経験ゼロから統計の世界へJMP
この度、縁があって「JMP」(ジャンプ)のマーケティング部門で働くことになりました。どの会社でも、社員が自社の製品や業界を学ぶのは大切なこと。そこで勉強がてら初心者の私が、JMPを相棒に身近なテーマを調べていくことにしました。
迷った末に決めた、初回のテーマは「音楽業界の動向」。音楽CD(以降、「CD」)やストリーミングサービスなど音楽の聴き方はどんどん変わっていますが、売上で見たとき現在の主流と言えるものは何でしょうか。今回はそこを調べてみました。
音楽ストリーミングは多くの人々が利用するサービスへ
まずはSpotifyやApple Musicなどの音楽ストリーミングサービスに注目してみます。最近、テレビCMや街中の広告で見かける機会も増えてきたため、サービスそのものに対する認知度は徐々に上がってきているようです。日本国内では既に10社以上がサービスを提供しており、利用者は近年増加傾向にあります。
しかし、音楽ストリーミングサービスの会員には、お試し期間の無料会員と有料会員の両方が含まれるため、実際どれくらい売上が伸びているのかという点は気になるところです。
「CDが売れなくなった」という言葉が、音楽業界の衰退や市場規模の縮小の文脈で語られて久しいですが、ストリーミングの売上は業界全体のそれを回復させるほどになっているのでしょうか。今回は、その疑問をJMPで分析してみたいと思います。
音楽配信全体の売上でストリーミングが占める割合
データを得るために、日本レコード協会のウェブサイトにアクセスしてみました。「統計情報」の項目から目指すデータを見つけます。ストリーミングの売上は、着信メロディーや着信曲の売上とともに「音楽配信売上」に含まれていました。このウェブサイト上の情報をもとに、2005年から2018年まで1年ごとに集計した売上金額は下表になります。
表1:年度別 音楽ストリーミングおよび音楽配信全体の売上高
年 | ストリーミング | 音楽配信全体 |
---|---|---|
2005 | 46 | 34,283 |
2006 | 119 | 53,478 |
2007 | 878 | 75,487 |
2008 | 1,212 | 90,547 |
2009 | 1,083 | 90,982 |
2010 | 734 | 85,990 |
2011 | 618 | 71,961 |
2012 | 1,007 | 54,298 |
2013 | 3,060 | 41,661 |
2014 | 7,853 | 43,699 |
2015 | 12,393 | 47,073 |
2016 | 20,003 | 52,886 |
2017 | 26,302 | 57,297 |
2018 | 34,866 | 64,466 |
(単位:百万円) |
参考:一般社団法人 日本レコード協会 “音楽配信売上 年次推移” https://www.riaj.or.jp/g/data/annual/dg_t.html (参照 2019-04-20)
この表では、ストリーミングの売上が伸びているらしいことは分かるのですが、その推移は頭にすんなり入ってこないですね。そこで、JMPを使って棒グラフを作ってみます。
グラフ1:年度別 音楽ストリーミングおよび音楽配信全体の売上高
こうして見ると、音楽配信全体の売上は2009年のおよそ¥91,000,000,000 (910億円)をピークに下がり始めますが、ストリーミングの売上が伸びるのにあわせて回復してきていることが分かりました。ストリーミングの存在感は年々増し、2018年には音楽配信全体の売上の半分以上をストリーミングが占めています。
2007年~2010年頃、着信メロディーや着信曲が流行ったときがありましたが、そのブームが下火になった2012年頃に、ちょうど入れ替わりでストリーミングが伸び始めたのですね。
音楽配信という分野では、収益構造が着信メロディー&着信曲中心からストリーミング中心に移ったのではないかと推察できます。
JMPで見えてきた音楽業界
では、この結果にオーディオレコード (CDアルバム&シングル、レコード等のアナログディスク、カセットテープ)の売上と音楽売上の総合計も加えて比較してみるとどうなるでしょうか。
まずは年度ごとのオーディオレコード、音楽配信全体、そしてそれらを合計した総合計の金額を表にしてみました。
表2:年度別 各メディアの売上高
年 | オーディオレコード | ストリーミング | 音楽配信全体 | 総合計 |
---|---|---|---|---|
2005 | 367,237 | 46 | 34,283 | 456,493 |
2006 | 351,564 | 119 | 53,478 | 461,886 |
2007 | 333,290 | 878 | 75,487 | 466,600 |
2008 | 296,149 | 1,212 | 90,547 | 452,323 |
2009 | 249,632 | 1,083 | 90,982 | 407,498 |
2010 | 224,998 | 734 | 85,990 | 369,602 |
2011 | 211,653 | 618 | 71,961 | 353,811 |
2012 | 227,723 | 1,007 | 54,298 | 365,126 |
2013 | 198,460 | 3,060 | 41,661 | 312,129 |
2014 | 186,443 | 7,853 | 43,699 | 297,875 |
2015 | 182,566 | 12,393 | 47,073 | 301,522 |
2016 | 177,707 | 20,003 | 52,886 | 298,542 |
2017 | 173,853 | 26,302 | 57,297 | 289,346 |
2018 | 157,611 | 34,866 | 64,466 | 304,803 |
(単位:百万円)
参考:一般社団法人 日本レコード協会 “生産実績・音楽配信売上実績 合計金額推移” より「音楽ビデオ」「音楽ソフト計」の列を抜き、「ストリーミング」を追加。上記表「総合計」は参照元の「オーディオレコード」「音楽ビデオ」「音楽配信売上」を合計した数値となる。 https://www.riaj.or.jp/f/data/annual/total_m.html (参照 2019-04-20)
やはり数字だけ並んでいても特徴が見えてきません。列が増えたぶん余計に頭に入ってこない気がします。気づくとすれば、オーディオレコードや総合計の額が徐々に減ってきているというあたりでしょうか。これではデータ分析とは言えないですよね。
そこでまたJMPでグラフを作ってみます。実際のところ、統計ソフトを使えば、私のような統計初心者でも簡単にグラフを作れるので便利です。そして、出来たグラフが下の「グラフ2」です。
グラフ2:年度別 各メディアの売上高
これを見ると、いろいろと気づきが生じますね。
例えば、以下のような点です。
- 2005年は、音楽の売上のおよそ80%をオーディオレコードが占めていた。この内訳として、レコードやカセットテープの占める割合は実際それほど大きくないだろうから(残念ながら、ここはデータがないので推測)、「音楽を楽しむ」は当時「CDを買う」とほぼ同義だったのだろうということ。
- 音楽全体の売上としてはここ5年で下げ止まっていること。
- CDの売上が下がってきているとはいえ、いまだ音楽全体の売上の半分程度を占めていること。
- 個人的にストリーミングはここ数年勢いを増して伸びてきていると思っていたが、直近の2018年でも売上はCDの5分の1強程度だったこと。
まとめ
「CDが売れない」と言われて久しく、街中のCDショップはどんどん姿を消しているのに音楽全体の売上におけるその存在感はいまだ健在でした。しかも、SpotifyやApple Musicなどの流行りの音楽ストリーミングサービスより、5倍近くも売上があるという結果が。「CDが売れない」というのは、「昔と比べたら」ということなのでしょうね。
今回は音楽業界の動向について調べましたが、疑問や思い込みをそのままにせずデータをもとに検証すれば、その分野の理解が深まり、自分の誤りに気づくこともできそうです。
統計やデータ分析の専門知識がなくても、統計解析ソフトを使えば簡単にデータの可視化ができます。少し大げさな言い方かもしれませんが、データを通して自分の関心を掘り下げる面白さを少し感じることができました。
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