KindleのWindows版アプリが2026年6月後半にメジャーアップデートされました。今回はMicrosoft Storeからの配布となっています。ようやくWindows版Kindleの日本語環境もAmazonが言うところの「タイプセッティングの改善」に対応したものと思われます。なお今回のメジャーアップデートはWindows11専用とのことで、Windows10など旧環境には適用されないようですが、Windows10は既に無料サポート期間が終わっていてMicrosoftもWindows11への早期アップデートを促している状況ですのでこれは仕方ないかと思います。
さて、既にiOS版、Mac版、Android版、専用端末の「タイプセッティングの改善」対応メジャーアップデートは既に終わっており、今回Windows版がアップデートされたことでようやくボトルネックがなくなったことになるはずです。それを踏まえて、昨年の11月25日に私がJEPAセミナー(講演映像等はこちら)で発表した資料と比較しながら主要な改善点をチェックしてみたいと思います。半年以上前の調査資料ですが、他のデバイスのKindleアプリで大きな変更はないはずですので比較の意味はあるでしょう。現時点でのより正確な表示結果を確認したいという方は、Amazonで「EPUBリーダー表示テスト」および「EPUBリーダー表示テスト正解集」が販売されていますのでそちらをお買い求めいただき、検証してみてください。
Windows版Kindle(1.0.18632)テスト結果
文字の表示に関するテスト
埋め込みフォント関連
長年の懸案だった埋め込みフォントの表示ですが、ハングルの表示テストについては画面のように表示できています。なお、この直前のテストは文字が化けてしまっているのですが、ハングルのテストではOpenType形式のフォント(SourceHanSerif-VF)を埋め込んでいるのに対して、直前のテストではTrueType形式のフォントを使用しているのでそこの違いかも知れません。フォントを埋め込んだ場合に読者側で特に指定しなくても埋め込んだフォントが強制優先表示される挙動は他のデバイスのKidleアプリと同様です。
日本語で使われる漢字の字形(異体字)バリエーションの表示
CSSでのfont-variant-east-asian、同じくfont-feature-settingsでの異体字表示指定は効いていませんが、Unicode IVSでの表示はできています。他のデバイスのKidleアプリと同様の挙動です。以前のWindows版KindleではUnicode IVSの異体字表示文字が豆腐として表示されてしまう状態でしたので、ようやく使えるようになったというところでしょうか。
日本語EPUB 内での欧文イタリック字形の表示
欧文イタリックを斜体ではなく本来のイタリック字形で表示させることも埋め込みフォントの使用を前提にすれば可能になっています。
サロゲートペア文字の表示
こちらも問題なく表示できているようです。このあたりの文字(Unicodeの基本多言語面に入っていないが商用日本語フォントに字形情報はある文字)を外字画像化しなければならない状況はそろそろ終わって欲しいところですのでほっとしました。
結合文字列の表示
これは文字によって結果が分かれる状況でした。問題になるのは合成済みのダイアクリティカルマークがUnicodeに含まれておらず、合成可能ダイアクリティカルマークを利用せざるを得ないキリル文字やギリシャ文字、アルファベットの「下」にダイアクリティカルマークが入るベトナムなどアジア圏の人名地名の欧文表記等ですが、これらの表示に瑕瑾があると専門性の高い本の参考文献ページなどが外字画像の山になって相当以上にツラいので早くどうにかして欲しいところです。
組版処理に関するテスト
画像のサイズ指定
この項目は結構デバイスごとに対応している単位、していない単位があって複雑なのですが、Windows版Kindleも%での指定は効いていることが確認できました。これは他のデバイスも共通のため、画像サイズの画面に対しての%指定はできると考えて良さそうです。なお、Kindle以外のビューアの対応も考慮すると、「書字方向への%指定」が確実かと思われます。
実ページ番号表示テスト
今回のテストではEPUB内に設定したページ番号(紙版と同じページ番号を電子版でも表示させる指定)の表示はできていませんでした。ただこれは元々紙版と電子版の双方が販売されているコンテンツで同じページを表示させるための機能で、Kindleパブリッシングガイドラインにもその記述があります。この本は同内容の紙版が存在しないため、効いていないのは当然と言えます。他の本では効いていた例があったという話を聞いたことがありますが、この条件に基づくものでしょう。制作側としてはできれば販売前に挙動を確認したいところですが、現状仕方がないところです。カギ/句読点の前後のツメ・アケ制御/和欧間自動アキ指定
約物類が連続する部分の詰まり方を見ると自動ツメ表示はできているようです。他のデバイスのKindleと同じ挙動に見えます。Kindleの文字ツメ、アケ処理はCSSによる指定が効いた結果ではなく独自処理の強制適用のようなので細かい評価はできませんが、日本語のテキストが読みやすくなっていることは確かなので喜ばしいところです。
ルビ関連表示テスト
ルビの肩付き指定が効いています。これはKindle以外のビューアと比べてもかなり日本語対応できている部分です。一方で、通常と反対側のルビ(縦組みでの左側ルビ)の指定は効きません。他のビューアと同様ですが両側ルビの指定も効きません。
表テーブルセル幅/高さ指定テスト
tableタグで表を作った場合に各セルの幅の指定は%、vw/vhの双方で効くようです。セルの幅が%とvw/vhで多少変わるのはビューア表示画面の周囲のマージンを含めて計算するかどうかで変わるということでしょうか。簡単な表組みであればtableタグで作っても問題ないと言えそうです。
MathML 数式表示テスト
MathMLによる数式表示はできているようです。これは簡易的なテストに過ぎないため実際に数学方面の本の作成に使えるかどうかはより網羅的な調査が必要でしょうが、そちらは門外漢のため専門の方に任せたいと思います。
画像関連テスト
SVG 表示テスト
SVG形式の画像の表示もできています。SVGはベクター画像のため画面を拡大した際にグラフ等がきれいに表示できることが期待できます。
クリッカブルマップ動作テスト
クリッカブルマップの動作はできていません。これは他のデバイスのKindleも同様なため、Amazonの方針と見てよいのかもしれません。気になった部分
囲み罫の角丸指定
これは11/25の資料には入れていなかったのですが、Windows版Kindleで囲み罫の角丸指定(border-radius)が効いていなかったので指摘しておきます。他のデバイスでは問題なく表示できているので、いずれ修正されることを期待したいところです。
追記:1.0.18632(最終更新日2026年7月6日)で表示が確認できたとの情報をいただきました。修正されたものと思われます。
今回できるようになったこと及び今後への期待
今回のアップデートで、全てのデバイスのKindleアプリで埋め込みフォントが利用できることが確認できました。これは結構大きな話で、将来的には印刷物と同じように出版社側が任意のフォントを使えるようになるかもしれません。もっともそのためには各フォントメーカーがライセンスに同意してフォントの難読化やサブセット化を行えるツールが提供される必要はあるため、商用フォントの利用にはまだいくつもの壁はあるかと思います。 ただ、SIL OPEN FONT LICENSE等のライセンスで公開されているオープンソースのフォント、具体的にはNoto SansやNoto Serif(源ノ角ゴシック/源ノ明朝)は現状でも問題なく利用できます。これによって、例えば現状EPUBでは実質利用できない極太ゴシックや極太明朝での見出しの表示や、(Noto Sans/Noto SerifはPAN-CJKフォントなので)参考文献等で大量に出てくることのあるハングルや中国語人名等の表示はできるようになるはずです。また、欧文等幅のNoto Sans Mono等を用いることでコンピュータ技術書などで求められるコードの等幅表示もできるでしょう。
これまでEPUBでは日本語フォントが持っていない文字は外字画像にせざるを得ない状況でしたが、埋め込みフォントを利用してテキストの状態を保ったままデータ化できれば、アクセシビリティ対応という意味でも大きな進歩になります。
また、Unicode IVSでの異体字表示に対応したことで(どこまで需要があるかはわかりませんが)人名等の細かな字形の差異にも対応できるようになりましたし、他のデバイスのKindleアプリと同様に約物のツメ処理が適用されるようになったことでようやくちゃんと日本語の本として違和感なく読めるようになったかなとも思います。実ページ番号表示も(おそらく)できています。
今後はこれらを受けて制作者側が対応していくターンに入ります。いやーここまで本当に長かった。