勧誘宣伝の波を超えて
会社の仕事を横に置いて、東京ビッグサイトの会場を歩いた。QRコードを差し出す手、パンフレットを押しつける笑顔。出展社のKPIはリード獲得数だ。来場者の課題を聞く気がある担当者には、ほとんど出会えなかった。その波を抜けて、セミナー会場に入った。
暗黙知をAIで抽出する——その一段手前に問いがある
テーマは「社員の暗黙知を企業の強みにする方法」だった。登壇者は暗黙知を「誰でも知っていること」「自分しか知らないこと」「相手しか知らないこと」「誰も知らないこと」という4つの例えで説明した。その上で答えとして提示されたのが、AIによる自動抽出だった。
技術として正しい。ただ一段手前の問いがある。
そもそも暗黙知が発生しない設計にできないのか。
航空業界はレバー形状の統一や誤接続不能なコネクタ設計で、人間の判断が介在する余地を構造から削ってきた。ITで言えば、手順書を書くより先にAnsibleで自動化する、申請書を書くよりシステムで自動承認する、という方向だ。
抽出より先に、設計を疑う視点がセミナーには存在しなかった。
農園型を批判しながら——問いだけが残った
次のセミナーでは、農園型・サテライト型雇用を批判し、障害者の独自性を活かす「アート採用」が提案された。
軽作業が絵を描く仕事に変わる。本人の得意を活かせる。その点は農園型より前進している可能性がある。
ただ一つの問いが残った。
企業の本業に統合されているのか、それとも別枠が変形しただけなのか。
判断には検証が必要だ。成果物が実際に企業活動で使われるか。キャリアが他社でも通用する実績になるか。これらを確認しないまま断定はできない。批判仮説として持ち帰る。
誰が構造を変えるのか——答えは出なかった
2つのセミナーを通じて、共通する空白が見えた。
ツールの導入先を設計する人間はいる。職域を提案する人間もいる。しかし「今ある構造のどこが設計ミスか」を問う人間が、会場のどこにもいなかった。
ツールは構造の上に乗る。職域は構造の中に作られる。構造そのものを問い直す役割は、誰のKPIにも入っていない。
今日はその問いだけを持ち帰る。答えは出ていない。