11. Interest Rates, Fixed-Income Securities, and Swaps
42 金利の性質
42.1:金利の種類
デリバティブで重要な金利
-
Treasury rate(国債金利)
- 政府が自国通貨で借り入れる際の金利。
- 一般には名目上のリスクフリー金利として扱われる。
- ただし、国債には規制対応などによる特殊な需要があり、価格が押し上げられて利回りが低くなることがある。
-
Repo rate(レポ金利)
- 証券を一度売却し、後でより高い価格で買い戻すRepo取引から算出される金利。
- 経済的には、証券を担保にした短期借入に近い。
- 翌日物をOvernight Repo、それより長いものをTerm Repoという。
- 担保付きではあるが、取引条件によっては信用リスクが残る。
-
SOFR(Secured Overnight Financing Rate)
- 米国の翌日物Repo取引の実績データをもとに算出されるベンチマーク金利。
- 個々のRepo取引の金利がRepo rateであり、それらを集計した代表的な翌日物金利がSOFRと考えると分かりやすい。
Overnight RateとOIS
-
Overnight rate(翌日物金利)
- 大手金融機関同士が翌日まで資金を貸し借りする際の金利。
- 米国ではFederal Funds Rateが代表例。
-
OIS(Overnight Indexed Swap)
- 固定金利と、期間中の翌日物金利を基準とした変動金利を交換する金利スワップ。
- 固定側の金利をOIS rateという。
- 期間中の実際の翌日物金利が固定金利を上回れば固定側が支払い、下回れば変動側が支払う。
リスクフリー金利としてのOIS
- 伝統的にはTreasury rateがリスクフリー金利とされる。
- ただしデリバティブ市場では、Treasury rateは規制上の需要などによって実際の資金調達コストより低くなりやすい。
- そのため、短期デリバティブの評価では、金融機関の資金の機会費用をより反映するOIS rateがリスクフリー金利として重視される。
各金利の関係
| 金利 | 概要 |
|---|---|
| Treasury rate | 国債金利。伝統的なリスクフリー金利 |
| Repo rate | 個々のRepo取引から生じる金利 |
| SOFR | 翌日物Repo取引を集計した米国のベンチマーク金利 |
| Overnight rate | 金融機関同士の翌日物資金取引の金利 |
| OIS rate | OISの固定金利。デリバティブ評価で重要 |
Repo rate → SOFR、Overnight rate → OIS → OIS rateという関係で整理すると理解しやすい。
複利頻度
元本を$$A$$、年率を$$R$$、年間の複利回数を$$m$$、運用年数を$$n$$とすると、離散複利の将来価値は、
$$
FV
=A
\left(
1+\frac{R}{m}
\right)^{mn}
$$
となる。
- 年1回、半年、四半期、月次、日次のように、複利回数が多いほど将来価値は大きくなる。
- ただし、複利回数を増やすほど増加幅は小さくなり、最終的には連続複利へ近づく。
連続複利
デリバティブ価格理論では、数学的に扱いやすい連続複利がよく使用される。
連続複利の将来価値は、
$$
FV
=Ae^{Rn}
$$
となる。
連続複利は、離散複利において、
$$
m \rightarrow \infty
$$
とした極限と考えられる。
離散複利と連続複利の変換
離散複利の年率$$R$$を、等価な連続複利率$$R_c$$へ変換する場合、
$$
R_c
=m
\ln
\left(
1+\frac{R}{m}
\right)
$$
を使用する。
逆に、連続複利率$$R_c$$を年$$m$$回複利の年率$$R$$へ変換する場合、
$$
R
=m
\left(
e^{R_c/m}-1
\right)
$$
を使用する。
- 離散複利 → 連続複利:ln
- 連続複利 → 離散複利:e
と覚えると整理しやすい。
重要ポイント
- 信用リスクが高い金融商品ほど、一般に要求される金利も高くなる。
- SOFRはRepo市場、OISはOvernight rateを基礎とする点を区別する。
- デリバティブ市場では、短期リスクフリー金利としてTreasury rateよりOIS rateが重視される。
- デリバティブ価格計算では連続複利が頻繁に使われるため、離散複利と連続複利の相互変換式は重要。
42.2:スポットレート、フォワードレート、およびフォワードレート契約
概要
このセクションでは、債券価格と金利の関係を理解するうえで重要な Spot Rate(スポットレート)、Forward Rate(フォワードレート)、Forward Rate Agreement:FRA(フォワードレート契約) を扱う。
全体の流れは次のとおりである。
市場で観察される債券価格
↓
Bootstrapping
↓
Spot Rate
↓
Spot Curve
↓
Forward Rate
↓
FRA
特に重要なのは、Coupon Rate、Spot Rate、YTMはすべて「率」ではあるものの、役割が異なるという点である。
1. 債券に関する基本用語
まず、債券価格を考える際に登場する用語を整理する。
| 用語 | 意味 | 役割 |
|---|---|---|
| Coupon Rate | クーポンレート | 債券が支払う利息額を決める |
| CF | Cash Flow | 将来受け取るクーポンや元本 |
| B | Bond Price | 債券の現在価格 |
| Spot Rate | スポットレート | 各将来CFを現在価値に割り引く金利 |
| YTM | Yield to Maturity | 債券全体のCFを1つの金利で説明した満期利回り |
2. Coupon Rateとは
Coupon Rateは、
債券発行時に決められた、債券が支払う利息の割合
である。
例えば、
- 額面:100
- Coupon Rate:4%
- 半年払い
であれば、1年間の利息は、
$$
100 \times 0.04 = 4
$$
半年ごとのクーポンは、
$$
\frac{4}{2} = 2
$$
となる。
2年債であれば、CFは次のようになる。
0.5年後:2
1.0年後:2
1.5年後:2
2.0年後:102
最後の102には、
- 元本100
- 最後のCoupon 2
が含まれる。
したがって、Coupon Rateの役割は、
将来いくら支払うかを決めること
である。
3. CFとBond Price
**CF(Cash Flow)**は、将来受け取るクーポンや元本などの金額を意味する。
一方、**B(Bond Price)**は、それらのCFを現在価値に割り引いて合計した債券価格である。
基本的な考え方は、
$$
B
=PV(CF_1)
+
PV(CF_2)
+
\cdots
+
PV(CF_N)
$$
である。
つまり、
債券価格とは、将来受け取るお金の現在価値の合計
と考えればよい。
4. Spot Rateとは
**Spot Rate(スポットレート)**はZero Rateとも呼ばれ、
今日から特定の将来時点までのゼロクーポン金利
である。
例えば、
今日 ───────── 1年後
1年Spot Rate
今日 ───────────────── 2年後
2年Spot Rate
という関係になる。
クーポン債には複数のCFが存在するため、それぞれのCFを対応する満期のSpot Rateで割り引く。
0.5年後のCF → 0.5年Spot Rate
1.0年後のCF → 1.0年Spot Rate
1.5年後のCF → 1.5年Spot Rate
2.0年後のCF → 2.0年Spot Rate
記事の例では、次のSpot Rateが与えられている。
| 満期 | Spot Rate |
|---|---|
| 0.5年 | 2.5% |
| 1.0年 | 2.6% |
| 1.5年 | 2.7% |
| 2.0年 | 2.9% |
5. Coupon RateとSpot Rateの違い
この2つは両方とも「金利」のように見えるが、役割はまったく異なる。
Coupon Rate
債券が将来いくら支払うかを決める率
Spot Rate
その将来の支払いを、現在いくらと評価するかを決める市場金利
である。
重要なのは、Spot Rateが追加で支払われる利息ではないという点である。
例えば、額面100、1年、Coupon Rate 4%の債券なら、1年後のCFは、
$$
104
$$
で固定されている。
Spot Rateが5%になったからといって、発行者が105を支払うわけではない。
代わりに債券価格が変化する。
Spot Rateが5%なら、
$$
B
=\frac{104}{1.05}
$$
$$
B
\approx
99.05
$$
となる。
つまり市場では、
「1年後の104というCFは、現在なら約99.05の価値」
と評価される。
6. なぜSpot Rateを「市場が要求する金利」と呼ぶのか
「市場が要求する」という表現は、
同じ期間の投資をするなら、市場ではこの程度のリターンが得られる
という意味である。
債券発行者に追加のCouponを要求しているわけではない。
Coupon Rateが4%で固定されていても、市場金利が5%になれば、その債券は相対的に魅力が低下する。
その結果、
Couponではなく債券価格が下落する
ことで、市場の利回りと整合する。
逆にSpot Rateが2%なら、
$$
B
=\frac{104}{1.02}
$$
$$
B
\approx
101.96
$$
となる。
Coupon Rate 4%の債券が、市場の2%より高い利息を支払うため、100より高くても買いたい投資家が存在するからである。
したがって、
| Coupon Rate | Spot Rate | 債券価格 |
|---|---|---|
| 4% | 4% | 約100 |
| 4% | 5% | 100未満 |
| 4% | 2% | 100超 |
という関係になる。
7. Spot Rateによる債券価格
記事の例では、
- 額面:100
- 満期:2年
- Coupon Rate:4%
- 半年払い
の債券について、各CFをそれぞれのSpot Rateで割り引いている。
半年ごとのCouponは2なので、
$$
B
=\frac{2}{(1+0.025/2)^1}
+
\frac{2}{(1+0.026/2)^2}
+
\frac{2}{(1+0.027/2)^3}
+
\frac{102}{(1+0.029/2)^4}
$$
結果は、
$$
B
=102.14
$$
となる。
ポイントは、
すべてのCFを同じ金利で割り引くのではなく、それぞれの満期に対応したSpot Rateで割り引く
ことである。
8. YTMとは
**YTM(Yield to Maturity:満期利回り)**とは、
債券のすべてのCFを1つの同じ金利で割り引いたときに、現在の債券価格と一致する金利
である。
Spot Rateとの違いは次のとおり。
Spot Rate
0.5年CF → 2.5%
1.0年CF → 2.6%
1.5年CF → 2.7%
2.0年CF → 2.9%
YTM
0.5年CF ┐
1.0年CF │
1.5年CF ├→ 全CFを同じYTMで割り引く
2.0年CF ┘
つまりSpot Rateは期間ごとに異なる金利であるのに対し、YTMは債券全体を代表する1本の利回りである。
9. YTMの計算
記事の債券価格は、
$$
B
=102.14
$$
である。
YTMを $y$ とすると、
$$
102.14
=\frac{2}{(1+y/2)^1}
+
\frac{2}{(1+y/2)^2}
+
\frac{2}{(1+y/2)^3}
+
\frac{102}{(1+y/2)^4}
$$
を満たす $y$ を求める。
結果は、
$$
y
\approx
2.89%
$$
となる。
なぜCoupon Rate 4%なのにYTMは2.89%なのか
この債券は額面100に対して、
$$
102.14
$$
で購入している。
つまり100しか元本が返ってこない債券に、最初に102.14を支払っている。
そのため、Coupon Rateが4%でも、投資全体としての利回りはそれより低くなる。
一般に、
Premium Bond
$$
Price>
Par
$$
なら、
$$
Coupon\ Rate>
YTM
$$
Discount Bond
$$
Price
<
Par
$$
なら、
$$
Coupon\ Rate
<
YTM
$$
となる。
10. Bootstrapping
**Bootstrapping(ブートストラップ法)**とは、
市場で観察される債券価格から、各満期のSpot Rateを短い満期から順番に逆算する方法
である。
つまり、
BootstrappingはSpot Rateを算出し、Spot Curveを作る方法
と考えてよい。
流れは次のとおり。
6か月債
↓
6か月Spot Rate
1年債
+既知の6か月Spot Rate
↓
1年Spot Rate
1.5年債
+既知のSpot Rates
↓
1.5年Spot Rate
2年債
+既知のSpot Rates
↓
2年Spot Rate
記事ではBootstrappingによって次のSpot Curveを求めている。
| 満期 | Spot Rate |
|---|---|
| 0.5年 | 1.497% |
| 1.0年 | 2.148% |
| 1.5年 | 2.531% |
| 2.0年 | 2.936% |
11. Forward Rateとは
**Forward Rate(フォワードレート)**とは、
将来のある時点から、さらに将来までの期間について、現在のSpot Rateから導かれる金利
である。
例えば、
今日 ───────── 1年後 ───────── 2年後
1年Spot Forward Rate
今日 ───────────────────────── 2年後
2年Spot
となる。
Spot Rateが、
今日 → 将来
の金利であるのに対し、Forward Rateは、
将来 → さらに将来
の金利である。
12. Forward Rateと無裁定
Forward Rateは、裁定機会が存在しないという考え方から求められる。
例えば次の2つの投資を考える。
戦略A
今から2年間投資する。
今日 ─────────────────── 2年後
2年Spot
戦略B
1年間投資したあと、さらに1年間投資する。
今日 ───────── 1年後 ───────── 2年後
1年Spot Forward Rate
同じ期間・同じリスクの投資なのに最終価値が異なれば、より有利な戦略を買い、不利な戦略を売ることで裁定利益を得られる可能性がある。
したがって、理論上は、
両方の投資戦略の最終価値が等しくなるようにForward Rateが決まる
と考える。
これは、
「債券には裁定取引が存在しない」
という意味ではない。
債券市場でも価格に不整合があれば裁定機会は存在し得る。
金融理論では、
裁定機会が残らないように価格・金利が整合している
という前提を用いている。
13. Forward Rateの計算
連続複利の場合、Forward Rateは、
$$
R_{forward}
=\frac{
R_2T_2
-R_1T_1
}{
T_2-T_1
}
$$
で求められる。
ここで、
- $R_1$:$T_1$までのSpot Rate
- $R_2$:$T_2$までのSpot Rate
- $R_{forward}$:$T_1$から$T_2$までのForward Rate
である。
記事の例では、
$$
R_1
=2.136%
$$
$$
R_2
=2.915%
$$
なので、
$$
R_{forward}
=\frac{
0.02915 \times 2
-0.02136 \times 1
}{
2-1
}
$$
$$
R_{forward}
=3.694%
$$
となる。
Forward Rateは将来の実際の金利を保証するものではなく、
現在のSpot Curveと整合するようにインプライされた将来期間の金利
である。
14. 固定金利と変動金利
金利契約には、固定金利と変動金利が存在する。
固定金利
契約期間中の金利が基本的に変わらない。
例えば、
$$
3%
$$
で固定すれば、市場金利が上昇しても支払金利は変わらない。
メリットは、
将来の支払額を予測しやすいこと
である。
変動金利
SOFRなどの市場金利に連動して変化する。
例えば、
$$
SOFR + 1%
$$
のような契約である。
市場金利が低下すれば支払利息が減る一方、市場金利が上昇すれば支払利息も増える。
| 固定金利 | 変動金利 | |
|---|---|---|
| 金利 | 一定 | 市場に応じて変化 |
| 金利上昇時 | 有利 | 不利 |
| 金利低下時 | 不利 | 有利 |
| 支払額の予測 | しやすい | しにくい |
| 金利変動リスク | 小さい | 大きい |
固定金利と変動金利が存在するのは、借り手や投資家によって、
金利リスクに対するニーズが異なるため
である。
15. FRAとは
**Forward Rate Agreement(FRA)**とは、
将来の一定期間について適用する金利を、現在の時点で固定する契約
である。
例えば、
今日 3か月後 6か月後
│────────────│────────────────│
↑ ↑
FRA期間開始 FRA期間終了
3か月後から6か月後までの金利を、現在固定することができる。
企業が、
「3か月後に借入予定だが、そのときまでに金利が上昇するのが怖い」
と考えている場合、FRAによって将来の金利上昇リスクをヘッジできる。
16. FRAでは元本を交換しない
FRAでは、契約上の元本は基本的に実際には交換しない。
元本は、
Notional Principal(想定元本)
として、金利差額を計算するために用いられる。
例えば想定元本が、
$$
1{,}000{,}000
$$
であっても、100万そのものを相手に渡すわけではない。
交換されるのは基本的に、
固定金利と変動金利の差額
である。
17. FRAのキャッシュフロー
想定元本を $L$、固定金利を $R_K$、変動金利を $R$ とする。
固定金利を受け取る場合、
$$
CashFlow
=L
\times
(R_K-R)
\times
(T_2-T_1)
$$
固定金利を支払う場合、
$$
CashFlow
=L
\times
(R-R_K)
\times
(T_2-T_1)
$$
となる。
18. FRAの損益方向
FRAでは、どちらの金利を受け取り、どちらを支払うかが重要である。
Pay Fixed
固定金利を支払い、変動金利を受け取る。
市場金利が上昇すると、受け取る変動金利が増えるため有利。
Pay Fixedは金利上昇で利益
Receive Fixed
固定金利を受け取り、変動金利を支払う。
市場金利が低下すると、支払う変動金利が減るため有利。
Receive Fixedは金利低下で利益
19. FRAとForward Rate
FRAを評価するときは、
- 契約固定金利 $R_K$
- 現在の市場Forward Rate $R_{forward}$
を比較する。
例えば固定金利を受け取る契約で、
$$
R_K>
R_{forward}
$$
なら、その契約は有利である。
市場では6%程度しか受け取れないところ、自分は8%受け取れる契約を持っている、と考えればよい。
逆にPay Fixedの場合は、
$$
R_{forward}>
R_K
$$
のとき有利になる。
20. FRAで割引が必要な理由
金利差額は本来FRA期間終了時点 $T_2$ で発生する。
しかしFRAは一般的に、FRA期間開始時点 $T_1$ で決済する。
そのため、
T2で発生するはずの金利差額をT1まで割り引く
必要がある。
固定金利を受け取る場合の価値は、
$$
Value
=\frac{
L
\times
(R_K-R_{forward})
\times
(T_2-T_1)
}{
1
+
R_{forward}
\times
(T_2-T_1)
}
$$
となる。
21. Yield Curveとは
**Yield Curve(イールドカーブ)**とは、
債券の満期と金利・利回りの関係をグラフ化したもの
である。
横軸に満期、縦軸に金利を取る。
Upward Sloping
長期金利が短期金利より高い。
金利
│ /
│ /
│ /
│ /
└──────────── 満期
Flat
短期金利と長期金利がほぼ同じ。
金利
│────────────
│
│
└──────────── 満期
Inverted
短期金利が長期金利より高い。
金利
│\
│ \
│ \
│ \
└──────────── 満期
Yield Curveは広い概念であり、使用する利回りによって、
- Spot Curve
- Par Yield Curve
- YTM Curve
などがある。
今回特に重要なのは、
満期ごとのSpot Rateを並べたSpot Curve
である。
22. 金利の期間構造を説明する理論
記事ではYield Curveの形状を説明する理論として3つを紹介している。
Market Segmentation Theory
債券市場は満期ごとに分かれており、
各満期の需要と供給によって金利が決まる
と考える。
Expectations Theory
Forward Rateは将来のSpot Rateの期待値を表す
と考える。
将来の金利上昇が期待されれば、右上がりのYield Curveになりやすい。
Liquidity Preference Theory
投資家は短期で流動性の高い資産を好むため、長期間資金を拘束してもらうには追加のリターンが必要だと考える。
概念的には、
$$
Long\text{-}term\ Rate
\approx
Expected\ Future\ Rates
+
Liquidity\ Premium
$$
となる。
そのため、将来金利が必ずしも上昇すると予想されていなくても、Liquidity Premiumによって長期金利が高くなる可能性がある。
23. FRMで押さえるポイント
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| Coupon Rate | 債券が支払う利息額を決める |
| CF | Couponや元本など将来受け取る金額 |
| Bond Price | 将来CFの現在価値の合計 |
| Spot Rate | 各満期のCFを割り引く市場金利 |
| YTM | 債券全体を1本の金利で表した利回り |
| Bootstrapping | 債券価格からSpot Rateを順番に逆算 |
| Forward Rate | 将来期間についてSpot Rateから導かれる金利 |
| FRA | 将来の金利を現在固定する契約 |
| Pay Fixed | 金利上昇で有利 |
| Receive Fixed | 金利低下で有利 |
| Yield Curve | 満期と金利・利回りの関係 |
特に、Coupon RateとSpot Rateの違いは次のように覚えるとよい。
Coupon Rate = 債券が「いくら払うか」を決める
Spot Rate = その支払いを「今日いくらで評価するか」を決める
また、
Spot Rate = 今日から将来
Forward Rate = 将来からさらに将来
FRA = その将来期間の金利を現在固定する契約
という流れを理解しておくことが重要である。
24. 用語間の関係性
42.3:期間と凸性
債券価格は、市場金利(利回り)の変化によって動く。一般に、
- 金利上昇 → 債券価格下落
- 金利低下 → 債券価格上昇
という逆方向の関係がある。
このとき、金利が変化したときに債券価格がどの程度動くかを測る代表的な指標が Duration(デュレーション) である。
ただし、Durationによる価格変化の推定は直線近似であるため、金利変化が大きくなるほど実際の債券価格との誤差が大きくなる。
そこで、その誤差を補正するために Convexity(コンベクシティ、凸性) を利用する。
大まかには、
- Macaulay Duration:キャッシュフローを受け取るまでの平均的な「時間」
- Modified Duration:金利変化に対する債券価格の「感応度」
- Dollar Duration:その感応度を「金額」で表したもの
- Convexity:Durationでは表現できない価格・利回り関係の「曲がり」を補正するもの
と整理できる。
債券価格と現在価値
Durationを理解する前提として、まず債券価格がどのように決まるかを確認する。
将来受け取るキャッシュフローの現在価値は、
$$
PV=\frac{CF}{(1+y)^t}
$$
で表される。
各記号は以下を意味する。
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| $PV$ | Present Value:現在価値 |
| $CF$ | Cash Flow:将来受け取るキャッシュフロー |
| $y$ | Yield:利回り・割引率 |
| $t$ | キャッシュフローを受け取るまでの期間 |
通常、$t$ は年単位で表す。
例えば、
$$
t=0.5
$$
なら半年後、
$$
t=3
$$
なら3年後を意味する。
利回り $y$ が大きくなると分母が大きくなるため、
$$
y\uparrow
\Rightarrow
PV\downarrow
$$
となる。
これが「金利上昇 → 債券価格下落」となる基本的な理由である。
PVと債券価格 $B$ の関係
$PV$ は一般的な「現在価値」という概念であり、個々のキャッシュフローの現在価値を指すことができる。
一方、$B$ は Bond Price、すなわち債券全体の現在価格を表す。
例えば、ある債券から以下のキャッシュフローを受け取るとする。
- 1年後:5
- 2年後:5
- 3年後:105
それぞれの現在価値は、
$$
PV_1=\frac{5}{(1+y)^1}
$$
$$
PV_2=\frac{5}{(1+y)^2}
$$
$$
PV_3=\frac{105}{(1+y)^3}
$$
となる。
したがって、債券価格 $B$ は、
$$
B=PV_1+PV_2+PV_3
$$
である。
一般化すると、
$$
B=\sum_{i=1}^{n}PV_i
$$
であり、
$$
B=\sum_{i=1}^{n}\frac{CF_i}{(1+y)^{t_i}}
$$
となる。
つまり、
債券価格 $B$ は、その債券から将来受け取るすべてのキャッシュフローの現在価値の合計
である。
「債券全体のPV」という意味でPVという言葉を使う場合には、
$$
PV_{\text{bond}}=B
$$
と考えてよい。
Macaulay Duration
**Macaulay Duration(マコーレー・デュレーション)**は、
債券から受け取るキャッシュフローについて、各キャッシュフローの現在価値を重みとして計算した「平均受取時点」
である。
つまり、本来のDurationは時間・期間の概念である。
通常は「年」で表される。
例えば、
$$
D_{\text{Mac}}=5.2
$$
なら、
現在価値で重み付けすると、平均して5.2年後にキャッシュフローを受け取っている
という意味になる。
ゼロクーポン債の場合
ゼロクーポン債は途中でクーポンを支払わず、満期時にのみ元本を受け取る。
そのため、
$$
D_{\text{Mac}}=\text{Maturity}
$$
となる。
例えば10年満期のゼロクーポン債なら、
$$
D_{\text{Mac}}=10
$$
である。
クーポン債の場合
クーポン債の場合は、満期前にもクーポンを受け取る。
例えば10年満期でも、
- 1年後:クーポン
- 2年後:クーポン
- …
- 10年後:クーポン+元本
というように途中で資金の一部を受け取る。
したがって一般に、
$$
D_{\text{Mac}}<\text{Maturity}
$$
となる。
Macaulay Durationの計算
連続複利を仮定した場合、Macaulay Durationは、
$$
D_{\text{Mac}}
=\sum_{i=1}^{n}
t_i
\left(
\frac{c_i e^{-yt_i}}{B}
\right)
$$
で表される。
ここで、
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| $t_i$ | キャッシュフローを受け取るまでの期間 |
| $c_i$ | 時点 $i$ のキャッシュフロー |
| $y$ | 利回り |
| $B$ | 現在の債券価格 |
この中で、
$$
c_i e^{-yt_i}
$$
は、そのキャッシュフローの現在価値である。
したがって、
$$
\frac{c_i e^{-yt_i}}{B}
$$
は、
そのキャッシュフローの現在価値が、債券価格全体の何割を占めるか
という「重み」を表す。
例えば債券価格が100で、
| 受取時点 | キャッシュフローの現在価値 | 重み |
|---|---|---|
| 1年後 | 5 | 5% |
| 2年後 | 5 | 5% |
| 3年後 | 90 | 90% |
なら、
$$
D_{\text{Mac}}
=1\times0.05
+
2\times0.05
+
3\times0.90
$$
$$
=2.85
$$
となる。
つまり、平均的なキャッシュフロー受取時点は 2.85年後である。
なぜ「時間」であるDurationが金利感応度になるのか
Durationが分かりにくい理由の一つは、
「Durationは期間」と説明された直後に、「Durationは金利感応度」と説明される
ことである。
これは別々の概念を偶然同じ名前で呼んでいるわけではない。
Macaulay Durationとして計算した「平均受取期間」が、数学的に債券価格の金利感応度と密接な関係を持っているためである。
直感的には、
キャッシュフローを受け取る時期が遠いほど、割引率の変化を長期間受ける
と考えればよい。
現在価値は、
$$
PV=\frac{CF}{(1+y)^t}
$$
なので、$t$ が大きいほど $y$ の変化の影響が大きくなる。
つまり、
$$
\text{受取時点が遠い}
$$
$$
\Rightarrow
\text{割引の影響を長く受ける}
$$
$$
\Rightarrow
\text{金利変化に対するPVの変化が大きい}
$$
$$
\Rightarrow
\text{Durationが大きいほど金利感応度も大きい}
$$
という関係になる。
このため、Durationという概念が「時間」と「金利感応度」の両方につながっている。
Modified Duration
Macaulay Durationは本来「平均受取期間」を表す。
これを、より直接的に債券価格の金利感応度として表したものが **Modified Duration(修正デュレーション)**である。
一般式は、
$$
D_{\text{mod}}
=\frac{D_{\text{Mac}}}
{1+\frac{y}{m}}
$$
である。
ここで、
- $y$:YTM
- $m$:年間複利回数
を表す。
例えば半年複利なら、
$$
m=2
$$
である。
Modified Durationの価格感応度としての意味
Modified Durationを使うと、金利変化による債券価格の変化率を、
$$
\frac{\Delta B}{B}
\approx
-D_{\text{mod}}\Delta y
$$
と近似できる。
例えば、
$$
D_{\text{mod}}=7
$$
で、金利が1%上昇した場合、
$$
\Delta y=0.01
$$
なので、
$$
\frac{\Delta B}{B}
\approx
-7\times0.01
$$
$$
=-0.07
$$
となる。
つまり、
債券価格は約7%下落する
と推定できる。
マイナスが付いているのは、
$$
y\uparrow
\Rightarrow
B\downarrow
$$
という逆方向の関係を表している。
Macaulay DurationとModified Durationの違い
両者は以下のように整理すると分かりやすい。
| 指標 | 主な意味 | 直感 |
|---|---|---|
| Macaulay Duration | キャッシュフローの平均受取期間 | 何年後にお金が返ってくるか |
| Modified Duration | 金利に対する価格感応度 | 金利が動いたら何%価格が動くか |
連続複利の場合には、
$$
m\rightarrow\infty
$$
となるため、Macaulay DurationとModified Durationは一致する。
Basis Point
金利変化は、FRMでは basis point(bp) で表現されることが多い。
$$
1bp=0.01%
$$
したがって、
$$
100bp=1%
$$
である。
例えば50bpの金利上昇なら、
$$
\Delta y=0.005
$$
として計算する。
Dollar Duration
Modified Durationは「価格変化率」を考える指標である。
一方、Dollar Durationは、金利変化による価格変化を「金額」で考えるための指標である。
$$
\text{Dollar Duration}
=D_{\text{mod}}\times B
$$
例えば、
- 債券価格:1,000
- Modified Duration:6
なら、
$$
\text{Dollar Duration}
=6\times1000
$$
$$
=6000
$$
金利が1%上昇すると、
$$
\Delta B
\approx
-6000\times0.01
$$
$$
=-60
$$
となり、債券価格は約60下落すると推定できる。
Durationの限界
Durationによる価格変化は、
$$
\frac{\Delta B}{B}
\approx
-D_{\text{mod}}\Delta y
$$
で推定する。
しかし、この式は債券価格と利回りの関係を直線として近似している。
実際の債券価格と利回りの関係は直線ではなく、曲線である。
そのため、
- 金利変化が小さい → Durationだけでも比較的正確
- 金利変化が大きい → Durationによる誤差が大きくなる
という問題がある。
Convexity
実際の債券価格と利回りの関係には「曲がり」がある。
この曲がりの程度を表すのが、
Convexity(コンベクシティ、凸性)
である。
Durationを、
債券価格と利回りの関係の「傾き」
と考えるなら、Convexityは、
その傾きがどの程度変化していくかという「曲がり具合」
である。
数学的には、
- Duration:一次近似
- Convexity:二次補正
と捉えることができる。
Convexity Effect
Durationだけでは説明できない価格変化を補正する部分を Convexity Effect という。
$$
\text{Convexity Effect}
=\frac{1}{2}
\times
C
\times
(\Delta y)^2
$$
ここで $C$ はConvexityである。
重要なのは、
$$
(\Delta y)^2
$$
となっている点である。
例えば、
$$
\Delta y=0.01
$$
でも、
$$
\Delta y=-0.01
$$
でも、
$$
(\Delta y)^2=0.0001
$$
となる。
そのため、通常のoption-free bondではConvexity Effectは金利上昇・低下のどちらの場合にもプラスになる。
Convexityがもたらす非対称性
Durationだけを使い、
$$
D=7
$$
とすると、
金利が1%上昇した場合、
$$
-7\times0.01=-7%
$$
金利が1%低下した場合、
$$
-7\times(-0.01)=+7%
$$
となり、価格変化が完全に対称になる。
しかし実際には、option-free bondでは一般に、
金利1%低下による価格上昇幅
>
金利1%上昇による価格下落幅
となる。
この非対称性を説明するのがConvexityである。
DurationとConvexityを組み合わせた価格変化
より正確に債券価格変化を推定するには、
$$
\frac{\Delta B}{B}
\approx
-D_{\text{mod}}\Delta y
+
\frac{1}{2}C(\Delta y)^2
$$
を利用する。
つまり、
$$
\text{Price Change}
\approx
\text{Duration Effect}
+
\text{Convexity Effect}
$$
である。
例:Duration = 7、Convexity = 90
以下の債券を考える。
- 10年債
- クーポン5%
- Option-free bond
- 現在価格はPar
- Duration = 7
- Convexity = 90
金利が100bp、つまり1%変化するとする。
$$
\Delta y=0.01
$$
金利が1%上昇する場合
Duration Effectは、
$$
-7\times0.01=-0.07
$$
つまり、
$$
-7%
$$
である。
Convexity Effectは、
$$
\frac{1}{2}
\times90
\times(0.01)^2
$$
$$
=0.0045
$$
つまり、
$$
+0.45%
$$
である。
したがって、
$$
\frac{\Delta B}{B}
\approx
-0.07+0.0045
$$
$$
=-0.0655
$$
となり、
$$
-6.55%
$$
と推定される。
金利が1%低下する場合
今度は、
$$
\Delta y=-0.01
$$
である。
Duration Effectは、
$$
-7\times(-0.01)
$$
$$
=+0.07
$$
つまり、
$$
+7%
$$
である。
Convexity Effectは、
$$
\frac{1}{2}
\times90
\times(-0.01)^2
$$
$$
=+0.0045
$$
なので、
$$
\frac{\Delta B}{B}
\approx
0.07+0.0045
$$
$$
=0.0745
$$
となる。
したがって、
$$
+7.45%
$$
と推定される。
DurationとConvexityの効果の比較
| 金利変化 | Duration Effect | Convexity Effect | 合計 |
|---|---|---|---|
| +1% | -7.00% | +0.45% | -6.55% |
| -1% | +7.00% | +0.45% | +7.45% |
つまり、option-free bondではConvexityが、
- 金利上昇時 → 価格下落を小さくする
- 金利低下時 → 価格上昇を大きくする
方向に働く。
この意味で、Positive Convexityは債券保有者にとって有利な性質である。
Modified Convexity
Modified Durationと同じように、ConvexityにもModified Convexityがある。
$$
C_{\text{mod}}
=\frac{C}
{\left(1+\frac{y}{m}\right)^2}
$$
実際の価格変化を推定する場合には、
$$
\frac{\Delta B}{B}
\approx
-D_{\text{mod}}\Delta y
+
\frac{1}{2}C_{\text{mod}}(\Delta y)^2
$$
という形でModified DurationとModified Convexityを組み合わせる。
重要ポイント
この章では、以下の対応を押さえておくと理解しやすい。
| 用語 | 一言でいうと |
|---|---|
| $PV$ | 将来キャッシュフロー1つの現在価値 |
| $B$ | 債券全体の現在価値=債券価格 |
| Macaulay Duration | キャッシュフローの平均受取時間 |
| Modified Duration | 金利変化に対する価格変化率の感応度 |
| Dollar Duration | 金利変化に対する価格変化を金額で表したもの |
| Convexity | Durationの直線近似では捉えられない曲がり |
| Duration + Convexity | 金利変化による債券価格変化のより正確な近似 |
特に重要なのは、
Macaulay Durationは「時間」、Modified Durationは「感応度」
という区別である。
ただし、Macaulay Durationという「時間」が、数学的に金利感応度と強く結びついているため、金融ではまとめてDurationという概念として扱われている。
用語間の関係
43 社債
43.1:社債の基礎と種類
社債(Corporate Bond)は、企業が投資家から資金を借りるために発行する債券である。
社債を理解する際には、単に債券の種類を暗記するのではなく、
投資家がどのようなリスクを負い、その対価としてどれだけ高いYield(利回り)を要求するのか
という視点で整理すると理解しやすい。
社債では特に、
- 信用リスク(Credit Risk)
- 流動性リスク(Liquidity Risk)
- 担保(Collateral)の有無
- デフォルト時の返済順位
- 満期までの期間
- Issuer(発行企業)に与えられた早期償還権
などが価格やYieldに影響する。
1. 社債の取引市場
公開されている社債の多くは、株式のような取引所ではなく、**OTC(Over-the-Counter:店頭市場)**で取引される。
OTC市場ではDealerが売買の仲介を行い、
- Bid:Dealerが買う価格
- Ask:Dealerが売る価格
の差であるBid-Ask Spreadから利益を得る。
社債価格も基本的には需要と供給によって決まる。
$$
Demand > Supply
\Rightarrow
Bond\ Price \uparrow
$$
$$
Demand < Supply
\Rightarrow
Bond\ Price \downarrow
$$
2. Corporate Bond Yield
社債のYieldは、大きく
- Risk-free Return
- Credit Spread
の2つから構成される。
$$
Corporate\ Bond\ Yield
Risk\text{-}free\ Return
+
Credit\ Spread
$$
Risk-free Returnは、信用リスクがほとんどないと考えられる債券から得られる基準となる利回りである。
一方、Credit Spreadは、企業がデフォルトして元本や利息を支払えなくなる可能性に対して投資家が要求する追加のリターンである。
例えば、
$$
Risk\text{-}free\ Return = 3%
$$
$$
Credit\ Spread = 2%
$$
であれば、
$$
Corporate\ Bond\ Yield = 5%
$$
となる。
つまり、投資家は
「安全な国債で3%得られるなら、企業に貸す以上は信用リスクの対価として追加の2%が欲しい」
と考えている。
3. MaturityとCredit Risk
一般的には、Maturity(満期)が長くなるほど、その間に企業の信用状態が悪化する可能性も大きくなる。
そのため、
$$
Maturity \uparrow
\Rightarrow
Credit\ Risk \uparrow
\Rightarrow
Required\ Yield \uparrow
$$
という関係が考えられる。
例えば、
- 1年後まで企業が存続しているか
- 20年後まで企業が存続しているか
を比較すれば、20年間の方が不確実性は大きい。
したがって長期社債では、投資家がより大きなCredit Spreadを要求しやすい。
ただし、これは基本的な考え方であり、実際のCredit Spreadが必ず満期とともに単調に上昇するという意味ではない。
4. Bond PriceとYieldの関係
債券価格とYieldは逆方向に動く。
$$
Yield \uparrow
\Rightarrow
Bond\ Price \downarrow
$$
$$
Yield \downarrow
\Rightarrow
Bond\ Price \uparrow
$$
例えば、既存債券のCoupon Rateが3%である一方、市場では同程度のリスクの新しい債券が5%のYieldを提供するようになったとする。
投資家は3%しか得られない既存債券を額面価格では買いたがらない。
そのため、既存債券の価格が下落し、購入価格に対する実質的なYieldが市場水準まで上昇する。
つまり、
市場Yieldが変化すると、既存債券のCouponが変わるのではなく、Bond Priceが調整される。
5. LiquidityとYield
流動性(Liquidity)が高い債券とは、必要なときに比較的容易に売買できる債券である。
流動性が高ければ、投資家が負担するLiquidity Riskは小さくなる。
したがって、
$$
Liquidity \uparrow
\Rightarrow
Required\ Yield \downarrow
$$
反対に、
$$
Liquidity \downarrow
\Rightarrow
Required\ Yield \uparrow
$$
となる。
売りたいときに買い手が見つからない可能性が高い債券では、そのリスクを補償するために投資家が追加のYieldを要求する。
6. Bond Indenture
Bond Indentureとは、
Issuerの義務とBondholderの権利を定めた社債の契約書
である。
社債では企業に長期間お金を貸すため、Bondholderを保護するさまざまな条件がIndentureに定められる。
代表的なものがCovenantである。
7. Covenant
Covenantは、大きく3種類に分類できる。
Negative / Restrictive Covenant
Issuerがしてはいけないことを定める。
例えば、
- 過度な追加借入を禁止する
- 過大な配当を制限する
などである。
Positive Covenant
Issuerがしなければならないことを定める。
例えば、
- 財務諸表を作成する
- 保険を維持する
などである。
Financial Covenant
一定の財務指標を維持することを要求する。
例えば、
$$
Debt / EBITDA < 4.0
$$
などである。
したがって、
Negative = 禁止事項
Positive = 義務
Financial = 財務数値の条件
と整理できる。
8. Corporate Trustee
Corporate Trusteeは、Bondholderを代表してIndentureが守られているかを監視する。
銀行やTrust CompanyがCorporate Trusteeになることが多い。
主な役割には、
- 発行されたBondの数量管理
- Indentureで規定された発行上限の確認
- Covenantが守られているかの監視
- Bondholderへの報告
- Issuerが利息・元本を支払わない場合の対応
などがある。
つまり、
IssuerとBondholderの間に入り、Bondholderの利益を守る監視役
と考えると分かりやすい。
9. Maturityによる分類
社債は満期までの期間によって分類される。
| 分類 | Maturity |
|---|---|
| Short-term Notes | 1~5年 |
| Medium-term Notes | 5~12年 |
| Long-term Bonds | 12年超 |
10. Interest Paymentによる分類
Fixed-rate Bond
Fixed-rate Bondでは、Coupon Rateが発行時に決められ、基本的に満期まで固定される。
例えば、
$$
Coupon\ Rate = 5%
$$
であれば、契約上の利率は市場金利が変化しても変わらない。
Floating-rate Bond
Floating-rate BondではCoupon Rateが市場のReference Rateに連動する。
例えば、
$$
Coupon\ Rate
=SOFR + Fixed\ Spread
$$
という形で決定される。
Coupon Rateは通常、各期間の開始時点で決定され、期間末に利息が支払われる。
Zero-Coupon Bond
Zero-Coupon Bondでは途中のCoupon Paymentがない。
額面価格より安い価格で購入し、満期にFace Valueを受け取ることでリターンを得る。
例えば、
- 購入価格:700
- Face Value:1,000
であれば、満期まで保有した場合の利益は、
$$
1{,}000 - 700 = 300
$$
となる。
このDiscount部分が実質的なInterestである。
11. Zero-Coupon BondとReinvestment Risk
通常のCoupon Bondでは、途中で受け取ったCouponを再投資する必要がある。
しかし、将来どの金利で再投資できるかは分からない。
これが**Reinvestment Risk(再投資リスク)**である。
Zero-Coupon Bondには途中のCoupon Payment自体がないため、
Couponを再投資する必要がなく、Reinvestment Riskが存在しない。
という特徴がある。
12. Secured BondとUnsecured Bond
Corporate Bondを理解するうえで重要なのが**Collateral(担保)**である。
大きく、
- Secured Bond:担保あり
- Unsecured Bond:担保なし
に分けられる。
企業がDefaultした場合、Secured Bondでは担保となっている資産を売却して、その代金をBondholderへの返済に使用できる。
そのため、一般的には、
$$
Collateral\ Protection \uparrow
\Rightarrow
Credit\ Risk \downarrow
\Rightarrow
Required\ Yield \downarrow
$$
となる。
13. Mortgage Bond
Mortgage Bondは、不動産などの資産をCollateralとして発行される債券である。
IssuerがDefaultした場合、担保資産を売却してBondholderへの返済に充てることができる。
したがって、担保のないDebentureよりBondholderが保護される。
After-acquired Clause
After-acquired Clauseは、Bond発行後にIssuerが取得した資産についても、既存債券のCollateralとして使用することを求める条項である。
これにより、将来のBondholderだけが新しい資産を担保として利用し、既存Bondholderが不利になることを防ぐ。
14. Collateral Trust Bond
Collateral Trust Bondは、
- 株式
- Notes
- Bonds
- その他の金融資産
などをCollateralとする債券である。
Holding Companyが子会社の株式などをCollateralとして発行するケースが代表的である。
CollateralはTrusteeによってBondholderのために管理される。
IssuerがDefaultしていない間は、Collateralとなっている株式のVoting RightsをIssuerが保持することもある。
15. Equipment Trust Certificates(ETCs)
**Equipment Trust Certificate(ETC)**は、航空機などの特定設備を裏付けとする仕組みである。
基本的にはTrusteeがEquipmentを購入し、そのEquipmentを実質的なBorrowerへLeaseする。
Borrowerが支払うLease Paymentが、ETC保有者への支払いに利用される。
債務を完済すると、Equipmentの所有権がBorrowerへ移転する。
航空機のように標準化されたEquipmentでは、BorrowerがDefaultしても別の企業へLeaseしやすいため、この仕組みと相性が良い。
16. Debenture
Debentureとは、
CollateralのないUnsecured Bond
である。
多くのCorporate BondはDebentureである。
Collateralがないため、一般的にはMortgage BondやCollateral Trust BondよりもCredit Riskが高く、その分高いYieldが要求されやすい。
$$
Collateral \downarrow
\Rightarrow
Risk \uparrow
\Rightarrow
Required\ Yield \uparrow
$$
Negative-pledge Clause
Issuerに既存のSecured DebtがなくDebentureを発行する場合、Negative-pledge Clauseが設けられることがある。
将来Secured Bondを発行した場合でも、既存Debentureが不利にならないよう、同等の担保を与えることを要求する仕組みである。
17. Subordinated Debenture
Subordinated Debentureは、
- Unsecured
- さらに他のUnsecured Debtより返済順位が低い
債券である。
Default時の返済順位を単純化すると、
$$
Secured\ Debt
$$
$$
\downarrow
$$
$$
Senior\ Unsecured\ Debt
$$
$$
\downarrow
$$
$$
Subordinated\ Debt
$$
となる。
返済順位が低いほど、Default時に資金を回収できる可能性が低くなる。
したがって、
$$
Payment\ Priority \downarrow
\Rightarrow
Credit\ Risk \uparrow
\Rightarrow
Required\ Yield \uparrow
$$
となる。
18. Guarantee
ある企業が発行したBondを、別の企業がGuaranteeする場合がある。
ただし、
GuaranteeがあるからDefault Riskがゼロになるわけではない。
Guarantor自身に支払能力がなければ保証を履行できないためである。
Guaranteeの価値を考えるうえでは、IssuerとGuarantorの収益のCorrelationも重要となる。
両社の業績が強く連動していると、Issuerが苦しくなったときにGuarantorも同時に苦しくなる可能性がある。
そのため、
$$
Correlation \downarrow
\Rightarrow
Guarantee\ Value \uparrow
$$
となる。
特に両社の業績が異なる要因によって動くほど、GuaranteeのDiversification効果が大きくなる。
19. Corporate Bondを満期前に償還する方法
Corporate Bondには、Maturityまで待たずにDebtを減らす仕組みがある。
主な方法は、
- Call Provision
- Sinking Fund
- Maintenance and Replacement Fund
- Sale of Collateral
- Tender Offer
である。
このうち、Call ProvisionやSinking FundなどはIndentureに規定されるが、Fixed-spread Tender OfferはIndentureには含まれない。
20. Call Provision
Call Provisionは、
IssuerがBondを満期前に買い戻す権利
である。
これはIssuerが保有するCall Optionと考えられる。
例えば既存BondのCoupon Rateが8%で、市場金利が4%まで低下したとする。
Issuerにとっては、
8%の利息を払い続けるより、既存Bondを償還して4%程度で新しく借り直したい
というインセンティブが生まれる。
したがって、
$$
Market\ Interest\ Rate \downarrow
\Rightarrow
Call\ Probability \uparrow
$$
となる。
Call ProvisionはIssuerに有利な権利であり、Bondholderにとっては将来の高いCoupon Paymentを失う可能性がある。
21. Fixed-price Call
Fixed-price Callでは、IssuerがBondを買い戻せる価格がIndentureであらかじめ決められている。
例えば、
| 時点 | Call Price |
|---|---|
| 5年目 | 105 |
| 7年目 | 103 |
| 10年目 | 100 |
のように、Call Priceは時間の経過とともにParへ近づくことが一般的である。
また、多くのBondでは発行直後の数年間はCallできない期間が設けられる。
22. Make-whole Call
Make-whole Callでは、Call Priceを固定するのではなく、市場金利を使って残存Cash FlowのPresent Valueを計算する。
基本的な考え方は、
$$
Call\ Price
=PV(Remaining\ Bond\ Cash\ Flows)
$$
である。
Discount Rateには、同程度のMaturityを持つTreasury Yieldに一定のPremiumを加えた利率などが使用される。
また、Call Priceには通常Par ValueというFloorが設定される。
Fixed-price CallよりBondholderが不利になりにくい仕組みである。
23. Sinking Fund
Sinking-fund Provisionとは、Issuerが毎年一定量のBondを徐々に償還していく仕組みである。
例えば100億円のBondを10年間かけて毎年10億円ずつ返済するようなイメージである。
これによりIssuerは、満期日に巨額のPrincipalを一括返済する必要がなくなる。
Bondholder側から見ると、時間とともにOutstanding Debtが減少するため、Credit Riskを低下させる効果がある。
Bondの償還方法としては、
- Lotteryによって償還対象のBondを選ぶ
- Open MarketでBondを買い戻す
といった方法がある。
Accelerated Sinking Fund
通常より多くのBondを早期に償還できる仕組みである。
特に市場金利が低下した場合、Issuerは高いCouponの既存Bondを多く償還するインセンティブを持つ。
24. Maintenance and Replacement Fund
Maintenance and Replacement Fundも、担保資産の価値を維持し、Bondholderを保護するための仕組みである。
Sinking Fundと似ているが、こちらはUnderlying Assetsの価値を維持することに重点が置かれている。
例えば設備が時間とともに老朽化する場合、
- 設備を交換する
- 資金を積み立てる
- Debtを償還する
などによってCollateralの信用力を維持する。
25. Sale of Collateral
IssuerがCollateralを売却する場合、その売却代金をBondの早期償還に充てることがIndentureで要求される場合がある。
もし担保だけ売却して資金を他の用途に使えば、Bondholderを保護していたCollateralが失われてしまうためである。
26. Tender Offer
Tender Offerでは、IssuerがBondholderに対して、
「この価格でBondを買い戻します」
と公開して提案する。
例えば、Face Value 1,000のBondについて、
1,030で買い戻す
と提示するようなケースである。
Bondholderはその条件を受け入れて売却するかどうかを選択できる。
Call Provisionとの違いは重要である。
| 項目 | Call Provision | Tender Offer |
|---|---|---|
| 基本構造 | Issuerの契約上の権利 | Bondholderへの買戻し提案 |
| Bondholderの選択 | 原則として拒否できない | 売るかどうか選択可能 |
| 条件 | Indentureに規定 | Issuerが条件を提示 |
27. 社債の種類とRisk・Yieldの関係
この章のBond Typeは、個別に暗記するよりも、
BondholderがどれだけLoss Riskを負うか
で整理すると理解しやすい。
例えば担保については、
$$
Collateral\ Protection \downarrow
\Rightarrow
Expected\ Recovery \downarrow
\Rightarrow
Credit\ Risk \uparrow
\Rightarrow
Required\ Yield \uparrow
$$
返済順位については、
$$
Payment\ Priority \downarrow
\Rightarrow
Recovery\ Risk \uparrow
\Rightarrow
Required\ Yield \uparrow
$$
流動性については、
$$
Liquidity \downarrow
\Rightarrow
Liquidity\ Risk \uparrow
\Rightarrow
Required\ Yield \uparrow
$$
信用リスクについては、
$$
Default\ Risk \uparrow
\Rightarrow
Credit\ Spread \uparrow
\Rightarrow
Corporate\ Bond\ Yield \uparrow
$$
となる。
つまりCorporate Bond Yieldは、
Risk-free Returnを基準として、そのBond特有のリスクに対する追加報酬が上乗せされたもの
と理解するとよい。
28. FRMで押さえるべきポイント
| 用語 | 要点 |
|---|---|
| Corporate Bond Yield | Risk-free Return + Credit Spread |
| Credit Spread | Default Riskなどに対する追加のYield |
| Bond Price / Yield | 逆方向に動く |
| Liquidity | 高いほどRequired Yieldは低くなりやすい |
| Bond Indenture | Issuerの義務とBondholderの権利を規定 |
| Corporate Trustee | Bondholderを代表してIndentureを監視 |
| Negative Covenant | Issuerの禁止事項 |
| Positive Covenant | Issuerの義務 |
| Financial Covenant | 財務数値に関する制約 |
| Fixed-rate Bond | Coupon Rate固定 |
| Floating-rate Bond | SOFRなどのReference Rateに連動 |
| Zero-Coupon Bond | Couponなし、Discountで購入 |
| Reinvestment Risk | Zero-Coupon Bondでは存在しない |
| Mortgage Bond | 不動産等をCollateralとする |
| Collateral Trust Bond | 株式・BondなどをCollateralとする |
| ETC | 航空機などのEquipmentを裏付けとする |
| Debenture | Unsecured Bond |
| Subordinated Debenture | 無担保かつ返済順位が低い |
| Guarantee | 第三者がIssuerの支払いを保証 |
| Call Provision | Issuerが満期前に償還できる権利 |
| Fixed-price Call | Call Priceが事前に設定される |
| Make-whole Call | 残存Cash FlowのPVを基準にCall Priceを設定 |
| Sinking Fund | Debtを徐々に償還する |
| Maintenance and Replacement Fund | Collateralの価値を維持する |
| Tender Offer | Bondholderに買戻しを提案する |
29. 用語間の関係
43.2:信用リスク、イベントリスク、高利回り債券
社債への投資では、国債よりも高い利回りを得られる一方で、発行企業の信用状態に起因するリスクを負う。
この信用リスクは大きく、
- Credit Default Risk(信用デフォルトリスク)
- Credit Spread Risk(信用スプレッドリスク)
に分けられる。
さらに、M&AやLBOなどによって企業の財務状態が急激に変化するEvent Riskや、信用力の低い発行体が発行するHigh-Yield Bondについても理解する必要がある。
社債投資を一つの流れとして整理すると、
信用リスクがある
→ 投資家は国債より高い利回りを要求する
→ Credit Spreadが発生する
→ 一部の企業はDefaultする
→ Defaultしても一部はRecoveryできる
→ Expected Lossを差し引いたものがExpected Returnになる
という関係になる。
Credit Riskとは
**Credit Risk(信用リスク)**とは、発行体の信用状態の悪化によって投資家が損失を被るリスクである。
Credit Riskには大きく2種類ある。
| リスク | 内容 |
|---|---|
| Credit Default Risk | 利息・元本が予定どおり支払われないリスク |
| Credit Spread Risk | Credit Spreadの拡大によって債券価格が下落するリスク |
重要なのは、企業が実際にDefaultしなくても、信用力の悪化だけで債券価格が下落する可能性があるということである。
Credit Default Risk
Credit Default Riskとは、債券の契約で定められた利息または元本を発行体が予定どおり支払えなくなるリスクである。
例えば、企業が額面100万円、年5%クーポンの社債を発行している場合、本来であれば投資家は毎年利息を受け取り、満期には100万円の元本を回収する。
しかし企業の財務状況が悪化すると、
- 利息を支払えない
- 元本を返済できない
- 支払いが遅延する
といった事態が発生する可能性がある。
これがCredit Default Riskである。
信用リスクを判断する代表的な指標が**Credit Rating(信用格付け)**である。
主な格付会社には、
- Moody's
- S&P
- Fitch
などがある。
一般的には格付けが低くなるほどDefault Probabilityが高くなる。
Credit Spread
社債の利回りは通常、同程度の満期を持つ国債より高くなる。
両者の利回りの差をCredit Spreadという。
$$
\text{Credit Spread}
=\text{Corporate Bond Yield}
-\text{Treasury Yield}
$$
例えば、
- 10年米国債利回り:3%
- 10年社債利回り:5%
の場合、
$$
\text{Credit Spread}
=5\text{%}
-3\text{%}
=2\text{%}
$$
つまりCredit Spreadは200bpである。
投資家からすると、安全性の高い国債ではなく信用リスクのある企業に資金を貸すためには、そのリスクに対する追加的な収益が必要になる。
その上乗せ部分がCredit Spreadである。
Credit SpreadはDefault Riskだけではない
Credit Spreadは信用リスクの大きさを反映するが、必ずしもDefault Riskだけで構成されているわけではない。
Credit Spreadには、
- Expected Default Loss
- Liquidity Risk
- Embedded Option
- 景気悪化リスク
- Risk Premium
などの影響も含まれる。
そのため、
$$
\text{Credit Spread}
\neq
\text{Expected Default Loss}
$$
である。
概念的には、
$$
\text{Credit Spread}
\approx
\text{Expected Loss}
+
\text{Risk Premium}
+
\text{Other Premiums}
$$
と考えると理解しやすい。
Credit Spread Risk
Credit Spread Riskとは、Credit Spreadが拡大することで社債価格が下落するリスクである。
例えば市場が企業Aについて、
業績が悪化しており、以前より返済能力が低下している
と判断したとする。
すると投資家は、これまでより高い利回りを要求する。
例えば、
$$
\text{Treasury Yield}=3%
$$
$$
\text{Credit Spread}=2%
$$
だった場合、
$$
\text{Corporate Yield}=5%
$$
である。
信用力が悪化してCredit Spreadが3%に拡大すると、
$$
\text{Corporate Yield}=6%
$$
となる。
既存債券の利回りは相対的に魅力がなくなるため、その債券価格は下落する。
したがって、
$$
\text{Credit Spread}\uparrow
\rightarrow
\text{Bond Price}\downarrow
$$
という関係になる。
Credit Default RiskとCredit Spread Riskの違い
両者の違いは、実際のDefaultが発生する必要があるかどうかである。
| 項目 | Credit Default Risk | Credit Spread Risk |
|---|---|---|
| 主な原因 | 利息・元本の支払不能 | 信用状態への市場評価悪化 |
| Default発生 | 必要 | 不要 |
| 主な損失 | Cash Flowを回収できない | Market Priceの下落 |
| 関連指標 | Default Probability | Credit Spread |
例えば企業が実際にはDefaultしていなくても、
$$
200bp
\rightarrow
400bp
$$
のようにCredit Spreadが拡大すれば、社債価格は下落する。
したがって、信用リスクによる損失はDefaultしたときだけ発生するわけではない。
Spread Duration
Credit Spreadの変化に対する債券価格の感応度を表すのがSpread Durationである。
Spread Durationは、
Treasury Yieldが一定であると仮定したとき、Credit Spreadが100bp変化すると債券価格が何%変化するか
を表す。
近似的には、
$$
\frac{\Delta P}{P}
\approx
-\text{Spread Duration}
\times
\Delta \text{Credit Spread}
$$
と考えられる。
例えばSpread Durationが4の債券についてCredit Spreadが50bp拡大した場合、
$$
\frac{\Delta P}{P}
\approx
-4\times0.5%
$$
$$
\frac{\Delta P}{P}
\approx
-2%
$$
となる。
つまり債券価格は約2%下落する。
通常のDurationが金利変化に対する価格感応度であるのに対して、Spread DurationはCredit Spread変化に対する価格感応度である。
Event Risk
Event Riskとは、企業に大きなイベントが発生することで資本構成が急激に変化し、既存社債の信用力や価格が低下するリスクである。
代表的なイベントには、
- Merger
- Acquisition
- Leveraged Buyout
- Recapitalization
- Restructuring
- Share Repurchase
などがある。
特に重要なのは、企業が大量のDebtを利用するケースである。
例えば企業のCapital Structureが、
| 項目 | イベント前 | イベント後 |
|---|---|---|
| Equity | 800 | 300 |
| Debt | 200 | 700 |
のように変化したとする。
Debtが急増すると企業の財務リスクが高まり、
$$
\text{Leverage}\uparrow
$$
$$
\text{Creditworthiness}\downarrow
$$
$$
\text{Credit Spread}\uparrow
$$
$$
\text{Bond Price}\downarrow
$$
となる可能性がある。
Maintenance of Net Worth Clause
Event RiskからBondholderを保護するために、Bond IndentureにMaintenance of Net Worth Clauseが設定されることがある。
これは、
発行企業は一定以上の自己資本を維持しなければならない
という契約条項である。
例えば企業に、
Equityを最低500億円維持すること
という条件が設定されているとする。
もしEquityがその水準を下回った場合、企業はDebtの一部をPar Valueで買い戻し、財務状態を改善することを求められる場合がある。
つまりこの条項は、企業が過度にLeverageを高めることでBondholderの信用リスクが急増することを防ぐ仕組みである。
High-Yield Bond
High-Yield Bondとは、格付会社からInvestment Grade未満の格付けを与えられている債券である。
一般的には、
- Moody's:Ba1以下
- S&P / Fitch:BB+以下
がHigh-Yieldに分類される。
Junk Bondとも呼ばれる。
信用リスクが高いため、投資家はより高い利回りを要求する。
したがって、
$$
\text{Credit Risk}\uparrow
\rightarrow
\text{Credit Spread}\uparrow
\rightarrow
\text{Yield}\uparrow
$$
となる。
長期的には高い平均リターンが期待できる一方で、短期的にはDefaultやCredit Spread拡大によって大きな損失が発生する可能性がある。
High-Yield Bondの発行体
High-Yield Bondの発行体には様々な種類がある。
例えば、
- 若い企業
- 急成長企業
- 財務実績の少ない企業
- 大きなDebtを抱える企業
などがある。
企業の将来性が高くても、財務実績が十分でなければ信用格付けが低くなり、High-Yield Bondとして発行されることがある。
Fallen Angel
Fallen Angelとは、
発行時にはInvestment Gradeだったものの、その後信用力が悪化してHigh-Yieldへ格下げされた債券
である。
例えば、
$$
BBB
\rightarrow
BB
$$
のように格下げされた債券が該当する。
Investment GradeからHigh-Yieldに落ちたため、Fallen Angelと呼ばれる。
格下げが起きると、Investment Grade債券しか保有できない機関投資家が売却することもあり、価格下落が大きくなる場合がある。
High-Yield Bond特有のCoupon Structure
High-Yield発行体は、通常の企業よりCash Flowに余裕がない場合がある。
そのため、利払いを後ろ倒しにしたり、現金以外で利息を支払ったりする特殊なCoupon Structureが利用されることがある。
| 種類 | 特徴 |
|---|---|
| Deferred-Coupon Bond | 初期期間はCouponを支払わず、その後支払う |
| Step-Up Bond | 初期Couponが低く、後から上昇する |
| Payment-in-Kind Bond | 利息をCashではなく追加Bondで支払える |
| Extendable Reset Bond | Bond Priceが一定水準になるようCouponを調整する |
Deferred-Coupon Bond
Deferred-Coupon Bondでは、発行後しばらくCouponを支払わない。
例えば、
- 1~3年目:Couponなし
- 4年目以降:8%
という構造である。
初期期間にCouponを受け取れないため、通常はDiscount Priceで発行される。
発行企業にとっては、事業の初期段階でCash Outflowを抑えられるというメリットがある。
Step-Up Bond
Step-Up Bondは、時間の経過とともにCoupon Rateが上昇する債券である。
例えば、
- 1~3年:4%
- 4~5年:7%
- 6年以降:9%
のような構造になる。
企業のCash Flowが将来的に改善することを期待して、初期の利払い負担を小さくできる。
Payment-in-Kind Bond
**Payment-in-Kind Bond(PIK Bond)**では、利息を現金ではなく追加の債券で支払うことができる。
例えば10万円の利息について、
10万円のCashを支払う
のではなく、
10万円分の追加Bondを投資家に渡す
ことができる。
発行企業はCash Outflowを抑えられる一方で、Debtが増えていくため、投資家側のCredit Riskは高くなる。
Extendable Reset Bond
Extendable Reset Bondは、Bond Priceが一定の水準に維持されるようCoupon Rateを調整できる債券である。
市場金利や信用状態が変化した場合でもCouponをResetすることで、Bond Priceを一定水準に近づける。
Defaultとは
Defaultとは、契約どおりの利息または元本の支払いが行われない状態である。
具体的には、
- Interest Paymentの未払い
- Principal Paymentの未払い
- Paymentの遅延
などがDefaultに含まれる。
Default Rateには主に、
- Issuer Default Rate
- Dollar Default Rate
という2つの測定方法がある。
Issuer Default Rate
Issuer Default Rateは、企業数を基準としてDefaultの割合を測定する。
$$
\text{Issuer Default Rate}
=\frac{\text{Number of Defaulted Issuers}}
{\text{Number of Issuers at Beginning of Year}}
$$
例えば年初に100社あり、そのうち5社がDefaultした場合、
$$
\text{Issuer Default Rate}
=\frac{5}{100}
=5\text{%}
$$
である。
これは「何社Defaultしたか」を表す指標であり、DefaultしたDebtの金額は考慮しない。
Dollar Default Rate
Dollar Default Rateは、Defaultした債券の金額を基準として測定する。
$$
\text{Dollar Default Rate}
=\frac{\text{Par Value of Defaulted Bonds}}
{\text{Par Value of Outstanding Bonds}}
$$
例えば市場全体で1兆円のBondが存在し、そのうち500億円がDefaultした場合、
$$
\text{Dollar Default Rate}
=\frac{500}{10{,}000}
=5\text{%}
$$
となる。
Issuer Default RateとDollar Default Rateの違い
両者は同じDefault状況を見ていても、全く異なる値になることがある。
例えば100社のうち1社しかDefaultしていなくても、その1社が巨大企業であれば、
$$
\text{Issuer Default Rate}
=1\text{%}
$$
である一方、Dollar Default Rateは10%になる可能性がある。
逆に、小規模な企業が多数Defaultした場合、
- Issuer Default Rate:高い
- Dollar Default Rate:低い
ということもあり得る。
したがって、
Issuer Default Rate = 件数ベース
Dollar Default Rate = 金額ベース
と整理するとよい。
複数年のDollar Default Rate
複数年についてDefault Rateを計算する場合、単純な方法として、
$$
\text{Cumulative Dollar Default Rate}
=\frac{\text{Cumulative Dollar Value of Defaulted Bonds}}
{\text{Cumulative Dollar Value of Issuance}}
$$
を利用できる。
ただし、この方法では、
- 10年間市場に存在したBond
- 1年間だけ市場に存在したBond
を同じように扱ってしまう。
10年間存在したBondのほうがDefaultする機会が多いため、より正確に比較するには市場に存在した期間を考慮する必要がある。
そのため、記事ではWeighted Average Years Outstandingを使った方法も紹介されている。
$$
\text{Default Rate}
=\frac{\text{Cumulative Dollar Value of Defaulted Bonds}}
{\text{Cumulative Dollar Value of Issuance}
\times
\text{Weighted Average Years Outstanding}}
$$
つまり、
「どれだけの金額が発行されたか」
だけではなく、
「そのBondが平均何年間Default Riskにさらされていたか」
も考慮する。
Recovery Rate
企業がDefaultしたからといって、投資家の投資額がすべて失われるとは限らない。
Default後に回収できる金額の割合をRecovery Rateという。
$$
\text{Recovery Rate}
=\frac{\text{Amount Recovered}}
{\text{Total Obligation}}
$$
例えば100万円の債券がDefaultし、40万円を回収できた場合、
$$
\text{Recovery Rate}
=40\text{%}
$$
である。
したがって実際の損失割合は、
$$
1-\text{Recovery Rate}
$$
となる。
この値は**Loss Given Default(LGD)**に相当する。
$$
LGD
=1-RR
$$
Recovery RateとSeniority
Default後のRecovery Rateは、Debtの返済順位であるSeniorityによって大きく異なる。
一般的には、
$$
\text{Senior Debt}
\rightarrow
\text{High Recovery Rate}
$$
$$
\text{Subordinated Debt}
\rightarrow
\text{Low Recovery Rate}
$$
となる。
企業の資産が十分に残っていない場合、Senior Debtから先に返済されるためである。
Expected Loss Rate
信用リスクによる期待損失は、
- Defaultする確率
- Defaultした場合に失う割合
から計算できる。
$$
\text{Expected Loss Rate}
=PD
\times
(1-RR)
$$
ここで、
- PD = Probability of Default
- RR = Recovery Rate
- 1 − RR = Loss Given Default
である。
例えば、
- PD:5%
- Recovery Rate:40%
の場合、
$$
\text{Expected Loss Rate}
=5\text{%}
\times
(1-40\text{%})
=5\text{%}
\times
60\text{%}
=3\text{%}
$$
となる。
つまり平均的には、投資元本の3%程度の信用損失が期待されていることになる。
Expected Return
社債のExpected Returnは、
$$
\text{Expected Return}
=\text{Risk-Free Rate}
+
\text{Credit Spread}
-\text{Expected Loss Rate}
$$
で表される。
Expected Loss Rateを展開すると、
$$
\text{Expected Return}
=r_f
+
\text{Credit Spread}
-PD(1-RR)
$$
となる。
例えば、
- Risk-Free Rate:3%
- Credit Spread:4%
- PD:5%
- Recovery Rate:40%
とすると、
まずExpected Loss Rateは、
$$
5\text{%}
\times
(1-40\text{%})
=3\text{%}
$$
である。
したがって、
$$
\text{Expected Return}
=3\text{%}
+4\text{%}
-3\text{%}
=4\text{%}
$$
となる。
なぜCredit SpreadはExpected Lossより大きいのか
重要なのは、Credit Spreadが単純にDefault Lossを補償しているだけではないということである。
一般的には、
$$
\text{Credit Spread}
>\text{Expected Loss Rate}
$$
となる。
投資家はExpected Default Loss以外にも、
- Defaultが景気後退時に集中するリスク
- Liquidity Risk
- Credit Spread変動リスク
- 不確実性
- Risk Aversion
などを負うためである。
したがって、Credit SpreadのうちExpected Lossを超える部分は、信用リスクなどを負うことに対するRisk Premiumと考えられる。
概念的には、
$$
\text{Credit Spread}
\approx
\text{Expected Loss}
+
\text{Risk Premium}
$$
となる。
このため企業のCredit Qualityが低いほど、一般的にRisk Premiumも大きくなる。
Expected Returnまでの流れ
Corporate Bond投資を全体として考えると、まず投資家には安全資産から得られるRisk-Free Rateが存在する。
しかしCorporate BondにはCredit Riskがあるため、発行企業は追加の利回りであるCredit Spreadを提供する必要がある。
$$
\text{Corporate Bond Yield}
\approx
\text{Risk-Free Rate}
+
\text{Credit Spread}
$$
しかし実際には一部の企業がDefaultする。
その際のExpected Lossは、
$$
PD(1-RR)
$$
である。
したがって最終的なExpected Returnは、
$$
\boxed{
\text{Expected Return}
=\text{Risk-Free Rate}
+
\text{Credit Spread}
-PD(1-RR)
}
$$
となる。
つまり社債の高いYieldをそのまま「追加利益」と考えるのではなく、
Credit Spreadの一部はDefaultによるExpected Lossを補償するためのものであり、それを超える部分が信用リスクなどを取ることに対する報酬
と理解することが重要である。
重要ポイントまとめ
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| Credit Risk | 発行体の信用状態による損失リスク |
| Credit Default Risk | Interest・Principalが支払われないリスク |
| Credit Spread Risk | Spread拡大によるBond Price下落リスク |
| Credit Spread | Corporate YieldとBenchmark Yieldの差 |
| Spread Duration | Credit Spread変化に対する価格感応度 |
| Event Risk | M&A・LBOなどによる信用力急低下 |
| Maintenance of Net Worth | 最低自己資本を要求するBondholder保護条項 |
| High-Yield Bond | Investment Grade未満のBond |
| Fallen Angel | Investment GradeからHigh-Yieldへ格下げされたBond |
| Issuer Default Rate | DefaultしたIssuer数の割合 |
| Dollar Default Rate | DefaultしたBond金額の割合 |
| Recovery Rate | Default後に回収できる割合 |
| LGD | Default時の損失割合。1 − Recovery Rate |
| Expected Loss | PD × LGD |
| Expected Return | Risk-Free + Credit Spread − Expected Loss |
用語間の関係
44 住宅ローンと住宅ローン担保証券
44.1: 住宅ローン
住宅ローン(Mortgage)は、住宅などの不動産を担保として設定する長期ローンであり、一般的に15~30年程度の期間で返済される。
この項目では、住宅ローンの種類、住宅ローンがMBS(Mortgage-Backed Security)として証券化される仕組み、固定金利・元利均等返済型住宅ローンの返済構造について整理する。
1. Mortgageの基本構造
Mortgageでは、借り手が銀行などの金融機関から資金を借り、住宅などの不動産を担保として提供する。
借り手は毎月、
- Interest(利息)
- Principal Repayment(元本返済)
を金融機関へ支払う。
住宅ローンの毎月の支払額は、
$$
Payment
=Interest
+Principal\ Repayment
$$
で構成される。
借り手が返済不能(Default)になった場合、貸し手は担保となっている不動産を処分することで資金回収を図ることができる。
2. Primary MarketとSecondary Market
住宅ローン市場には、**Primary Market(第一次市場)とSecondary Market(二次市場)**が存在する。
Primary Market
Primary Marketは、住宅ローンの借り手と金融機関が直接取引する市場である。
住宅購入者
↓ 住宅ローン契約
銀行
従来は、銀行が住宅ローンを貸し出し、そのまま満期まで保有して元本・利息を回収することが一般的だった。
Secondary Market
現在では、金融機関が貸し出した住宅ローンを他の金融機関や投資家へ売却することが一般的になっている。
特に、多数の住宅ローンをまとめて証券化し、**Mortgage-Backed Security(MBS)**として投資家へ販売できる。
住宅購入者
↓
Mortgage
↓
金融機関
↓
Securitization
↓
MBS
↓
投資家
このローンなどの資産をまとめて証券に変換することをSecuritization(証券化)という。
Secondary Marketが存在することで、銀行は住宅ローンを売却して資金を回収し、その資金を使って新しい住宅ローンを貸し出せる。
3. Fixed-Rate Mortgage
**Fixed-Rate Mortgage(固定金利住宅ローン)**は、契約期間中の金利が固定される住宅ローンである。
例えば、
30年 Mortgage
金利 = 年5%
であれば、原則として30年間5%の金利が適用される。
Level-Payment型であれば、毎月の支払額も一定になる。
固定金利であるため、市場金利が上昇しても借り手の住宅ローン金利は変化しない。
そのため、借り手にとって金利上昇リスクが小さいという特徴がある。
4. Adjustable-Rate Mortgage(ARM)
**Adjustable-Rate Mortgage(ARM)**は、住宅ローンの金利が途中で変化する変動金利型住宅ローンである。
一般的には、
- 最初の数年間は固定金利
- その後、市場金利に応じて定期的に金利を変更
という構造を持つ。
例えば、
最初の3年間:3%
その後:
Treasury Rate + Spread
のように設定される。
市場金利が上昇すると、
市場金利上昇
↓
ARMのMortgage Rate上昇
↓
毎月のPayment増加
↓
借り手の返済負担増加
↓
Default Risk上昇
となる可能性がある。
したがって、ARMでは金利上昇による借り手の返済負担増加が重要なリスクとなる。
| 項目 | Fixed-Rate Mortgage | ARM |
|---|---|---|
| 金利 | 固定 | 変動 |
| 毎月返済額 | 基本的に一定 | 金利により変化 |
| 市場金利上昇 | 影響が小さい | 支払額が増加し得る |
| 借り手の金利リスク | 小さい | 大きい |
| Default Risk | 比較的安定 | 金利上昇時に増加し得る |
5. Mortgage-Backed Security(MBS)
多数の住宅ローンをまとめ、それを裏付け資産として発行される証券を**Mortgage-Backed Security(MBS)**という。
Mortgage A
Mortgage B
Mortgage C
Mortgage D
↓
Pooling
↓
MBS
↓
Investor
MBS投資家は、裏付けとなっている住宅ローンから生じる元本・利息を受け取る。
6. Pass-Through Structure
基本的なMBSでは、借り手から支払われた元本・利息が金融機関などを経由してMBS投資家へ渡される。
これをPass-Through Structureという。
Mortgage Borrower
↓
Interest + Principal
↓
Bank / Servicer
↓
MBS Investor
したがって、一般的な満期一括返済型債券とは異なり、MBS投資家は運用期間中にも元本の返済を受ける。
7. Agency MBSとNonagency MBS
MBSは大きく、
- Agency MBS
- Nonagency MBS
に分類できる。
Agency MBS
Agency MBSは、政府または政府関連機関による保証を受けたMBSである。
代表的な機関には以下がある。
- GNMA(Ginnie Mae)
- FNMA(Fannie Mae)
- FHLMC(Freddie Mac)
これらの機関は一定の条件を満たす住宅ローンについて、元本・利息の支払いを保証する。
そのため、Agency MBSの投資家にとってCredit Riskは非常に小さい。
ただし、保証されるのは基本的に元本・利息の支払いであり、Prepayment Riskは投資家が負担する。
Nonagency MBS
Nonagency MBSは、民間金融機関などによって発行され、GNMA・FNMA・FHLMCなどの保証が付いていないMBSである。
そのため投資家は、
- Credit Risk
- Prepayment Risk
の両方を負担する。
| リスク | Agency MBS | Nonagency MBS |
|---|---|---|
| Credit Risk | 非常に小さい | あり |
| Prepayment Risk | あり | あり |
8. Prepayment Risk
**Prepayment(期限前返済)**とは、住宅ローンの借り手が契約上の返済スケジュールより早く元本を返済することである。
Prepayment RiskはARMだけに発生するものではない。
Fixed-Rate Mortgageでも発生し、特に市場金利が低下したときに重要になる。
例えば、既存のFixed-Rate Mortgageが7%で、市場の住宅ローン金利が4%まで低下した場合を考える。
借り手には、
既存Mortgage:7%
↓
市場金利:4%
↓
4%で新しいMortgageを借りる
↓
7%の既存Mortgageを期限前返済
↓
Refinancing
というインセンティブが生じる。
MBS投資家からすると、本来7%相当の高い金利で受け取れるはずだったキャッシュフローが途中で終了し、返ってきた元本を4%程度の低金利で再投資しなければならない。
市場金利低下
↓
Refinancing増加
↓
Prepayment増加
↓
MBS投資家へ元本が早く返還
↓
低金利で再投資
↓
投資家の収益低下
これがPrepayment Riskである。
特にFixed-Rate Mortgageでは、市場金利が低下しても既存ローンの金利は変わらないため、借り換えのインセンティブが強くなる。
9. Fixed-Rate, Level-Payment, Fully Amortized Mortgage
Mortgageの基本的な分析では、Fixed-Rate, Level-Payment, Fully Amortized Mortgageが使用される。
それぞれ、
- Fixed-Rate:金利が固定
- Level-Payment:毎月の支払額が一定
- Fully Amortized:最終返済時にローン残高が0になる
という意味である。
つまり、
固定金利で毎月同じ金額を払い、満期までに元本を完全に返済する住宅ローン
である。
10. PV・PMT・FV・N・I/Y
住宅ローンの計算では、以下の変数が頻繁に登場する。
| 記号 | 名称 | Mortgageにおける意味 |
|---|---|---|
| PV | Present Value | 当初の住宅ローン元本 |
| PMT | Payment | 毎月の返済額 |
| FV | Future Value | 最終時点のローン残高 |
| N | Number of Periods | 返済回数 |
| I/Y | Interest Rate per Period | 1期間あたりの金利 |
PV
**PV(Present Value)**は現在価値を意味する。
住宅ローンでは通常、現在借りているローン元本に対応する。
例えば$500,000を借りれば、
$$
PV
=500,000
$$
である。
金融電卓ではキャッシュフローの受取と支払を反対符号にするため、
$$
PV
=-500,000
$$
と入力する場合がある。
PMT
**PMT(Payment)**は各期間に支払う返済額である。
住宅ローンでは通常、毎月の元利合計返済額を意味する。
$$
PMT
=Interest
+Principal\ Repayment
$$
FV
Fully Amortized Mortgageでは、最終返済後のローン残高は0になるため、
$$
FV
=0
$$
となる。
11. 毎月返済額の計算
30年、$500,000、年利12%、月次返済のMortgageを考える。
返済回数は、
$$
N
=30 \times 12
=360
$$
月利は、
$$
r
=\frac{12\text{%}}{12}
=1\text{%}
$$
である。
元利均等返済のPMTは、
$$
PMT
=PV
\times\frac{r}{1-(1+r)^{-N}}
$$
で計算できる。
したがって、
$$
PMT
=500,000
\times\frac{0.01}{1-(1.01)^{-360}}
\approx5,143.06
$$
となる。
つまり、借り手は毎月$5,143.06を360回支払う。
12. InterestとPrincipalの計算
毎月のInterestは、その月の期首ローン残高に対して計算する。
$$
Interest_t
=Beginning\ Balance_t
\times r
$$
Principal Repaymentは、
$$
Principal\ Repayment_t
=PMT
-Interest_t
$$
で求められる。
そして次月の残高は、
$$
Ending\ Balance_t
=Beginning\ Balance_t
-Principal\ Repayment_t
$$
となる。
13. 第1回返済
当初元本は、
$$
500,000
$$
で、月利は1%なので、
$$
Interest_1
=500,000 \times 0.01
=5,000
$$
となる。
PMTは$5,143.06なので、
$$
Principal_1
=5,143.06-5,000
=143.06
$$
である。
したがって1回目の返済は、
PMT $5,143.06
├─ Interest $5,000.00
└─ Principal $143.06
となる。
返済後のローン残高は、
$$
Ending\ Balance_1
=500,000-143.06
=499,856.94
$$
である。
14. なぜInterestは減り、Principalは増えるのか
Level-Payment MortgageではPMTが一定である。
$$
PMT
=Interest_t
+Principal_t
$$
一方、返済が進むほどローン残高は減少する。
$$
Outstanding\ Principal
\downarrow
$$
Interestは残高に金利を掛けて計算するため、
$$
Interest
\downarrow
$$
となる。
PMTは一定なので、Interestが減少した分だけPrincipal Repaymentが増える。
$$
Principal\ Repayment
\uparrow
$$
したがって、
時間経過
↓
Loan Balance減少
↓
Interest減少
↓
Principal Repayment増加
という関係になる。
ローンの初期は返済額の大部分がInterestであるが、後半になるほどPrincipal Repaymentの割合が大きくなる。
15. Scheduled Amortization
契約時に決められた返済スケジュールに従って元本を徐々に返済することを、Scheduled Amortizationという。
Principal Repaymentには、
Principal Repayment
│
├─ Scheduled Amortization
│ → 契約通りの元本返済
│
└─ Prepayment
→ 予定より早い元本返済
という2つの考え方がある。
この違いはMBSを理解するうえで非常に重要である。
16. Amortization Schedule
毎月の、
- Beginning Principal
- PMT
- Interest
- Principal Repayment
- Ending Principal
をまとめた表を**Amortization Schedule(償却表)**という。
本文の例では以下のようになる。
| Payment | Beginning Principal | PMT | Interest | Principal Repayment | Ending Principal |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | $500,000.00 | $5,143.06 | $5,000.00 | $143.06 | $499,856.94 |
| 2 | $499,856.94 | $5,143.06 | $4,998.57 | $144.49 | $499,712.45 |
| 3 | $499,712.45 | $5,143.06 | $4,997.12 | $145.94 | $499,566.51 |
PMTは一定だが、
- Interest:徐々に減少
- Principal Repayment:徐々に増加
している。
17. 15-Year Mortgageと30-Year Mortgage
同じ金額を借りた場合、15-Year Mortgageと30-Year MortgageではLoan Balanceの減少速度が異なる。
15-Year Mortgage
- 毎月のPMTが大きい
- Principal Repaymentが大きい
- Loan Balanceが速く減る
- 総Interest支払額が小さい
30-Year Mortgage
- 毎月のPMTが小さい
- Principal Repaymentが小さい
- Loan Balanceがゆっくり減る
- 総Interest支払額が大きい
| 項目 | 15-Year | 30-Year |
|---|---|---|
| 毎月のPMT | 大きい | 小さい |
| 元本減少速度 | 速い | 遅い |
| 総Interest | 少ない | 多い |
| 毎月の返済負担 | 大きい | 小さい |
30-Year Mortgageでは返済初期のPMTの大部分がInterestとなるため、数年間返済してもLoan Balanceがあまり減らないことがある。
18. Mortgageと通常のBondの違い
一般的なBullet Bondでは、途中ではCouponのみを支払い、Principalは満期にまとめて返済する。
Bond
途中:
Coupon
Coupon
Coupon
満期:
Coupon + Principal
これに対してMortgageでは、
Mortgage
毎月:
Interest + Principal
Interest + Principal
Interest + Principal
...
のように、運用期間中から元本が継続的に返済される。
このMortgageの特徴が、そのままMBSのCash Flow構造にも影響する。
19. FRMで押さえるべきポイント
- Mortgageは不動産を担保とした長期ローン
- Fixed-Rate Mortgageでは金利が固定される
- ARMでは市場金利に応じて金利が変化する
- ARMでは金利上昇によりPaymentとDefault Riskが増加し得る
- MortgageはSecondary Marketで証券化され、MBSとして販売できる
- MBSでは住宅ローンのInterestとPrincipalが投資家へPass Throughされる
- Agency MBSではCredit Riskは非常に小さいが、Prepayment Riskは残る
- Prepayment RiskはARMだけではなく、Fixed-Rate Mortgageにも存在する
- 特に市場金利低下時にはFixed-Rate MortgageのRefinancingが増えやすい
- PVは当初のMortgage Principal
- PMTは毎月の返済額
- Fully Amortized MortgageではFVは0
- Level-Payment MortgageではPMTは一定
- 時間経過とともにInterestは減少し、Principal Repaymentは増加する
- Scheduled AmortizationとPrepaymentは異なる
- 期間が短いMortgageほど毎月のPMTは大きいが、元本返済は速く総Interestは少なくなる
用語間の関係
44.2:住宅ローン担保証券
住宅ローン担保証券(Mortgage-Backed Security:MBS)は、複数の住宅ローンをまとめ、その住宅ローンから発生する元本・利息のキャッシュフローを裏付けとして発行される証券である。
この項目では、MBSの証券化、Pass-Through Security、期限前返済リスク、CPR・SMM・PSA、MBS市場での取引方法、さらにCMOにおけるPAC・Support Tranche、PO・IOについて整理する。
1. MBSの基本構造
住宅ローンを貸し出した金融機関は、多数の住宅ローンをまとめてMortgage Poolを形成し、それをSPV(Special Purpose Vehicle:特別目的事業体)へ売却する。
SPV内の住宅ローンを裏付けとしてMBSが発行され、投資家に販売される。
基本的な流れは次のとおりである。
住宅購入者
↓
住宅ローン返済
↓
複数のMortgage
↓
Mortgage Pool
↓
SPV
↓
MBSを発行
↓
投資家
このように、住宅ローンという本来は個別の貸付債権をまとめて市場で取引できる証券へ変換することを**Securitization(証券化)**という。
2. Mortgage Pass-Through Security
最も基本的なMBSがMortgage Pass-Through Securityである。
Mortgage Poolに含まれる住宅ローンから発生した、
- 利息
- 予定された元本返済
- 期限前返済された元本
をまとめ、Servicing Feeや保証料などを差し引いて投資家へ流す構造になっている。
住宅ローンの借り手
↓
元本・利息
↓
Mortgage Pool
↓
手数料等を控除
↓
MBS投資家
「Pass Through」とは、住宅ローンから生じたキャッシュフローを投資家へ通過させるという意味である。
3. WAC:Weighted Average Coupon
Mortgage Poolには異なる金利の住宅ローンが含まれる。
プール全体の平均的な住宅ローン金利を表したものが**WAC(Weighted Average Coupon)**である。
たとえば、
- $300,000:金利3%
- $500,000:金利4%
の2本であれば、
$$
WAC=\frac{300,000}{800,000}\times3\text{%}+\frac{500,000}{800,000}\times4\text{%}
$$
$$
WAC=3.625\text{%}
$$
となる。
単純平均ではなく、各Mortgageの残高をウェイトとして計算する点が重要である。
4. WAM:Weighted Average Maturity
プールに含まれる住宅ローンの満期を、残高によって加重平均したものが**WAM(Weighted Average Maturity)**である。
たとえば、
- $300,000:180か月
- $500,000:240か月
であれば、
$$
WAM=\frac{300,000}{800,000}\times180+\frac{500,000}{800,000}\times240
$$
$$
WAM=217.5\text{ months}
$$
となる。
WACが「平均的な金利」、WAMが「平均的な満期」を表す。
5. MBS特有のPrepayment Risk
MBSを理解するうえで最も重要なのが**Prepayment Risk(期限前返済リスク)**である。
住宅ローンの借り手は、契約上の満期を待たずに住宅ローンを返済することがある。
典型例が金利低下時の借り換えである。
市場金利低下
↓
既存住宅ローンの金利が割高になる
↓
低金利ローンへ借り換える
↓
既存住宅ローンを期限前返済
↓
MBSの元本が早く返ってくる
元本が早く返ってくることは、一見すると良いことのように見える。
しかし投資家は、本来受け取れるはずだった高い利率の利息を失ううえ、返ってきた元本をより低い市場金利で再投資しなければならない可能性がある。
6. Contraction RiskとExtension Risk
Prepayment Riskは、返済期間への影響から2種類に分けて理解できる。
Contraction Risk
金利が低下すると借り換えが増え、期限前返済が増加する。
金利 ↓
↓
Prepayment ↑
↓
元本返済が早くなる
↓
MBSのAverage Life ↓
予定より早く元本が返ってくるリスクをContraction Riskという。
Extension Risk
反対に金利が上昇すると借り換えが減り、期限前返済が減少する。
金利 ↑
↓
Prepayment ↓
↓
元本返済が遅くなる
↓
MBSのAverage Life ↑
予定より長く元本が残ってしまうリスクをExtension Riskという。
| 市場金利 | Prepayment | Average Life |
|---|---|---|
| 低下 | 増加 | 短縮 |
| 上昇 | 減少 | 延長 |
7. CPR:Conditional Prepayment Rate
Prepaymentの速度を表す代表的な指標が**CPR(Conditional Prepayment Rate)**である。
CPRは、住宅ローンプールの残高のうち、年間でどの程度が期限前返済されると想定するかを表す年率である。
たとえば、
$$
CPR=6\text{%}
$$
であれば、年間約6%の期限前返済を想定していることになる。
8. SMM:Single Monthly Mortality
住宅ローンは毎月返済されるため、CPRを月次ベースに変換したものが**SMM(Single Monthly Mortality)**である。
CPRからSMMへの変換は、
$$
SMM=1-(1-CPR)^{1/12}
$$
逆にSMMからCPRへ戻す場合は、
$$
CPR=1-(1-SMM)^{12}
$$
となる。
単純に、
$$
SMM=\frac{CPR}{12}
$$
とはならない点に注意する。
SMMが1%なら、その月の予定元本返済後に残った残高の約1%が追加で期限前返済されるという意味である。
9. PSA Prepayment Benchmark
住宅ローンの期限前返済速度を標準化して表現するために使われるのがPSA Prepayment Benchmarkである。
標準となる100 PSAでは、30年住宅ローンについて、
- 1か月目:CPR 0.2%
- 2か月目:CPR 0.4%
- 3か月目:CPR 0.6%
- …
- 30か月目:CPR 6%
- 30か月目以降:CPR 6%
と仮定する。
30か月目までは、
$$
CPR=0.2\text{%}\times\text{経過月数}
$$
である。
たとえば5か月目なら、
$$
CPR=5\times0.2\text{%}=1\text{%}
$$
となる。
PSA倍率
100 PSAを基準として、
- 50 PSA:100 PSAの50%
- 150 PSA:100 PSAの150%
- 200 PSA:100 PSAの200%
と表現する。
たとえば5か月目の100 PSAが1%なら、150 PSAでは、
$$
CPR=1\text{%}\times1.5=1.5\text{%}
$$
となる。
FRMでは、
PSA
↓
CPR
↓
SMM
という計算関係を理解しておくことが重要である。
10. Specified Pools Market
Agency MBSには主に2つの取引方法が存在する。
その一つがSpecified Pools Marketである。
Specified Poolでは、売買するMortgage Poolが取引前に具体的に特定される。
そのため、
- ローン残高
- WAC
- WAM
- Prepayment特性
など、そのプール固有の性質が価格に反映される。
11. TBA:To-Be-Announced Market
もう一つがTBA(To-Be-Announced)Marketである。
TBAでは取引時点で具体的なMortgage Poolを決めず、
- Issuer
- Coupon
- Maturity
- Par Value
などを決めて取引する。
実際にどのMortgage Poolを引き渡すかは、決済直前になって決定される。
たとえば、
GNMA、25年、Coupon 4%、$250 million
という条件だけを決めて売買し、条件を満たす具体的なPoolは後から選択する。
そのため売り手は、条件を満たすPoolの中から自分にとって有利なものを引き渡せる。
これはTreasury FuturesにおけるCheapest-to-Deliverと似た考え方である。
TBA市場はSpecified Pools Marketより流動性が高いという特徴を持つ。
12. Dollar Roll Transaction
Dollar Rollとは、
今月決済のTBA MBSを売却すると同時に、翌月決済のTBA MBSを購入する
取引である。
Repoに似ているが、翌月購入するMBSが必ずしも同一のPoolである必要はない。
Dollar Rollの価値は、
$$
\text{Dollar Roll Value}=A-B+C-D
$$
で求める。
ここで、
- $A$:Month 1でMBSを売却して得る金額
- $B$:Month 2でMBSを購入する金額
- $C$:売却資金を1か月運用して得られる利息
- $D$:MBSを売却したため受け取れなかったCouponとPrincipal
である。
直感的には、
売却による収入
− 翌月の買戻し費用
+ 売却資金の運用益
− 保有していれば受け取れたCash Flow
である。
13. CMO:Collateralized Mortgage Obligation
通常のPass-Through MBSでは、Mortgage PoolのPrepayment Riskを投資家が直接負う。
そこで、Mortgage Poolから発生するキャッシュフローを異なる性質の商品に再配分したものが**CMO(Collateralized Mortgage Obligation)**である。
CMOではMBSのキャッシュフローを複数の**Tranche(トランシェ)**へ分割する。
Mortgage Pool
↓
CMO
↓
┌─────────┬─────────┬─────────┐
Tranche A Tranche B Tranche C
Trancheとは
Trancheとは、
同じCMOの中で、返済順位やリスク特性などを異ならせた証券のクラス
である。
つまり、
- CMO:商品全体
- Tranche:CMOを分割した各クラス
という関係になる。
CMOはPrepayment Riskを消しているわけではない。
同じMortgage Poolに存在するPrepayment Riskを、異なる投資家の間で再配分していると考えることが重要である。
14. PAC Tranche
CMOの代表的なTrancheがPAC(Planned Amortization Class)Trancheである。
PACは、一定範囲のPrepayment速度であれば、
あらかじめ決められたスケジュールに近い形で元本が返済される
ように設計されたTrancheである。
そのPrepayment速度の許容範囲をPAC Collarという。
PACはPrepayment Riskが完全になくなるわけではないが、通常のPass-Through MBSに比べてAverage Lifeが安定する。
15. Support Tranche
PACの安定性を実現するために一緒に作られるのが**Support Tranche(Companion Tranche)**である。
重要なのは、PACやSupportは政府の制度や機関ではないということである。
どちらもCMOの中にあらかじめ設計される証券の種類であり、実際にPrepayment Riskを負うのはSupport Trancheを購入した投資家である。
Prepaymentが速すぎる場合
Mortgage Poolから予定以上の元本が返ってきた場合、
Prepaymentが多い
↓
余分なPrincipal
↓
Supportへ優先的に配分
↓
PACは予定された返済を維持
となる。
Supportが余分な元本を受け取ることで、PACのContraction Riskを抑える。
Prepaymentが遅すぎる場合
反対にMortgage Poolからの元本返済が少ない場合、
Prepaymentが少ない
↓
利用できるPrincipalが少ない
↓
PACへの返済を優先
↓
Supportへの返済を後回し
となる。
そのためSupportは強いExtension Riskを負う。
16. PACとSupportの関係
PACとSupportには、Prepayment Riskについて逆の関係がある。
| PAC | Support | |
|---|---|---|
| キャッシュフロー | 比較的安定 | 不安定 |
| Contraction Risk | 小さい | 大きい |
| Extension Risk | 小さい | 大きい |
| Average Life変動 | 小さい | 大きい |
| 役割 | 守られる | PACを守る |
つまり、
PACの安定性はSupportがPrepayment Riskを引き受けることで実現している
のである。
17. Support Trancheを買うメリット
Support TrancheはPACよりPrepayment Riskが大きいため、一見すると投資家が購入するメリットがないように見える。
しかし金融商品では一般に、より大きなリスクを引き受ける証券ほど、投資家はより高い期待リターンを要求する。
概念的には、
$$
\text{Risk}\uparrow\Rightarrow\text{Price}\downarrow\Rightarrow\text{Expected Yield}\uparrow
$$
という関係になる。
Support投資家は、
キャッシュフローの変動が大きいことを受け入れる代わりに、より高い期待リターンを狙う
という投資判断を行う。
そのため投資家自身が途中から「Supportになる」のではなく、
- 安定性を重視する投資家 → PACを購入
- 高いリスクを許容できる投資家 → Supportを購入
という形で、自分の投資目的に合ったTrancheを選択する。
18. CMO設計者と市場の役割
Supportの高い期待利回りは、CMO設計者が単純に自由に決めるものではない。
まずCMOのIssuerやStructurerが、
- PACにどの程度の保護を与えるか
- Supportにどの程度のPrepayment Riskを負わせるか
- Principalの支払順位をどうするか
といったキャッシュフロー構造を設計する。
その後、そのリスクを市場参加者が評価する。
CMO設計者
↓
PAC / Supportの
支払順位・Risk構造を設計
↓
将来Cash Flowの性質が決まる
↓
投資家がRiskを評価
↓
市場価格が決まる
↓
Expected Yieldが決まる
したがって、
設計者がリスク構造を作り、市場がそのリスクの価格を決める
と理解するとよい。
Supportが相対的に高いExpected Yieldを持つのは、その大きなPrepayment Riskを投資家に引き受けてもらうために、市場価格が相対的に低くなる必要があるためである。
19. Broken PAC / Busted PAC
Support TrancheによるPACの保護は無限ではない。
Prepaymentが非常に速い状態が続くと、Support TrancheのPrincipalがすべて返済されてしまう可能性がある。
するとPACを保護するSupportが存在しなくなる。
この状態をBroken PACまたはBusted PACという。
大量のPrepayment
↓
Supportが余剰Principalを吸収
↓
SupportのPrincipalがゼロ
↓
PACを守るTrancheがなくなる
↓
Broken / Busted PAC
それ以降はPrepaymentがPACに直接影響する。
20. PO:Principal-Only Security
Mortgage Paymentは大きく、
$$
\text{Mortgage Payment}=\text{Principal}+\text{Interest}
$$
に分解できる。
このうちPrincipalだけを受け取る商品が**PO(Principal-Only Security)**である。
PO投資家にとっては、Principalが早く返ってくるほど有利になる。
金利 ↓
↓
借り換え ↑
↓
Prepayment ↑
↓
Principalを早く回収
↓
PO価格 ↑
つまりPOは、基本的にPrepaymentが速い方を好む。
21. IO:Interest-Only Security
Interestだけを受け取る商品が**IO(Interest-Only Security)**である。
IOの利息は住宅ローン残高に対して発生するため、PrepaymentによってPrincipalが減ると、将来受け取れるInterestも減少する。
金利 ↓
↓
Prepayment ↑
↓
住宅ローン残高 ↓
↓
将来Interest ↓
↓
IO価格 ↓
IO投資家はPrepaymentが遅い方を好む。
22. POとIOの比較
| PO | IO | |
|---|---|---|
| 受け取るCash Flow | Principal | Interest |
| Prepayment増加 | 有利 | 不利 |
| 金利低下 | 価格上昇 | 価格下落 |
| 投資家の希望 | 早く返済してほしい | ゆっくり返済してほしい |
特に、
金利低下 → Prepayment増加 → PO上昇・IO下落
という関係は重要である。
23. 重要ポイント
この項目では、個別用語を暗記するよりも、金利・Prepayment・Cash Flowの因果関係を理解することが重要である。
MBSの基本
Mortgage
→ Mortgage Pool
→ SPV
→ MBS
→ Investor
Prepayment
金利 ↓
→ 借り換え ↑
→ Prepayment ↑
→ Contraction Risk
金利 ↑
→ 借り換え ↓
→ Prepayment ↓
→ Extension Risk
CMO
Mortgage Pool
↓
CMO
↓
複数のTrancheへRiskを再配分
PAC / Support
PAC
=安定性を重視
Support
=PACを守るためPrepayment Riskを多く負担
PO / IO
Prepayment ↑
├─ PO:有利
└─ IO:不利
したがって、CMOはMortgage Poolのリスクを消しているのではなく、
住宅ローンから発生するPrepayment Riskを、異なるリスク選好を持つ投資家へ再配分している商品
と理解すると、この項目全体を整理しやすい。
用語間の関係
44.3:Prepayment モデリング
住宅ローンのPrepaymentとは
Prepayment(期限前返済) とは、住宅ローンの借り手が契約上予定されている返済よりも早く元本を返済することです。
通常の債券では、将来受け取るクーポンと元本返済時期はほぼ決まっています。一方、MBS(Mortgage-Backed Security)では、住宅ローンの借り手がPrepaymentを行うことで、MBS投資家が受け取るCash Flowの時期と金額が変化します。
そのため、MBSを評価するには、
「借り手がいつ、どの程度Prepaymentするか」
を予測する必要があります。
Prepayment Modelingでは、主に以下の4つの要因を考えます。
| 要因 | 内容 | 主な影響要因 |
|---|---|---|
| Refinancing | 新しい住宅ローンで既存ローンを完済 | 金利、信用力、住宅価格 |
| Turnover | 住宅売却に伴うローン返済 | 引っ越し、季節性、年齢、地域 |
| Default | 債務不履行に伴う元本返済 | LTV、FICO Score、住宅価格 |
| Curtailment | ローンの一部を追加返済 | Mortgage Age、ローン残高 |
概念的には、以下のように整理できます。
$$
\text{Prepayment}
=\text{Refinancing}
+\text{Turnover}
+\text{Default}
+\text{Curtailment}
$$
ただし、これは理解のための概念式であり、実際のPrepayment Modelが単純に4つを加算するという意味ではありません。
Prepayment Option
住宅ローンの借り手は、契約で認められている場合、満期まで待たずに住宅ローンを返済できます。
この権利を Prepayment Option といいます。
ここでいうOptionは、取引所などで独立して売買されるOption商品ではありません。
住宅ローン契約そのものに組み込まれている Embedded Option(組み込みオプション) です。
Optionの基本的な特徴は、
自分に有利なら行使し、不利なら行使しなくてよい権利
であることです。
例えば、現在6%の固定金利住宅ローンを利用しているとします。
市場の住宅ローン金利が3%まで低下すれば、
「6%を払い続けるより、3%の住宅ローンに借り換えた方が有利」
となるため、借り手はPrepaymentを行い、新しい住宅ローンへRefinancingする可能性が高くなります。
一方、市場金利が8%まで上昇した場合、現在の6%ローンの方が有利なので、借り換える必要はありません。
したがって、
$$
\text{市場金利低下}
\rightarrow
\text{Prepayment Optionの価値上昇}
\rightarrow
\text{Prepayment増加}
$$
という関係があります。
この意味で、Prepayment Optionは借り手が保有する Call Optionに似た権利 と考えることができます。
PrepaymentがMBS投資家に与える影響
Prepayment Optionは借り手にとって有利ですが、MBS投資家にとってはリスクになります。
例えば、MBSの裏付けとなっている住宅ローンの金利が6%で、市場の住宅ローン金利が3%まで低下したとします。
借り手は6%の住宅ローンをPrepaymentし、3%の住宅ローンへRefinancingする可能性があります。
するとMBS投資家は、
- 6%という高い金利から得られるはずだったInterest Cash Flowを失う
- 予定より早く返ってきた元本を、3%程度の低い市場金利で再投資しなければならない
という問題に直面します。
つまり、
$$
\text{市場金利低下}
\rightarrow
\text{Refinancing増加}
\rightarrow
\text{Prepayment増加}
\rightarrow
\text{高金利Cash Flowの減少}
$$
となります。
このリスクが Prepayment Risk です。
Refinancing
Refinancing(借り換え) とは、新しい住宅ローンを借り、その資金によって既存の住宅ローンを完済することです。
例えば、
- 既存住宅ローン金利:6%
- 現在の新規住宅ローン金利:3%
であれば、借り手には大きなRefinancingのメリットがあります。
ただし、実際には、
- 手数料
- 登記費用
- その他の取引コスト
などが発生するため、金利がわずかに低下しただけではRefinancingしない場合もあります。
また、市場金利が変化していなくても、借り手自身のCreditworthinessが改善し、より低い住宅ローン金利を利用できるようになった場合にもRefinancingが発生する可能性があります。
Cash-out Refinancing
住宅価格が上昇した場合には、新しい住宅ローンを既存の住宅ローン残高よりも大きく設定することがあります。
例えば、
- 既存ローン残高:2,000万円
- 新規ローン:2,500万円
とすると、借り手は、
- 2,000万円で既存ローンを完済
- 残り500万円を現金として利用
できます。
これを Cash-out Refinancing といいます。
住宅価格が大きく上昇すると、住宅に蓄積されたEquityを現金化できるため、Cash-out Refinancingが増加し、結果としてPrepaymentも増加する可能性があります。
Incentive Function
Refinancingがどの程度起こりそうかをモデル化するために利用されるのが Incentive Function です。
基本的な例は以下です。
$$
I
=WAC-R
$$
ここで、
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| (I) | Refinancing Incentive |
| (WAC) | Weighted Average Coupon |
| (R) | 現在の住宅ローン金利 |
例えば、
$$
WAC
=6\text{%}
$$
$$
R
=4\text{%}
$$
の場合、
$$
I
=6\text{%}-4\text{%}
=2\text{%}
$$
となります。
つまり、既存住宅ローンよりも約2%ポイント低い金利で借り換えられるため、Refinancing Incentiveが高い状態です。
反対に、
$$
WAC
=4\text{%}
$$
$$
R
=6\text{%}
$$
なら、
$$
I
=4\text{%}-6\text{%}
=-2\text{%}
$$
となり、より高い金利へ借り換えるメリットはありません。
したがって、
$$
WAC-R\uparrow
\rightarrow
\text{Refinancing Incentive}\uparrow
\rightarrow
\text{Prepayment}\uparrow
$$
となります。
Incentive FunctionとCPR
Incentive Functionのグラフでは、
- 横軸:(WAC-R)
- 縦軸:CPR
となっています。
CPR(Conditional Prepayment Rate) は、住宅ローンプールにおけるPrepaymentの速度を表す指標です。
基本的には、
$$
WAC-R\uparrow
\rightarrow
CPR\uparrow
$$
となります。
ただし、金利が低下し続けてもCPRが無限に増加するわけではありません。
借り手の中には、
- 信用力不足でRefinancingできない
- Refinancing Costが高い
- 手続きが面倒
- 近いうちに住宅を売却する予定がある
- すでにRefinancing済み
といった人も存在するためです。
そのため、Incentive Functionは一般的に、一定の水準からCPRの上昇が緩やかになるS字型に近い形になります。
Burnout
Burnout とは、過去の金利低下局面でRefinancingできる借り手の多くがすでにRefinancingしてしまい、再び同じ金利水準になっても以前ほどPrepaymentが増えなくなる現象です。
例えば、住宅ローン金利が以下のように動いたとします。
$$
6\text{%}
\rightarrow
3\text{%}
\rightarrow
6\text{%}
\rightarrow
3\text{%}
$$
最初に3%まで低下したとき、多くの6%ローン保有者が3%のローンへRefinancingします。
その後、再び3%まで低下しても、
Refinancingできる人の多くは最初の3%の時点ですでにRefinancingしている
ため、最初ほどPrepaymentは増加しません。
これがBurnoutです。
Path Dependence
Burnoutから分かるMBSの重要な特徴が Path Dependence(経路依存性) です。
Prepaymentは「現在の金利」だけで決まるわけではなく、現在の金利に至るまでにどのような金利経路を通ってきたかにも依存します。
例えば、以下の2つを比較します。
$$
\text{Path A}
=6\text{%}
\rightarrow
5\text{%}
\rightarrow
4\text{%}
\rightarrow
3\text{%}
$$
$$
\text{Path B}
=6\text{%}
\rightarrow
3\text{%}
\rightarrow
6\text{%}
\rightarrow
3\text{%}
$$
最終的な金利は、どちらも3%です。
しかしPath Bでは途中ですでに一度3%になっているため、その時点で多くの借り手がRefinancingしている可能性があります。
したがって、2回目の3%ではBurnoutによってPrepaymentがPath Aより低くなる可能性があります。
つまり、
$$
\text{Prepayment}
=f(
\text{Current Rate},
\text{Past Rate Path},
\text{Borrower Characteristics},
\text{Housing Prices},
\ldots
)
$$
と考える必要があります。
Turnover
Turnover とは、住宅を売却することによって住宅ローンが返済されることです。
住宅ローンは通常、対象となる住宅を売却すると残高を返済する必要があります。
そのため、
- 転勤
- 結婚
- 家族構成の変化
- より大きな住宅への住み替え
などでもPrepaymentが発生します。
Refinancingとは異なり、Turnoverは必ずしも金利だけによって決まるわけではありません。
Turnover Modelでは、主に以下の要因を考慮します。
| 要因 | Turnoverへの影響 |
|---|---|
| Seasonality | 一般に夏は住宅取引が増え、冬は減少 |
| Mortgage Age | ローン契約直後は住み替えが少ない |
| Borrower Age | 年齢によって住み替え行動が異なる |
| Creditworthiness | 信用力向上により新規ローンを組みやすくなる |
| Property Location | 地域によって住宅売買頻度が異なる |
Lock-in Effect
市場金利はTurnoverにも影響します。
例えば、現在2%の住宅ローンを利用している借り手について、市場の住宅ローン金利が6%まで上昇したとします。
住宅を売却して新しい住宅を購入すると、現在の2%ローンを手放し、新たに6%程度の住宅ローンを利用しなければならない可能性があります。
そのため、
「現在の低金利住宅ローンを失いたくないので引っ越さない」
という行動が生じます。
これが Lock-in Effect です。
したがって、
$$
\text{市場金利上昇}
\rightarrow
\text{既存低金利ローンの相対的価値上昇}
\rightarrow
\text{住宅売却減少}
\rightarrow
\text{Turnover低下}
$$
となります。
Default
Default とは、借り手が住宅ローンを返済できなくなることです。
Agency MBSでは、借り手がDefaultした場合でも、保証機関が投資家に元本や利息を支払います。
そのため、MBS投資家から見ると、通常のPrepaymentとDefaultでは原因が異なるものの、
予定より早く元本が戻ってくる
というCash Flow上の結果は似ています。
Default Modelingでは、特に以下が重要です。
- LTV(Loan-to-Value Ratio)
- FICO Score
- Housing Market
例えば住宅価格が大きく低下すると、住宅価値に対して住宅ローン残高が大きくなり、Default Riskが上昇する可能性があります。
Curtailment
Curtailment とは、住宅ローン全額を返済するのではなく、一部を予定より多く返済することです。
例えば、通常の毎月返済に加えて、ボーナスから100万円を追加返済するケースです。
Curtailmentは一般的に、
- Mortgage Ageが高い
- Loan Balanceが小さい
住宅ローンで発生しやすいため、Curtailment Modelでは特にMortgage Ageが重要になります。
Monte Carlo Simulation
MBSでは将来のCash FlowがPrepaymentによって変化します。
さらにPrepaymentは、
- Interest Rates
- Housing Prices
- Burnout
- Borrower Characteristics
- LTV
- FICO Score
など、多数の不確実な変数に依存します。
そこでMBS評価に利用されるのが Monte Carlo Simulation(モンテカルロ・シミュレーション) です。
Monte Carlo Simulationとは、
確率モデルを使って大量の将来経路をランダムに生成し、それぞれの結果を計算するシミュレーション手法
です。
単に「複数のシナリオを作る手法」という意味ではありません。
例えばScenario Analysisでも、
- 金利上昇
- 金利横ばい
- 金利低下
という複数のシナリオを設定できます。
Monte Carlo Simulationの特徴は、あらかじめ数個のシナリオを人間が決めるのではなく、
確率モデルに基づいてコンピュータが大量の将来経路を生成すること
にあります。
Monte Carlo以外の分析・シミュレーション手法
Monte Carlo以外にも、将来の不確実性を分析する方法があります。
| 手法 | 基本的な考え方 |
|---|---|
| Scenario Analysis | 人間が複数の将来シナリオを設定する |
| Sensitivity Analysis | 特定の変数を変化させ、結果への影響を見る |
| Stress Testing | 極端な市場環境を設定する |
| Historical Simulation | 過去の実際の市場変動を利用する |
| Tree Model | 将来を枝分かれする構造としてモデル化する |
| Monte Carlo Simulation | 確率モデルから大量の将来経路を生成する |
MBSでMonte Carlo Simulationが特に有効なのは、Path Dependenceを扱いやすいからです。
Monte CarloによるMBS評価の流れ
MBSをMonte Carlo Simulationで評価する場合、以下の6ステップで考えます。
Step 1:金利と住宅価格の経路を生成する
将来の、
- Risk-free Rate
- Housing Price
について大量の経路を生成します。
例えば、
$$
\text{Path 1}
=5.0\text{%}
\rightarrow
4.8\text{%}
\rightarrow
4.3\text{%}
\rightarrow
3.9\text{%}
$$
$$
\text{Path 2}
=5.0\text{%}
\rightarrow
5.4\text{%}
\rightarrow
5.7\text{%}
\rightarrow
5.2\text{%}
$$
のように、多数の未来を作ります。
Step 2:各経路のPrepayment Rateを予測する
各金利・住宅価格経路についてPrepayment Modelを適用します。
考慮される主な要因は、
- Refinancing Incentive
- Burnout
- Housing Prices
- Mortgage Pool Characteristics
などです。
金利経路が異なれば、同じ時点でもPrepayment Rateは異なる可能性があります。
Step 3:MBSのCash Flowを計算する
各経路におけるMBSの月次Cash Flowを計算します。
概念的には、
$$
\text{Cash Flow}
=\text{Scheduled Principal}
+\text{Net Interest}
+\text{Prepayment}
$$
となります。
CMOの場合には、さらにTrancheごとの支払ルールに従って元本・利息を配分します。
Step 4:各経路のCash Flowを現在価値にする
各経路で発生する将来Cash Flowを、その経路に対応するDiscount Rateで現在価値へ割り引きます。
概念的には、
$$
PV_j
=\sum_tPV(CF_{t,j})
$$
となります。
ここで、
- (j):シミュレーションされた経路
- (t):時点
- (CF_{t,j}):経路 (j) の時点 (t) におけるCash Flow
を表します。
Step 5:大量の経路について繰り返す
Step 1〜4を多数の経路について繰り返します。
例えば10,000本の経路を作れば、
$$
PV_1,\ PV_2,\ PV_3,\ldots,PV_{10000}
$$
という10,000個のMBS価値が得られます。
Step 6:平均PVをMBSの理論価値とする
最後に、各経路の現在価値を平均します。
$$
\text{MBS Value}
=\frac{1}{N}
\sum_{j=1}^{N}PV_j
$$
これがMonte Carlo SimulationによるMBSの推定理論価値です。
Monte Carloを使う理由
MBSでMonte Carlo Simulationを利用する最大の理由は、
多数の将来シナリオだけでなく、多数の「将来経路」を扱えること
です。
MBSでは最終的な金利水準だけではなく、そこへ到達するまでの経路によってPrepaymentが変化します。
つまり、
$$
\text{Interest Rate Path}
\rightarrow
\text{Prepayment}
\rightarrow
\text{MBS Cash Flow}
\rightarrow
\text{MBS Value}
$$
という関係があります。
そのため、Path Dependenceを持つMBSとMonte Carlo Simulationは非常に相性が良いといえます。
Option-Adjusted Spread(OAS)
OAS(Option-Adjusted Spread) とは、
Prepayment Optionの影響を考慮したうえで、MBSがTreasuryなどの基準金利に対してどれだけ追加的なSpreadを持っているか
を表す指標です。
MBSの単純なYield Spreadだけでは、MBS投資家が本当の意味でどれだけ追加的なリターンを得ているのか判断しにくいという問題があります。
なぜなら、MBSの高いYieldの一部は、投資家がPrepayment Optionのリスクを負担していることへの補償だからです。
通常のSpreadとOASの違い
例えば、
- Treasury Yield:4.0%
- MBS Yield:5.5%
の場合、単純なSpreadは、
$$
\text{Spread}
=5.5\text{%}-4.0\text{%}
=1.5\text{%}
=150bp
$$
です。
しかし、この150bpすべてを、
「MBSの純粋な追加収益」
と考えることはできません。
MBSにはPrepayment Optionが含まれているためです。
そこで、Prepayment OptionによるCash Flow変化をMonte Carlo Simulationで考慮したうえでSpreadを評価します。
それがOASです。
したがって直感的には、
$$
OAS
\approx
\text{Optionの影響を調整したSpread}
$$
と理解できます。
ただし、OASは単純に、
$$
\text{普通のSpread}
-\text{Optionの価値}
$$
と計算するわけではありません。
OASの計算方法
OASは市場価格から逆算されます。
まず仮のOASを設定します。
各Monte Carlo Pathについて、概念的に、
$$
\text{Discount Rate}
=\text{Treasury Spot Rate}
+OAS
$$
としてCash Flowを割り引きます。
そして、すべてのPathのPVを平均してMBSの理論価格を計算します。
例えば、
$$
\text{Market Price}
=97.70
$$
に対して、
$$
OAS
=50bp
$$
と仮定したとき、
$$
\text{Simulated Price}
=99.00
$$
になったとします。
理論価格99.00は市場価格97.70より高いため、Discount Rateが低すぎることになります。
そこでOASを引き上げます。
$$
OAS\uparrow
\rightarrow
\text{Discount Rate}\uparrow
\rightarrow
PV\downarrow
$$
逆に、
$$
\text{Simulated Price}
<
\text{Market Price}
$$
なら、Discount Rateが高すぎるため、OASを下げます。
$$
OAS\downarrow
\rightarrow
\text{Discount Rate}\downarrow
\rightarrow
PV\uparrow
$$
この調整を繰り返し、
$$
\text{Simulated Price}
=\text{Market Price}
$$
となるOASを探します。
その値がMBSの Option-Adjusted Spread です。
OASの意味
例えば、
$$
OAS
=90bp
$$
となった場合、
Prepayment OptionによるCash Flow変化を考慮したうえでも、MBSにはTreasuryに対して90bpの追加Spreadがある
と解釈できます。
したがって、その他の条件が同じであれば、
$$
OAS\uparrow
\rightarrow
\text{投資家が得る追加的なSpread}\uparrow
$$
となり、一般的には高いOASの方が魅力的です。
ただし、高いOASには、
- Credit Risk
- Liquidity Risk
- Prepayment Modelの誤差
- その他のリスク
が反映されている可能性もあるため、単純に「OASが高いから良いMBS」と判断することはできません。
OASの弱点
OASの最大の弱点は、Prepayment Modelに大きく依存することです。
OASの計算は、
$$
\text{Interest Rate Path}
\rightarrow
\text{Prepayment予測}
\rightarrow
\text{Cash Flow予測}
\rightarrow
\text{PV}
\rightarrow
OAS
$$
という流れになっています。
したがって、
$$
\text{Prepayment Modelが不正確}
\rightarrow
\text{Prepayment予測が不正確}
\rightarrow
\text{Cash Flow予測が不正確}
\rightarrow
\text{MBS Valueが不正確}
\rightarrow
OASが不正確
$$
となります。
借り手のRefinancing行動や金融機関の融資行動は時間とともに変化するため、Prepayment Modelそのものが重要な Model Risk になります。
重要ポイント
| 用語 | 意味・ポイント |
|---|---|
| Prepayment | 住宅ローンを予定より早く返済すること |
| Prepayment Option | 借り手が持つ期限前返済の権利。Embedded Option |
| Refinancing | 新しいローンで既存ローンを完済 |
| Incentive Function | Refinancingのメリットをモデル化。代表例は (WAC-R) |
| CPR | Prepaymentの速度を表す指標 |
| Burnout | 過去にRefinancing可能者がすでに借り換えたことでPrepaymentが弱くなる現象 |
| Path Dependence | 現在値だけでなく、そこまでの経路が結果に影響する性質 |
| Turnover | 住宅売却に伴う住宅ローン返済 |
| Lock-in Effect | 低金利ローンを失いたくないため住宅売却を控えること |
| Default | Agency MBSでは保証機関からの元本支払いにつながる |
| Curtailment | ローンの一部追加返済 |
| Monte Carlo Simulation | 確率モデルから大量の将来経路を生成するシミュレーション手法 |
| OAS | Prepayment Optionを考慮した後の基準金利に対するSpread |
| OASの弱点 | Prepayment Modelへの依存度が高い |
全体の関係
MBSのPrepayment Modelingは、次の流れで理解すると整理しやすくなります。
$$
\text{市場金利・住宅価格・Borrower Characteristics}
\rightarrow
\text{Prepayment Model}
\rightarrow
\text{将来Cash Flow}
\rightarrow
\text{MBS Value}
$$
MBSではPrepaymentがPath Dependentであるため、Monte Carlo Simulationを使って多数の将来経路を生成します。
さらに、
$$
\text{Monte Carlo Simulation}
\rightarrow
\text{各PathのPrepaymentを予測}
\rightarrow
\text{各PathのCash Flowを計算}
\rightarrow
\text{各PathのPVを計算}
\rightarrow
\text{平均PVを算出}
$$
することでMBSの理論価値を求めます。
そして、
$$
\text{Monte Carloによる理論価格}
=\text{市場価格}
$$
となるようにDiscount Rateへ加えるSpreadを逆算したものが OAS です。
つまり、
Prepayment ModelがCash Flowを決め、Monte Carlo Simulationが多数の未来を評価し、OASがPrepayment Option調整後のSpreadを表す
という関係です。
用語間の関係
45 金利先物
45.1:日数計算の慣例と引用
概要
債券では、利払い日の途中で売買が行われることがある。
この場合、前回の利払日から売買の決済日までに発生した利息をどのように扱うかが重要になる。
この期間に対応する利息を Accrued Interest(経過利息) と呼び、経過日数の計算方法を Day Count Convention(日数計算慣例) と呼ぶ。
また、米国債では、
- Clean Price
- Dirty Price
- 32分の1単位による価格表示
- T-BillのDiscount Rate
など、独自の価格表示・計算方法が使用される。
Accrued Interest(経過利息)
債券のクーポンは、半年ごとなどの決められた Coupon Payment Date(利払日) にまとめて支払われる。
例えば、
- 3月1日:前回の利払日
- 7月13日:債券を売却
- 9月1日:次回の利払日
とする。
3月1日から7月13日までは売り手Aが債券を保有し、7月13日に買い手Bへ売却した場合、9月1日にクーポンを実際に受け取るのは、その時点で債券を保有しているBである。
しかし、クーポンのうち3月1日から7月13日までに対応する部分は、経済的にはAが保有していた期間の利息である。
そのため、債券を売買するときに、
買い手が売り手へ、売り手の保有期間に対応する利息を支払う
という精算を行う。
これが Accrued Interest である。
経過利息は、
$$
\text{Accrued Interest}
=\text{Coupon Payment}
\times\frac{\text{前回利払日から決済日までの日数}}{\text{1 Coupon Periodの日数}}
$$
で計算する。
重要なのは、Accrued Interestは、
売り手がすでに受け取ったクーポン
ではないという点である。
売り手が債券を保有していた期間について、発生済みとみなされる利息を売買時に精算する仕組みである。
クーポンを受け取る人とAccrued Interestの関係
例えば、半年間のCoupon Paymentが3ドルで、売却時点までのAccrued Interestが2.1848ドルだったとする。
7月13日の売買時には、買い手Bから売り手Aへ2.1848ドルのAccrued Interestが支払われる。
その後、9月1日には発行体から買い手Bへ3ドルのクーポン全額が支払われる。
したがって、買い手Bが自分の保有期間について実質的に得る利息は、
$$
\text{Buyerの実質的な利息}
=3.0000-2.1848
=0.8152
$$
ドルとなる。
つまり、
買い手が売り手へクーポンを「返金」しているのではなく、将来クーポン全額を受け取る買い手が、売り手の保有期間分を購入時に精算している
と理解するとよい。
また、買い手自身も次回利払日まで待たずに債券を売却することができる。
その場合、その時点までに増えたAccrued Interestを次の買い手から受け取る。
したがって、
債券は利払日まで保有しなければ、保有期間中の利息相当額を一切受け取れない
というわけではない。
Day Count Convention(日数計算慣例)
Accrued Interestを計算するためには、
前回利払日から決済日まで何日経過したか
を決定する必要がある。
しかし、金融商品によって日数の数え方が異なる。
このルールが Day Count Convention である。
米国市場では、主に以下の3種類が使用される。
| 金融商品 | Day Count Convention | 考え方 |
|---|---|---|
| U.S. Treasury Bond | Actual / Actual | 実際の日数 ÷ 実際の日数 |
| U.S. Corporate Bond | 30 / 360 | 1か月30日、1年360日と仮定 |
| Municipal Bond | 30 / 360 | 1か月30日、1年360日と仮定 |
| T-BillなどMoney Market商品 | Actual / 360 | 実際の経過日数 ÷ 360日 |
FRMでは、特に以下の対応を覚えておく。
Treasury Bond
→ Actual / Actual
Corporate / Municipal Bond
→ 30 / 360
T-Bill
→ Actual / 360
Actual / Actual
U.S. Treasury Bondでは、Actual / Actual が使用される。
例として、
- Face Value:100ドル
- Annual Coupon Rate:6%
- Semiannual Coupon
- Coupon Payment Date:3月1日、9月1日
- Settlement Date:7月13日
とする。
半年ごとのCoupon Paymentは、
$$
\text{Coupon Payment}
=100\times6\text{%}\times\frac{1}{2}
=3
$$
ドルである。
3月1日から9月1日までの実際の日数は184日、3月1日から7月13日までの実際の日数は134日である。
したがって、
$$
\text{Accrued Interest}
=3\times\frac{134}{184}
=2.1848
$$
ドルとなる。
Actual / Actualでは、その名前の通り、分子・分母の両方に実際のカレンダー上の日数を使用する。
30 / 360
U.S. Corporate BondやMunicipal Bondでは、一般的に 30 / 360 が使用される。
30 / 360では、
- 1か月 = 30日
- 1年 = 360日
- 半年 = 180日
として計算する。
3月1日から7月13日までの日数は、
$$
\text{経過日数}
=30\times4+12
=132
$$
日とみなす。
Coupon Periodは、
$$
\text{Coupon Period}
=30\times6
=180
$$
日となる。
したがって、
$$
\text{Accrued Interest}
=3\times\frac{132}{180}
=2.20
$$
ドルとなる。
Actual / Actualの場合は2.1848ドルだったため、Day Count ConventionによってAccrued Interestが少し異なることが分かる。
Clean PriceとDirty Price
債券価格には、主に Clean Price と Dirty Price の2種類がある。
Clean Price
Clean Priceは、
Accrued Interestを含まない債券本体の市場価格
である。
市場で通常表示される価格はこちらであり、
- Clean Price
- Quoted Price
は基本的に同じ意味で使用される。
Dirty Price
Dirty Priceは、
Clean PriceにAccrued Interestを加えた、実際に買い手が支払う価格
である。
Dirty Priceは、
- Cash Price
- Invoice Price
とも呼ばれる。
関係は、
$$
\text{Dirty Price}
=\text{Clean Price}+\text{Accrued Interest}
$$
となる。
逆に、
$$
\text{Clean Price}
=\text{Dirty Price}-\text{Accrued Interest}
$$
となる。
なぜClean Priceを使用するのか
Accrued Interestは、前回のCoupon Payment Dateから時間が経過するほど増えていく。
そのためDirty Priceだけを見ると、
- 市場金利の変化によって債券本体の価値が変化した
- 単純にAccrued Interestが増えた
という2つの要因を区別しにくい。
そのため市場では、Accrued Interestを除外した Clean Price を使って債券そのものの市場価値を比較する。
関係を整理すると、
$$
\text{Dirty Price}
=\text{Clean Price}
+\text{Accrued Interest}
$$
- Clean Price:債券本体の市場価格
- Accrued Interest:保有期間に対応する経過利息
となる。
U.S. Treasury Bondの価格表示
U.S. Treasury Bondの価格は、額面100ドルを基準として、伝統的に 1ドルの32分の1単位で表示される。
例えば、市場価格が、
102-11
と表示されていた場合、
$$
102-11
=102+\frac{11}{32}
=102.34375
$$
という意味になる。
ここで、
- 102:価格の整数部分
- 11:32分のいくつかを示す市場価格の端数部分
- 32:Treasury市場で使用される固定の価格表示単位
である。
重要なのは、
11は自分で計算して求める数字ではなく、市場で提示されている価格
という点である。
32は市場慣行によって決められた固定の分母である。
例えば、
$$
95-05
=95+\frac{5}{32}
=95.15625
$$
となる。
また、
$$
99-16
=99+\frac{16}{32}
=99.5
$$
となる。
Treasury BondのDirty Price
Treasury BondのClean Priceが、
102-11
の場合、
$$
\text{Clean Price}
=102+\frac{11}{32}
=102.34375
$$
となる。
Accrued Interestが2.1848ドルなら、
$$
\text{Dirty Price}
=102.34375+2.1848
=104.52855
$$
ドルとなる。
したがって、実際に買い手が支払う価格は104.52855ドルである。
額面100,000ドルの場合は、
$$
\text{Cash Price}
=104.52855\times\frac{100,000}{100}
=104,528.55
$$
ドルとなる。
T-Billの特徴
T-Bill(U.S. Treasury Bill)は、通常のCoupon Bondとは異なり、基本的にクーポンを支払わない。
その代わり、
Face Valueより安い価格で購入し、満期時にFace Valueを受け取る
ことで利益を得る。
例えば、
- Face Value:100ドル
- Purchase Price:97.5ドル
の場合、
$$
\text{Profit}
=100-97.5
=2.5
$$
ドルとなる。
つまり、
97.5ドルで購入し、満期に100ドルを受け取る
という構造である。
T-Bill Discount Rate
T-Billでは、一般的なYieldとは異なり、Discount Rate を使ってQuotationが行われる。
Face Valueを100とすると、
$$
d
=\frac{100-Y}{100}\times\frac{360}{n}
$$
となる。
ここで、
- $d$:T-Bill Discount Rate
- $Y$:T-BillのCash Price
- $n$:満期までの実日数
である。
T-Billでは Actual / 360 を使用するため、年率換算では360日を使用する。
180日T-Billの例
以下の条件を考える。
- Face Value:100ドル
- Maturity:180日
- Discount Rate:5%
180日間のDiscount額は、
$$
\text{Discount}
=100\times5\text{%}\times\frac{180}{360}
=2.5
$$
ドルである。
したがってCash Priceは、
$$
\text{Cash Price}
=100-2.5
=97.5
$$
ドルとなる。
つまり、
現在
97.5ドルを支払う
↓
180日後
100ドルを受け取る
という投資である。
T-Bill Discount Rateと実際の収益率の違い
T-Billで特に重要なのは、
Discount Rateが、そのまま投資家の実際の収益率を表しているわけではない
という点である。
Discount Rateは、利益を Face Value と比較して計算する。
今回の180日間の利益は2.5ドルなので、
$$
\text{Face Value基準の収益率}
=\frac{2.5}{100}
=2.5\text{%}
$$
となる。
しかし、投資家が実際に支払った金額は100ドルではなく97.5ドルである。
したがって、実際の180日間のInvestment Returnは、
$$
\text{Investment Return}
=\frac{2.5}{97.5}
=2.564\text{%}
$$
となる。
両者の違いは、何を分母にしているかである。
$$
\text{T-Bill Discount Rateの考え方}
=\frac{\text{利益}}{\text{Face Value}}
$$
一方、
$$
\text{Actual Investment Returnの考え方}
=\frac{\text{利益}}{\text{Purchase Price}}
$$
である。
投資家が実際に投資した金額はPurchase Priceなので、Investment Returnの方が投資家の実際の収益率を表している。
試験で押さえるポイント
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| Accrued Interest | 前回利払日からSettlement Dateまでに対応する利息 |
| クーポンの受取人 | 原則として利払日時点の債券保有者 |
| 途中で売却した場合 | 売り手はAccrued Interestとして保有期間分を精算 |
| Treasury Bond | Actual / Actual |
| Corporate Bond | 30 / 360 |
| Municipal Bond | 30 / 360 |
| T-Bill | Actual / 360 |
| Clean Price | Accrued Interestを含まない市場表示価格 |
| Dirty Price | Clean Price + Accrued Interest |
| Cash Price | Dirty Priceと同じ意味 |
| Invoice Price | Dirty Priceと同じ意味 |
| Treasury Quotation | 1ドルを32分の1単位で表示 |
| 102-11 | 102 + 11 / 32 = 102.34375 |
| 11 | 市場で提示される端数部分 |
| 32 | Treasury市場の固定表示単位 |
| T-Bill | Discount価格で購入し、満期にFace Valueを受け取る |
| T-Bill Discount Rate | Face Valueを基準とする |
| Actual Investment Return | Purchase Priceを基準とする |
特に重要なのは、
債券を利払日前に売却しても、売り手の保有期間に対応する利息はAccrued Interestとして売買時に精算される
という点である。
また、
Clean Priceは市場で表示される債券本体の価格、Dirty Priceは実際に支払う価格
という関係を明確に区別する。
T-Billについては、
Discount RateはFace Valueを基準としているため、実際のInvestment Returnとは異なる
という点も重要である。
用語間の関係性
45.2:米国債先物
米国債先物の概要
米国債先物(Treasury Bond Futures)は、将来の受渡日に米国債を受け渡すことを約束する先物契約である。
契約にはLongとShortが存在する。
- Long:将来、米国債を受け取る側
- Short:将来、米国債を引き渡す側
米国債先物の特徴は、Shortが引き渡す債券が1種類に固定されているわけではなく、一定の条件を満たす複数のTreasury Bond / Treasury Noteから選択できることである。
そのため、米国債先物では以下の概念が重要になる。
- Quoted Futures Price(QFP)
- Conversion Factor(CF)
- Accrued Interest(AI)
- Cheapest-to-Deliver Bond(CTD)
- Delivery Cost
- Yield Curve
- Wild Card Play
- Cost of Carry
Treasury FuturesのShortとは
Treasury FuturesをShortするとは、必ずしも現物の米国債を空売りすることではない。
Shortは、
将来、受渡条件を満たす米国債をLongへ引き渡す義務を持つ側
である。
先物をShortした時点で、受渡し用の債券を保有している必要もない。
たとえば、
Treasury FuturesをShort
↓
将来、米国債をDeliveryする義務を負う
↓
Deliverable Bondの中から債券を選択
↓
必要であれば市場から債券を購入
↓
LongへDelivery
という取引が可能である。
したがってShortにとって重要なのは、
どの債券を調達してDeliveryすれば、最も低いコストで受渡しできるか
である。
なお、
Treasury FuturesのShort
≠
Treasury BondそのもののShort
である点には注意する。
Quoted Futures Price(QFP)
Quoted Futures Price(QFP)は、Treasury Futuresそのものの市場での提示価格である。
たとえば、
$$
QFP=95.75
$$
であれば、Treasury Futuresが95.75という価格で取引されていることを意味する。
ただし、Shortが実際に債券をDeliveryした際に受け取る金額が、そのまま95.75になるわけではない。
実際のCash Receivedは、
$$
\text{Cash Received}=QFP\times CF+AI
$$
である。
ここで、
- QFP:Quoted Futures Price
- CF:Conversion Factor
- AI:Accrued Interest
である。
したがって、
QFPは先物契約自体の価格、CFは実際にDeliveryする債券に応じてQFPを調整する係数
と理解するとよい。
Conversion Factor(CF)
Treasury Futuresでは、Shortが複数のDeliverable Bondから受渡し対象を選択できる。
しかし、各債券では、
- Coupon Rate
- Maturity
- Market Price
が異なる。
もし調整を行わなければ、価値の高い債券をDeliveryするShortが不利になる。
そこでCBOTは、**Conversion Factor(転換係数)**を設定している。
Conversion Factorとは、
異なるCouponやMaturityを持つ米国債を共通の基準に換算するための調整係数
である。
基本的には、対象債券のYieldを年6%と仮定した場合のClean Priceを利用する。
$$
CF=\frac{\text{Yieldを6}\text{%}\text{と仮定したClean Price}}{100}
$$
10年以上のTreasury Note / Bondでは、おおむね以下の手順で計算する。
- Delivery Month初日から債券満期までの期間を計算する
- 3か月単位に切り下げる
- 年6%、半年複利のYieldを仮定する
- 債券のClean Priceを計算する
- 額面100で割る
Conversion Factorの計算例
Coupon Rateが4%の債券について、Delivery Month初日から満期までの期間が11年7.5か月であったとする。
3か月単位に切り下げると、
$$
11\text{年}7.5\text{か月}\rightarrow11\text{年}6\text{か月}
$$
となる。
半年単位では23期間なので、
$$
N=23
$$
Conversion Factorでは年6%のYieldを仮定するため、半年あたりのYieldは、
$$
I/Y=3\text{%}
$$
となる。
Coupon Rateが年4%なので半年Couponは、
$$
PMT=2
$$
Face Valueを100とすると、
$$
FV=100
$$
である。
これらから債券価格を計算すると、
$$
PV=83.55
$$
となる。
したがって、
$$
CF=0.8355
$$
である。
なぜ4%Coupon BondのCFは1未満になるのか
Conversion FactorではYieldを6%と仮定する。
今回の債券のCoupon Rateは4%なので、
$$
4\text{%}<6\text{%}
$$
である。
市場が6%の利回りを要求しているにもかかわらず、Couponが4%しか得られないのであれば、債券価格は額面100より低くならなければならない。
したがって、
$$
Price<100
$$
となり、
$$
CF<1
$$
となる。
逆に、Coupon Rateが6%を上回る債券では、CFは1を上回りやすい。
QFP × CFとは何か
たとえば、
$$
QFP=95.75
$$
かつ、
$$
CF=1.06
$$
なら、
$$
QFP\times CF=95.75\times1.06=101.495
$$
となる。
この101.495は、Deliveryする債券に合わせてQFPを調整した債券価格部分の受取額である。
最終的なCash Receivedではない。
ここにAccrued Interestを加える。
たとえば、
$$
AI=2.5
$$
なら、
$$
\text{Cash Received}=101.495+2.5=103.995
$$
となる。
したがって、
- $QFP\times CF$:債券価格部分
- $AI$:経過利息部分
- $QFP\times CF+AI$:Shortが実際に受け取る金額
という関係になる。
Accrued Interest(AI:経過利息)
Accrued Interestとは、前回のCoupon Payment Dateから受渡日までに発生した利息である。
半年Couponが5、Coupon Periodが180日、前回Couponから90日経過しているなら、
$$
AI=5\times\frac{90}{180}=2.5
$$
となる。
Delivery後の次回Coupon Payment Dateでは、LongがCoupon全額を受け取る。
しかし、そのCouponの一部は、Delivery前にShortが債券を保有していた期間に対応している。
そのためDelivery時にLongからShortへAIを支払い、保有期間分の利息を精算する。
前回Coupon日 Delivery日 次回Coupon日
│-------------------│--------------------│
Short保有 Long保有
↑
この期間分の利息は
Shortに帰属
したがって、
$$
\text{Cash Received}=QFP\times CF+AI
$$
となる。
AIは「不要だから除外される」のではない。
実際のCash SettlementではAIは必要である。
Shortは高Coupon Bondを選ぶと不利なのか
高Coupon Bondでは将来受け取れるCouponが大きいが、そのCouponを支払うのはTreasury FuturesのShortではない。
米国債の場合、Couponの支払者は米国政府である。
Shortは債券の発行者ではなく、単に債券をLongへDeliveryする側である。
Delivery後は、
- 債券の保有者:Long
- Couponを支払う主体:米国政府
- Couponを受け取る主体:Long
となる。
したがって、
高Coupon BondをDeliveryしたからといって、Shortがその後高額のCouponを支払い続けるわけではない。
Shortが考えるべきなのは、債券そのものの価格ではなく、Deliveryによる受取額を考慮したネットのDelivery Costである。
Cheapest-to-Deliver Bond(CTD)
Conversion Factorを利用しても、すべてのDeliverable Bondが完全に同じ経済価値になるわけではない。
Conversion Factorでは一律に6%のYieldを仮定している一方、実際のMarket Yieldは6%とは限らないからである。
その結果、
Shortにとって最も低いネットコストでDeliveryできる債券
が生じる。
これを、
Cheapest-to-Deliver Bond(CTD)
という。
重要なのは、
CTDは単純に市場価格が最も安い債券ではない
ということである。
Delivery Cost
Shortが市場から債券を購入するときの実際の支払額は、
$$
\text{Purchase Cost}=\text{Quoted Bond Price}+AI
$$
である。
一方、Deliveryすると、
$$
\text{Cash Received}=QFP\times CF+AI
$$
を受け取る。
したがって、
$$
\text{Delivery Cost}=(\text{Bond Price}+AI)-(QFP\times CF+AI)
$$
となる。
両方に同じAIが含まれるので、
$$
AI-AI=0
$$
となる。
したがって、
$$
\boxed{\text{Delivery Cost}=\text{Bond Price}-QFP\times CF}
$$
と簡略化できる。
つまりCTDの計算でAIが登場しないのは、
AIが不要だからではなく、購入時とDelivery時の両方に含まれるため相殺されるから
である。
CTDの計算例
Quoted Futures Priceが、
$$
QFP=95.75
$$
であるとする。
| Bond | Quoted Bond Price | Conversion Factor |
|---|---|---|
| 1 | 99 | 1.01 |
| 2 | 125 | 1.24 |
| 3 | 103 | 1.06 |
| 4 | 115 | 1.14 |
Delivery Costは、
$$
\text{Delivery Cost}=\text{Bond Price}-QFP\times CF
$$
で求める。
Bond 1:
$$
99-(95.75\times1.01)=2.29
$$
Bond 2:
$$
125-(95.75\times1.24)=6.27
$$
Bond 3:
$$
103-(95.75\times1.06)=1.51
$$
Bond 4:
$$
115-(95.75\times1.14)=5.85
$$
最もDelivery Costが小さいのはBond 3なので、
$$
\boxed{\text{Bond 3がCTD}}
$$
となる。
CTDのメリットを受けるのは誰か
CTDを選択する権利を持つのは、Treasury FuturesのShort側である。
ShortはDelivery義務を負っているため、
$$
\text{Delivery Cost}=\text{債券の調達コスト}-\text{Deliveryによる受取額}
$$
をできる限り小さくしたい。
したがってCTDを選択する。
「CTDを売ることで利益を得る」というより、
ShortがDelivery Costを最小化できる
と理解する方が正確である。
Market YieldとCTD
Conversion Factorは6% Yieldを基準としている。
そのため、Market Yieldが6%から離れるほど、Conversion Factorと実際のMarket Priceとの間にズレが生じる。
FRMでは以下の関係が重要である。
| Market Yield | CTDになりやすい債券 |
|---|---|
| Yield > 6% | Low Coupon / Long Maturity |
| Yield < 6% | High Coupon / Short Maturity |
つまり、
- Market Yieldが6%より高い → Low Coupon・Long Maturity
- Market Yieldが6%より低い → High Coupon・Short Maturity
がCTDになりやすい。
Yield CurveとCTD
Market Yieldの水準だけではなく、Yield Curveの形状もCTDに影響する。
| Yield Curve | CTDになりやすい債券 |
|---|---|
| Upward Sloping | Longer Maturity |
| Downward Sloping | Shorter Maturity |
Upward Sloping Yield Curveでは長期金利が高いため、Longer Maturity Bondの価格が相対的に低くなりやすい。
そのためLonger Maturity BondがCTDになりやすい。
逆にDownward Sloping Yield Curveでは、Shorter Maturity BondがCTDになりやすい。
Wild Card Play
Treasury Futuresでは、Short側にDelivery Timingに関するOptionも存在する。
FuturesのSettlement PriceはChicago Timeの14:00時点で決定される。
その後にTreasury Bond Priceが下落した場合、Shortは、
- Futures Settlement Priceは固定されたまま
- Deliverable Bondをより安く市場から購入
- その債券をDelivery
できる可能性がある。
これによりDelivery Costを低下させられる場合がある。
このShort側のメリットを、
Wild Card Play
という。
Treasury FuturesではShort側に、
- どの債券をDeliveryするか
- Delivery Monthのどの日にDeliveryするか
- Settlement Price決定後のBond Price変動を利用できる場合がある
といったOptionが存在する。
これらのOptionには価値があるため、Treasury Futures Priceを低下させる方向に働く。
Treasury Bond Futuresの理論価格
Treasury Futuresの理論価格は、Cost of Carryの考え方から求める。
Underlying Assetが保有期間中に既知のCash Flowを生む場合、
$$
F_0=(S_0-I)e^{rT}
$$
である。
ここで、
- $S_0$:現在のCash / Dirty Bond Price
- $I$:Futures Delivery Dateまでに受け取るCouponの現在価値
- $r$:Risk-Free Rate
- $T$:Delivery Dateまでの期間
である。
Treasury FuturesではCTD Bondを基準として、
CTD Bondを現在購入してDelivery Dateまで保有する場合の理論的な将来価値
を計算し、そこからTreasury Futuresの理論的なQFPを求める。
Treasury Futures Priceの計算例
以下を仮定する。
- CTD Bond Coupon Rate:10%
- Semiannual Coupon
- Conversion Factor:1.1
- Quoted Bond Price:100
- Coupon Period:180日
- Last Coupon Date:90日前
- Futures Delivery:180日後
- Risk-Free Rate:3%
半年Couponは、
$$
5
$$
である。
現在のAIは、
$$
AI=5\times\frac{90}{180}=2.5
$$
となる。
したがって現在のCash / Dirty Priceは、
$$
\text{Cash Price}=100+2.5=102.5
$$
である。
Step 1:途中で受け取るCouponを現在価値にする
次のCouponは90日後に5支払われる。
その現在価値は、
$$
PV(\text{Coupon})=5e^{-0.03\times(90/365)}=4.96
$$
である。
債券を保有すればこのCouponを受け取れるため、Cost of Carryの計算ではその価値を控除する。
Step 2:Delivery DateまでCarryする
$$
F_0=(102.5-4.96)e^{0.03\times(180/365)}=98.99
$$
となる。
これはDelivery DateにおけるCash / Dirty Futures Price相当である。
Step 3:Delivery DateのAIを控除する
Delivery Dateは直前のCoupon Paymentから90日後なので、
$$
AI=5\times\frac{90}{180}=2.5
$$
となる。
Clean Price相当に戻すと、
$$
98.99-2.5=96.49
$$
となる。
Step 4:Conversion FactorでQFPへ変換する
Delivery時の債券価格部分は、
$$
QFP\times CF
$$
である。
したがって、
$$
QFP=\frac{96.49}{1.1}=87.72
$$
となる。
よって、
$$
\boxed{QFP=87.72}
$$
がTreasury Bond Futuresの理論的なQuoted Futures Priceである。
理論価格計算では何を求めているのか
この計算で求めているのは、現物CTD Bondそのものの現在価格ではない。
最終的な目的は、
現在のCTD Bond Priceから導かれるTreasury Bond Futuresの理論価格
を求めることである。
流れは以下のようになる。
CTD BondのClean Price
↓
現在のAIを加える
↓
現在のDirty / Cash Price
↓
Delivery Dateまでに受け取るCouponのPVを控除
↓
Risk-Free RateでDelivery DateまでCarry
↓
Delivery DateのDirty Price
↓
Delivery DateのAIを控除
↓
Clean Price相当
↓
Conversion Factorで割る
↓
Theoretical QFP
つまり、
現物CTD Bondを現在購入してDelivery Dateまで保有する戦略と、Treasury Futuresを利用する戦略の間に裁定機会が生じない先物価格
を求めている。
Clean Price・Dirty Price・QFPの整理
米国債先物では複数種類の価格が登場するため、区別が重要である。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| Quoted Bond Price | 現物債券のClean Price |
| Cash / Dirty Bond Price | Clean Price + AI |
| QFP | Treasury Futures自体のQuoted Price |
| CF | Deliveryする債券に応じてQFPを調整する係数 |
| $QFP\times CF$ | Delivery時の債券価格部分 |
| $QFP\times CF+AI$ | Shortが実際に受け取るCash Amount |
| Delivery Cost | Bond Price − QFP × CF |
特に重要なのは、
$$
\boxed{\text{Dirty Price}=\text{Clean Price}+AI}
$$
および、
$$
\boxed{\text{Cash Received}=QFP\times CF+AI}
$$
である。
試験で押さえるポイント
Conversion Factor
異なるCoupon・Maturityを持つDeliverable Bondを、6% Yieldを基準として標準化する。
$$
CF\approx\frac{\text{6}\text{% Yield前提のClean Price}}{100}
$$
Delivery Cash
$$
\boxed{\text{Cash Received}=QFP\times CF+AI}
$$
Cheapest-to-Deliver
ShortがDelivery Costを最小化できるBondである。
$$
\boxed{\text{Delivery Cost}=\text{Bond Price}-QFP\times CF}
$$
Accrued Interest
実際のSettlementでは必要だが、CTD比較では購入時とDelivery時のAIが相殺される。
Market YieldとCTD
- Yield > 6% → Low Coupon / Long Maturity
- Yield < 6% → High Coupon / Short Maturity
Yield CurveとCTD
- Upward Sloping → Longer Maturity
- Downward Sloping → Shorter Maturity
Wild Card Play
Settlement Price決定後のBond Price変動をShortが利用できる可能性がある。
Theoretical Futures Price
CTD Bondを基準としてCost of Carryを計算し、AIとCFを調整してQFPを求める。
用語間の関係
45.3:期間ベースのヘッジ
期間ベースのヘッジとは
Duration-Based Hedging(期間ベースのヘッジ、デュレーション・ベース・ヘッジ)とは、債券ポートフォリオが持つ金利変動リスクを、金利先物を使って相殺する手法です。
目的は、債券ポートフォリオと先物ポジションを組み合わせたときの金利感応度をほぼゼロにし、金利が小さく変化しても、全体のポジション価値がほとんど変化しない状態を作ることです。
債券価格と金利には、基本的に次の関係があります。
- 金利上昇 → 債券価格下落
- 金利低下 → 債券価格上昇
この金利変化に対する債券価格の感応度を表すのがDurationです。
そのため、債券ポートフォリオをLongしている場合には、通常、Treasury Futuresなどの金利先物をShortすることで金利リスクを相殺します。
Longの債券をShortの先物でヘッジする理由
債券ポートフォリオをLongしている場合、金利が上昇すると債券価格が下落するため損失が発生します。
一方、Treasury FuturesをShortしていると、金利上昇によって先物価格が下落したときに利益が発生します。
したがって、
$$
\text{金利上昇}\rightarrow\text{Bond Price 下落}\rightarrow\text{Bond Portfolio の損失}
$$
に対して、
$$
\text{金利上昇}\rightarrow\text{Futures Price 下落}\rightarrow\text{Short Futures の利益}
$$
となります。
そのため、適切な数量の先物をShortすることで、
$$
\text{Bond Portfolio の損失}+\text{Futures の利益}\approx 0
$$
となる状態を目指します。
Duration-Based Hedge Ratio
ヘッジに必要な先物契約数は、次の式で求めます。
$$
N=-\frac{P\times D_P}{F\times D_F}
$$
それぞれの意味は次のとおりです。
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| $N$ | 必要な先物契約数 |
| $P$ | ヘッジ時点におけるポートフォリオ価値 |
| $D_P$ | ポートフォリオのDuration |
| $F$ | 先物1契約の価値 |
| $D_F$ | 先物契約のDuration |
式の先頭にあるマイナスは、元のポジションと反対方向の先物ポジションを取ることを意味します。
したがって、債券ポートフォリオをLongしている場合には、
$$
N<0
$$
となり、先物をShortします。
なぜ「金額 × Duration」を使うのか
Durationは、金利変化に対する価格の割合の感応度を表します。
そのため、実際の金額ベースで金利リスクを考えるには、ポジション価値とDurationを掛け合わせます。
ポートフォリオ側の金利リスク量は、
$$
P\times D_P
$$
です。
一方、先物1契約あたりの金利リスク量は、
$$
F\times D_F
$$
です。
Duration-Based Hedgingでは、この2つを反対方向に一致させます。
つまり、
$$
P\times D_P+N\times F\times D_F=0
$$
となるように$N$を決定します。
この式を$N$について解くと、
$$
N=-\frac{P\times D_P}{F\times D_F}
$$
となります。
したがって、この公式は、
ポートフォリオ全体の金利リスク量を、先物1契約あたりの金利リスク量で割って、必要な契約数を求めている
と理解すると分かりやすくなります。
計算例
以下の条件を考えます。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| ヘッジ期間 | 6か月 |
| ポートフォリオ価値 | $100 million |
| ポートフォリオDuration | 10 |
| T-bond Futures Quote | 105 |
| Contract Size | $100,000 |
| Futures Duration | 12 |
先物価格の105は、額面に対して105%という意味です。
したがって、先物1契約の価値は、
$$
F=100,000\times 1.05=105,000
$$
となります。
Duration-Based Hedge Ratioに代入すると、
$$
N=-\frac{100,000,000\times 10}{105,000\times 12}=-793.65
$$
先物契約数は整数である必要があるため、
$$
N\approx -794
$$
となります。
したがって、ポートフォリオマネージャーは、
T-bond Futuresを794契約Shortする
ことで、小さな金利変化に対するポートフォリオ全体の金利感応度をほぼゼロにできます。
計算を直感的に理解する
ポートフォリオ側の金利リスク量は、
$$
100,000,000\times 10=1,000,000,000
$$
です。
一方、先物1契約あたりの金利リスク量は、
$$
105,000\times 12=1,260,000
$$
です。
したがって、
$$
\frac{1,000,000,000}{1,260,000}\approx 793.65
$$
となります。
つまり、約794契約分の先物を反対方向に持つことで、ポートフォリオ側のDuration Exposureを相殺します。
「Durationをゼロにする」の意味
Duration-Based Hedgingでは「Durationをゼロにする」と表現されますが、これは元の債券ポートフォリオ自体のDurationがゼロになるという意味ではありません。
正確には、
Portfolio + Futuresを組み合わせたCombined Position全体の金利感応度をゼロに近づける
という意味です。
例えば、ポートフォリオ自体のDurationが10のままであっても、反対方向のDuration Exposureを持つ先物を加えることで、
$$
\text{Portfolio Duration Exposure}+\text{Futures Duration Exposure}\approx 0
$$
という状態を作ることができます。
Duration-Based Hedgingの限界
Duration-Based Hedgingには、大きく2つの限界があります。
Durationは線形近似である
実際の債券価格と利回りの関係は直線ではなく、Convexityを持つ曲線です。
Durationは、この曲線を直線として近似して価格変化を推定します。
そのため、
- 金利変化が小さい → Durationによる近似は比較的正確
- 金利変化が大きい → Durationによる近似誤差が大きくなる
という特徴があります。
つまり、金利が大きく変化すると、Convexityの影響を無視できなくなります。
Duration-Based Hedgingは、あくまで小さな金利変化に対する一次近似のヘッジと考えることが重要です。
イールドカーブの平行移動を暗黙に仮定している
Durationによるヘッジでは、各満期の金利が同じように動くことを暗黙に仮定しています。
例えば、
| 満期 | 金利変化 |
|---|---|
| 2年 | +0.5% |
| 5年 | +0.5% |
| 10年 | +0.5% |
| 30年 | +0.5% |
のような変化は、Parallel Shift(平行移動)です。
すべての満期の金利が同じだけ変化しているため、単一のDurationで金利リスクを捉えやすくなります。
一方、
| 満期 | 金利変化 |
|---|---|
| 2年 | +1.0% |
| 5年 | +0.6% |
| 10年 | +0.2% |
| 30年 | -0.1% |
のように満期ごとに金利変化が異なる場合は、Non-Parallel Shift(非平行移動)です。
この場合、単一のDurationだけではイールドカーブ全体の変化を十分に表現できません。
代表的なNon-Parallel Shiftには、次のようなものがあります。
- Steepening:短期金利と長期金利の差が拡大する
- Flattening:短期金利と長期金利の差が縮小する
- Twisting:イールドカーブの一部が異なる方向に変化する
Duration-Based Hedgingが特に弱いケース
Duration-Based Hedgingの精度は、金利変動の大きさとイールドカーブの動き方によって変わります。
| 金利変化 | イールドカーブ | Duration-Based Hedge |
|---|---|---|
| 小さい | 平行移動 | 比較的有効 |
| 大きい | 平行移動 | Convexityによる誤差が発生 |
| 小さい | 非平行移動 | 満期別の金利変化による誤差が発生 |
| 大きい | 非平行移動 | 特に精度が低下 |
したがって、
大きな金利変化 + Non-Parallel Shift
が発生した場合、Duration-Based Hedgingは特にうまく機能しにくくなります。
FRMで押さえるポイント
- Duration-Based Hedgingの目的は、PortfolioとFuturesを組み合わせた金利感応度をゼロに近づけることである
- 必要な先物契約数は次の式で計算する
$$
N=-\frac{P\times D_P}{F\times D_F}
$$
- Long Bond Portfolioをヘッジする場合、通常はShort Futuresを利用する
- 「ポジション価値 × Duration」が金利リスク量を考える基本になる
- Durationをゼロにするとは、元の債券のDurationをゼロにすることではなく、Combined Position全体のDuration Exposureをゼロに近づけることである
- Durationは線形近似なので、大きな金利変化では精度が低下する
- Durationはイールドカーブの平行移動を暗黙に仮定している
- Non-Parallel Shiftでは単一のDurationだけでは十分にヘッジできない
- 大きな金利変化とNon-Parallel Shiftが同時に起きる場合、Duration-Based Hedgingの精度は特に低くなる
46 スワップ
46.1:金利スワップの仕組み
金利スワップとは
**金利スワップ(Interest Rate Swap)**とは、同じ通貨について、固定金利と変動金利のキャッシュフローを交換する契約です。
最も一般的なものを **Plain Vanilla Interest Rate Swap(プレーン・バニラ金利スワップ)**と呼びます。
典型的には、2社が次のような契約を結びます。
- Company X:固定金利を支払い、変動金利を受け取る
- Company Y:変動金利を支払い、固定金利を受け取る
重要なのは、通常、元本そのものを交換するわけではないことです。
利息を計算するための基準となる金額を Notional Principal(想定元本) と呼びます。
Notional Principal(想定元本)
金利スワップでは、たとえば想定元本が1億ドルであっても、XとYが1億ドルそのものを受け渡すわけではありません。
想定元本は、利息の計算にのみ使用されます。
$$
\text{Interest Payment}=\text{Notional Principal}\times\text{Interest Rate}\times\text{Period}
$$
したがって、Notional Principalは、
実際に交換する元本ではなく、スワップの利息額を計算するための基準額
です。
SOFRとは
変動金利側の代表的な参照金利として SOFR(Secured Overnight Financing Rate) が使用されます。
SOFRは、米国債を担保とした翌日物レポ取引をもとに算出される、米ドルの代表的な短期金利です。
変動金利借入では、たとえば、
$$
\text{Borrowing Rate}=\text{SOFR}+1.0\text{%}
$$
のように設定されます。
SOFRが3%の場合は、
$$
\text{Borrowing Rate}=3.0\text{%}+1.0\text{%}=4.0\text{%}
$$
SOFRが5%になれば、
$$
\text{Borrowing Rate}=5.0\text{%}+1.0\text{%}=6.0\text{%}
$$
となります。
つまりSOFRは、
変動金利を決めるための基準となる市場金利
です。
Plain Vanilla Interest Rate Swapのキャッシュフロー
次のスワップを考えます。
- 想定元本:1億ドル
- 固定金利:3.784%
- 期間:2年間
- 半年ごとに決済
- 変動金利:6か月SOFR
- X:固定払い・変動受け
固定金利側の半年分の支払額は、
$$
100,000,000\times0.03784\times0.5=1,892,000
$$
です。
一方、第1期開始時点のSOFRが3.00%の場合、変動金利側は、
$$
100,000,000\times0.03\times0.5=1,500,000
$$
です。
Xは変動金利を受け取り、固定金利を支払うため、第1期のネットキャッシュフローは、
$$
1,500,000-1,892,000=-392,000
$$
となります。
したがって、Xは39.2万ドルを支払います。
| 期末 | 期初SOFR | Xの変動金利受取 | Xの固定金利支払 | XのネットCF |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 3.00% | $1,500,000 | $1,892,000 | -$392,000 |
| 2 | 3.50% | $1,750,000 | $1,892,000 | -$142,000 |
| 3 | 4.00% | $2,000,000 | $1,892,000 | +$108,000 |
| 4 | 4.50% | $2,250,000 | $1,892,000 | +$358,000 |
固定金利の支払いは一定ですが、SOFRが上昇するとXが受け取る変動金利が増加します。
そのため、一般的に、
Pay Fixed / Receive Floatingのポジションは金利上昇によって有利になる
と考えられます。
変動金利はいつ決まるのか
各期間の変動金利は、その期間の開始時点で決まります。
たとえば、第1期末に支払われる変動金利は、第1期開始時点のSOFRを使用します。
したがって、期間開始時点では、その期間の終了時に支払われる金額がすでに決まっています。
実際には差額だけを決済する
XとYが同じ通貨、同じ想定元本について、
- XからYへ固定金利
- YからXへ変動金利
を支払う場合、両方の金額を送り合う必要はありません。
通常は、
固定金利支払額と変動金利支払額の差額のみ
を決済します。
これを Net Settlement と考えることができます。
スワップを行うXとYは何者か
XとYは、典型的には企業や金融機関です。
たとえば、
- Xは銀行・投資家から変動金利で資金を調達している企業
- Yは銀行・投資家から固定金利で資金を調達している企業
と考えられます。
重要なのは、XとYの借入契約と、XとYのスワップ契約は別の契約だということです。
Xは銀行や投資家からお金を借りており、その借入契約はそのまま残ります。
その上に、XとYの間で、
「固定金利と変動金利のキャッシュフローだけを交換する」
という別のスワップ契約を追加します。
なぜ金利スワップを利用するのか
金利スワップの重要な目的は、資産や負債の金利特性を変更することです。
たとえばXが変動金利で借りているものの、
「今後金利が上昇するかもしれないので、支払金利を固定したい」
と考えることがあります。
一方でYが固定金利で借りているものの、
「今後金利が下がると考えているので、変動金利にしたい」
と考えるかもしれません。
そこで、
- 変動金利から固定金利へ変更したいX
- 固定金利から変動金利へ変更したいY
がスワップを利用します。
変動金利負債を固定金利負債へ変換する
Xが市場から、
$$
\text{SOFR}+1.0\text{%}
$$
で借りているとします。
Xがスワップで、
- SOFRを受け取る
- 固定金利を支払う
とします。
スワップ固定金利を $S$ とすると、Xの実質的な支払金利は、
$$
(\text{SOFR}+1.0\text{%})-\text{SOFR}+S=1.0\text{%}+S
$$
となります。
SOFR部分が相殺されるため、Xの支払いは固定化されます。
したがって、
変動金利負債 → 固定金利負債
にする場合は、
Pay Fixed / Receive Floating
です。
固定金利負債を変動金利負債へ変換する
反対に、Yが固定金利で借りている場合を考えます。
Yがスワップで、
- 固定金利を受け取る
- SOFRを支払う
と、元々の固定金利支払いの一部とスワップの固定金利受取りが組み合わされ、実質的な借入コストがSOFRに連動します。
したがって、
固定金利負債 → 変動金利負債
にする場合は、
Receive Fixed / Pay Floating
です。
資産にもスワップを利用できる
スワップは負債だけでなく、資産の金利特性を変更するためにも利用できます。
たとえば固定金利を受け取る資産を保有している場合、
- 資産から固定金利を受け取る
- スワップで固定金利を支払う
- スワップで変動金利を受け取る
とすれば、実質的に変動金利資産へ変換できます。
| 元のポジション | スワップ | 実質的な結果 |
|---|---|---|
| 変動金利負債 | Pay Fixed / Receive Floating | 固定金利負債 |
| 固定金利負債 | Receive Fixed / Pay Floating | 変動金利負債 |
| 固定金利資産 | Pay Fixed / Receive Floating | 変動金利資産 |
| 変動金利資産 | Receive Fixed / Pay Floating | 固定金利資産 |
Financial Intermediary(金融仲介機関)
実際のスワップ市場では、XとYが直接取引するとは限りません。
銀行、ディーラー、ブローカーなどの**Financial Intermediary(金融仲介機関)**が間に入ることがあります。
金融仲介機関は、
- 固定払いを希望する企業と変動払いを希望する企業をマッチングする
- 自らスワップの相手方となる
- 取引条件を提示する
- 信用リスクを引き受ける
といった役割を担います。
その対価として、銀行などは Bid-Ask Spread を受け取ります。
Counterparty Credit Risk
スワップ契約には、**Counterparty Credit Risk(カウンターパーティ信用リスク)**があります。
これは、
スワップの相手方がデフォルトし、本来受け取るはずだったキャッシュフローを受け取れなくなるリスク
です。
金融仲介機関が取引の相手方となる場合、こうしたリスクを引き受けることも、スプレッドを受け取る理由の一つです。
ConfirmationとISDA
スワップ契約では、取引条件を明確にするために Confirmation(確認書) が作成されます。
Confirmationには、たとえば以下が記載されます。
- 想定元本
- 満期
- 固定金利
- 変動金利の参照レート
- 支払日
- デフォルト時の対応
こうしたデリバティブ契約の標準化には、**ISDA(International Swaps and Derivatives Association)**の枠組みが広く使用されています。
Comparative Advantage(比較優位)
金利スワップが利用される理由の一つとして、**Comparative Advantage(比較優位)**があります。
XとYが次の条件で借入できるとします。
| 会社 | 固定金利借入 | 変動金利借入 |
|---|---|---|
| X | 6.5% | SOFR + 1.0% |
| Y | 5.0% | SOFR + 0.1% |
Yは固定・変動の両方でXより低い金利で借りられます。
したがって、Yには両方の市場で絶対優位があります。
しかし、固定金利市場でのXとYの差は、
$$
6.5\text{%}-5.0\text{%}=1.5\text{%}=150\text{ bps}
$$
です。
一方、変動金利市場での差は、
$$
(\text{SOFR}+1.0\text{%})-(\text{SOFR}+0.1\text{%})=0.9\text{%}=90\text{ bps}
$$
です。
つまりYは、
- 固定金利市場では150bps有利
- 変動金利市場では90bps有利
です。
したがって、Yは固定金利市場に比較優位があります。
一方XはどちらでもYより不利ですが、相対的には変動金利市場の方が不利の程度が小さいため、変動金利市場に比較優位があると考えます。
QSDと60bpsの節約余地
固定金利市場での差が150bps、変動金利市場での差が90bpsなので、
$$
150\text{ bps}-90\text{ bps}=60\text{ bps}
$$
となります。
この60bpsが、両社が比較優位のある市場で借り、その後スワップすることによって生み出せる総借入コスト削減余地です。
この考え方を Quality Spread Differential(QSD) と呼びます。
$$
QSD=\text{Fixed Rate Differential}-\text{Floating Rate Differential}
$$
今回の場合は、
$$
QSD=150\text{ bps}-90\text{ bps}=60\text{ bps}
$$
です。
ここでいう「金利を節約する」とは、
希望する金利タイプで直接借りた場合より、最終的に支払う利息を減らせる
という意味です。
XとYはどの市場で借りるのか
比較優位を利用するため、
- Xは変動金利市場で借りる
- Yは固定金利市場で借りる
とします。
したがって、
$$
\text{X Borrowing Rate}=\text{SOFR}+1.0\text{%}
$$
$$
\text{Y Borrowing Rate}=5.0\text{%}
$$
です。
その後、XとYが金利スワップを行います。
5.2%のスワップ固定金利はどこから決まるのか
ここで特に重要なのは、表にある5.0%と、スワップで使用する5.2%は別の金利だということです。
5.0%は、
Yが銀行・投資家から固定金利で借りるときの借入金利
です。
一方、5.2%は、
XとYのスワップ契約で交換する固定金利
です。
今回、QSDの60bpsをXとYで均等に分配すると仮定します。
したがって、
$$
\text{X Saving}=30\text{ bps}
$$
$$
\text{Y Saving}=30\text{ bps}
$$
となります。
Xは本来、固定金利で直接借りると6.5%を支払います。
30bps節約したいので、スワップ後の実質借入コストは、
$$
6.5\text{%}-0.3\text{%}=6.2\text{%}
$$
でなければなりません。
Xは市場では、
$$
\text{SOFR}+1.0\text{%}
$$
で借りています。
スワップ固定金利を $S$ とすると、
$$
(\text{SOFR}+1.0\text{%})-\text{SOFR}+S=6.2\text{%}
$$
SOFRが相殺されるため、
$$
1.0\text{%}+S=6.2\text{%}
$$
したがって、
$$
S=5.2\text{%}
$$
となります。
つまり5.2%は、
QSDの60bpsをXとYで30bpsずつ分配するために逆算されたスワップ固定金利
です。
5.2%そのものを暗記する必要はありません。
Xの契約状況
Xは2つの契約を持っています。
- 銀行・投資家との変動金利借入
- Yとの金利スワップ
| Xの相手 | 契約 | Xの支払い | Xの受取り |
|---|---|---|---|
| 銀行・投資家 | 変動金利借入 | SOFR + 1.0% | - |
| Y | 金利スワップ | 5.2% | SOFR |
したがってXの実質借入コストは、
$$
(\text{SOFR}+1.0\text{%})+5.2\text{%}-\text{SOFR}=6.2\text{%}
$$
です。
ここでの6.2%は、
XがYに支払う金利ではなく、借入契約とスワップ契約をすべて合算した最終的な借入コスト
です。
Xが直接固定金利で借りる場合は6.5%なので、
$$
6.5\text{%}-6.2\text{%}=0.3\text{%}=30\text{ bps}
$$
を節約できます。
Yの契約状況
Yも2つの契約を持っています。
- 銀行・投資家との固定金利借入
- Xとの金利スワップ
| Yの相手 | 契約 | Yの支払い | Yの受取り |
|---|---|---|---|
| 銀行・投資家 | 固定金利借入 | 5.0% | - |
| X | 金利スワップ | SOFR | 5.2% |
したがってYの実質借入コストは、
$$
5.0\text{%}+\text{SOFR}-5.2\text{%}=\text{SOFR}-0.2\text{%}
$$
です。
Yが直接変動金利で借りる場合は、
$$
\text{SOFR}+0.1\text{%}
$$
なので、
$$
(\text{SOFR}+0.1\text{%})-(\text{SOFR}-0.2\text{%})=0.3\text{%}=30\text{ bps}
$$
を節約できます。
したがって、
$$
30\text{ bps}+30\text{ bps}=60\text{ bps}
$$
となり、QSDの60bpsと一致します。
5.2%は必ずこの値になるわけではない
5.2%は、60bpsのメリットをXとYで30bpsずつ均等に分けると仮定した場合の値です。
たとえば、
- Xに40bps
- Yに20bps
という分配を行う場合には、別のスワップ固定金利になります。
また、銀行などの金融仲介機関が入る場合には、
- Xの節約
- Yの節約
- 銀行のBid-Ask Spread
という形で60bpsを分配することもできます。
したがって重要なのは、
スワップ固定金利は、比較優位から生じるメリットをどのように分配するかによって決まる
という点です。
Comparative Advantageへの批判
比較優位による説明には、いくつかの問題があります。
まず、Xがスワップ期間中ずっと、
$$
\text{SOFR}+1.0\text{%}
$$
で借りられるとは限りません。
Xの信用力が悪化すれば、信用スプレッドが拡大して、
$$
\text{SOFR}+1.0\text{%}\rightarrow\text{SOFR}+2.0\text{%}
$$
となる可能性があります。
また、スワップ契約にはCounterparty Credit Riskがあります。
相手方がデフォルトすれば、本来受け取るはずだったスワップのキャッシュフローを受け取れない可能性があります。
そのため、比較優位から生じるメリットを完全なフリーランチと考えることはできません。
試験対策上の重要ポイント
- Interest Rate Swap:固定金利と変動金利のキャッシュフローを交換する契約
- Notional Principal:利息計算の基準額であり、通常は元本そのものを交換しない
- SOFR:米ドルの代表的な短期金利であり、変動金利側の参照金利
- Net Settlement:固定金利と変動金利の差額のみを決済する
- 変動負債 → 固定負債:Pay Fixed / Receive Floating
- 固定負債 → 変動負債:Receive Fixed / Pay Floating
- Financial Intermediary:スワップ相手を仲介し、スプレッドを得る
- Counterparty Credit Risk:スワップ相手がデフォルトするリスク
- Confirmation:スワップの具体的条件を記載する確認書
- ISDA:デリバティブ契約の標準的な枠組みを提供する団体
- Comparative Advantage:相対的に有利な市場で借り、その後スワップを利用する
- QSD:固定金利市場の金利差と変動金利市場の金利差の差
- 今回のQSDは60bps
- 5.0%はYの借入金利、5.2%はXとY間のスワップ固定金利であり、両者は別物
- 5.2%は60bpsを30bpsずつ分配する条件から逆算される
- Xの6.2%はYへの支払金利ではなく、すべての契約を合算したXの実質借入コスト
46.2:金利スワップの評価
金利スワップの評価とは
金利スワップ(Interest Rate Swap)の評価とは、現在の市場金利を使って、既存のスワップ契約が現在いくらの価値を持っているかを計算することである。
これは直接、
「このスワップを契約するべきか」
を判断するための計算ではなく、すでに存在するスワップについて、
- 現在どれほど有利・不利なのか
- 契約を解消するとすればどれほどの価値があるのか
- 市場金利の変化によってどれほど価値が変化したのか
を確認する**時価評価(Mark-to-Market)**である。
プレーン・バニラの金利スワップでは、
- Fixed Leg:固定金利を支払う側
- Floating Leg:SOFRなどの変動金利を支払う側
が金利を交換する。
契約開始時には通常、両者の価値が等しくなるようにFixed RateであるSwap Rateが設定されるため、
$$
V_{\mathrm{swap}}=0
$$
となる。
その後、市場金利が変化するとFixed LegとFloating Legの現在価値が変化し、
$$
V_{\mathrm{swap}}\neq0
$$
となる。
スワップ評価に登場する重要な用語
| 用語 | 意味 | スワップ評価での役割 |
|---|---|---|
| CF(Cash Flow) | 将来受け取る・支払う金額 | 評価対象 |
| Spot Rate | 今日から特定の将来時点までの市場金利 | 将来CFの割引 |
| Forward Rate | 将来のある時点から別の将来時点までの金利 | 将来のFloating Rateの推定 |
| Floating Rate | 実際のスワップで適用される変動金利 | Floating CFを決定 |
| Fixed Rate | 契約時に固定された金利 | Fixed CFを決定 |
| PV | Present Value、現在価値 | 将来CFを現在時点の価値に換算 |
| P | 債券の現在価格 | 各CFの現在価値の合計 |
スワップ評価では、
Forward Rateを使って将来のFloating CFを推定し、Spot Rateを使って各CFを現在価値に割り引く
という役割分担が重要である。
Cash Flow(CF)
CFはCash Flowの略で、その時点で実際に発生する金銭の受払いである。
例えば、
- 想定元本:1,000,000ドル
- Fixed Rate:6%
- 半年ごとに支払い
なら、半年ごとのFixed CFは、
$$
CF_{\mathrm{fixed}}=1{,}000{,}000\times\frac{0.06}{2}=30{,}000
$$
となる。
したがって、Fixed Rate Receiverは半年ごとに30,000ドルを受け取る。
Spot Rateとは
Spot Rateとは、
今日から特定の将来時点までの市場金利
である。
例えば、
- 3か月Spot Rate:5.4%
- 9か月Spot Rate:5.6%
- 15か月Spot Rate:5.8%
なら、それぞれ、
- 今日 → 3か月後
- 今日 → 9か月後
- 今日 → 15か月後
に対応する金利である。
重要なのは、Spot Rateは債券価格そのものではないということである。
Spot Rateは、
将来のCash Flowと現在価格を結び付ける割引率
と理解すると分かりやすい。
Spot Rateと債券価格の関係
例えば、1年後に1,000,000ドルだけ受け取るゼロクーポン債が現在950,000ドルで取引されているとする。
1年Spot Rateを$r$とすると、
$$
950{,}000=\frac{1{,}000{,}000}{1+r}
$$
したがって、
$$
r=\frac{1{,}000{,}000}{950{,}000}-1\approx5.26\text{%}
$$
となる。
つまりSpot Rateは、「元本と現在価格の比」そのものではなく、
将来受取額と現在価格の関係から逆算される市場利回り
である。
Pとは何か
債券評価で登場する$P$は、
債券の現在価格(Price)
を表す。
複数のCFを持つ債券では、
$$
P=\frac{CF_1}{1+r_1}+\frac{CF_2}{(1+r_2)^2}+\frac{CF_3}{(1+r_3)^3}
$$
のように計算する。
ここで、
- $P$:債券の現在価格
- $CF_1$:1年後のCash Flow
- $CF_2$:2年後のCash Flow
- $CF_3$:3年後のCash Flow
- $r_1$:1年Spot Rate
- $r_2$:2年Spot Rate
- $r_3$:3年Spot Rate
である。
例えば額面1,000,000ドル、年5%クーポン、3年満期なら、
$$
P=\frac{50{,}000}{1+r_1}+\frac{50{,}000}{(1+r_2)^2}+\frac{1{,}050{,}000}{(1+r_3)^3}
$$
となる。
したがって、
債券価格Pは、将来受け取るすべてのCFを、それぞれ対応するSpot Rateで現在価値に換算したものの合計
である。
Coupon RateとSpot Rateの違い
債券を理解するうえでは、Coupon RateとSpot Rateを混同しないことが重要である。
例えば額面1,000,000ドル、Coupon Rate 5%の固定利付債なら、
$$
\text{Coupon}=1{,}000{,}000\times0.05=50{,}000
$$
であり、Coupon Rate 5%は契約によって固定されている。
一方、Spot Rateは現在の市場金利なので、契約後も変化する。
したがって、
| Coupon Rate | Spot Rate |
|---|---|
| 債券発行時に契約で決まる | 市場で形成される |
| 固定利付債では変化しない | 日々変化する |
| 債券が実際に支払う利息を決定 | 債券CFの現在価値を決定 |
という違いがある。
なぜSpot Rateは変化するのか
Spot Rateは市場参加者の取引によって形成されるため、常に変化する。
主な要因には、
- 中央銀行の政策金利
- 将来の政策金利予想
- インフレ期待
- 景気見通し
- 債券の需要と供給
- 市場のリスク認識
などがある。
中央銀行がすべてのSpot Rateを直接決めるわけではない。
例えばFRBは短期金利に強い影響を与えるが、1年、5年、10年などの金利は、将来の金融政策やインフレなどに対する市場参加者の予想を含めて市場で形成される。
市場が要求する利回りとは
「市場が要求する利回り」とは、
現在この期間・リスクの金融商品に投資するなら、投資家がどの程度の収益率を必要としているか
という意味である。
例えば、既存債券のCoupon Rateが5%でも、新しく発行される同程度の債券が6%を支払っている場合、5%債券を額面価格で購入する魅力は低い。
そのため既存債券の市場価格が低下し、購入者から見た実質的な利回りが現在の市場水準に近づく。
したがって一般的に、
$$
\text{Market Rate}\uparrow\Rightarrow\text{Bond Price}\downarrow
$$
$$
\text{Market Rate}\downarrow\Rightarrow\text{Bond Price}\uparrow
$$
という関係になる。
Forward Rateとは
Forward Rateとは、
将来のある時点から、さらに将来の時点までの金利
である。
例えば、
- 9か月Spot Rate:今日 → 9か月後
- 3か月→9か月Forward Rate:3か月後 → 9か月後
という違いがある。
時間軸では、
今日 -------- 3か月 -------- 9か月
│----------------------------│
9M Spot Rate
│---------------│
3M→9M Forward Rate
となる。
Forward RateはSpot Rateの差ではない
例えば、
- 3か月Spot Rate:5.4%
- 9か月Spot Rate:5.6%
であっても、
$$
5.6\text{%}-5.4\text{%}=0.2\text{%}
$$
がForward Rateになるわけではない。
連続複利を前提とすると、
$$
R_{\mathrm{forward}}=\frac{R_2T_2-R_1T_1}{T_2-T_1}
$$
で求められる。
今回なら、
$$
R_{\mathrm{forward}}=\frac{0.056\times0.75-0.054\times0.25}{0.75-0.25}=0.057
$$
したがって、
$$
R_{\mathrm{forward}}=5.7\text{%}
$$
となる。
つまり、
Forward RateはSpot Rateの単純な差ではなく、複数のSpot Rateから逆算される将来区間の金利
である。
なぜForward RateがSpot Rateから決まるのか
Forward Rateは**無裁定条件(No-Arbitrage)**によってSpot Rateと結び付いている。
例えば、
- 今日から9か月間直接運用する
- 今日から3か月間運用し、その後3か月後から9か月後まで運用する
という2つの方法を考える。
同じリスクにもかかわらず収益が大きく異なれば、市場参加者は安い方で資金調達し、高い方で運用することで無リスク利益を得られる。
このような裁定機会が継続しないように、
Spot RateとForward Rateは整合的な水準に結び付く
ことになる。
Forward RateとFloating Rateの違い
Forward RateとFloating Rateは同じではない。
Forward Rateは、
現在の市場価格から計算された将来区間の金利
である。
Floating Rateは、
実際に将来のリセット日に決定され、スワップに適用されるSOFRなどの変動金利
である。
したがって、
$$
\text{Today’s Forward Rate}\neq\text{Future Realized Floating Rate}
$$
である。
例えば今日のForward Rateが5.7%であっても、実際の将来SOFRが4%や7%になる可能性もある。
スワップ評価では、まだ決まっていない将来Floating Rateの代わりとしてForward Rateを使用する。
Spot RateとForward Rateの役割
スワップ評価では、2つの金利を次のように使い分ける。
$$
\text{Forward Rate}\rightarrow\text{将来のFloating Rateを推定}\rightarrow\text{Floating CFを計算}
$$
一方、
$$
\text{Spot Rate}\rightarrow\text{将来CFを現在価値へ割引}
$$
である。
つまり、
Forward RateはCFを作るための金利、Spot RateはCFを現在価値に戻すための金利
と理解すると分かりやすい。
連続複利とは
連続複利(Continuous Compounding)とは、
利息が無限に細かい間隔で元本に組み込まれると仮定する複利方式
である。
通常の年$m$回複利では、
$$
FV=PV\left(1+\frac{r}{m}\right)^{mt}
$$
となる。
例えば、
- 年1回複利:$m=1$
- 半年複利:$m=2$
- 四半期複利:$m=4$
- 月次複利:$m=12$
である。
連続複利は、
$$
m\rightarrow\infty
$$
の場合に相当し、
$$
FV=PV e^{rt}
$$
となる。
したがって複利には、連続複利以外にも年次複利、半年複利、四半期複利などが存在する。
FRMではSpot RateとForward Rateの関係を簡単に表現するため、連続複利を使う場合がある。
金利スワップを2つの債券として評価する
金利スワップは、
Fixed Rate BondとFloating Rate Bondを同時に保有している
と考えることができる。
Fixed Rate Receiverから見ると、
- Fixed Legを受け取る → Fixed BondをLong
- Floating Legを支払う → Floating BondをShort
と考えられる。
したがって、
$$
V_{\mathrm{swap}}=B_{\mathrm{fixed}}-B_{\mathrm{floating}}
$$
となる。
一方、Fixed Rate Payerでは、
$$
V_{\mathrm{swap}}=B_{\mathrm{floating}}-B_{\mathrm{fixed}}
$$
となる。
両者は完全に反対のポジションなので、
$$
V_{\mathrm{swap,X}}+V_{\mathrm{swap,Y}}=0
$$
となる。
例:残存15か月の金利スワップ
本文では、
- Notional:1,000,000ドル
- Fixed Rate:6%
- Floating Rate:6-month SOFR
- 半年払い
- 残存期間:15か月
- 支払日:3か月後、9か月後、15か月後
というスワップを考える。
ここで15か月は債券の満期ではなく、スワップ契約の残存期間である。
支払い間隔は6か月だが、評価日が支払日の途中にあるため、
前回支払日 ---- 評価日 ---- 3M ---- 9M ---- 15M
│ │ │
支払 支払 最終支払
となっている。
Bond Methodで登場する債券は、スワップを評価するために仮想的に考えているものであり、実際に15か月債を売買するわけではない。
Fixed Legの評価
固定金利6%、半年払いなので、
$$
CF_{\mathrm{fixed}}=1{,}000{,}000\times\frac{0.06}{2}=30{,}000
$$
となる。
Fixed Bondとして考えると、
| 時点 | Cash Flow |
|---|---|
| 3か月後 | 30,000 |
| 9か月後 | 30,000 |
| 15か月後 | 1,030,000 |
となる。
最後に元本1,000,000ドルが含まれているが、実際の金利スワップで元本交換をするという意味ではない。
Bond MethodでFixed Legを債券として評価するため、計算上元本を含めている。
Spot Rateが、
- 3か月:5.4%
- 9か月:5.6%
- 15か月:5.8%
なら、
$$
B_{\mathrm{fixed}}=\frac{30{,}000}{(1+0.054/2)^{0.5}}+\frac{30{,}000}{(1+0.056/2)^{1.5}}+\frac{1{,}030{,}000}{(1+0.058/2)^{2.5}}
$$
となる。
計算結果は、
$$
B_{\mathrm{fixed}}=1{,}017{,}342
$$
である。
Floating Legの評価
Floating Rate Bondには、
金利リセット日に市場金利へクーポンが更新されるため、その時点で価値がほぼ元本に戻る
という特徴がある。
今回、次回3か月後に支払われるFloating Rateは前回リセット時にすでにSOFR 5%と決定されている。
したがって次回Floating CFは、
$$
CF_{\mathrm{floating}}=1{,}000{,}000\times\frac{0.05}{2}=25{,}000
$$
となる。
Bond Methodでは、次回支払日時点の価値を、
$$
1{,}000{,}000+25{,}000=1{,}025{,}000
$$
として評価する。
したがって、
$$
B_{\mathrm{floating}}=\frac{1{,}025{,}000}{(1+0.054/2)^{0.5}}=1{,}011{,}437
$$
となる。
Fixed Rate Receiverのスワップ価値
Fixed Rate Receiverでは、
$$
V_{\mathrm{swap}}=B_{\mathrm{fixed}}-B_{\mathrm{floating}}
$$
なので、
$$
V_{\mathrm{swap}}=1{,}017{,}342-1{,}011{,}437=5{,}905
$$
となる。
つまりこのスワップはFixed Rate Receiverにとって現在5,905ドルのプラス価値を持つ。
固定金利が6%である一方、現在の市場金利が概ね5%台なので、
市場より高い6%を固定で受け取れる既存契約には価値がある
と考えることができる。
FRAとは
FRA(Forward Rate Agreement)とは、金利先渡契約である。
FRAでは、
将来の一定期間について適用する金利を現在時点で固定する
ことができる。
例えば、
3か月後から9か月後までの6か月について5.7%で金利を固定する
という契約がFRAである。
FRAでは、概念的には、
$$
\text{FRA Payoff}=\text{Notional}\times(\text{Floating Rate}-\text{Fixed Rate})\times\Delta t
$$
という金利差に基づくCash Flowが発生する。
なぜ金利スワップはFRAの集合なのか
金利スワップでも各期間について、
Fixed RateとFloating Rateとの差額
を交換している。
したがって1期間だけ切り取ると、FRAとほぼ同じ構造になる。
そのため、
$$
\text{Interest Rate Swap}=\text{FRA}_1+\text{FRA}_2+\text{FRA}_3+\cdots
$$
と考えることができる。
つまり、
金利スワップは複数期間のFRAをまとめたもの
という見方ができる。
FRA Methodによるスワップ評価
FRA Methodでは、将来のFloating CFをForward Rateから推定する。
今回の例では、
| 支払時点 | Fixed CF | Floating Rate |
|---|---|---|
| 3か月後 | 30,000 | 5.0% |
| 9か月後 | 30,000 | 5.7% |
| 15か月後 | 30,000 | 6.1% |
となる。
最初のFloating Rate 5.0%は、前回のリセット日にすでに確定している。
したがって、
$$
CF_{\mathrm{floating},1}=1{,}000{,}000\times\frac{0.05}{2}=25{,}000
$$
となる。
3か月後から9か月後までのForward Rateは5.7%なので、
$$
CF_{\mathrm{floating},2}=1{,}000{,}000\times\frac{0.057}{2}=28{,}500
$$
となる。
9か月後から15か月後までのForward Rateは6.1%なので、
$$
CF_{\mathrm{floating},3}=1{,}000{,}000\times\frac{0.061}{2}=30{,}500
$$
となる。
各CFを対応するSpot Rateで現在価値へ割り引くと、
$$
PV_{\mathrm{fixed}}=86{,}317
$$
$$
PV_{\mathrm{floating}}=80{,}409
$$
となる。
したがって、
$$
V_{\mathrm{swap}}=86{,}317-80{,}409=5{,}908
$$
である。
Bond Methodでは5,905ドルだったため、ほぼ同じ結果となる。
わずかな違いは丸めによるものである。
Bond MethodとFRA Methodの関係
スワップは2つの方法で見ることができる。
Bond Methodでは、
$$
\text{Interest Rate Swap}=\text{Fixed Bond}-\text{Floating Bond}
$$
と考える。
FRA Methodでは、
$$
\text{Interest Rate Swap}=\text{Series of FRAs}
$$
と考える。
両方とも同じCash Flowを別の視点から評価しているため、同じSpot Rateや割引方法を使用すれば同じ価値になる。
したがって、
$$
\boxed{\text{Interest Rate Swap}=\text{Fixed Bond}-\text{Floating Bond}=\text{Series of FRAs}}
$$
という関係が重要である。
金利変化とスワップ価値
Fixed Rate Receiverでは、
$$
V_{\mathrm{swap}}=B_{\mathrm{fixed}}-B_{\mathrm{floating}}
$$
である。
市場金利が低下すると、既存の高いFixed Rateを受け取れる契約の価値が上昇する。
$$
\text{Market Rate}\downarrow\Rightarrow V_{\mathrm{Fixed\ Receiver}}\uparrow
$$
逆に市場金利が上昇すると、
$$
\text{Market Rate}\uparrow\Rightarrow V_{\mathrm{Fixed\ Receiver}}\downarrow
$$
となる。
Fixed Rate Payerでは逆の関係になる。
したがって、
- Fixed Receiver:金利低下に強い
- Fixed Payer:金利上昇に強い
と整理できる。
FRMで押さえるべきポイント
金利スワップの評価とは、
現在の市場金利を使って、既存スワップの現在価値を求めること
である。
Fixed Rate Receiverでは、
$$
\boxed{V_{\mathrm{swap}}=B_{\mathrm{fixed}}-B_{\mathrm{floating}}}
$$
Fixed Rate Payerでは、
$$
\boxed{V_{\mathrm{swap}}=B_{\mathrm{floating}}-B_{\mathrm{fixed}}}
$$
となる。
Spot Rateは、
今日から特定の将来時点までの市場金利であり、将来CFを現在価値へ割り引くために使う
Forward Rateは、
将来のある時点から別の将来時点までの金利であり、将来のFloating Rateを推定するために使う
Floating Rateは、
SOFRなど、実際にスワップ契約で適用される変動金利
である。
したがってスワップ評価の流れは、
$$
\boxed{\text{Spot Curve}\rightarrow\text{Forward Rate}\rightarrow\text{Floating CF}\rightarrow\text{Spot Rateで割引}\rightarrow\text{Swap Value}}
$$
と整理できる。
また、
$$
\boxed{\text{Forward RateはSpot Rateの単純な差ではない}}
$$
ことにも注意する。
Forward RateはSpot Curveと無裁定条件から導かれる金利であり、将来実際に実現するFloating Rateそのものではない。
用語間の関係
46.3:その他のスワップの種類
この節では、**Currency Swap(通貨スワップ)**を中心に、スワップの評価方法、資産・負債の変換、信用リスク、およびその他の代表的なスワップについて整理する。
スワップに共通する基本的な考え方は、
あるキャッシュフローを、別のキャッシュフローへ交換する契約
という点にある。
通貨スワップでは異なる通貨を交換し、Equity Swapでは株式リターン、Commodity Swapでは商品価格、Credit Default Swapでは信用リスクなどが交換対象となる。
Currency Swap(通貨スワップ)
Currency Swapは、異なる通貨について元本と利息の両方を交換する契約である。
通常のInterest Rate Swap(金利スワップ)では同一通貨内で固定金利と変動金利などを交換するが、Currency Swapでは通貨そのものが異なる。
| 項目 | Interest Rate Swap | Currency Swap |
|---|---|---|
| 通貨 | 同一通貨 | 異なる通貨 |
| 元本交換 | 通常しない | 通常する |
| 利息交換 | 固定 ↔ 変動など | 固定 ↔ 固定、固定 ↔ 変動など |
| 定期CFの相殺 | 通常ネット決済 | 通常ネットしない |
| 為替リスク | 基本的になし | あり |
Currency Swapでは、契約開始時に**Spot Exchange Rate(直物為替レート)**を使って、同じ価値になる異なる通貨の元本を交換する。
たとえばCompany AとCompany Bが、次のFixed-for-Fixed Currency Swapを締結するとする。
- Company A → Company B:USD 175 million
- Company B → Company A:GBP 100 million
- Company A → Company B:GBP固定金利6%
- Company B → Company A:USD固定金利5%
Company AはGBP 100 millionを受け取っているため、毎年支払うGBP利息は、
$$
100\times6\text{%}=6\text{ million GBP}
$$
となる。
一方、Company Bが受け取ったUSD元本は175 millionなので、Company Aが毎年受け取るUSD利息は、
$$
175\times5\text{%}=8.75\text{ million USD}
$$
となる。
したがってCompany Aから見ると、毎年、
- USD 8.75 millionを受け取る
- GBP 6 millionを支払う
というキャッシュフローになる。
満期には元本も再交換する。
Currency Swapを2本の債券として考える
Currency Swapの評価で最も重要なのは、
受取側と支払側を、それぞれ1本の債券として考える
という考え方である。
Company AはUSDキャッシュフローを受け取るため、
USD建てBondをLong
しているのと同じである。
一方、GBPキャッシュフローを支払うため、
GBP建てBondをShort
しているのと同じである。
したがってCompany AのCurrency Swapは、
$$
\text{Currency Swap}=\text{USD Bond Long}-\text{GBP Bond Short}
$$
と考えられる。
ここで、
- $B_{\mathrm{USD}}$:USD側の将来キャッシュフローの現在価値
- $B_{\mathrm{GBP}}$:GBP側の将来キャッシュフローの現在価値
- $S_0$:現在のSpot Exchange Rate
とすると、Company Aから見たUSDベースのSwap Valueは、
$$
V_{\mathrm{swap}}=B_{\mathrm{USD}}-S_0B_{\mathrm{GBP}}
$$
となる。
$B$ はBond Valueを表している。
ただし、ここでいうBondは必ずしも市場に実在する特定の債券ではない。
Currency Swapの各Legから発生するキャッシュフローを、
あたかも債券のキャッシュフローであるかのように評価した理論的な現在価値
である。
$B_{\mathrm{USD}}$ の意味
今回のUSD側では、
- 元本:USD 175 million
- 契約固定金利:5%
- 残存期間:3年
なので、将来キャッシュフローは、
$$
CF_1=8.75
$$
$$
CF_2=8.75
$$
$$
CF_3=183.75
$$
となる。
3年目の183.75は、
$$
183.75=175+8.75
$$
であり、元本175と最後の利息8.75を合計したものである。
現在のUSD市場金利が2%なら、
$$
B_{\mathrm{USD}}=\frac{8.75}{1.02}+\frac{8.75}{1.02^2}+\frac{183.75}{1.02^3}
$$
となり、
$$
B_{\mathrm{USD}}=190.14\text{ million USD}
$$
となる。
つまり$B_{\mathrm{USD}}$は、
現在のUSD市場金利が2%である状況における、将来のUSDキャッシュフローの現在価値
である。
契約金利と市場金利の違い
今回、
- 契約固定金利:5%
- 現在の市場金利:2%
という2種類の金利が登場する。
役割はまったく異なる。
契約金利5%は、将来受け取るCash Flowを決める。
$$
175\times5\text{%}=8.75
$$
一方、現在の市場金利2%は、そのCash Flowを現在価値に換算するときに使う。
$$
PV=\frac{CF_t}{(1+r)^t}
$$
したがって、
$$
\text{Contract Rate}\rightarrow\text{Cash Flowの決定}
$$
$$
\text{Current Market Rate}\rightarrow\text{Present Valueの決定}
$$
という関係になる。
今回は、
$$
5\text{%}>2\text{%}
$$
なので、市場よりも高い金利を受け取れる有利な契約である。
そのため、
$$
B_{\mathrm{USD}}>175
$$
となる。
これは通常の債券について、
$$
\text{Coupon Rate}>\text{Market Yield}
$$
なら、
$$
\text{Bond Price}>\text{Par Value}
$$
となるのと同じ考え方である。
Two-Bond ApproachによるCurrency Swapの評価
現在、
- USD金利:2%
- GBP金利:4%
- Spot Rate:1 GBP = 1.50 USD
- 残存期間:3年
とする。
USD側の現在価値は、
$$
B_{\mathrm{USD}}=\frac{8.75}{1.02}+\frac{8.75}{1.02^2}+\frac{183.75}{1.02^3}=190.14
$$
となる。
GBP側では、
- 毎年の利息:GBP 6 million
- 満期:GBP 100 millionの元本返済
なので、
$$
B_{\mathrm{GBP}}=\frac{6}{1.04}+\frac{6}{1.04^2}+\frac{106}{1.04^3}=105.55
$$
となる。
GBP側を現在のSpot RateでUSD換算すると、
$$
1.50\times105.55=158.33
$$
となる。
したがってCompany AのSwap Valueは、
$$
V_{\mathrm{swap}}=190.14-158.33=31.82\text{ million USD}
$$
となる。
つまり現在、このCurrency SwapはCompany Aにとって約USD 31.82 millionのプラス価値を持つ。
Forward FX Approachによる評価
Currency Swapには、Two-Bond Approachとは別に、Forward Exchange Rateを使って評価する方法もある。
したがってCurrency Swapには代表的に、
- Two-Bond Approach
- Forward FX Approach
という2つの評価方法がある。
Forward FX Approachでは、
- 将来のGBPキャッシュフローを各時点のForward FXでUSDへ換算する
- USDの受取キャッシュフローとの差額を求める
- ネットキャッシュフローをUSD市場金利で現在価値へ割り引く
という手順を取る。
Interest Rate Parity(金利平価)
Forward Exchange Rateを理解するために重要なのが、**Interest Rate Parity(金利平価)**である。
金利平価とは、
2通貨の金利差、Spot FX、Forward FXの間には、裁定利益が発生しないような関係が存在する
という考え方である。
USD/GBPについては、
$$
F_T=S_0\times\frac{(1+r_{\mathrm{USD}})^T}{(1+r_{\mathrm{GBP}})^T}
$$
となる。
今回、
$$
S_0=1.50
$$
$$
r_{\mathrm{USD}}=2\text{%}
$$
$$
r_{\mathrm{GBP}}=4\text{%}
$$
なので、1年Forward Rateは、
$$
F_1=1.50\times\frac{1.02}{1.04}\approx1.47\text{ USD/GBP}
$$
となる。
GBP金利の方がUSD金利より高いため、GBPはForward MarketではDiscountになる。
したがって、
$$
1.50\rightarrow1.47
$$
と、USD/GBPのForward RateはSpot Rateより低くなる。
なぜ金利平価が必要なのか
もし金利差とForward FXの関係が崩れていれば、
- 低金利通貨で借りる
- 高金利通貨へ交換する
- 高金利通貨で運用する
- Forward Contractで将来の為替を固定する
という取引だけで無リスク利益を得られてしまう。
そのような裁定取引が発生すると市場参加者が取引を行うため、価格が調整される。
その結果、Spot FX、金利、Forward FXの間には金利平価の関係が形成される。
Forward FXは常に変化する
Forward Exchange Rateも市場で常に変化する。
Forward FXは主に、
- 現在のSpot FX
- USD金利
- GBP金利
- 満期までの期間
によって決まる。
したがって、
$$
F=F(S,r_{\mathrm{USD}},r_{\mathrm{GBP}},T)
$$
と考えることができる。
Spot FXや各国の市場金利が変化すれば、新しく提示されるForward FXも変化する。
ただし、すでに、
1年後に1 GBP = 1.47 USDで交換する
というForward Contractを締結していれば、その契約レート1.47自体は変化しない。
市場環境が変化すると、そのForward Contract自体のMarket Valueが変化する。
また、Forward Rateが、
$$
F_{1Y}=1.47
$$
だからといって、
1年後の実際のSpot Rateが1.47になると市場が予想している
という意味ではない。
Forward FXは基本的に、Spot FXと2通貨の金利差から決まる裁定価格である。
Forward FX Approachの計算
今回のForward Rateを、
| 年 | Forward Rate |
|---|---|
| 1年 | 1.47 USD/GBP |
| 2年 | 1.44 USD/GBP |
| 3年 | 1.41 USD/GBP |
とする。
1年後、Company Aは、
- USD 8.75 millionを受け取る
- GBP 6 millionを支払う
ため、GBP支払額をUSDへ換算すると、
$$
6\times1.47=8.82\text{ million USD}
$$
となる。
したがってネットCash Flowは、
$$
8.75-8.82=-0.07\text{ million USD}
$$
となる。
これをUSD市場金利2%で現在価値へ変換すると、
$$
PV=\frac{-0.07}{1.02}
$$
となる。
同じ計算を各年について行い、満期の元本交換も含めて現在価値を合計すると、約USD 32 millionとなる。
丸め誤差を除けば、
$$
\text{Two-Bond Approach}=\text{Forward FX Approach}
$$
となる。
2つの方法が同じ結果になるのは、Interest Rate ParityによってSpot FX、Forward FX、各国金利が整合しているためである。
Currency Swapによる資産・負債の変換
Currency Swapは、既存のAssetやLiabilityの通貨を実質的に変更するためにも利用できる。
たとえばCompany AがUSD建て負債を持っているとする。
Company AがCurrency Swapで、
- USDを受け取る
- GBPを支払う
契約を締結すると、Swapから受け取るUSDで元のUSD負債の支払いを相殺できる。
結果として、
$$
\text{USD Liability}\rightarrow\text{GBP Liability}
$$
へ実質的に変換できる。
これはInterest Rate Swapによって、
$$
\text{Floating-Rate Liability}\rightarrow\text{Fixed-Rate Liability}
$$
とするのと同じ考え方である。
つまりSwapの本質は、
既存のキャッシュフローを別のキャッシュフローへ変換し、企業が保有するリスクの種類を変えること
にある。
Comparative Advantageと税効果
多国籍企業は、必要な通貨を直接借りるのではなく、
自社にとって有利な市場で借り、その後Currency Swapで必要な通貨へ変換する
ことがある。
税率の違いが利用される場合もある。
企業の支払利息が税務上費用として認められる場合、利息による節税効果は、
$$
\text{Tax Shield}=\text{Interest Expense}\times\text{Tax Rate}
$$
となる。
たとえば利息費用が10の場合、税率20%なら、
$$
10\times20\text{%}=2
$$
の節税効果となる。
税率40%なら、
$$
10\times40\text{%}=4
$$
の節税効果となる。
したがって、同じ利息費用であれば、税率が高い国ほど利息控除によるTax Shieldが大きくなる。
たとえば企業が最終的にGBPを必要としていても、
- 税務上有利なCAD市場で借りる
- CAD借入に対する利息控除を受ける
- Currency SwapでCAD負債をGBP負債へ変換する
という戦略が有利になる場合がある。
ただし実務では、各国の税制や利息控除制限なども考慮する必要がある。
Swap Valueがプラス・マイナスになる理由
Swapでは一方の利益はもう一方の損失となるため、
$$
V_{\mathrm{swap}}(A)+V_{\mathrm{swap}}(B)=0
$$
となる。
通常、Swap契約開始時点では、
$$
V_A\approx0
$$
$$
V_B\approx0
$$
となるように契約条件が決められる。
その後、
- 市場金利
- Spot FX
- Forward FX
などが変化するとSwapのMarket Valueも変化する。
たとえば、
$$
V_A=+32
$$
なら、
$$
V_B=-32
$$
となる。
これはBがすでに32の現金を失ったという意味ではなく、
現在の市場条件で契約を時価評価すると、Bにとって32だけ不利な契約になっている
という意味である。
すでに締結された契約であるため、Bは単に「不利になったから」という理由で契約を終了することはできない。
Swap Credit Risk
Company AにとってSwap Valueがプラスの場合、
$$
V_A>0
$$
なら、その価値はCounterpartyであるCompany Bが将来契約を履行することによって得られる。
そのためBがデフォルトすると、Aはそのプラス価値を失う可能性がある。
したがって、
自社にとってSwap Valueがプラスになるほど、Counterparty Credit Exposureが大きくなる
と考える。
重要なのは、
$$
\text{Notional}\neq\text{Credit Exposure}
$$
という点である。
たとえばNotionalが100 millionでも、現在のSwap Valueが+5 millionなら、主なCredit ExposureはNotional 100 million全額ではなく、Swapを失うことによるReplacement Valueである約5 millionである。
債券・融資とSwapの信用リスクの違い
通常のLoanやBondでは、100 millionを相手に貸している場合、相手がデフォルトすると元本100 millionそのものが回収リスクにさらされる。
一方、Swapでは通常、自社にとっての正のMarket Valueが主な信用エクスポージャーとなる。
そのため、同じNotionalのDebtと比較すると、一般的にSwapのCredit Exposureは小さい。
ただしCurrency Swapでは実際に元本を交換するため、満期の元本再交換などではSettlement Riskも存在する。
| 取引 | 主なデフォルト時のリスク |
|---|---|
| Bond・Loan | 元本+利息 |
| Interest Rate Swap | 正のMarket Value |
| Currency Swap | 正のMarket Value+元本交換時のSettlement Risk |
したがって、
Currency Swapに元本リスクが存在しないわけではないが、Notional全額を常に貸し付けているDebtとは信用エクスポージャーの構造が異なる
と理解する。
Equity Swap
Equity Swapでは、
株式、株式ポートフォリオ、株価指数のリターン
と、
固定金利または変動金利
を交換する。
たとえば、
$$
\text{S&P 500 Total Return}\leftrightarrow\text{SOFR + Spread}
$$
のようなSwapである。
株式側のReturnには、
- Capital Appreciation
- Dividendを含むTotal Return
などを設定できる。
実際に株式を保有しなくても、株式市場へのエクスポージャーを得ることができる。
Credit Default Swap(CDS)
Credit Default Swap(CDS)は、
企業や国などのDefault Riskを別の主体へ移転するための契約
である。
保険に近い構造を持つ。
CDSには主に、
- Reference Entity:信用リスクの対象となる企業・国など
- Protection Buyer:信用保護を購入する側
- Protection Seller:信用保護を提供する側
が登場する。
通常時にはProtection BuyerがProtection Sellerへ定期的にPremiumを支払う。
$$
\text{Protection Buyer}\rightarrow\text{Premium}\rightarrow\text{Protection Seller}
$$
Reference EntityがDefaultすると、Protection SellerがBuyerに損失補填を行う。
たとえば額面100の債券についてDefault後のRecovery Valueが40なら、
$$
\text{Loss}=100-40=60
$$
となる。
CDS Sellerは契約条件に従って、この信用損失に対応する支払いを行う。
そのためCDSは、
債券などのCredit Riskをヘッジする手段
として利用できる。
ただしProtection Seller自身がDefaultするとProtection Paymentを受けられない可能性があり、これがCounterparty Credit Riskとなる。
Index CDSでは、単一のReference Entityではなく、複数の企業をまとめて信用リスクの対象とする。
Commodity Swap
Commodity Swapでは、
$$
\text{Fixed Commodity Price}\leftrightarrow\text{Floating Commodity Price}
$$
を交換する。
主な対象は、
- 原油
- 天然ガス
- 電力
などである。
たとえば将来大量の燃料を購入する企業が、固定価格を支払って市場価格を受け取るCommodity Swapを締結するとする。
市場価格が上昇した場合、実物の燃料購入コストは上昇するが、Commodity Swapから利益を得られるため、価格上昇を相殺できる。
したがってCommodity Swapは、
将来の商品調達価格を固定・安定化するためのヘッジ
として利用される。
Volatility Swap
Volatility Swapでは、
契約時に決めた固定Volatility
と、
期間中に実際に発生したRealized Volatility
を交換する。
概念的なPayoffは、
$$
\text{Payoff}=N_{\sigma}\left(\sigma_{\mathrm{realized}}-K_{\sigma}\right)
$$
で表される。
ここで、
- $N_{\sigma}$:Volatility Notional
- $\sigma_{\mathrm{realized}}$:Realized Volatility
- $K_{\sigma}$:Volatility Strike
である。
Volatility Swapは資産価格が上昇するか下落するかではなく、
価格がどれだけ大きく変動したか
に対するエクスポージャーを取る商品である。
Variance Swapと似ているが、
- Volatility Swap:標準偏差
- Variance Swap:分散
を対象とする点が異なる。
Exotic Swap
Exotic Swapは、標準的な固定金利や変動金利以外の、複雑な指標やPayoff Formulaを持つSwapの総称である。
たとえば、
- Commercial Paper Rate
- Medium-Term Treasury Rate
- Long-Term Treasury Rate
などを組み合わせて支払額を決定するSwapがある。
標準的なSwapよりもPayoff Structureが複雑であるため、リスクの理解や評価も複雑になる。
その他のSwapの整理
| Swap | 主な交換対象 | 主な目的 |
|---|---|---|
| Interest Rate Swap | Fixed Rate ↔ Floating Rate | 金利リスクの変換 |
| Currency Swap | Currency A ↔ Currency B | 為替・調達通貨の変換 |
| Equity Swap | Equity Return ↔ Fixed/Floating Rate | 株式エクスポージャー |
| Credit Default Swap | Premium ↔ Credit Protection | 信用リスクの移転 |
| Commodity Swap | Fixed Price ↔ Floating Price | 商品価格リスクのヘッジ |
| Volatility Swap | Fixed Volatility ↔ Realized Volatility | ボラティリティへのエクスポージャー |
| Exotic Swap | 複雑なPayoff ↔ 別のCF | 特殊なリスク管理・投資目的 |
重要ポイント
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| Currency Swap | 異なる通貨の元本と利息を交換する |
| Two-Bond Approach | 受取LegをBond Long、支払LegをBond Shortとして評価する |
| $B_{\mathrm{USD}}$ | USD側の将来CFを現在のUSD市場金利で割り引いた価値 |
| Contract Rate | 将来のCash Flowを決める |
| Market Rate | Cash Flowの現在価値を決める |
| Forward FX Approach | 外貨CFをForward FXで自国通貨へ変換して評価する |
| Interest Rate Parity | Spot FX、Forward FX、2通貨の金利差を結ぶ裁定関係 |
| Forward FX | 将来Spot FXの単純な予想値ではなく、主に金利差から形成される裁定価格 |
| Swap Value | 契約開始時は通常ほぼ0、その後市場変動でプラス・マイナスになる |
| Credit Exposure | Notional全額ではなく、主に正のSwap Market Value |
| CDS | Default RiskをProtection Sellerへ移転する契約 |
| Swapの本質 | あるCash Flow・Riskを別のCash Flow・Riskへ変換する |