47: Measures of Financial Risk /
47.1:ポートフォリオ理論とバリュー・アット・リスク
Mean-Variance Framework(平均・分散フレームワーク)
Mean-Variance Frameworkは、ポートフォリオを次の2つの尺度で評価する考え方である。
- Mean(平均):Expected Return(期待リターン)
- Variance / Standard Deviation(分散・標準偏差):Risk(リスク)
基本的な考え方は、
- 同じRiskならExpected Returnが高い方が望ましい
- 同じExpected ReturnならRiskが低い方が望ましい
というものである。
2資産からなるポートフォリオのExpected Returnは、各資産のExpected Returnを投資比率で加重平均して求める。
$$
\mu_P=w_1\mu_1+w_2\mu_2
$$
ここで、
- $\mu_P$:Portfolio Expected Return
- $w_1,w_2$:各資産のPortfolio Weight
- $\mu_1,\mu_2$:各資産のExpected Return
を表す。
一方、Portfolio Riskは単純な加重平均ではない。
$$
\sigma_P=\sqrt{w_1^2\sigma_1^2+w_2^2\sigma_2^2+2w_1w_2\sigma_1\sigma_2\rho}
$$
ここで、
- $\sigma_P$:Portfolio Standard Deviation
- $\sigma_1,\sigma_2$:各資産のStandard Deviation
- $\rho$:2資産間のCorrelation
を表す。
Portfolio RiskにはCorrelationが含まれるため、各資産のRiskだけではなく、資産同士がどのように一緒に動くかが重要になる。
Correlationが低い資産を組み合わせることで、それぞれの価格変動を打ち消し合い、Portfolio全体のRiskを低下させることができる。これがDiversification(分散投資)の基本的な仕組みである。
Efficient Frontier(効率的フロンティア)
複数のRisky Assetをさまざまな比率で組み合わせると、Expected ReturnとRiskの異なる多数のPortfolioを作ることができる。
その中で、
- 同じRiskなら最もExpected Returnが高い
- 同じExpected Returnなら最もRiskが低い
Portfolioを結んだものがEfficient Frontierである。
Efficient Frontier上にないPortfolioは、別のPortfolioによってDominated(支配)される。
例えばPortfolio AとCのExpected Returnが同じで、AのRiskの方が小さい場合、
$$
\sigma_A<\sigma_C
$$
となるため、AがCをRiskの観点からDominatesする。
一方、Portfolio BとCのRiskが同じで、BのExpected Returnの方が高い場合、
$$
E(R_B)>E(R_C)
$$
となるため、BがCをReturnの観点からDominatesする。
したがって、Risk-Averseな合理的投資家はEfficient Frontierより下側にある非効率なPortfolioを選ぶ理由がない。
ただし、Efficient Frontier上のどのPortfolioを選ぶかは投資家のRisk Aversionによって異なる。
- Risk Aversionが高い投資家:低Risk・低Expected Return側
- Risk Aversionが低い投資家:高Risk・高Expected Return側
を選択する。
Risk-Free Assetを加えたEfficient Frontier
Risk-Free Securityが存在すると、Mean-Variance Frameworkはさらに拡張される。
Risk-Free SecurityのReturnを、
$$
R_F
$$
とする。
Risk-Free Securityは価格変動Riskを持たないため、
$$
\sigma=0
$$
と考える。
Risk-Free SecurityとMarket PortfolioであるMを組み合わせることで、従来の曲線状のEfficient Frontierよりも効率的な直線を作ることができる。
この直線がNew Efficient Frontierとなる。
Market Portfolio Mとは、理論上、市場に存在するすべてのRisky Assetを、それぞれの市場価値に応じた割合で保有するPortfolioである。
Risk Aversionが高い投資家は、
- Risk-Free Security
- Market Portfolio M
の両方を保有する。
一方、Riskを積極的に取る投資家はMarket Portfolio Mを多く保有する。
さらにMより右側のPortfolioを実現したい場合は、Risk-Free Rateで資金を借り入れ、その資金をMarket Portfolioに追加投資する。
これはLeverageを利用することを意味する。
Mean-Variance Frameworkが成立しやすい条件
Mean-Variance Frameworkでは、Return DistributionがNormal DistributionなどのElliptical Distributionであることが重要となる。
Normal Distributionは左右対称であるため、Standard DeviationをRiskとして利用しやすい。
Standard Deviationは、
ReturnがMeanからどの程度ばらついているか
を表す。
Normal Distributionのような左右対称の分布であれば、Meanから大きく離れる可能性が高くなることは、Downside Riskが高くなることとも対応しやすい。
しかし、実際の金融資産のReturn Distributionは必ずしもNormal Distributionではない。
そのため、Standard DeviationだけでRiskを評価すると、現実のRiskを正しく捉えられない場合がある。
Standard Deviationと「標準偏差何個分」の意味
Standard Deviationは、データがMeanの周辺からどれくらい広がっているかを表す尺度である。
例えば、
$$
\mu=0\text{%}
$$
$$
\sigma=2\text{%}
$$
とする。
この場合、Standard Deviation 1個分は2%ポイントである。
したがって、Standard Deviation 2個分は、
$$
2\sigma=2\times2\text{%}=4\text{%}
$$
となる。
Meanが0%であれば、
- Meanから1 Standard Deviation左:-2%
- Meanから2 Standard Deviations左:-4%
- Meanから1 Standard Deviation右:+2%
- Meanから2 Standard Deviations右:+4%
となる。
「標準偏差2個分」とは2%という意味ではない。
Standard Deviationが何%であるかによって実際の距離は変化する。
z-score
z-scoreは、ある値がMeanからStandard Deviation何個分離れているかを表す尺度である。
$$
z=\frac{x-\mu}{\sigma}
$$
ここで、
- $x$:Distribution上で確認したい具体的な値
- $\mu$:Mean
- $\sigma$:Standard Deviation
- $z$:MeanからStandard Deviation何個分離れているか
を表す。
例えば、
$$
\mu=0\text{%}
$$
$$
\sigma=2\text{%}
$$
$$
x=-4\text{%}
$$
であれば、
$$
z=\frac{-4\text{%}-0\text{%}}{2\text{%}}=-2
$$
となる。
つまり、
-4%というReturnは、MeanよりStandard Deviation 2個分左側にある
という意味である。
zはProbabilityではない。
ただし、Normal Distributionではz-scoreとProbabilityが対応している。
例えば、
- $z=-1.65$付近より左側の確率:約5%
- $z=-2.33$付近より左側の確率:約1%
となる。
この性質がVaRの計算に利用される。
Probability Distributionの読み方
Probability Distributionは、あるRandom Variableがどのような値を取りやすいかを表したものである。
金融でReturn Distributionを考える場合、横軸にはReturnが置かれる。
例えば、
- -10%
- -5%
- 0%
- +5%
- +10%
といったReturnが横軸上に並ぶ。
連続確率分布の場合、縦軸は直接Probabilityを表しているわけではなく、**Probability Density(確率密度)**を表している。
Probabilityは、Distribution Curveの下側の**Area(面積)**によって表される。
したがって、
Returnがある範囲内に入るProbability
を求める場合は、その範囲に対応するDistribution Curveの下側のAreaを考える。
例えばReturnが-5%から+5%までに収まるProbabilityは、
-5%から+5%までのCurve下のArea
によって表される。
Normal DistributionとFat Tail
Normal Distributionでは、Mean付近のOutcomeが最も起こりやすく、Meanから遠ざかるにつれてProbability Densityが小さくなる。
Distributionの両端をTailという。
金融Returnの場合、
- Left Tail:大幅なマイナスReturn
- Right Tail:大幅なプラスReturn
を表す。
実際のEquityなどのReturn Distributionは、Normal DistributionよりもPeakが高く、Tailが厚いことがある。
これをFat Tailという。
Fat Tailとは、
Normal Distributionと比較して、Meanから大きく離れたExtreme Outcomeが発生するProbabilityが高い
という意味である。
単純に「Distribution Curveの端が大きい」という理解でも方向性は正しいが、より正確には、
Tail部分のAreaがNormal Distributionより大きい
ということを意味する。
Risk Managementでは特にLeft Tailが重要となる。
Left Tailには、
- 株価の大幅下落
- 急激な金利変動
- 為替の急落
- Market Crash
など、大きな損失につながるOutcomeが含まれる。
そのため、実際にはFat Tailが存在するにもかかわらずNormal Distributionを仮定すると、Extreme LossのProbabilityを過小評価する可能性がある。
Skewness(歪度)
MeanとStandard Deviationが同じDistributionであっても、Distributionの形が異なればRisk Characteristicsも異なる。
Skewnessは、Distributionの左右非対称性を表す。
Positive Skewでは、DistributionのRight Tailが長くなる。
つまり、多くのOutcomeは比較的低い値に集中する一方、少数の非常に大きなPositive Outcomeが存在する。
このようにDistributionが非対称である場合、
MeanとStandard DeviationだけではRisk Distributionの特徴を十分に表せない
可能性がある。
これがMean-Variance Frameworkの重要なLimitationsの一つである。
Mean-Variance FrameworkのLimitations
Mean-Variance Frameworkを利用するためには、いくつかの強いAssumptionが必要となる。
主なAssumptionは以下である。
- 投資家が同じExpected Returnを想定する
- 投資家が同じStandard Deviationを想定する
- 投資家が同じCorrelationを想定する
- Portfolio評価ではMeanとStandard Deviationが重要である
- 投資家がRisk-Free Rateで借入できる
- Return DistributionがNormal DistributionなどのElliptical Distributionに近い
しかし、実際の市場では、
- Volatilityが時間とともに変化する
- Correlationが変化する
- Return DistributionにSkewnessがある
- Fat Tailが存在する
ことがある。
したがって、Standard DeviationだけでRiskを評価すると、特にExtreme Lossを十分に捉えられない可能性がある。
Value at Risk(VaR)
Value at Riskは、一定期間・一定Confidence Levelのもとで、Portfolioがどの程度の損失を被る可能性があるかを表すRisk Measureである。
例えば、
1か月95% VaR = 100万円
であれば、
通常の市場環境では、1か月間の損失が100万円を超えないProbabilityが95%である
と解釈する。
逆にいえば、
$$
100\text{%}-95\text{%}=5\text{%}
$$
なので、
5%の確率では100万円を超える損失が発生する可能性がある
ことを意味する。
重要なのは、VaRは、
「絶対にこれ以上損しない金額」
ではないことである。
VaRを超えた場合に、実際の損失がどの程度になるかについてはVaRだけでは分からない。
Confidence Levelとz-score
Delta-Normal VaRでは、Confidence Levelを決めるとNormal Distribution上の対応するz-scoreが決まる。
代表的には、
- 95% Confidence Level:$z\approx1.65$
- 99% Confidence Level:$z\approx2.33$
となる。
VaRでは通常のz-score計算とは計算の方向が異なる。
通常のz-scoreでは、
$x$が分かっている状態で、MeanからStandard Deviation何個分離れているか
を計算する。
一方VaRでは、
Confidence Levelを先に決め、対応するz-scoreを使って損失境界$x$を求める
という流れになる。
Normal Distributionを前提とする場合、
$$
x=\mu-z\sigma
$$
となる。
例えば、
$$
\mu=0\text{%}
$$
$$
\sigma=2\text{%}
$$
$$
z=1.65
$$
であれば、
$$
x=0\text{%}-1.65\times2\text{%}=-3.3\text{%}
$$
となる。
つまり、95% Confidence Levelに対応するReturn Boundaryは約-3.3%である。
したがってVaRでは、
zを自由に設定する
のではなく、
Confidence Levelを設定し、そのConfidence Levelに対応するz-scoreをNormal Distributionから取得する
という順序になる。
Delta-Normal VaR
Delta-Normal VaRでは、Portfolio ReturnがNormal Distributionに従うと仮定し、MeanとStandard DeviationからVaRを求める。
記事では次の式が用いられている。
$$
VaR=(\mu-z\sigma)\times Portfolio\ Value
$$
例えば、
$$
Portfolio\ Value=100,000,000
$$
$$
\mu=0.00188
$$
$$
\sigma=0.0125
$$
$$
z=1.65
$$
とする。
まずReturn Boundaryを求める。
$$
\mu-z\sigma=0.00188-1.65\times0.0125=-0.018745
$$
したがって、
$$
VaR=-0.018745\times100,000,000=-1,874,500
$$
となる。
これは、
95% Confidence Levelでは、1週間の損失が約1,874,500ドルを超えないと推定される
という意味である。
Holding PeriodとVaR
VaRではConfidence Levelだけでなく、Holding Periodも重要なParameterとなる。
例えば、
- 1-Day VaR
- 1-Week VaR
- 1-Month VaR
では結果が異なる。
一般にHolding Periodが長くなれば、Returnが変動する時間も長くなるためVaRは大きくなる。
Return DistributionのMeanが0である場合、VaRは概ねSquare-Root-of-Time Ruleに従う。
$$
VaR_T=VaR_1\sqrt{T}
$$
したがって、Holding Periodを長くするとRiskも増加するが、単純に期間に比例して増加するわけではない。
VaRのLimitations
VaRには複数の重要なLimitationsがある。
Confidence Levelが任意
95%、99%など、どのConfidence Levelを採用するかによってVaRは変化する。
Confidence Levelを高くすると、よりExtremeなLossまで考慮するためVaRも大きくなる。
Holding Periodが任意
1日、1週間、1か月など、どのHolding Periodを採用するかによってVaRは変化する。
VaRを超えた損失の大きさが分からない
VaRは、
指定したConfidence Levelに対応するLoss Boundary
を示す。
しかし、Boundaryを超えた場合に、
- 101万円の損失なのか
- 500万円の損失なのか
- 1億円の損失なのか
はVaRだけでは分からない。
そのため、Tail RiskそのもののMagnitudeを十分に表せない。
Option SellingとVaRの問題
Out-of-the-Money Optionを売却するStrategyでは、多くの場合、小さなProfitを得ることができる。
しかし、市場が大きく変動すると非常に大きなLossが発生する可能性がある。
このようなStrategyでは、
- 多くの期間:小さなProfit
- まれな期間:非常に大きなLoss
というReturn Distributionになりやすい。
そのため、通常時のVaRが小さく見えていても、Tail Eventが発生した場合には非常に大きなLossにつながる可能性がある。
このことから、
VaRが小さいことと、Extreme Loss Riskが小さいことは同じではない
点に注意する必要がある。
Model Risk
VaRを計算するためには、現実の金融市場を数理・統計的に表現するModelが必要となる。
ここでいうModelとは単なる計算式だけではなく、
- Return Distributionをどう仮定するか
- Volatilityをどう推定するか
- Correlationをどう推定するか
- Portfolio Valueをどのように計算するか
- どのRisk Factorを利用するか
といったAssumptionとCalculation Methodの組み合わせを意味する。
例えばDelta-Normal VaRでは、
Portfolio ReturnはNormal Distributionに従う
というAssumptionを置く。
しかし現実のReturn DistributionにFat Tailが存在する場合、このAssumptionは現実と一致しない。
その結果、
Extreme Loss Probabilityを過小評価し、VaRを小さく見積もる
可能性がある。
このように、ModelそのもののAssumptionや構造が現実を適切に表していないことによって生じるRiskをModel Riskという。
Implementation Risk
Implementation Riskは、Model自体ではなく、そのModelを実際に計算システムへ実装する過程で発生するRiskである。
例えば、
- ProgramのBug
- Market Dataの入力ミス
- Position Dataの誤り
- Currency Conversionの誤り
- Parameter設定ミス
- 95% VaRで使用すべきz-scoreを誤る
などが該当する。
したがって、
- Model Risk:考え方・Assumption・Modelそのものの問題
- Implementation Risk:Modelを実際に動かす際の実装上の問題
という違いがある。
VaRを実務で利用する主体
金融機関では、VaRのCalculation・Monitoringは主にRisk Management部門が担当する。
代表的には、
- Market Risk Team
- Enterprise Risk Management
- Quantitative Risk Team
などがVaR ModelのCalculationやMonitoringを行う。
一方、VaRを利用する主体はRisk Management部門だけではない。
- Trader:自分のTrading BookのRisk確認
- Portfolio Manager:Portfolio全体のRisk確認
- Risk Manager:Risk LimitやRisk Appetiteの管理
- Senior Management:企業全体のMarket Risk把握
など、組織内のさまざまな主体がVaRを利用する。
Mean-Variance FrameworkとVaRの関係
Mean-Variance FrameworkとVaRは、どちらもPortfolio Riskを評価するための考え方であるが、Riskの表現方法が異なる。
Mean-Variance Frameworkでは、
Standard Deviationを用いてReturnのばらつきをRiskとして評価する。
一方、VaRでは、
一定期間・一定Confidence LevelにおけるLoss Boundaryを金額またはReturnで表す。
したがって、全体の流れは、
AssetのExpected Return・Volatility・Correlationを把握する
→ Portfolioを構築する
→ Efficient Frontierから効率的なPortfolioを考える
→ Portfolioがどの程度のLossを被る可能性があるかをVaRで測定する
と整理できる。
Knowledge Tree
47.2:整合性のあるリスク指標と予想不足額
Coherent Risk Measure(整合性のあるリスク指標)とは
リスク指標を利用するためには、まず「良いリスク指標がどのような性質を持つべきか」を定義する必要がある。
将来のポートフォリオの収益や価値を $R$、そのリスクを測定する関数を $\rho(R)$ とする。
Coherent Risk Measure(整合性のあるリスク指標)は、次の4つの性質を満たすリスク指標である。
- Monotonicity(単調性)
- Subadditivity(劣加法性)
- Positive Homogeneity(正の同次性)
- Translation Invariance(平行移動不変性)
特にFRMでは、Subadditivityが最も重要な性質として扱われる。
1. Monotonicity(単調性)
あるポートフォリオ $R_1$ が、すべての状況において別のポートフォリオ $R_2$ より高い収益を生む場合、
$$
R_1\geq R_2
$$
であれば、
$$
\rho(R_1)\leq\rho(R_2)
$$
でなければならない。
つまり、
常に良い結果を生むポートフォリオの方が、より高いリスクと評価されてはいけない
という性質である。
例えば、どのシナリオでもポートフォリオAの損失がポートフォリオBより小さいのであれば、AのリスクもB以下であるべきである。
2. Subadditivity(劣加法性)
Subadditivityは、Coherent Risk Measureの中で特に重要な性質である。
$$
\rho(R_1+R_2)\leq\rho(R_1)+\rho(R_2)
$$
これは、
複数の資産を組み合わせたポートフォリオのリスクは、それぞれの資産を単独で保有した場合のリスクの合計を超えてはいけない
という意味である。
例えば、
$$
Risk(A)=100
$$
$$
Risk(B)=100
$$
であれば、
$$
Risk(A+B)\leq200
$$
であるべきである。
AとBが完全に同じ値動きをしない場合にはDiversification(分散投資)の効果が生じるため、
$$
Risk(A+B)<200
$$
となることも期待できる。
したがってSubadditivityは、
リスク指標がDiversificationの効果を正しく反映できるか
を表す性質ともいえる。
DiversificationとSubadditivity
複数の資産を組み合わせると、一方の損失が他方の利益によって相殺される可能性がある。
例えば資産Aと資産BのCorrelation(相関)が完全な正の相関でなければ、ポートフォリオ全体の変動は、それぞれの変動を単純に足したものより小さくなる可能性がある。
そのため、適切なリスク指標であれば、
$$
Portfolio\ Risk\leq Sum\ of\ Individual\ Risks
$$
となることが望ましい。
これがSubadditivityの基本的な考え方である。
3. Positive Homogeneity(正の同次性)
ポートフォリオの規模を $\beta$ 倍した場合、リスクも $\beta$ 倍になるという性質である。
$$
\rho(\beta R)=\beta\rho(R)
$$
例えば、あるポートフォリオのリスクが100万円であれば、同じポートフォリオを2倍保有すると、
$$
Risk=2\times100万円=200万円
$$
となる。
つまり、
リスクはポジションサイズに比例する
という考え方である。
ただし、この性質は十分なLiquidity(流動性)が存在する市場を前提としている。
非常に大きなポジションを保有すると、売却そのものが市場価格に影響を与えるMarket ImpactやLiquidity Riskが発生するため、現実には完全な比例関係が成立しないこともある。
4. Translation Invariance(平行移動不変性)
ポートフォリオに確実な金額のCashを追加した場合、その金額だけリスクが減少するという性質である。
$$
\rho(R+c)=\rho(R)-c
$$
ここで $c$ は確実に受け取れるCashを表す。
例えば、
$$
\rho(R)=100
$$
のポートフォリオに100のCashを追加すれば、
$$
\rho(R+100)=100-100=0
$$
となる。
つまり、
確実なCashを追加すれば、その分だけ損失に対する安全余裕が増える
ということである。
Coherent Risk Measureの4条件
| 性質 | 意味 | 直感 |
|---|---|---|
| Monotonicity | より良い将来価値を持つポートフォリオは低リスク | 良い結果しか起きない資産を高リスクと評価しない |
| Subadditivity | 組み合わせたリスクは個別リスクの合計以下 | Diversificationを正しく評価する |
| Positive Homogeneity | ポジションを何倍かするとリスクも同じ倍率になる | リスクは投資額に比例する |
| Translation Invariance | Cashを追加するとその分リスクが減少する | 安全資産によって損失を吸収できる |
VaRの復習
VaR(Value at Risk)は、一定の信頼水準における損失の境界値を表す。
例えば、
$$
VaR_{95\text{%}}=20\text{%}
$$
であれば、
95%の確率では損失が20%以内に収まる
という意味になる。
反対側から見ると、
5%の確率で20%を超える損失が発生する可能性がある
という意味でもある。
VaRの問題点
VaRは損失分布の境界を示すことはできるが、
境界を超えた後に、どの程度大きな損失が発生するのか
を教えてくれない。
例えば、2つのポートフォリオについて、
$$
VaR_{95\text{%}}=20\text{%}
$$
だったとしても、その先の5%の損失が、
- 21%
- 22%
- 23%
程度なのか、
あるいは、
- 30%
- 60%
- 90%
まで拡大するのかはVaRだけでは分からない。
つまりVaRは、
Tail Riskの入口は示すが、Tail内部の損失規模は示さない
という弱点を持つ。
Expected Shortfall(ES:予想不足額)
Expected Shortfallは、
VaRを超える悪いケースが発生した場合の平均損失
を表す。
Expected Shortfallは以下の名称でも呼ばれる。
- Expected Shortfall
- Conditional VaR
- CVaR
- Expected Tail Loss
- ETL
例えば95%信頼水準を利用する場合、損失分布の最悪5%の部分を取り出し、その平均損失を求める。
したがって、
VaRはTailの入口、ESはTail内部の平均損失
と考えると分かりやすい。
VaRとESのイメージ
例えば、95% VaRが20%であり、その先の5%の損失が次のようになっているとする。
| Tail内のシナリオ | 損失 |
|---|---|
| 1 | 21% |
| 2 | 23% |
| 3 | 25% |
| 4 | 30% |
| 5 | 40% |
VaRは約20%である。
一方、ESでは最悪5%の損失を平均する。
$$
ES=\frac{21+23+25+30+40}{5}=27.8\text{%}
$$
したがって、
- VaR:損失20%付近がTailへの境界
- ES:Tailに入った場合の平均損失は27.8%
という違いになる。
Loss DistributionにおけるVaRとES
Loss Distributionでは、横軸に損失額、縦軸にその損失が発生する頻度や確率密度を表す。
95%信頼水準の場合、
小さい損失 大きい損失
───────────────────────────────┬──────────────▶
│
95% VaR
│
└── Worst 5%
│
└── この部分の平均損失がES
VaRはDistribution上のある1点を示す。
一方ESは、VaRを超えたTail部分全体を利用する。
ESはなぜVaRより大きくなるのか
損失を正の値として表す場合、
$$
ES\geq VaR
$$
となる。
ESは、VaRを超える悪いケースだけを取り出して平均するためである。
例えば、
$$
VaR=20\text{%}
$$
で、その先の損失が、
$$
21\text{%},25\text{%},30\text{%},40\text{%}
$$
であれば、その平均値は20%を上回る。
したがって通常、
$$
ES>VaR
$$
となる。
正規分布を仮定したES
リターンがNormal Distribution(正規分布)に従うと仮定した場合、Expected Shortfallは次の式で求められる。
$$
ES=\mu+\sigma\frac{e^{-z^2/2}}{(1-x)\sqrt{2\pi}}
$$
各変数は次の意味を持つ。
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| $\mu$ | Expected Return |
| $\sigma$ | Standard Deviation |
| $x$ | Confidence Level |
| $z$ | Standard Normal Distribution上の分位点 |
標準正規分布のProbability Density Functionを $\phi(z)$ とすると、
$$
\phi(z)=\frac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{-z^2/2}
$$
であるため、
$$
ES=\mu+\sigma\frac{\phi(z)}{1-x}
$$
とも表せる。
ESの計算例
ポートフォリオについて次の条件を考える。
$$
Portfolio\ Value=$100,000,000
$$
$$
\mu=0
$$
$$
\sigma=0.0125
$$
$$
Confidence\ Level=95\text{%}
$$
95%信頼水準に対応するStandard Normal Distributionの値はおよそ、
$$
z=1.65
$$
である。
まず、
$$
e^{-1.65^2/2}\approx0.2563
$$
また、
$$
\sqrt{2\pi}\approx2.5066
$$
したがって、
$$
ES=0.0125\times\frac{0.2563}{0.05\times2.5066}
$$
$$
ES\approx0.02556
$$
つまり、
$$
ES\approx2.556\text{%}
$$
となる。
Dollar Amountに変換すると、
$$
Dollar\ ES=$100,000,000\times0.02556=$2,556,000
$$
したがって、
95% Expected Shortfallは約255.6万ドル
となる。
同じ条件でVaRを計算する
同じポートフォリオについて、95% VaRを概算すると、
$$
VaR=1.65\times0.0125=0.020625
$$
したがって、
$$
VaR\approx2.06\text{%}
$$
Dollar Amountでは、
$$
Dollar\ VaR=$100,000,000\times0.020625=$2,062,500
$$
となる。
比較すると、
| 指標 | 約 |
|---|---|
| 95% VaR | $2.06 million |
| 95% ES | $2.56 million |
意味としては、
VaR
95%の確率では、1週間の損失が約206万ドル以内に収まる。
ES
残り5%の悪いケースに入った場合、平均すると約256万ドル損失する。
VaRはなぜCoherent Risk Measureではないのか
VaRの大きな問題は、
Subadditivityを常に満たすわけではない
ことである。
Coherent Risk Measureであれば、
$$
\rho(A+B)\leq\rho(A)+\rho(B)
$$
である必要がある。
しかしVaRでは、場合によって、
$$
VaR(A+B)>VaR(A)+VaR(B)
$$
となることがある。
つまり、
資産を組み合わせてDiversificationを行ったにもかかわらず、VaR上ではリスクが増えたように見える
ことがある。
このため、VaRは一般にはCoherent Risk Measureとはいえない。
VaRがSubadditivityを満たす場合
VaRが常にSubadditivityを満たさないという意味ではない。
例えば、Normal Distributionなど一定の条件下では、VaRもSubadditivityを満たすことがある。
したがって、
VaRは絶対にSubadditivityを満たさない
のではなく、
VaRは一般的な分布に対してSubadditivityを保証できない
と理解することが重要である。
ESはSubadditivityを満たす
Expected Shortfallでは、
$$
ES(A+B)\leq ES(A)+ES(B)
$$
が成立する。
ESはVaRのようにTailの1点だけを見るのではなく、
Tail全体の平均損失
を見る。
そのため、資産を組み合わせることで生じるDiversification効果をより自然に反映できる。
したがってESは、
- Monotonicity
- Subadditivity
- Positive Homogeneity
- Translation Invariance
の4条件をすべて満たす。
つまり、
Expected ShortfallはCoherent Risk Measureである。
ESとPortfolio Optimization
Expected Shortfallは、Portfolio Optimizationにも適している。
ESはSubadditivityを満たすため、ポートフォリオのRisk SurfaceがConvexになりやすい。
Portfolio Optimizationでは、例えば、
$$
\min Risk
$$
のように、リスクを最小化するPortfolio Weightを求める。
Risk FunctionがConvexであれば、数学的にGlobal Minimumを探索しやすくなる。
一方、VaRではRisk SurfaceがNon-Convexになることがあり、最適解を求めることが難しくなる場合がある。
そのため、
Portfolio OptimizationではVaRよりESの方が扱いやすい
という利点がある。
VaRとESの共通点
VaRとESには共通する特徴もある。
どちらも、
- ポートフォリオのRiskを共通の尺度で表現できる
- 複数の資産やポジションを比較できる
- Correlationを考慮したPortfolio Riskを計算できる
- Confidence Levelを設定してRiskを測定できる
という特徴を持つ。
VaRとESの違い
| 項目 | VaR | Expected Shortfall |
|---|---|---|
| 測定対象 | 損失分布上の境界値 | Tail内の平均損失 |
| 95%の場合 | Worst 5%への入口 | Worst 5%の平均 |
| Tail Riskの大きさ | 分からない | 分かる |
| Subadditivity | 一般には保証されない | 満たす |
| Coherent Risk Measure | 一般にはNo | Yes |
| Diversification | 不自然な結果になる場合がある | 適切に反映しやすい |
| Risk Surface | Non-Convexになる場合がある | Convex |
| Portfolio Optimization | 扱いにくい場合がある | 適している |
| Extreme Loss | 十分把握できない | より把握しやすい |
「VaRはProbability、ESはLoss Amount」という理解への注意
VaRそのものもProbabilityではなく、基本的にはLoss AmountまたはLoss Rateである。
例えば、
$$
VaR_{95\text{%}}=$2,000,000
$$
のように表される。
95%という数字がConfidence Levelであり、VaRそのものはLoss Amountである。
VaRは、
損失分布上の特定のQuantileに対応するLoss
を表す。
一方、ESは、
そのQuantileを超えたTail部分のAverage Loss
を表す。
したがって、
- VaR:Tailの境界
- ES:Tail内部の平均損失
と整理すると分かりやすい。
重要ポイント
Coherent Risk Measureとは、リスク指標として望ましい数学的性質を満たした指標である。
4つの条件のうち、特に重要なのがSubadditivityである。
$$
\rho(A+B)\leq\rho(A)+\rho(B)
$$
Subadditivityは、DiversificationによってPortfolio Riskが不自然に増加しないことを保証する。
VaRはTailの境界値を示すが、その先の損失規模を把握できない。
Expected Shortfallは、
VaRを超える最悪のTail領域における平均損失
を測定する。
またESはSubadditivityを含む4つのCoherent Risk Measureの条件をすべて満たす。
したがって、
ESはVaRよりTail Riskを適切に把握でき、Portfolio Optimizationにも適したRisk Measure
と考えられる。
Knowledge Tree
48: Caluculating and Applying VaR
48.1:線形デリバティブと非線形デリバティブ
デリバティブは、原資産や金利、為替、信用スプレッドなどのRisk Factorの変化に対して、デリバティブ価値がどのように変化するかによって、大きくLinearとNon-Linearに分類できる。
この違いはVaRの計算方法にも直接影響する。
- Linear Derivative:Risk Factorの変化に対して価値が一定の割合で変化する
- Non-Linear Derivative:Risk Factorの水準によって価値の変化率そのものが変化する
代表例として、ForwardやFuturesはLinear、OptionはNon-Linearである。
Linear Derivative
**Linear Derivative(線形デリバティブ)**では、Underlyingの変化に対するDerivative Valueの変化率が一定である。
例えばForward Contractの価値は次のように表される。
$$
V=S-PV(K)
$$
ここで、
-
V:Forwardの現在価値 -
S:現在のUnderlying Asset Price -
K:契約上のDelivery Price -
PV(K):将来支払うDelivery Priceの現在価値
である。
PV(K)が一定なら、Underlying PriceであるSが1増加するとForward ValueであるVも1増加する。
したがって、SとVの関係は直線になる。
Linear Derivativeでは、この傾きを表すDeltaが一定になる。
Delta
Deltaは、
Risk Factorが少し変化したときに、DerivativeまたはPortfolioの価値がどれだけ変化するか
を表す。
$$
\delta=\frac{\Delta P}{\Delta S}
$$
ここで、
-
δ:Delta -
ΔP:PortfolioまたはDerivative Valueの変化 -
ΔS:Underlying Risk Factorの変化
である。
例えば、株価指数が1 point上昇するとFutures Contractの価値が500ドル上昇する場合、
$$
F_t=500S_t
$$
となるため、Deltaは500である。
つまり、
$$
\Delta F=500\Delta S
$$
となる。
Linear Derivativeでは、この500という関係がUnderlyingの水準にかかわらず一定である。
Non-Linear Derivative
**Non-Linear Derivative(非線形デリバティブ)**では、Underlying Priceが同じ金額だけ変化しても、Derivative Valueの変化額が一定ではない。
代表例がCall Optionである。
満期時のCall Option Payoffは次のようになる。
$$
C=\max(S-X,0)
$$
ここで、
-
C:Call OptionのPayoff -
S:Underlying Asset Price -
X:Strike Price
である。
例えばStrike Priceが100の場合、
| Underlying Price | Call Option Payoff |
|---|---|
| 80 | 0 |
| 90 | 0 |
| 100 | 0 |
| 110 | 10 |
| 120 | 20 |
となる。
Underlying Priceは10ずつ増えているが、Call Option Payoffは、
0 → 0 → 0 → 10 → 20
と変化する。
したがって、Underlying PriceとCall Option Valueの関係は直線ではない。
Call Option PriceとTangent Line
満期前のCall Option Priceは、Underlying Priceに対して滑らかな曲線になる。
この曲線上のある1点に引いた接線をTangent Lineという。
Tangent Lineの傾きがDeltaである。
つまりDeltaは、
現在のUnderlying Priceの近くにおいて、Option Price Curveを直線として近似したときの傾き
と考えることができる。
そのため、Underlying Priceの変化が小さい場合には、
$$
\Delta C\approx\delta\Delta S
$$
としてOption Priceの変化を近似できる。
しかしOption Priceは実際には曲線なので、Underlying Priceが大きく動くほどTangent Lineとの誤差も大きくなる。
Gamma
Non-Linear DerivativeではDelta自体も一定ではない。
Underlying Priceが変化するとDeltaも変化する。
このDeltaの変化率を表すのがGammaである。
$$
\gamma=\frac{\partial\delta}{\partial S}
$$
または、
$$
\gamma=\frac{\partial^2C}{\partial S^2}
$$
と表される。
直感的には、
- Delta:Option Price Curveの傾き
- Gamma:Option Price Curveの曲がり具合
である。
DeltaとGammaを使うと、Option Valueの変化を次のように近似できる。
$$
\Delta P\approx\delta\Delta S+\frac{1}{2}\gamma(\Delta S)^2
$$
第1項がDeltaによるLinear Effect、第2項がGammaによるCurvature Effectである。
ATM OptionでGammaが重要な理由
Optionでは、特にAt-the-Money(ATM)付近でOption Price Curveの曲がりが大きくなる。
つまりATM付近ではGammaが大きい。
そのため、
$$
\Delta P\approx\delta\Delta S
$$
というDeltaだけのLinear Approximationでは誤差が大きくなりやすい。
一方、Deep In-the-MoneyのCall Optionでは、Option PriceがUnderlying Priceに近い動きをするため、価格曲線は比較的直線に近くなる。
この場合Gammaは小さくなり、Delta Approximationが比較的有効になる。
Normal Distribution
**Normal Distribution(正規分布)**とは、平均を中心として左右対称な釣鐘型のProbability Distributionである。
平均付近の値が最も発生しやすく、平均から離れるほど発生確率が低くなる。
例えばReturnをNormal Distributionと仮定する場合、
- 小さなプラスReturn
- 小さなマイナスReturn
は比較的多く、
- 非常に大きなプラスReturn
- 非常に大きなマイナスReturn
は少ないと考える。
Normal Distributionの重要な特徴は左右対称であることである。
UnderlyingがNormalとは何を意味するか
記事におけるUnderlyingがNormalという考え方は、Underlying Assetそのものというより、
Underlying AssetのPrice ChangeやReturnなどのRisk Factor ChangeがNormal Distributionに従う
という仮定として理解するとよい。
例えばUnderlyingの変化をΔSとすると、
$$
\Delta S\sim Normal
$$
というイメージである。
なぜUnderlyingがNormalでもDerivativeはSkewedになるのか
ここはNon-Linear Derivativeを理解するうえで非常に重要である。
まず、
-
S:Underlying Asset Price -
C:Call Option Price
とする。
Call Option PriceはUnderlying Priceによって決まるため、
$$
C=f(S)
$$
という関係にある。
もしSからCへの変換がLinearなら、Normal DistributionをLinearに変換してもDistributionの形はNormalのまま維持される。
例えば、
$$
C=2S+5
$$
なら、Sの値を単純に2倍して5を加えているだけである。
したがって、SがNormal DistributionならCもNormal Distributionになる。
Optionでは変換がNon-Linear
Call Optionの場合、
$$
C=f(S)
$$
の関数fがNon-Linearである。
満期時を単純化して考えると、
$$
C=\max(S-X,0)
$$
となる。
Strike Priceを100とすると、
$$
S=80\Rightarrow C=0
$$
$$
S=90\Rightarrow C=0
$$
$$
S=100\Rightarrow C=0
$$
$$
S=110\Rightarrow C=10
$$
$$
S=120\Rightarrow C=20
$$
となる。
ここで重要なのは、Underlying側では80、90、100という異なる値であっても、Call Option側ではすべて0になることである。
つまり、
Underlying側の広い範囲の値が、Option側では低い価格帯に圧縮される
一方で、Underlying Priceが大きく上昇するとCall Option Priceは上方向へ伸び続ける。
その結果、Call Option PriceのDistributionは左右対称にならず、片側に長いTailを持つSkewed Distributionになる。
したがって、
$$
S\sim Normal
$$
であっても、
$$
C=f(S)
$$
がNon-Linearであれば、
$$
C\not\sim Normal
$$
となり得る。
これが、
UnderlyingがNormalでもDerivativeはSkewedになる
という意味である。
LinearとNon-LinearによるDistributionの違い
Linearな場合は、
NormalなRisk Factor
↓
Linear Transformation
↓
NormalなPortfolio Value Change
という関係になる。
一方Non-LinearなOptionでは、
NormalなRisk Factor
↓
Non-Linear Transformation
↓
SkewedなOption Value Distribution
となる。
したがって、Underlying Risk FactorのDistributionだけを見るのではなく、
Risk FactorからPortfolio Valueへの変換がLinearなのかNon-Linearなのか
を確認する必要がある。
Historical Simulation
Historical Simulationは、過去に実際に観測されたRisk Factorの変化を現在のPortfolioに適用して、PortfolioのProfit and Lossをシミュレーションする方法である。
基本的な流れは次のとおりである。
- Portfolioに影響するRisk Factorを特定する
- 過去のRisk Factor Changeを取得する
- 各Historical Scenarioを現在のPortfolioに適用する
- ScenarioごとのProfit and Lossを計算する
- Lossの大きい順に並べる
- VaRやExpected Shortfallを計算する
Historical Simulationでは、Return DistributionをNormal Distributionなどに事前に限定する必要がない。
Historical SimulationによるVaR
記事では300個のHistorical Scenarioを使用している。
Lossの大きい順に並べると、
| 順位 | Loss |
|---|---|
| 1 | CAD 12.8 million |
| 2 | CAD 11.4 million |
| 3 | CAD 11.0 million |
| 4 | CAD 9.5 million |
| 5 | CAD 7.8 million |
となっている。
99% Confidence Levelの場合、Tail Probabilityは1%である。
$$
300\times1\text{%}=3
$$
したがって3番目に大きいLossがVaRとなる。
$$
VaR=CAD\ 11.0\ million
$$
Expected Shortfall
Expected Shortfallは、
VaRを超えるTail部分に入ってしまった場合の平均Loss
を表す。
今回の例ではVaRより大きいLossは、
- CAD 12.8 million
- CAD 11.4 million
であるため、
$$
ES=\frac{12.8+11.4}{2}=12.1
$$
したがって、
$$
ES=CAD\ 12.1\ million
$$
となる。
VaRとESは、
- VaR:Tail Riskに入る境界
- ES:その境界を超えた場合の平均的なLoss
という違いで整理できる。
Historical Simulationのメリット
Historical Simulationでは、実際に過去に発生したMarket Movementを利用する。
そのため、過去に発生したCrashやCrisisなどのExtreme MovementもScenarioに含めることができる。
また、Normal Distributionなど特定のDistributionを事前に仮定する必要がないことも大きな特徴である。
Historical Simulationのデメリット
Historical SimulationはHistorical Dataに依存する。
そのため、
過去のDataに存在しないMarket Eventを直接再現できない
という問題がある。
過去に大きなCrashが存在しなかった期間だけを使用すると、将来発生するExtreme Lossを過小評価する可能性がある。
Delta-Normal Approach
Delta-Normal Approachは、
Risk Factor ChangeをNormal Distributionと仮定し、Portfolio Value ChangeをDeltaによってLinear ApproximationしてVaRを計算する方法
である。
名前は、
- Delta:Portfolio Value ChangeをLinear Approximationする
- Normal:Risk Factor ChangeをNormal Distributionと仮定する
という2つの特徴から来ている。
Delta-Normalの基本的な考え方
Risk FactorをS、Portfolio ValueをPとすると、Deltaを利用して、
$$
\Delta P\approx\delta\Delta S
$$
と近似する。
ここでDeltaは固定値として扱う。
Risk Factor ChangeであるΔSがNormal Distributionなら、その値を一定のDeltaで掛けたΔPもNormal Distributionとなる。
したがって、
Risk Factor Change
↓
Normal Distributionを仮定
↓
DeltaでLinear Transformation
↓
Portfolio Value ChangeもNormal
↓
Normal DistributionからVaRを計算
という流れになる。
複数Risk Factorの場合
Portfolioに複数のRisk Factorが存在する場合、Portfolio Value Changeは次のように表される。
$$
\Delta P=\sum_i a_i x_i
$$
株価やCommodity PriceのようにPercentage Changeを使用するRisk Factorでは、
$$
x_i=\frac{\Delta S_i}{S_i}
$$
$$
a_i=\delta_iS_i
$$
となる。
一方、Interest RateやCredit SpreadのようにAbsolute Changeを使用するRisk Factorでは、
$$
x_i=\Delta S_i
$$
$$
a_i=\delta_i
$$
となる。
Portfolio Variance
複数Risk Factorが存在する場合には、それぞれのVolatilityだけでなくCorrelationも考慮する。
$$
\sigma_P^2=\sum_i a_i^2\sigma_i^2+2\sum_{i>j}a_i a_j\rho_{ij}\sigma_i\sigma_j
$$
ここで、
-
σP:Portfolio Value ChangeのStandard Deviation -
σi:Risk FactorのStandard Deviation -
ρij:Risk Factor間のCorrelation
である。
つまりPortfolio Riskは、
個々のRisk FactorのVolatilityとRisk Factor同士のCorrelation
によって決まる。
Delta-NormalによるVaR
Portfolio Value ChangeをNormal Distributionと仮定すれば、そのMeanとStandard DeviationからVaRを計算できる。
記事では次の形で表されている。
$$
VaR=\mu_P-z\sigma_P
$$
ここで、
-
μP:Portfolio Value ChangeのMean -
σP:Portfolio Value ChangeのStandard Deviation -
z:指定したConfidence Levelに対応するNormal Distribution上の値
である。
Risk Managementでは短期間のExpected Returnを小さいものとして、
$$
\mu_P=0
$$
と仮定することも多い。
その場合、VaRは主としてStandard Deviationとz値によって決まる。
Linear DerivativeのVaR
Linear DerivativeではDeltaが一定なので、Underlying Risk FactorのVaRからDerivativeのVaRを直接計算しやすい。
$$
VaR_P=\delta VaR_F
$$
ここで、
-
VaRP:DerivativeまたはPortfolioのVaR -
VaRF:Underlying Risk FactorのVaR -
δ:Delta
である。
例えばIndex Futuresで、Indexが1 point変化するとFutures Valueが500ドル変化するなら、
$$
VaR(F_t)=500VaR(S_t)
$$
となる。
Delta-NormalがNon-Linear Derivativeに弱い理由
Delta-Normalでは、
$$
\Delta P\approx\delta\Delta S
$$
としてPortfolio Value Changeを直線で近似する。
しかしOptionではDeltaがUnderlying Priceによって変化する。
そのためUnderlying Priceが大きく変化すると、
現在地点で計算したDeltaをそのまま使うLinear Approximation
と、
実際のOption Price Curve
の差が大きくなる。
特にGammaが大きいPortfolioでは、この問題が大きくなる。
Delta-Gamma Approximation
Non-Linearityをより正確に捉えるためにはGammaまで考慮する。
$$
\Delta P\approx\delta\Delta S+\frac{1}{2}\gamma(\Delta S)^2
$$
この式では、
$$
\delta\Delta S
$$
がLinear Effect、
$$
\frac{1}{2}\gamma(\Delta S)^2
$$
がNon-Linear Effectを表している。
Underlying Price Changeが小さければGamma項の影響も小さい。
しかしUnderlyingが大きく変化すると二乗項が大きくなるため、Gammaを無視したDelta-Normalの誤差も大きくなる。
Delta-NormalとHistorical Simulationの比較
| 項目 | Delta-Normal | Historical Simulation |
|---|---|---|
| Distribution | Normal Distributionを仮定 | 特定のDistributionを仮定しない |
| 基本データ | Volatility・Correlation・Delta | Historical Risk Factor Changes |
| Linear Portfolio | 得意 | 対応可能 |
| Non-Linear Portfolio | Linear Approximationのため弱い | Revaluationすれば対応しやすい |
| 計算負荷 | 比較的小さい | ScenarioごとのRevaluationが必要 |
| Extreme Event | Normal仮定では捉えにくい | Historical Dataに存在すれば反映可能 |
| 主な問題 | GammaなどNon-Linearityを無視 | 過去にないEventを表現できない |
Linear Interpolation
Interest RateやCredit Spreadは単一の値ではなく、Maturityごとに異なるTerm Structureとして観測されることが多い。
必要なMaturityの値が直接観測できない場合には、Linear Interpolationを使って補完できる。
例えば、
- 6-month Interest Rate:2.2%
- 12-month Interest Rate:2.8%
の場合、9-month Interest Rateは中間地点なので、
$$
R_{9M}=2.2\text{%}+\frac{9-6}{12-6}\times(2.8\text{%}-2.2\text{%})=2.5\text{%}
$$
と推定できる。
Non-Linear Productの例
記事ではNon-Linear Productとして、次のような商品が挙げられている。
- Call Option
- Asian Option
- Barrier Option
- Mortgage-Backed Securities
- Butterfly Spread
特に複数Optionを組み合わせるButterfly Spreadは、非常にNon-LinearなPayoff Structureを持つ。
重要ポイント
Linear Derivativeでは、
$$
\Delta P=\delta\Delta S
$$
という関係が比較的正確に成立する。
Deltaが一定なので、
NormalなRisk Factor
↓
Linear Transformation
↓
NormalなPortfolio Value Change
という関係を利用でき、Delta-Normal Approachとの相性がよい。
一方、Non-Linear Derivativeでは、
$$
\Delta P\neq\delta\Delta S
$$
となり得る。
Delta自体が変化し、その変化をGammaが表す。
そのため、
NormalなUnderlying Risk Factor
↓
Non-Linear Transformation
↓
SkewedなDerivative Value Distribution
となり得る。
したがって、OptionなどのNon-Linear Productでは、単純なDelta-Normal ApproachだけではRiskを正確に捉えられない可能性がある。
Knowledge Tree
48.2:モンテカルロ、ストレステスト、シナリオ解析
モンテカルロ・シミュレーション
**Monte Carlo Simulation(モンテカルロ・シミュレーション)**は、Risk Factorの変化をランダムに多数生成し、それぞれのScenarioでPortfolioを再評価することで、損益分布を作る手法である。
VaRやESそのものではなく、VaRやESを推定するためのSimulation Methodと考えると分かりやすい。
代表的なRisk Factorには、以下がある。
- 株価
- 金利
- 為替
- Volatility
- Credit Spread
Monte Carlo Simulationでは、これらのRisk Factorを何千回、何万回と変化させ、それぞれについてPortfolio Valueを計算する。
Monte Carlo SimulationによるVaR計算の流れ
Monte Carlo Simulationは、主に次の6ステップで行われる。
Step 1:現在のPortfolio Valueを計算する
現在のPortfolio Valueを求める。
$$
V_0=\text{Current Portfolio Value}
$$
Step 2:Risk Factorの変化を生成する
Risk Factorを次のように表す。
$$
x_1,x_2,\ldots,x_n
$$
それぞれの変化を、
$$
\Delta x_1,\Delta x_2,\ldots,\Delta x_n
$$
としてランダムに生成する。
例えば、
- 株価:−2%
- 金利:+0.1%
- 為替:−1%
といったScenarioを作る。
Risk Factor同士にCorrelationがある場合には、そのCorrelationも考慮する。
Step 3:将来のRisk Factorを求める
生成した変化を現在のRisk Factorに反映する。
$$
x_{i,T}=x_{i,0}+\Delta x_i
$$
Step 4:Portfolioを再評価する
新しいRisk Factorを使ってPortfolioを再評価する。
$$
V_T=\text{Revalued Portfolio Value}
$$
Monte Carlo Simulationでは、このRevaluationを行えるため、OptionのようなNon-linear Derivativeにも対応しやすい。
Step 5:Lossを計算する
現在価値と再評価後の価値の差からLossを計算する。
$$
L=V_0-V_T
$$
例えば、
$$
V_0=100
$$
$$
V_T=97
$$
であれば、
$$
L=100-97=3
$$
となる。
Step 6:大量に繰り返してLoss Distributionを作る
Step 2からStep 5を何千回も繰り返す。
その結果、
$$
L_1,L_2,\ldots,L_N
$$
という大量のLossが得られる。
このLossを並べることで、Loss Distributionを作る。
Loss Distributionとは
**Loss Distribution(損失分布)**とは、
さまざまなScenarioにおいて、Portfolioがどれくらい損失を出すかを表した分布
である。
例えば10,000回のSimulationを行えば、10,000個のLossが得られる。
Loss Distributionの横軸は、
Lossの大きさ
を表す。
実際のSimulation結果をHistogramで表示する場合、縦軸は、
そのLossが何回発生したかというFrequency
を表す。
一方、理論的なProbability Distributionを滑らかな曲線として表示する場合、縦軸は**Probability Density(確率密度)**になる。
Probabilityそのものは縦軸の高さではなく、曲線の下の面積によって表される。
したがって、
- 実測Histogram:縦軸はFrequency
- 理論的Distribution:縦軸はProbability Density
という違いがある。
Normal Distributionとは
Normal Distributionは正規分布のことである。
平均付近に多くのObservationが集まり、左右対称のBell Shapeを持つDistributionである。
ReturnについてNormal Distributionを仮定する場合、
$$
R\sim N(\mu,\sigma^2)
$$
と表す。
ここで、
$$
\mu=\text{Mean}
$$
$$
\sigma=\text{Standard Deviation}
$$
である。
ただし、Loss Distributionが必ずNormal Distributionになるわけではない。
特にOptionなどNon-linearな商品では、Underlying AssetのReturnがNormal Distributionであっても、Derivativeの損益分布はSkewedになる可能性がある。
したがって、
Loss Distributionは損失の分布という一般概念であり、Normal Distributionはその分布形状の一つ
という関係になる。
Monte CarloによるVaR
Monte Carlo Simulationで作成したLoss DistributionからVaRを求める。
例えば500回のSimulationを行い、99% VaRを求める場合、
$$
500\times1\text{%}=5
$$
となる。
したがって、おおむね5番目に大きなLossが99% VaRとなる。
例えばLossが大きい順に、
| Rank | Loss |
|---|---|
| 1 | 20 |
| 2 | 17 |
| 3 | 15 |
| 4 | 13 |
| 5 | 12 |
であれば、
$$
VaR_{99\text{%}}\approx12
$$
となる。
VaRは、
一定のConfidence LevelにおけるLoss Distributionの境界
を表す。
Expected Shortfall
**Expected Shortfall(ES)**は、VaRを超えるTail Lossの平均である。
例えばVaRを超えるLossが、
$$
20,\ 17,\ 15,\ 13
$$
であれば、
$$
ES=\frac{20+17+15+13}{4}=16.25
$$
となる。
VaRとESの違いは、
- VaR:Tailが始まる境界
- ES:そのTailに入った場合の平均Loss
である。
ESは概念的には、
$$
ES=E[L\mid L>VaR]
$$
と考えられる。
つまり、
LossがVaRを超えたという条件のもとでの平均Loss
である。
Square Root of Time Rule
1日VaRから複数日VaRへ変換するときには、Square Root of Time Ruleが使われることがある。
$$
VaR(T,X)=VaR(1,X)\sqrt{T}
$$
同様にESについても、
$$
ES(T,X)=ES(1,X)\sqrt{T}
$$
とする。
例えば1日VaRが10で10日VaRを求める場合、
$$
VaR(10)=10\sqrt{10}\approx31.6
$$
となる。
ただし、このRuleには、
- Returnが独立である
- Volatilityが一定である
- Distributionが安定している
といった前提がある。
金融危機のような局面では、これらの前提が崩れる可能性がある。
Monte Carlo Simulationのメリット
Monte Carlo Simulationの大きなメリットは、複数のRisk Factorを同時に扱えることである。
例えば、
- 株価
- 金利
- FX
- Volatility
- Credit Spread
を同時に変化させることができる。
さらにRisk Factor間のCorrelationもモデル化できる。
また、PortfolioをScenarioごとに再評価するため、
- Option
- Exotic Derivative
- MBS
- その他Non-linear Product
などにも適している。
Monte Carlo SimulationはNormal Distributionに限定されているわけではなく、必要に応じてさまざまなDistributionを用いることができる。
Monte Carlo Simulationのデメリット
主なデメリットは、Computationally Intensiveであることである。
大量のScenarioについてPortfolio全体を再評価するため、Portfolioが大きいほど計算負荷が増える。
また、Model Riskにも注意が必要である。
Simulationで大量のScenarioを作成しても、
- Distribution
- Mean
- Volatility
- Correlation
などの設定が誤っていれば、結果も不正確になる。
つまり、
Monte Carlo Simulationの精度はInput Modelの精度に依存する
ということである。
Correlation Breakdown
通常時には、複数Assetを組み合わせることでDiversification Benefitが得られる。
例えばAsset AとAsset BのCorrelationが低ければ、
$$
\rho_{A,B}=0.2
$$
のような状態となる。
この場合、Asset Aが下落してもAsset Bが必ず同じように下落するとは限らない。
そのためPortfolio Riskが低下する。
しかし金融危機ではCorrelationが急上昇することがある。
例えば、
$$
\rho_{A,B}:0.2\rightarrow0.8
$$
となる。
すると、それまで異なる動きをしていたAssetが同時に下落するようになる。
このように、
通常時に想定していたCorrelation Structureが危機時に崩れること
をCorrelation Breakdownという。
Contagion Effect
金融危機では、ある市場のShockが他の市場へ波及することがある。
これをContagion Effectという。
例えば、
金融機関の破綻
→ 銀行株下落
→ Credit Spread拡大
→ Funding Cost上昇
→ 他の金融機関にも不安が拡大
→ 株式・債券・為替が同時にRisk-off
という流れが起こり得る。
危機時には、
$$
Volatility\uparrow
$$
かつ、
$$
Correlation\uparrow
$$
となることがある。
その結果、Diversification Benefitが低下する。
なぜ通常のVaRやESだけでは危機時Riskを捉えにくいのか
例えばMonte Carlo Simulationで通常時のCorrelationとして、
$$
\rho=0.2
$$
を使っていたとする。
しかし危機時の実際のCorrelationが、
$$
\rho=0.9
$$
まで上昇した場合、通常時のCorrelationを使ったModelでは同時下落のRiskを十分に表現できない。
そのため、
$$
\text{Estimated Risk}<\text{Actual Crisis Risk}
$$
となる可能性がある。
この問題を補うためにStress Testingを利用する。
Stress Testing
Stress Testingとは、
極端な市場環境を意図的に設定し、そのScenarioが現在のPortfolioに与える影響を調べる方法
である。
Monte Carlo Simulationが、
Probability Modelから大量のScenarioを生成する
方法であるのに対して、Stress Testingは、
特定の厳しいScenarioを意図的に設定する
という違いがある。
Historical Stress Test
Historical Stress Testでは、過去に実際に起きた危機のRisk Factor変化を現在のPortfolioに適用する。
例えば、
- Global Financial Crisis
- COVID-19 Shock
- 過去のCurrency Crisis
などを利用する。
考え方は、
過去の危機と同じ市場変化が今日起こったら、現在のPortfolioはいくら損するか
というものである。
Historical Stress TestでReturn Distributionを仮定しない理由
Monte Carlo Simulationでは、例えばReturnがNormal Distributionに従うと仮定して、
$$
R\sim N(\mu,\sigma^2)
$$
そこからRandom Returnを生成することがある。
つまり、
Distributionを設定
→ Random Returnを生成
→ Portfolioを再評価
という流れになる。
一方、Historical Stress Testでは、
過去に実際に起きたReturn
→ 現在のPortfolioに適用
→ Portfolioを再評価
という流れになる。
過去に実際に観測された市場変化をそのまま利用するため、
ReturnがNormal Distributionに従うかどうかを仮定する必要がない
ということである。
Historical Stress Testのメリットとデメリット
メリットは、実際の危機を利用するため、Normal Distributionなどの仮定が不要なことである。
また、
- Volatility上昇
- Correlation上昇
- Credit Spread拡大
などが同時に起きた実際の市場環境を再現できる。
一方、デメリットは、
過去に起きたEventしか検証できない
ことである。
過去に存在しなかったRiskは、Historical Stress Testでは直接評価できない。
Hypothetical Stress Scenario
過去に存在しない危機を分析するために、仮想的なStress Scenarioを作ることができる。
例えば、
$$
\text{Short-term Rate Change}=+3\text{%}
$$
$$
\text{Domestic Currency Change}=-4\text{%}
$$
と設定する。
さらに、
- 株価 −40%
- Credit Spread +500bp
- Volatility急上昇
- Correlation 0.9
など、複数のShockを組み合わせることもできる。
この方法のメリットは、
過去に起きていないScenarioも検証できる
ことである。
一方、Scenario設定には主観が入りやすい。
Historical Stress TestとHypothetical Stress Test
| 項目 | Historical Stress Test | Hypothetical Stress Test |
|---|---|---|
| Scenario | 過去に実際に発生 | 仮想的に作成 |
| Distribution仮定 | 不要 | 不要 |
| 現実性 | 実際の市場変化 | 設定次第 |
| 未経験のRisk | 評価しにくい | 評価可能 |
| 主なメリット | 実際の危機を再現できる | 自由にScenarioを設定できる |
| 主なデメリット | 過去のEventに限定 | Scenario設定が主観的 |
Worst-Case Scenario Analysis
**Worst-Case Scenario Analysis(WCS)**は、
Unfavorable Eventが発生した場合のLoss Distributionを分析する方法
である。
VaRやESとは、分析の出発点が異なる。
VaRとWCSの違い
VaRは通常のLoss Distributionから、一定のConfidence Levelに対応するLossの境界を求める。
例えば、
$$
VaR_{99\text{%}}=10
$$
であれば、
99%のScenarioではLossが10以内
という意味になる。
しかしVaRだけでは、
残り1%でどれほどLossが大きくなるか
までは分からない。
WCSでは、
金融危機が発生した
などのUnfavorable Eventを条件として、その条件下におけるLoss Distributionを分析する。
ESとWCSの違い
ESとWCSはどちらも大きなLossに注目するが、考え方が異なる。
ESでは、
LossがVaRを超えた
という条件を使う。
概念的には、
$$
ES=E[L\mid L>VaR]
$$
となる。
つまり、Loss Distributionの中からVaRを超えたTailを取り出し、その平均Lossを求める。
一方、WCSでは、
金融危機が発生した
などのEconomic EventやMarket Scenarioを条件にする。
概念的には、
$$
WCS\ Analysis:\ L\mid Crisis
$$
と考えられる。
つまり、
- ES:Lossの大きさを基準にTailを切り出す
- WCS:EventやScenarioを基準にDistributionを作る
という違いがある。
ESとWCSの具体例
通常のLoss Distributionについて、
$$
VaR_{99\text{%}}=10
$$
$$
ES_{99\text{%}}=16
$$
だったとする。
この場合ESは、
最悪1%に入った場合の平均Lossが16
という意味である。
一方、WCSでは例えば、
Financial Crisisが発生した
という条件を設定する。
その条件下で、
| Crisis Scenario | Loss |
|---|---|
| Mild | 20 |
| Moderate | 30 |
| Severe | 40 |
| Extreme | 60 |
というLoss Distributionを得る。
WCSは、このように特定の悪いEventが起きた場合のLossの広がりを見る。
VaR・ES・WCSの整理
| Risk Measure / Analysis | 主な問い |
|---|---|
| VaR | 一定のConfidence Levelで、Lossはどこまでか |
| ES | VaRを超えた場合、平均でどれくらいLossが出るか |
| WCS | 特定の悪いEventが起きた場合、どれほどLossが発生し得るか |
覚え方としては、
VaRは境界、ESは境界を超えた平均、WCSは危機条件下のLoss Distribution
と整理するとよい。
Monte Carlo・Stress Test・WCSの違い
Monte Carlo Simulationは、Risk Factorの確率モデルから大量のScenarioを生成する。
Stress Testingは、特定の極端なScenarioを意図的に設定する。
WCSは、悪いEventが発生した条件下でLoss Distributionを分析する。
したがって、
Monte Carloは大量の未来を作る
Stress Testは危機を意図的に作る
WCSは危機が起きた場合のLossの広がりを見る
と整理できる。
48.2の重要ポイント
- Monte Carlo SimulationはVaRやESを計算するためのSimulation Methodである
- Risk FactorをRandomに変化させ、Portfolioを何度も再評価する
- Simulation結果からLoss Distributionを作成する
- Loss Distributionは損失の分布であり、Normal Distributionとは同じ意味ではない
- Normal Distributionは正規分布である
- 理論的Distributionの縦軸はProbability Densityであり、Probabilityそのものではない
- VaRはLoss Distribution上の境界である
- ESはVaRを超えたTail Lossの平均である
- Monte Carlo Simulationは複数Risk FactorやCorrelationを扱える
- Non-linear Derivativeにも適している
- 主な弱点は計算負荷とModel Riskである
- 危機時にはVolatilityとCorrelationが同時に上昇することがある
- Correlation BreakdownによりDiversification Benefitが低下する
- Contagion EffectによってShockが市場間に波及することがある
- Historical Stress Testは過去の実際の市場変化を使う
- Historical Stress TestではReturn Distributionを仮定する必要がない
- Hypothetical Stress Testでは過去に存在しない危機も設定できる
- ESはLossを条件にする
- WCSはCrisis EventやScenarioを条件にする
- Stress TestやWCSはVaR・ESの代替ではなく補完手法である
49: Measuring and Monitoring Volatility
49.1:収益分布と市場体制
1. Value at Risk(VaR)の基本
**Value at Risk(VaR)**は、一定期間において、ある確率で発生し得る損失の大きさを示すリスク指標である。
例えば、1日VaRが次のように計算されたとする。
$$
\text{VaR}(5\text{%})=10{,}000\text{ドル}
$$
これは、
- 1日の損失が10,000ドル以上になる確率が5%
- 1日の損失が10,000ドル未満、または利益になる確率が95%
であることを意味する。
したがって、VaRは「最大損失」を意味するものではない。
VaRは、
損失分布の悪い側の一定確率を区切る境界
と考えると理解しやすい。
例えばVaR(5%)であれば、損失が大きい側から5%に入る境界を表す。
2. Return Distributionとは
**Return Distribution(収益率分布)**とは、
ある資産のReturnが、それぞれどの程度の確率で発生するか
を表した確率分布である。
Return Distributionの横軸にはReturnが並ぶ。
マイナスReturn 0 プラスReturn
↓ ↓
損失 利益
例えば、
- −10%
- −5%
- 0%
- +5%
- +10%
といったReturnに対して、それぞれどの程度の確率密度が存在するかを表している。
正規分布であれば、平均を中心に左右対称の形になる。
3. Loss DistributionとReturn Distributionの関係
前章で扱った**Loss Distribution(損失分布)**とReturn Distributionは、基本的には同じ経済現象を異なる方向から表したものである。
Returnを基準に考えると、
$$
\text{Loss}=-\text{Return}
$$
という関係になる。
ポートフォリオ価値を $V$、Returnを $R$、金額ベースのLossを $L$ とすると、
$$
L=-R\times V
$$
となる。
例えば、ポートフォリオ価値が100万円でReturnが−8%の場合、
$$
L=-(-0.08)\times1{,}000{,}000=80{,}000
$$
となり、8万円の損失である。
したがって、
- Return Distributionの左側:大きなマイナスReturn
- Loss Distributionの右側:大きなLoss
が対応する。
つまり、
Return DistributionのLeft Tailは、Loss DistributionのRight Tailに対応する。
これはVaRやExpected Shortfallを理解するうえで非常に重要である。
4. Normal Distributionからの乖離
金融市場のReturnは、必ずしも正規分布には従わない。
FRMでは、特に次の3つの特徴が重要である。
- Fat Tail
- Skewness
- Instability
これらが存在すると、単純な正規分布を仮定したリスクモデルでは実際のリスクを正しく評価できない可能性がある。
5. Fat Tail
Fat-Tailed Distributionとは、
正規分布よりもTail部分に大きな確率が存在する分布
である。
つまり、
- 非常に大きなマイナスReturn
- 非常に大きなプラスReturn
が、正規分布から想定されるよりも頻繁に発生する。
金融市場では、
- 株価暴落
- 金利急変
- 為替急変
- Commodity Priceの急変
などがFat Tailとして現れる。
6. Fat Tailは単純に横に広い分布ではない
Fat Tailを理解するときには、
「正規分布より標準偏差が大きい分布」
と単純に考えないことが重要である。
記事では、Normal DistributionとFat-Tailed Distributionについて、
- Meanはほぼ同じ
- Varianceもほぼ同じ
という前提で比較している。
同じVarianceを維持しながらTailの確率を増やす場合、確率密度の配置が変化する。
その結果、Fat-Tailed Distributionでは一般に、
- 中央付近の確率密度が高い
- 中間部分の確率密度が低い
- Tail部分の確率密度が高い
という形になり得る。
つまり、
普段は比較的平均付近にいるが、まれに非常に大きく動く
という金融市場でよく見られる特徴を表している。
7. Fat TailがVaRに与える影響
実際のReturn DistributionがFat-Tailedであるにもかかわらず、正規分布を仮定すると、Tail Riskを過小評価する可能性がある。
Return Distributionの左側のFat Tailは、
大きなマイナスReturnの発生確率が高い
ことを意味する。
これはLoss Distributionでは、
大きなLossが発生する右Tailの確率が高い
ことに対応する。
したがって、
Fat-Tailed Return Distribution
↓
大きなNegative Returnが増える
↓
Large Lossの発生確率が増える
↓
Tail Riskが増える
↓
VaR・Expected Shortfallに影響
という関係になる。
正規分布を仮定すると、このTail Riskを過小評価する可能性がある。
8. Skewness
**Skewness(歪度)**とは、
分布が左右対称ではないこと
を表す。
正規分布は左右対称なので、平均から同じ距離だけ離れたプラスReturnとマイナスReturnは同じような確率になる。
しかし、実際のReturn Distributionでは左右非対称になることがある。
9. Left-Skewed Distribution
Left-Skewed Distributionとは、
左側のTailが長い、または左側により大きな確率が存在する分布
である。
金融Returnでは左側がNegative Returnなので、
大きな損失方向のReturnが発生しやすい
ことを意味する。
例えば、
- 普段は小さな利益を得る
- まれに非常に大きな損失を被る
ような戦略ではLeft Skewが発生しやすい。
10. Left-Skewed ReturnとLoss Distribution
Return DistributionがLeft-Skewedであれば、
大きなNegative Returnが発生する確率が高い
ことになる。
LossはReturnの符号を反転して考えるため、
Left-Skewed Return Distribution
↓
大きなNegative Return
↓
大きなPositive Loss
↓
Right-Skewed Loss Distribution
という関係になる。
したがって、
Left-Skewed Return Distributionは、Right-Skewed Loss Distributionに対応する。
11. Fat TailとSkewnessの違い
Fat TailとSkewnessは異なる概念である。
| 概念 | 注目する特徴 | リスクへの意味 |
|---|---|---|
| Fat Tail | Tailの厚さ | 極端な値が発生しやすい |
| Skewness | 左右の非対称性 | 上昇方向と下落方向のリスクが異なる |
| Left Skew | 左側のTailが大きい | 大きなNegative Returnが発生しやすい |
Fat Tailは主にTailの大きさに注目するのに対し、Skewnessは分布の左右非対称性に注目する。
12. Unstable Distribution
金融市場のReturn Distributionでは、
MeanやVarianceが時間を通じて一定とは限らない
という問題もある。
これをUnstable Distributionとして考える。
例えば、
平常時
Volatility = 低い
危機時
Volatility = 高い
危機後
Volatility = 再び低下
というように、市場環境によってReturn Distributionそのものが変化する。
そのため、過去数年間のReturnをすべて同じ分布から発生したデータとして扱うと、現在のリスクを正しく評価できない可能性がある。
13. Unconditional Distribution
Unconditional Distributionとは、
市場環境を区別せず、すべてのReturnを1つの分布として扱う考え方
である。
例えば10年間のReturnをすべてまとめて、
- Mean
- Standard Deviation
を1つずつ計算する。
この場合、市場状態による違いを明示的には考慮しない。
14. Conditional Distribution
Conditional Distributionとは、
特定の市場状態や経済状態を条件としてReturn Distributionを考える方法
である。
例えば、
Normal Market
Mean = 小さいプラス
Volatility = 低い
Crisis Market
Mean = マイナス
Volatility = 高い
のように、Market ConditionによってMeanやVarianceが異なると考える。
数式では、ある市場状態を条件としてReturnを考えるイメージになる。
$$
R_t\mid\text{Normal Market}
$$
または、
$$
R_t\mid\text{Crisis Market}
$$
のように表される。
15. Conditional NormalでもUnconditionalではFat Tailになり得る
この章で特に重要なポイントである。
市場に次の2つのRegimeが存在するとする。
Low Volatility Regimeでは、
$$
R\sim N(0,1^2)
$$
High Volatility Regimeでは、
$$
R\sim N(0,3^2)
$$
とする。
それぞれのRegimeだけを見ればNormal Distributionである。
しかし、この2つのRegimeのデータをまとめると、
- Low Volatility Regimeによって中央付近の観測値が増える
- High Volatility Regimeによって極端な観測値も増える
ため、全体としてFat-TailedなDistributionに見える可能性がある。
つまり、
Conditionally Normalであっても、Unconditionally Fat-Tailedになることがある。
ということである。
これは金融市場でFat Tailが観測される重要な理由の1つである。
16. Stochastic Volatility
Volatilityそのものが時間によって変化する場合、
Stochastic Volatility
と呼ばれる。
Return Distributionを次のように考える。
$$
R_t\sim N(\mu,\sigma_t^2)
$$
ここではVolatilityである $\sigma_t$ が時間によって変化する。
つまり、
$$
\sigma_t\neq\sigma_{t+1}
$$
となる可能性がある。
固定Volatilityを仮定するモデルよりも、金融市場の現実を反映しやすい考え方である。
17. Historical VolatilityとCurrent Volatility
記事では、過去のVolatilityが平均2%であった一方、現在のVolatilityが3%と推定されている例が示されている。
過去全体を見ると、
$$
\sigma_{\text{historical}}=2\text{%}
$$
であったとしても、現在の市場状態では、
$$
\sigma_{\text{current}}=3\text{%}
$$
である可能性がある。
現在のVaRを求めたいのであれば、過去全期間の平均2%よりも、
現在の市場状態を反映した3%を使う方が適切な場合がある。
これはConditional Distributionの考え方である。
つまり、単純に過去のDistributionをそのまま使用するのではなく、
「今のMarket ConditionではどのDistributionが適切か」
を考える必要がある。
18. Volatility Clustering
金融市場では、
- High Volatilityの後にはHigh Volatilityが続きやすい
- Low Volatilityの後にはLow Volatilityが続きやすい
という特徴がある。
これをVolatility Clusteringという。
例えば、
Low Volatility
↓
Low Volatility
↓
Low Volatility
↓
Market Shock
↓
High Volatility
↓
High Volatility
↓
High Volatility
という動きである。
この性質は、EWMAやGARCHなどのVolatility Modelにもつながる重要な考え方である。
19. Regime Switching
Volatilityは必ずしも徐々に変化するとは限らない。
中央銀行の発表や政府の政策変更、金融危機などにより、市場状態が突然変わることがある。
このような変化をRegime Switchingという。
例えば、
Low-Volatility Regime
↓
Unexpected Announcement
↓
High-Volatility Regime
のように、市場状態そのものが急激に切り替わる。
Regimeとは、
ある特徴を持ったMarket Environment
と考えると理解しやすい。
20. Regime SwitchingとVolatility Clusteringの違い
Volatility ClusteringとRegime Switchingは関連するが、同じ概念ではない。
Volatility Clusteringは、
High VolatilityやLow Volatilityが持続しやすい性質
を表す。
一方、Regime Switchingは、
Market Conditionがある状態から別の状態へ急激に切り替わること
を表す。
したがって、
Volatility Clustering
高Volatility状態が続く
Regime Switching
Low Volatility状態
↓
突然変化
↓
High Volatility状態
という違いがある。
21. Regime SwitchingがVaRに与える影響
VaRをHistorical Dataから推定する場合、現在と過去のRegimeが異なるとVaRが不正確になる可能性がある。
例えば、過去がLow Volatility Regimeだった場合、
$$
\sigma_{\text{past}}=1\text{%}
$$
だったとしても、市場ショックによって現在がHigh Volatility Regimeに移行すると、
$$
\sigma_{\text{current}}=4\text{%}
$$
となる可能性がある。
この場合、過去のLow Volatility Dataをそのまま使ったVaRでは、現在のTail Riskを大きく過小評価する可能性がある。
したがって、
Risk Measurementでは、現在どのRegimeにいるのかを意識することが重要である。
22. VaR・Return Distribution・Loss Distributionの関係
VaRは最終的にはLoss DistributionのTailを評価する指標である。
一方、そのLossはAsset Returnから生じる。
したがって、全体の関係は次のようになる。
Market Price Change
↓
Return
↓
Return Distribution
↓
Negative ReturnをLossへ変換
↓
Loss Distribution
↓
Tail Risk
↓
VaR / Expected Shortfall
特に重要なのは、
Return DistributionのLeft TailとLoss DistributionのRight Tailが同じRisk Eventを表している
ということである。
23. この章の重要ポイント
- VaRは、一定確率で超過する損失の境界を表す。
- Return Distributionは、Returnがどの程度の確率で発生するかを表す。
- Loss Distributionは、Lossがどの程度の確率で発生するかを表す。
- Return DistributionのLeft Tailは、Loss DistributionのRight Tailに対応する。
- 実際のReturn DistributionはNormal Distributionとは限らない。
- Fat Tailでは極端なReturnがNormal Distributionより頻繁に発生する。
- Left Skewでは大きなNegative Returnが発生しやすい。
- Left-Skewed Return DistributionはRight-Skewed Loss Distributionに対応する。
- MeanやVolatilityは時間によって変化する可能性がある。
- Unconditional DistributionはMarket Conditionを区別せず全データを見る。
- Conditional DistributionはMarket ConditionごとにMeanやVarianceを変えて考える。
- Conditional DistributionがNormalでも、複数のRegimeを混ぜたUnconditional DistributionはFat-Tailedになり得る。
- Stochastic Volatilityとは、Volatilityそのものが時間とともに変化することである。
- Volatility Clusteringとは、High VolatilityやLow Volatilityが続きやすい性質である。
- Regime Switchingとは、市場状態が急激に別の状態へ切り替わることである。
- 現在のRegimeを考慮しないVaRは、実際のRiskを過小評価する可能性がある。
49.2:バリュー・アット・リスクの推定
概要
Value at Risk(VaR)は、一定の保有期間と信頼水準のもとで、ポートフォリオがどの程度の損失を被る可能性があるかを示すリスク指標である。
VaRを推定する際には、将来のリターン分布をどのように推定するかが重要になる。
大きく分けると、VaRの推定方法には以下がある。
- Historical-based Approach:過去のリターンデータを利用する方法
- Implied-volatility-based Approach:市場価格に織り込まれたImplied Volatilityを利用する方法
Historical-based Approachは、さらに次の2つに分類される。
- Parametric Method
- Nonparametric Method
両者の最も重要な違いは、リターン分布の形を事前に仮定するかどうかである。
Parametric Method
Parametric Methodでは、
リターンは正規分布など、特定の確率分布に従う
と事前に仮定する。
そして、その分布を特徴づけるパラメータを過去データから推定する。
代表的なパラメータは以下である。
- Mean Return
- Variance
- Standard Deviation
- Volatility
例えばリターンが正規分布に従うと仮定する場合、
$$
r_t\sim N(\mu_t,\sigma_t^2)
$$
となる。
ここで、
- $$r_t$$:時点 $$t$$ のリターン
- $$\mu_t$$:平均リターン
- $$\sigma_t$$:Volatility
- $$\sigma_t^2$$:Variance
を表す。
つまりParametric Methodでは、
分布の形を決める → 分布のパラメータを推定する → VaRを計算する
という流れになる。
以前扱ったDelta-Normal Methodは、代表的なParametric VaRである。
Parametric MethodにおけるVolatilityの推定
過去 $$K$$ 期間のリターンを使い、将来のVarianceを推定することができる。
平均リターンをゼロと仮定する場合、概念的には、
$$
\sigma_t^2=\frac{r_{t-K}^2+r_{t-K+1}^2+\cdots+r_{t-1}^2}{K}
$$
となる。
これは、
過去のリターンを二乗し、その平均を取る
という考え方である。
リターンを二乗する理由は、プラスとマイナスの変動を打ち消さずに、価格変動の大きさを測定するためである。
例えば、
$$
r_1=2\text{%}
$$
$$
r_2=-2\text{%}
$$
の場合、そのまま平均すると、
$$
\frac{2\text{%}+(-2\text{%})}{2}=0\text{%}
$$
となってしまう。
しかし実際には価格は変動しているため、リスクがゼロという意味ではない。
そこでVarianceではリターンを二乗する。
Mean Returnの設定方法
Parametric Methodでは、分布の中心となるMean Returnをどのように設定するかも決める必要がある。
代表的な考え方は以下の3つである。
Zero Mean
短期VaRでは、
$$
\mu=0
$$
と仮定することが多い。
これは、日次などの短期間では期待リターンがVolatilityに比べて非常に小さいためである。
したがって短期VaRでは、
平均リターンよりもVolatilityがリスクに与える影響の方が大きい
と考え、平均をゼロとして簡略化することがある。
Unconditional Mean
Unconditional Meanは、
特定の市場環境を条件とせず、長期間のデータから求めた平均リターン
である。
例えば過去の長期間における平均日次リターンが、
$$
\mu=0.03\text{%}
$$
であれば、この値を分布の中心として使用することができる。
Conditional Mean
Conditional Meanは、
現在利用可能な情報や市場環境を条件とした期待リターン
である。
例えば、今後100日間で市場が15%下落すると予想するとする。
15%は、
$$
15\text{%}=1500\text{ bps}
$$
であるため、1日当たりのConditional Meanは、
$$
\mu_t=\frac{-1500\text{ bps}}{100}=-15\text{ bps/day}
$$
となる。
したがって、
$$
\mu_t=-0.15\text{%/day}
$$
である。
この場合、リターン分布の中心を0ではなく、マイナス方向へ移動させてVaRを推定する。
Conditional Meanは、Parametric Methodで使用できるMean Returnの設定方法の1つであり、Parametric Methodで必ずConditional Meanを使うわけではない。
Conditional MeanとConditional Volatility
Conditionalという言葉は、
現在分かっている情報を条件とした
という意味である。
したがって、
- Conditional Mean:現在の情報を条件とした期待リターン
- Conditional Volatility:現在の情報を条件とした将来のVolatility
という関係になる。
市場環境が時間によって変化すると考える場合、
$$
\mu_t
$$
や、
$$
\sigma_t
$$
も時間によって変化する。
つまりParametric Methodでは、分布そのものを固定するのではなく、
分布の種類は正規分布などに固定しつつ、その中心や広がりを時間とともに変化させる
ことができる。
Nonparametric Method
Nonparametric Methodでは、
リターンは正規分布に従う
といった特定の分布形を事前に仮定しない。
代表的な方法には以下がある。
- Historical Simulation
- Multivariate Density Estimation
したがって、
Parametric Methodは事前に分布の形を仮定する
Nonparametric Methodは事前に特定の分布形を仮定しない
という違いがある。
ただし、
Nonparametric Methodでは分布が存在しない
という意味ではない。
Historical Simulationでも、過去のリターンを並べれば、実際のデータから経験的なReturn Distributionが形成される。
違いは、
分布を先に決めるか、データから分布を形成するか
である。
Historical Simulation
Historical Simulationは、代表的なNonparametric VaR Methodである。
基本的な考え方は、
過去に実際に発生したリターンを、将来にも発生し得るシナリオとして利用する
というものである。
Historical Simulationでは、過去のリターンを小さい順、つまり損失が大きい順に並べる。
例えば100日間のリターンデータがある場合、
$$
K=100
$$
である。
Historical Simulationの基本形では、それぞれの観測値に同じWeightを与える。
したがって各データのWeightは、
$$
w=\frac{1}{K}=\frac{1}{100}=0.01
$$
となる。
つまり、各観測値には1%ずつのWeightが与えられる。
Historical Simulationによる5% VaR
過去100日間のうち、最も低い6つのリターンが以下だったとする。
| 順位 | Return | Weight | Cumulative Weight |
|---|---|---|---|
| 1 | -4.70% | 0.01 | 0.01 |
| 2 | -4.10% | 0.01 | 0.02 |
| 3 | -3.70% | 0.01 | 0.03 |
| 4 | -3.60% | 0.01 | 0.04 |
| 5 | -3.40% | 0.01 | 0.05 |
| 6 | -3.20% | 0.01 | 0.06 |
5% VaRを求める場合、5th Percentileを探す。
100個の観測値があるため、
$$
100\times5\text{%}=5
$$
となる。
したがって、5番目に悪いリターンを見る。
5番目に悪いリターンは、
$$
-3.40\text{%}
$$
である。
したがって5th Percentile Returnは、
$$
-3.40\text{%}
$$
となる。
VaRを損失率として正の値で表現する場合、
$$
VaR_{5\text{%}}=3.40\text{%}
$$
となる。
これは、
約5%の確率で3.40%以上の損失が発生する可能性がある
という意味である。
ReturnとVaRの符号
Historical Simulationでは、分位点として求めるReturnはマイナスで表現される。
例えば、
$$
\text{5th Percentile Return}=-3.40\text{%}
$$
である。
一方、VaRは通常「損失の大きさ」を表すため、
$$
VaR=3.40\text{%}
$$
と正の値で表現する。
したがって、
Returnは利益・損失の方向を含む値
VaRは損失の大きさを表す値
という違いがある。
Parametric MethodとNonparametric Methodの比較
| 項目 | Parametric Method | Nonparametric Method |
|---|---|---|
| 分布の仮定 | 必要 | 特定の分布形を仮定しない |
| 代表例 | Delta-Normal | Historical Simulation |
| 主な入力 | Mean、Variance、Volatility | Historical Returns |
| Fat Tail | 仮定した分布によっては捉えにくい | 過去データに存在すれば反映 |
| Skewness | 仮定した分布によっては捉えにくい | 過去データに存在すれば反映 |
| データ効率 | 高い | 低い |
| 必要データ量 | 比較的少ない | 多い |
| モデルリスク | 分布の仮定を誤る可能性 | 過去データへの依存 |
| 未観測の極端な事象 | 分布から推定可能 | 基本的に直接反映できない |
Nonparametric Methodのメリット
Nonparametric Methodの大きなメリットは、特定のReturn Distributionを仮定する必要がないことである。
実際の金融市場のReturn Distributionには、
- Fat Tail
- Skewness
- Extreme Return
などが存在する。
Historical Simulationでは、これらが過去データに存在していれば、そのままVaR推定に反映される。
例えば過去に、
$$
-10\text{%}
$$
という暴落が存在すれば、そのデータもHistorical Simulationに含まれる。
一方、正規分布を仮定するParametric Methodでは、実際の市場よりTailが薄い場合、極端な損失リスクを過小評価する可能性がある。
Nonparametric Methodのデメリット
Historical Simulationでは、大量のHistorical Dataが必要になる。
100個の観測値しかない場合、各観測値のWeightは、
$$
\frac{1}{100}=1\text{%}
$$
である。
したがって、分位点も基本的に1%刻みでしか観測できない。
例えば1% VaRを求める場合、
100日間で最も悪かった1日のリターン
だけに依存することになる。
これでは推定結果が非常に不安定になりやすい。
一方、1,000個の観測値があれば、
$$
\frac{1}{1000}=0.1\text{%}
$$
となるため、より細かくTail Riskを観測できる。
したがって、
Historical SimulationではTail Riskを精密に推定するほど、多くのデータが必要になる
という特徴がある。
Parametric Methodのデータ効率
Parametric Methodは、Nonparametric MethodよりData Efficiencyが高い。
例えば正規分布であれば、主に、
$$
\mu
$$
と、
$$
\sigma
$$
を推定すれば分布全体を表現できる。
そのため、実際に観測されたリターンだけでなく、分布のTail部分についても理論的に推定できる。
一方Historical Simulationでは、基本的に過去に実際に観測されたリターンを利用する。
したがって、過去に一度も発生していない極端な市場変動については直接的に表現できない。
この違いは、
Parametric Methodはモデルを利用して未観測領域まで推定する
Historical Simulationは観測された実績を重視する
と整理できる。
Market RegimeとHistorical Simulation
Historical Simulationでは、過去データを大量に利用すればよいとは限らない。
市場には、
- Bull Market
- Bear Market
- Low Volatility Regime
- High Volatility Regime
- Crisis Regime
など、異なるMarket Regimeが存在する。
例えば過去1,000日のデータを利用していても、現在がHigh Volatility Regimeであるのに、過去のLow Volatility Regimeのデータを大量に含めると、現在のリスクを適切に表現できない可能性がある。
そこで、
現在と似たMarket Regimeだけを利用する
という方法が考えられる。
しかしデータをRegimeごとに分割すると、利用可能なSample Sizeが減少する。
したがって、
Market Regimeへの適合性を高めるほどSample Sizeが小さくなる
というトレードオフが存在する。
VaR推定方法の考え方
Parametric Methodでは、
$$
\text{Distribution Assumption}\rightarrow\mu,\sigma\rightarrow\text{VaR}
$$
という流れになる。
例えばDelta-Normal Methodでは正規分布を仮定し、そのMeanとVolatilityを使ってVaRを推定する。
一方、Historical Simulationでは、
$$
\text{Historical Returns}\rightarrow\text{Sort}\rightarrow\text{Percentile}\rightarrow\text{VaR}
$$
という流れになる。
つまり両者の本質的な違いは、
Parametric Methodは分布のモデルからVaRを求める
Nonparametric Methodは実際のデータからVaRを求める
という点にある。
重要ポイント
- VaR推定にはHistorical-based ApproachとImplied-volatility-based Approachがある。
- Historical-based ApproachにはParametric MethodとNonparametric Methodがある。
- Parametric Methodでは正規分布など特定のReturn Distributionを事前に仮定する。
- Parametric MethodではMeanやVolatilityなどのパラメータを推定する。
- Meanの設定方法にはZero Mean、Unconditional Mean、Conditional Meanなどがある。
- Conditional Meanは現在の市場情報を条件とした期待リターンである。
- 短期VaRではMean Returnが小さいため、Zero Meanを仮定することも多い。
- Nonparametric Methodでは特定のReturn Distributionを事前に仮定しない。
- Historical Simulationは代表的なNonparametric Methodである。
- Historical SimulationではHistorical Returnsを悪い順に並べ、目的のPercentileをVaRとして利用する。
- Historical Simulationでは各観測値を等Weightとする基本形がある。
- Nonparametric MethodはFat TailやSkewnessを実データから反映できる。
- Historical Simulationは大量のHistorical Dataを必要とする。
- Parametric Methodは少ないデータから分布全体を推定できるためData Efficiencyが高い。
- Historical Simulationでは、過去に観測されていない極端な損失を直接反映することが難しい。
- Market Regimeごとにデータを分けると現在の市場環境への適合性は高まるが、Sample Sizeが小さくなる。
49.3:ボラティリティと平均回帰の推定
ボラティリティ(Volatility)は、資産リターンのばらつきを表す指標であり、一般にリターンの標準偏差として表される。
リスク管理では日次ボラティリティが使われることが多い一方、オプション価格評価では年率ボラティリティが使われることが多い。
この節では、過去のリターンから現在・将来のボラティリティを推定する方法として、Historical Volatility、EWMA、GARCHを学ぶ。また、オプション価格から市場参加者の将来予想を逆算するImplied Volatilityについても扱う。
1. VolatilityとVariance
ボラティリティはリターンの標準偏差であり、Variance(分散)はその二乗である。
$$
\text{Variance}=\sigma^2
$$
$$
\text{Volatility}=\sigma=\sqrt{\text{Variance}}
$$
したがって、EWMAやGARCHではまずVarianceを推定し、最後に平方根を取ってVolatilityを求める。
2. Historical Volatility
最も単純な方法では、過去のリターンを使ってVarianceを推定する。
平均リターンが十分小さく、0と近似できる場合、
$$
\sigma_n^2=\frac{1}{m}\sum_{i=1}^{m}r_{n-i}^2
$$
となる。
ここで、
- $\sigma$:推定Volatility
- $m$:使用する過去データ数
- $r$:各期間のReturn
を表す。
この方法の問題は、すべての過去データを同じWeightで扱うことである。
例えば、
- 昨日の大きな価格変動
- 100日前の大きな価格変動
が同じ重要度でVolatility推定に反映される。
しかし、「現在の市場リスク」を推定したい場合、一般には最近のデータをより重視した方が合理的である。
そこでWeighted Volatilityという考え方が登場する。
$$
\sigma_n^2=\sum_{i=1}^{m}\alpha_i r_{n-i}^2
$$
Weightである$\alpha_i$の合計は1となる。
最近のデータほど大きなWeightを与え、古いデータほど小さなWeightを与える方法の代表例がEWMAである。
3. EWMA
EWMAは、
Exponentially Weighted Moving Average
の略であり、指数加重移動平均と呼ばれる。
EWMAでは、
最近のReturnほど重要であり、古いReturnほど徐々に重要度が低下する
と考える。
基本式は、
$$
\sigma_n^2=\lambda\sigma_{n-1}^2+(1-\lambda)r_{n-1}^2
$$
である。
これは、
$$
\text{今日のVariance}=\lambda\times\text{前回のVariance}+(1-\lambda)\times\text{直近Returnの二乗}
$$
という意味である。
したがってEWMAは、
「昨日までのVolatility推定」を「最新のReturn情報」を使って更新するモデル
と理解するとよい。
4. λ(Decay Factor)
EWMAで重要なのが$\lambda$である。
$\lambda$はDecay Factor(減衰係数)と呼ばれ、
過去のVolatility情報をどの程度残すか
を決める。
例えば、
$$
\lambda=0.94
$$
なら、
$$
\sigma_n^2=0.94\sigma_{n-1}^2+0.06r_{n-1}^2
$$
となる。
つまり、
- 前回までのVariance:94%
- 最新Returnの二乗:6%
というWeightになる。
λが大きい場合
$\lambda$が大きいほど、過去のVolatility推定を強く引き継ぐ。
そのため、
- 最新Returnの影響が小さい
- Volatilityはゆっくり変化する
- 古い情報をゆっくり忘れる
という特徴になる。
λが小さい場合
$\lambda$が小さいほど、最新ReturnのWeightが大きくなる。
そのため、
- 最新の市場変動に敏感
- Volatilityが素早く変化する
- 古い情報を早く忘れる
という特徴になる。
5. なぜDecay Factorと呼ぶのか
EWMAを展開すると、過去のSquared Returnに与えるWeightは、
$$
(1-\lambda)
$$
$$
(1-\lambda)\lambda
$$
$$
(1-\lambda)\lambda^2
$$
$$
(1-\lambda)\lambda^3
$$
のようになる。
古いReturnになるほど、Weightが$\lambda$倍ずつ小さくなっていく。
つまり、
$\lambda$は「古い情報の影響をどの程度の速さで減衰させるか」を決める
ためDecay Factorと呼ばれる。
RiskMetricsでは代表的に、Daily Dataに対して、
$$
\lambda=0.94
$$
が使われる。
Monthly Dataでは、
$$
\lambda=0.97
$$
が用いられる。
6. EWMAの計算例
前回のDaily Volatilityが1%、最新Returnが2%、$\lambda$が0.94の場合を考える。
$$
\sigma_n^2=0.94\times(0.01)^2+(1-0.94)\times(0.02)^2=0.000118
$$
したがって、
$$
\sigma_n=\sqrt{0.000118}=0.01086
$$
$$
\sigma_n=1.086\text{%}
$$
直近で2%という比較的大きなReturnが発生したため、Volatility推定値が1%から1.086%へ上昇した。
7. EWMAのメリットと弱点
EWMAのメリットは、非常に少ない情報でVolatilityを更新できることである。
必要なのは主に、
- 前回のVariance
- 最新Return
である。
一方、大きな弱点として、
Volatilityが長期的にどの水準へ戻るのかをモデル化していない
ことが挙げられる。
EWMAにはLong-run Varianceという明確な長期平均水準が存在しない。
この点を改善したモデルがGARCHである。
8. GARCH(1,1)
GARCHは、
Generalized Autoregressive Conditional Heteroskedasticity
の略である。
GARCH(1,1)の基本式は、
$$
\sigma_n^2=\omega+\alpha r_{n-1}^2+\beta\sigma_{n-1}^2
$$
である。
それぞれ、
- $\alpha$:最新のSquared Returnに対するWeight
- $\beta$:前回のVarianceに対するWeight
- $\omega$:Long-run Varianceをモデルに取り込むための項
を表す。
したがってGARCHは、
長期的な通常水準 + 最新の市場ショック + 過去のVolatility
によって現在のVolatilityを推定するモデルと考えられる。
9. なぜGARCH(1,1)なのか
(1,1)は、
- 直近1期間のSquared Return
- 直近1期間のVariance
を使用することを意味する。
つまり、
$$
r_{n-1}^2
$$
を1つ使用し、
$$
\sigma_{n-1}^2
$$
を1つ使用するため、GARCH(1,1)と呼ばれる。
10. EWMAとGARCHの関係
EWMAはGARCH(1,1)の特殊ケースとして考えることができる。
GARCHは、
$$
\sigma_n^2=\omega+\alpha r_{n-1}^2+\beta\sigma_{n-1}^2
$$
である。
一方、EWMAは、
$$
\sigma_n^2=(1-\lambda)r_{n-1}^2+\lambda\sigma_{n-1}^2
$$
である。
したがって、
$$
\omega=0
$$
$$
\alpha=1-\lambda
$$
$$
\beta=\lambda
$$
とすれば、GARCHはEWMAになる。
したがって、
GARCHはEWMAにLong-run Varianceの概念を追加したモデル
と理解すると分かりやすい。
11. Long-run Variance
Long-run Varianceとは、
GARCHモデルにおいて、Varianceが長期的に戻っていく中心水準
である。
Long-run Varianceを$V_L$とすると、
$$
V_L=\frac{\omega}{1-\alpha-\beta}
$$
となる。
重要なのは、$\omega$そのものがLong-run Varianceではないことである。
$\omega$はLong-run VarianceをGARCH式に取り込むための項であり、Long-run Varianceそのものは$V_L$である。
12. なぜLong-run Varianceの式になるのか
長期的に市場が安定した状態では、今日のVarianceと昨日のVarianceが同じ中心水準に落ち着いていると考える。
したがって、
$$
\sigma_n^2=\sigma_{n-1}^2=V_L
$$
とする。
また、長期平均ではSquared Returnの期待値もVarianceと同じ水準になるため、
$$
E[r^2]=V_L
$$
と考える。
これをGARCHの式に代入すると、
$$
V_L=\omega+\alpha V_L+\beta V_L
$$
となる。
整理すると、
$$
V_L=\omega+(\alpha+\beta)V_L
$$
$$
V_L-(\alpha+\beta)V_L=\omega
$$
$$
V_L(1-\alpha-\beta)=\omega
$$
したがって、
$$
V_L=\frac{\omega}{1-\alpha-\beta}
$$
となる。
つまりLong-run Varianceは単なる過去のVarianceの平均ではなく、
GARCHモデル上でVarianceが長期的に落ち着く理論上の中心水準
である。
13. Long-run Volatility
Long-run VarianceはVarianceなので、平方根を取ればLong-run Volatilityになる。
$$
\sigma_L=\sqrt{V_L}
$$
例えば、
$$
\omega=0.000003
$$
$$
\alpha=0.04
$$
$$
\beta=0.92
$$
の場合、
$$
V_L=\frac{0.000003}{1-0.04-0.92}=0.000075
$$
したがって、
$$
\sigma_L=\sqrt{0.000075}=0.00866
$$
$$
\sigma_L=0.866\text{%}
$$
となる。
この0.866%がLong-run Volatilityである。
Long-run Volatilityは、
長期的にVolatilityが戻っていく通常水準
と考えればよい。
なお、これはMean Returnではない。
Mean ReturnはReturnそのものの平均であり、Long-run VolatilityはReturnのばらつきの長期的な水準である。
14. Mean Reversion
Mean Reversionは平均回帰と呼ばれ、
一時的に長期平均から離れた値が、時間の経過とともに長期平均へ戻っていく性質
を意味する。
この節で重要なのは、
VolatilityのMean Reversion
である。
例えばLong-run Volatilityが1%の場合を考える。
現在のVolatilityが3%であれば、
現在は通常よりVolatilityが高いため、将来的には低下する方向が期待される
と考える。
逆に現在のVolatilityが0.3%であれば、
現在は通常よりVolatilityが低いため、将来的には上昇する方向が期待される
と考える。
つまり、
Current Volatility > Long-run Volatility
なら、Volatilityは長期平均へ向かって低下する傾向を持つ。
Current Volatility < Long-run Volatility
なら、Volatilityは長期平均へ向かって上昇する傾向を持つ。
これがMean Reversionである。
15. GARCHにおけるMean Reversion
GARCHの式は、Long-run Varianceを使うと次のように表現できる。
$$
\sigma_n^2=\gamma V_L+\alpha r_{n-1}^2+\beta\sigma_{n-1}^2
$$
ここで、
$$
\gamma=1-\alpha-\beta
$$
である。
また、
$$
\omega=\gamma V_L
$$
という関係がある。
したがってGARCHは、
- Long-run Variance
- 最新の市場ショック
- 前回のVariance
の3つを組み合わせたモデルである。
例えば、
$$
\alpha=0.04
$$
$$
\beta=0.92
$$
なら、
$$
\gamma=1-0.04-0.92=0.04
$$
となる。
この場合、
- Long-run VarianceへのWeight:4%
- 最新Squared ReturnへのWeight:4%
- 前回VarianceへのWeight:92%
という構造になる。
16. α・β・γの意味
α
$\alpha$は、
最新の市場ショックにどれほど強く反応するか
を表す。
$\alpha$が大きいほど、大きなReturnが発生した際にVolatilityが大きく変化する。
β
$\beta$は、
過去のVolatilityがどれほど持続するか
を表す。
$\beta$が大きいほど、一度上昇したVolatilityが長期間残りやすい。
EWMAにおける$\lambda$と似た役割を持つ。
γ
$\gamma$は、
Long-run Varianceに与えるWeight
を表す。
$$
\gamma=1-\alpha-\beta
$$
であるため、Mean Reversionを持つ安定的なGARCHモデルでは、
$$
\alpha+\beta<1
$$
であることが重要になる。
17. α + βとVolatilityのPersistence
GARCHでは、
$$
\alpha+\beta
$$
が1に近いほど、Volatility Shockが長く残る。
例えば、
$$
\alpha+\beta=0.98
$$
であれば、過去のVolatility Shockの影響が非常に長く持続する。
一方、$\alpha+\beta$が比較的小さければ、Long-run Varianceへ比較的早く戻る。
したがって、
$\alpha+\beta$はVolatilityのPersistenceを示す重要な指標
と理解できる。
18. Volatility Clustering
金融市場では、
大きな値動きの後には大きな値動きが続き、小さな値動きの後には小さな値動きが続きやすい
という現象が見られる。
これを、
Volatility Clustering
という。
Returnそのものには強い自己相関がなくても、
$$
r_t^2
$$
には自己相関が見られることがある。
GARCHは、このVolatility Clusteringをモデル化することに適している。
19. Alternative Weighting Approach:MDE
EWMAでは、
最近のデータほど重要
と考える。
これとは異なるWeighting Approachとして、
Multivariate Density Estimation(MDE)
がある。
MDEでは、
現在の市場環境と似ている過去データほど重要
と考える。
例えば現在の金利が5%の場合、
- 1年前の金利:1%
- 5年前の金利:5%
であれば、時間的には1年前のデータの方が新しい。
しかし、現在の市場環境との類似性という観点では、5年前のデータの方が重要と判断される可能性がある。
MDEのメリット
- 時間ではなく現在との関連性でWeightを決められる
- Interest RateなどのState Variableを利用できる
- 市場環境の違いを柔軟に反映できる
MDEのデメリット
- Data Snoopingが発生する可能性
- Overfittingが発生する可能性
- Conditioning Variableが増えるほど大量のデータが必要
20. 長期VolatilityとSquare Root Rule
Daily Volatilityから長期Volatilityへ変換する場合、基本的にはSquare Root Ruleを使う。
$$
\sigma_T=\sigma_{\text{daily}}\sqrt{T}
$$
例えばDaily Volatilityが1.5%の場合、10日Volatilityは、
$$
\sigma_{10}=1.5\text{%}\times\sqrt{10}=4.74\text{%}
$$
となる。
同じ考え方でDaily VaRを複数日VaRへ変換する。
$$
VaR_T=VaR_{\text{daily}}\sqrt{T}
$$
年率Volatilityへ変換する場合は、通常252営業日を使う。
$$
\sigma_{\text{annual}}=\sigma_{\text{daily}}\sqrt{252}
$$
21. Square Root RuleとMean Reversion
Square Root Ruleには、
Daily Volatilityが将来も同じ水準で続く
という前提がある。
しかし実際にはVolatilityにMean Reversionが存在する可能性がある。
例えば、
Current Volatility > Long-run Volatility
なら、将来的にVolatilityが低下することが期待される。
この場合、現在の高いVolatilityをそのまま使って、
$$
\sigma_T=\sigma_{\text{current}}\sqrt{T}
$$
とすると、長期Volatilityを過大評価する可能性がある。
反対に、
Current Volatility < Long-run Volatility
なら、将来的にVolatilityが上昇する可能性がある。
この場合、現在の低いVolatilityだけを使ってSquare Root Ruleを適用すると、長期Volatilityを過小評価する可能性がある。
したがって長期VaRやExpected Shortfallを推定する際には、Mean Reversionを考慮することが重要になる。
22. Volatility推定のBackward LookingとForward Looking
Volatilityを推定する方法は、大きく、
- Backward Looking
- Forward Looking
という観点から整理できる。
Backward Looking
過去の実際のReturnを入力としてVolatilityを推定する。
代表例は、
- Historical Volatility
- EWMA
- GARCH
である。
Historical Volatilityは過去データを単純に集計し、EWMAは最近のデータを重視し、GARCHはさらにLong-run VarianceへのMean Reversionを考慮する。
なお、GARCHも将来のVolatilityを予測するために使用される。
Backward Lookingとは、
将来を予測しないという意味ではなく、予測の入力として過去の市場データを利用する
という意味である。
23. Forward Looking:Implied Volatility
Forward Lookingな代表的指標が、
Implied Volatility
である。
Implied Volatilityは過去のReturnから直接計算するのではなく、
現在のOption Priceから市場が織り込んでいるVolatilityを逆算する
方法である。
Option Priceは一般にVolatilityが高いほど高くなる。
そのため、現在観測されているOption Priceから逆算することで、市場参加者が将来どの程度の価格変動を想定しているのかを推定できる。
したがって、
- Historical Volatility:Backward Looking
- EWMA:Backward Looking
- GARCH:Backward Looking
- Implied Volatility:Forward Looking
と整理できる。
24. VIX
代表的なImplied Volatility指標が、
VIX
である。
VIXは、S&P 500 IndexのOption Priceを利用して、市場が織り込んでいる将来のVolatilityを表す。
市場の不安が強まるとOption Priceが上昇し、Implied Volatilityも上昇しやすいため、VIXは、
Fear Index
とも呼ばれる。
25. Annual VolatilityとDaily Volatility
Implied Volatilityは通常Annual Volatilityとして表示される。
例えばAnnual Volatilityが18%の場合、
$$
\sigma_{\text{daily}}=\frac{18\text{%}}{\sqrt{252}}=1.13\text{%}
$$
となる。
反対にDaily VolatilityからAnnual Volatilityへ変換する場合は、
$$
\sigma_{\text{annual}}=\sigma_{\text{daily}}\sqrt{252}
$$
を使う。
26. Correlation Estimateの更新
EWMAはVolatilityだけでなくCovarianceの更新にも利用できる。
2つのReturnを$X$と$Y$とすると、
$$
Cov_n=\lambda Cov_{n-1}+(1-\lambda)X_{n-1}Y_{n-1}
$$
となる。
Correlationは、
$$
Corr_{X,Y}=\frac{Cov_{X,Y}}{\sigma_X\sigma_Y}
$$
によって求められる。
したがって、
- EWMAでCovarianceを更新
- XのVolatilityを更新
- YのVolatilityを更新
- 更新後のCovarianceとVolatilityからCorrelationを計算
という流れになる。
Volatilityだけでなく、資産間のCorrelationも時間とともに変化するため、リスク管理では両方を継続的に更新することが重要である。
27. EWMAとGARCHの比較
| 項目 | EWMA | GARCH(1,1) |
|---|---|---|
| 最新Squared Returnを使用 | ○ | ○ |
| 前回Varianceを使用 | ○ | ○ |
| 最近の情報を重視 | ○ | ○ |
| 古い情報を減衰 | ○ | ○ |
| Long-run Variance | × | ○ |
| Mean Reversion | × | ○ |
| Volatility Clusteringへの対応 | ○ | ○ |
| モデル | 比較的単純 | より高度 |
最も重要な違いは、
EWMAには「どこへ戻るか」がなく、GARCHにはLong-run Varianceという「戻る水準」がある
という点である。
28. 重要ポイント
この節では、Volatilityは一定ではなく、時間とともに変化するものとして扱う。
Historical Volatilityでは、すべての過去データを同じWeightで扱う。
EWMAでは、最近の市場データほど大きなWeightを与える。
$\lambda$はDecay Factorであり、過去の情報をどの程度の速さで忘れるかを決める。
GARCHでは、
- 最新の市場ショック
- 過去のVolatility
- Long-run Variance
を使ってVolatilityを推定する。
Long-run Varianceは、
$$
V_L=\frac{\omega}{1-\alpha-\beta}
$$
で求める。
Long-run Volatilityは、
$$
\sigma_L=\sqrt{V_L}
$$
で求める。
Mean Reversionとは、現在のVolatilityがLong-run Volatilityから離れている場合、時間とともにLong-run Volatilityへ戻る性質である。
また、Volatility推定は情報源によって、
- 過去データを利用するBackward Looking
- Option Priceから市場期待を逆算するForward Looking
に整理できる。
Backward Lookingの代表例はHistorical Volatility、EWMA、GARCHであり、Forward Lookingの代表例はImplied Volatilityである。