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WBCを観て驚愕! 大谷投手のスライダーを統計手法で分類してみる

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増川 直裕

WBCで観た大谷投手のエグいスライダー その名も"スイーパー"

WBCでの日本代表の活躍は、最近の大きな話題になっていますね。私は近年、地上波の野球中継があまりないことから、じっくり野球中継を見ることがなくなってしまいましたが、今回のWBCは大きな話題性も伴い、じっくり見ています。

日本選手の中では、やはり大谷選手が一番注目されており投打で結果を残していますが、本記事では投手としての大谷選手を考察します。

WBCで久しぶりに大谷投手の投球を生中継で観ていましたが、明らかに以前の大谷投手と投球内容が違うなあと感じました。中継の解説でも言われていましたが、以前のような直球とスプリットを多投する投球内容でなくスライダー、しかもあまり沈まないスライダーを多投しているのです。

大谷投手は対中国戦、対イタリア戦で登板しましたが、MLBのスタッツ情報が参照できるサイト Baseball Savant によると、この2試合の球種構成は次のようになります。最も多く使用した球種は、Sweeper (スイーパー) なのです。日本ではあまりなじみがないですよね。簡単に言うと、エグいスライダーとでもいうのでしょうか。
画像1.png
私も、これまで知りませんでしたが、MLBで計測されている球種は"スライダー"と"スイーパー"で区別されます。スライダーは横方向に曲がって少し下に沈むイメージですが、スイーパーは、スライダーに比べて曲がりが鋭くあまり落ちないイメージのようです。確かにWBCを観ていると、大谷投手がこのスイーパーで打者から空振りを取るシーンに遭遇しました。

スイーパーとスライダーの違い

スイーパーとスライダーの違いについて、投手としても活躍した昨年(2022年)、一昨年(2021年)の大谷投手の投球内容から考察してみます。

同じくBaseball Savant から得られるデータを用い、2021年、2022年における大谷投手の投球の変化量をグラフ化してみます。

横の変化量(pfx_x)、縦の変化量(pfx_z)をプロットし球種で色分けしています。横方向はキャッチャー目線で考え、負の値はシュート方向、正の値はスライド方向を示します。縦方向の0(ゼロ)は重力に従ってそのまま落ちるときの値を表します。
画像2.png
球種で座標点がうまく分けられているようですが、以降ではスイーパー(赤色の点)、スライダー(水色の点)に絞って考察します。グラフをみてわかる通り、スイーパーはスライダーに比べ横方向の曲がりが大きく、あまり落ちていないことがわかりますね。

もう一つのグラフとして、スイーパーとスライダーについて、ホームベースを通るときの座標(捕手目線)と等高線を示します。
画像3.png
やはりスイーパーとスライダーでは、ホームベースを通過するときの位置にも違いがありますね。

大谷投手の投球を受けた甲斐捕手は、中国戦後のインタビューで、大谷投手は3種類のスライダーを投げ分けていたと述べていました。ということは、もしかしたらスイーパーについても2つに分類でき、スライダーも合わせて3種類になるのかもしれないと思いました。

そこで、統計手法の登場です。変化量(横、縦)、ベース上の座標(横、縦)、球速、回転量の6つの変数を使い、クラスタリングの手法によって、スイーパーを2つのグループに分類してみます。

混合ガウス分布によるスイーパーの分類と比較

ここでは、クラスターリングの手法として、機械学習等でよく用いられる「混合ガウス分布」を用います。各個体(ここでは各投球)がどのクラスに属するかを確率的に表現する方法で、今回のスイーパーのように、散布図などを描いても見た目で明らかに分類しにくいデータを分類するときに用いられることがあります。

JMPでは、[クラスター分析] の中にある [正規混合] メニューを選択することにより実行できます。

回転数が異常に低い、または入力されていないデータを除いた1,423球のスイーパーについて、6つの変数を使って2つのグループに分類したレポートです。JMPのレポートでは、主成分空間(主成分1、主成分2)上に2つのクラスターをプロットしたもの(バイプロット)を表示できますが、クラスターの重なっている領域が多いことから、明確に分類できているわけではないようです。
画像4.png
「クラスター要約」や「クラスター平均」のレポートをみると、クラスター2に属する950球は、クラスター1に属する473球に比べて平均的にスピードが速く、回転数が多いことがわかります。

何となくクラスター2の方が良いスイーパーのような感じがしますね。そこで、ここではクラスター2のスイーパを"Sweeper High"、クラスター1のスイーパを"Sweeper Low" と名付けてみました。甲斐選手が言われている3種類のスライダーと一致するかはわかりませんが、とりあえず統計的に3種類のスライダー "Sweeper High"、"Sweeper Low"、"Slider" に分類しました。

これらのスライダーを球速(release_speed)、回転数(release_spin_rate)、ベースでの座標(plate_x,plate_z)、変化量(pfx_x, pfx_z)で比較したものを示します。これらの項目について、各スライダーの平均値を折れ線で結んでします。
画像5.png
混合ガウス分布でクラスタリングした "Sweeper High"と"Sweepr Low" の大きな違いは球速、回転数です。

"Sweeper High"と"Slider"の球速、回転数はほぼ等しいですが、それ以外の変化量、ベースでの座標に大きな違いがあることは興味深いです。打者からすると、球速や回転数が同じで、変化量が違う球を投げられたら、かなり厄介ですよね。

3種類のスライダーの軌道を可視化

今回使用しているデータにはボールをリリースしたときの座標もありますので、上で示した3種類のスライダーの軌道を可視化してみます。

下のアニメーションは、各スライダーについて、リリース時の座標とベースを通過する座標に対する最頻点(密度を推定したとき最も大きくなる点)を用い、JMPの「バブルプロット」にて作成したものです。

(注意:以下のアニメーションは、あくまでもリリース時とベース通過時の座標を直線的に示したものです。)
画像6.gif

スイーパーの進化が投手として好成績だった要因?

最後に、2021年と2022年とで3種類のスライダーの使用割合を比較します。

以下の図は、JMPの「二変量の関係」で描くことができるモザイク図です。ざっと見るだけでも、2021年と2022年の明らかな違いがみられますね。
画像7.png
2022年になってスライダーのほぼ90%が、”Sweeper High” になっているのです。すなわち、球速があり回転数も多い、よく曲がってあまり落ちないスライダーです。大リーグではスイーパーが打者を抑えるために有効な球種であると言われていますが、大谷投手はその中でもさらにクオリティが高いスイーパーを投げられるようになったため、2022年の投手成績が良かったといえるのかもしれません。

大谷投手のWBCでの登板機会はもうないようですが、2023年、MLBでのシーズン、スライダーを操りどのような活躍をするのか期待です。

もちろん、打者としても期待しています!

※ 最後まで読んでいただき有難うございました。せっかくですから、皆さんもJMPでグラフを作ってみませんか?

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