最近はやっと冬らしくなってきましたが、今年11月末頃までは、通常の年とは異なり、暖かい日や、時には暑いと言っても良い日がありました。通常なら紅葉の季節なのに、まだ葉っぱが黄色かったり、街中では半袖で過ごしている人もいて、本当に冬は来るのか?と混乱する日々が続きました。
最近は毎年のように”異常気象”という言葉が使われていますが、異常なことは何度も続けば、それはもはや異常でなくなります。
気象学では、直近30年間の気温や降水量などの平均的な値から「平年」の値を計算しています。では、今年11月の東京の気温は平年と比べてどうだったのか?本当に平年と比べて異常だったのか?
異常であることを判断する何らかの基準が必要です。そこで、今回は品質管理等で用いる管理図を使って調べてみましょう。
■XBar-R管理図
下図は東京都(観測地点:東京)における、過去30年間の「11月の日ごとの平均気温」を管理図で表したものです。
この管理図はXBar-R管理図と呼ばれ、上側の管理図(XBar)が平均を、下側の管理図(R)が範囲を表しています。
データの出典:気象庁
■管理図の見方
その年の11月における「1日ごとの平均気温」について、30日分の平均と、範囲(最大値から最小値を引いた値)をプロットし、それらを折れ線で結んでいます。
例えば2023年であれば、11月において、一番平均気温が高かった日は7日の22.3℃、一番平均気温が低かった日は26日の7.7℃で、範囲は14.6℃です。30日分の平均気温の平均は14.5℃です。
管理図上にある緑色の線は30年間平均を示し、赤い線は管理限界線と呼ばれます。この線はデータの値から平均±3σ(σは管理図で用いられる標準偏差)で定義されています。
管理限界線の範囲を超えている年はマーカーに赤い丸をつけて強調表示しています。これらは平均的な値から大きく外れた年であり、11月に限定されますが、平年より平均的に気温が高かった年、低かった年と判断することができます。
■今年特有の現象とは?
改めて管理図を見てみましょう。上側の管理図(XBar)を見ると、管理限界線より外にある年が何年かありますが、2023年は管理限界線の中にあります。そのため、平均気温で考えると、2023年は平年に比べ異常に高かったわけではありません。
注目すべきは下側の管理図(R)です。2023年だけが管理限界線を越えてプロットされています。つまり2023年11月は平均気温が高い日と低い日の温度差が最も大きく、平年に比べ異常であったことを示しています。
日ごとの気温差が大きいと、体調を崩しやすくなるため注意が必要ですね。
■最高気温で考察してみると
ここまでは「1日の平均気温」で考えていましたが、天気予報では通常、最高気温と最低気温が情報として表示されます。暑い日は最高気温を、寒い日は最低気温を気にすることでしょう。
そこで同様に、「1日の最高気温」を使って管理図を描いてみましょう。このとき上側のXbar管理図は、11月の1日ごとの最高気温の平均を、下側のR管理図は1日の最高気温の範囲を示しています。
XBar管理図を見ると、2018年からずっと緑色の平均線より上にあり、2022年、2023年の直近2年間は上側管理限界値を超えているのです。これは、今年11月の最高気温が平年と比べ、平均的に高かったことを示しています。
最初に示した平均気温は朝から夜までの24時間の平均気温を示しますが、今回示した最高気温は24時間の最高気温ですので、日中の活動時に体感する温度です。11月なのにあまり寒さを感じなかったというのは、最高気温が高かったためでしょう。
またR管理図でも、2023年だけが管理限界線から超えていることも分かります。
■JMPで管理図を描く方法
今回の管理図は以下のデータを基に描かれています。過去30年間における11月だけを抽出しています。
JMPでは[品質と工程] メニューの中にさまざまな種類の管理図を描くプラットフォームがありますが、対話的に管理図を描くことができる [管理図ビルダー] を使うのがおすすめです。
下図のように、横軸(サブグループ)、Yゾーンに列をドロップすることにより、簡単にXBar-R管理図を作成できます。
■平均と範囲を示すグラフ
サブグループ(年)ごとの値の範囲を可視化するのであれば、「[グラフビルダー[」で描くことができるバントスタイルのグラフもおすすめです。最小値から最大値までの範囲をバンド(灰色の細長い長方形)で示します。
下図は、東京の最高気温を年ごとにバンドグラフで描いたものです。このグラフは、「グラフビルダー」で横軸に年、縦軸に最高気温をドロップし、「誤差の区間」を範囲に、「区間スタイル」をバンドにして描くことができます。
このグラフでも2023年の東京の最高気温は平均的に高く、範囲が広いことがわかります。
by 増川 直裕(JMP Japan)
Naohiro Masukawa - JMP User Community
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