」が後から意味を持つことである
- 読者の想像とは「空白」があってはじめて働く
- 絵で語るとは「文章にしないこと」である
つまり AI にとっての「欠陥」が、物語にとっての「価値」なのです。この非対称を理解せずに全自動で回せば、伏線は前倒しで説明され、心理は地の文で解説され、絵で足りているものにまでナレーションが付き、余白は残らず埋められます。
その結果どうなるか。読者は、ストーリーを読んでいるのではなく、説明文を読まされている気分になります。漫画の場合、これは比喩ですらありません。コマの中に、文字どおり説明文が書いてあるのですから。
「なんとなく退屈」の正体はこれです。文章はうまい。破綻もしていない。なのに面白くない。当たり前で、それは物語ではなく報告書だからです。
AI とはそういうものであって、フィクションに関してはなかなか対応しがたい。これは今のところ、AI の限界というより性質だと思っています。
さらに、編集と推敲がされていない
そこに追い打ちをかけているのが、編集・推敲の不在です。
自動で一気に最後まで出そうとするから、途中でキャラの顔が変わっていても、設定が食い違っていても、そのまま最後まで走り切ってしまう。誰も止めない。誰も読み返さない。そして、そのまま投稿される。
ストーリーもダメ、画もダメ。一体、何を読めばいいというのでしょうか。
そして、これは本人にとっても損な話です。そういうものを量産して並べれば、読者は「AI 漫画=つまらないもの」と学習します。次に本気で作ったものを出しても、もう読んでもらえない。結局は自分で自分の首を絞めているだけなのです。
では、AI漫画の自動生成はダメなのか
そんなことはありません。むしろ大いに可能性を感じています。
私は、ネタはあるが絵がまったく描けない人間です。そういう人間にとって、今の環境は三種の神器と言っていいほどの状況です。
- ChatGPT Image … 今や漫画のコマ割りまで自動でやってくれる
- Claude … そこに投げるプロンプトを作る
- Codex … その間をつなぐ橋渡しをする
10年前なら、「絵が描けない」という理由だけで諦めるしかありませんでした。それが今は、ネタさえあれば形にできる。これは本当にすごいことです。
AI にネタ出しをさせること自体も、大いに結構だと思っています。人間なのだから、ネタ切れになるときもあります。そんなとき Claude と壁打ちをすれば、思ってもみなかったヒントが出てくる。私も日常的にやっています。
問題は、そこではありません。AI が出したネタを、そのまま使ってしまうこと。今あふれている自動生成漫画のつまらなさは、ほぼここに集約されます。
これ以上、全自動で急ぐ必要がどこにあるのか
コマの大きさも配置も、引きとアップの切り替えも、見開きの中でちゃんと成立しています。そして1ページ目と2ページ目で、彼女は同じ人物のままです。これを手描きでやれと言われたら、私の画力では逆立ちしても不可能です。それが一瞬で出てくる。
もちろん、一発で決まるとは限りません。コマ割りが気に入らないこともあれば、構成が思っていたのと違うこともある。しかしそのときは、単に再ガチャを回すか、プロンプトを直せばいい。それだけでいくらでもブラッシュアップできます。
そして——それでもなお、手で描くより遥かに速いのです。
ここが肝心なところだと思っています。人間が確認して、気に入らなければ作り直して、納得してから次に進む。それだけの手間をかけても、従来の制作と比べれば桁違いに速い。
だとしたら、これ以上、全自動で急ぐ必要がどこにあるのでしょうか。
手を入れる時間は、もう十分すぎるほどあります。それをやらないのは、速さの問題ではありません。ただやっていないだけです。
AIの出したネタは、素材であって完成品ではない
出版される漫画にだって、編集会議というものがあるではないですか。
作家が持ってきたネタを、編集者と揉んで、削って、練り直す。あの工程を丸ごと飛ばしておいて、面白いものができるはずがありません。相手が AI になっただけで、やるべきことは何も変わっていないのです。
私が考える最低限の工程は、こうです。
1. AIが出したネタに、自分のアイデアを加えて練る
壁打ちの相手として AI を使い、出てきた案に自分の視点を足す。「AI が出したから」で採用しない。ここが最も自動化してはいけない工程です。
2. ネーム・コンテを丁寧に作る
どのコマで何を見せ、何を見せないか。ここを決めるのは人間の仕事です。前述のとおり、AI は放っておけば全部説明してしまうのですから、「説明しない場所」は人間が指定するしかありません。
3. キャラクターシートを先に作り、使い回す
毎回キャラを説明し直すから別人になるのです。容姿・衣装をあらかじめ定義として固定し、何度でも同じものを呼び出せるようにしておく。先ほどのページで彼女が最後まで同じ顔でいられるのは、登場人物ごとにキャラクターシートを1枚用意して使い回しているからです。私が前作のアプリでキャラ定義を YAML に切り出しているのも、まさにこの理由からです。同一性は AI に期待せず、人間側が仕組みで担保する。
4. ページごとに出力し、ダメなら再生成する
一気に最後まで出さない。1ページ出して、確認して、納得いかなければ作り直す。手間に見えるかもしれませんが、前述のとおりそれでも手描きより遥かに速いのです。最後まで走り切ってから全体が破綻していることに気づくより、手戻りもずっと少なくて済みます。
ここまでやれば、少なくとも無機質なものはできません。
そして、それでもなおつまらなかったとしたら——そのときは話が別です。それは AI のせいではなく、ストーリーやネタそのものがダメだったということ。潔く諦めて、次のネタを考えればいい。少なくとも、原因がどこにあるかはハッキリします。
まとめ ── 全自動にすべきは労働であって、判断ではない
冒頭に戻ります。私は今でも「AI 使うなら全自動やろ」と思っています。その考えは変わりません。
ただ、あのとき言いたかったのは、生成ループに人間が張り付いて消耗するのをやめようという話でした。「何を作るか」「何が面白いか」「どこを見せないか」を AI に明け渡そう、という話ではまったくなかった。
自動化していい工程と、してはいけない工程があります。
- 自動化していい … 作画、清書、形式変換、リテイク、同じ処理の繰り返し
- 自動化してはいけない … 何を描くか、なぜ面白いか、どこを削るか、どこを説明しないか
AI は道具です。とてつもなくよくできた道具ですが、道具です。つまらないものができたなら、それは道具のせいではありません。
原因は、人間にあります。

