概要
t分布(Student’s t-distribution)は、母分散が未知 の場合に標本平均を扱うために導入された連続確率分布です。
- 正規分布と同様に左右対称で、平均 0 を中心に持つ。
- 裾が厚く、外れ値の影響を受けやすい。
- 標本サイズが大きくなると、標準正規分布に近づく。
統計的推測(母平均の推定・検定)で特に重要になるのは、「母分散未知・標本サイズが小さい」場合です。
各分布の使用条件
数式
母集団が正規分布に従い、母分散が未知のとき、標本平均 $\bar{X}$ を使って定義される t 統計量は:
$$
T = \frac{\bar{X} - \mu}{s / \sqrt{n}}
$$
ここで:
- $\bar{X}$ : 標本平均
- $\mu$ : 母平均
- $s^2 = \frac{1}{n-1}\sum_{i=1}^{n}(x_i - \bar{X})^2$ : 不偏分散
- $n$ : 標本サイズ
このとき、
$$
T \sim t(n-1)
$$
となり、自由度 $n-1$ の t 分布に従います。
数式の説明
-
自由度の意味
- 標本分散 $s^2$ を計算するとき、標本平均 $\bar{X}$ を1つ消費しているため、自由に動ける値は $n-1$。
- したがって t 分布は「自由度 $n-1$」で表される。
-
形の特徴
- 平均 0 を中心に左右対称。
- 裾が厚い → 標本サイズが小さいときに極端な値が出やすいことを反映。
- 標本サイズ $n$ が大きくなると、$t(n-1)$ は標準正規分布 $N(0,1)$ に近づく。
-
使い分け
- 母分散が既知なら Z 分布を使う。
- 母分散が未知なら t 分布を使う。
- $n \geq 30$ 程度なら、近似的に Z を使ってもよい。
問題例
問題1:母分散未知の信頼区間
ある製品の重量を 5 個抽出し、標本平均 $\bar{X} = 102$、標本標準偏差 $s = 5$ が得られた。
母平均 $\mu$ の 95% 信頼区間を求めよ。
解き方
-
t分布の自由度を決める
標本サイズは $n=5$ なので、自由度は$$
n-1 = 4
$$ -
t分布表から臨界値を探す
自由度 4、両側 5%(片側 2.5%)に対応する t値は$$
t_{4,0.025} = 2.776
$$(画像中の表の 自由度4、上側2.5%点 が 2.776)
-
t統計量の不等式を書く
$$
P\left(-2.776 \leq \frac{\bar{X} - \mu}{s/\sqrt{n}} \leq 2.776\right) = 0.95
$$ -
両辺に $\frac{s}{\sqrt{n}}$ を掛け、整理する
$$
P\left(-2.776 \cdot \frac{s}{\sqrt{n}} \leq \bar{X} - \mu \leq 2.776 \cdot \frac{s}{\sqrt{n}}\right) = 0.95
$$$$
P\left(\bar{X} - 2.776 \cdot \frac{s}{\sqrt{n}} \leq \mu \leq \bar{X} + 2.776 \cdot \frac{s}{\sqrt{n}}\right) = 0.95
$$ -
数値を代入
- $\bar{X} = 102$
- $s = 5$
- $n=5$、よって $\frac{s}{\sqrt{n}} = \frac{5}{\sqrt{5}} = 2.236...$
- $2.776 \times 2.236 \approx 6.2$
よって信頼区間は:
$$
\mu \in [102 - 6.2, 102 + 6.2]
= [95.8, 108.2]
$$
問題2:t検定による母平均の検定
ある飲料の糖度の母平均が 5 であるかを検定したい。
標本サイズ $n=16$、標本平均 $\bar{X}=5.3$、標本標準偏差 $s=0.4$。
有意水準 5% で片側検定を行う。
解き方
-
帰無仮説:$\mu = 5$
-
t統計量を計算:
$$
t = \frac{\bar{X} - \mu}{s / \sqrt{n}}
= \frac{5.3 - 5}{0.4/\sqrt{16}}
= \frac{0.3}{0.1} = 3.0
$$ -
自由度 $15$ の t 分布で片側 5% の臨界値は $t_{15,0.05} \approx 1.753$。
-
$t=3.0 > 1.753$ なので、帰無仮説を棄却。
→ 母平均は 5 より大きいといえる。
関連する数式
-
t統計量(母分散未知)
$$
T = \frac{\bar{X} - \mu}{s / \sqrt{n}} \sim t(n-1)
$$ -
信頼区間(母分散未知)
$$
\mu \in \left[ \bar{X} \pm t_{n-1, \alpha/2} \cdot \frac{s}{\sqrt{n}} \right]
$$ -
t検定の基本形
- 1標本 t検定:母平均の検定
- 2標本 t検定:2群の母平均差の検定
- 対応のある t検定:同一個体の前後比較