1. 初めに
前回の投稿から時間が空いてしまいましたが、2回目の投稿となります。ユニアデックス株式会社で無線製品の技術主管として働いております、2年目の寺西です。
Wi-Fiの通信速度は、アクセスポイント(AP)から受信する電波の強さや、APとの間にある壁などの遮蔽物によって変化する可能性がありますが、RSSIの強弱や壁の有無によって、実際の通信速度にはどのような違いが生じるのでしょうか。
今回は、以上の2つの観点から通信速度を測定し、それぞれがWi-Fiの通信品質に与える影響を確認します。
Wi-Fi初心者として電波への理解を深めるために行った基礎的な調査ではありますが、皆さんにとってもWi-Fiの特性を振り返る機会になればと思います。
RSSIとは
無線端末が受信している電波の強さを示す指標として、RSSI(Received Signal Strength Indicator)があり、無線通信において受信される信号の強さを示す指標です。一般的に、RSSIの値が大きいほど、通信の品質が高いと考えられます。(引用元:「無線通信における電波強度とは?安定した通信環境を構築するためのポイント」:https://wirelessdesign.jp/column/denpa-kyoudo/ )
Wi-FiのRSSIは一般的にdBmで表され、値は負の数になります。例えば、-80 dBmよりも-60 dBmの方が0に近いため、電波が強い状態です。
RSSIが弱くなると、通信速度が低下したり、通信が不安定になったりする可能性があります。
壁などの遮蔽物による影響
Wi-Fiでは、APと端末の間に壁などの遮蔽物があると、通信品質に影響が及ぶ可能性があります。
電波が壁などに当たると、反射して進行方向を変えたり、壁の内部を透過したりして電波の伝わり方が変化することがあります。これにより、通信速度が低下したり通信が不安定になったりする場合があります。コンクリートに電波が当たった場合についても、電波の一部が反射し、残りが内部を透過する例が紹介されています。(引用元:「電波の反射と通信距離への影響」:https://www.rkcinst.co.jp/technical_commentary/831691/ )
今回の測定目的
今回の測定では、次の2点を確認します。
1. RSSIが強い場合と弱い場合で、通信速度がどのように変化するのか
2. 壁がない場合とある場合で、通信速度がどのように変化するのか
2. 検証環境・方法
検証環境
測定条件
①RSSI高:-40 ~ -50dBm
②RSSI中:-65 ~ -70dBm
③RSSI低:-75 ~ -80dBm
④RSSI高(壁あり):-40 ~ -50dBm
⑤RSSI中(壁あり):-65 ~ -70dBm
以上の条件ごとに、周波数帯5GHz/2.4GHz両方で通信速度の測定を行う。
AP、端末の詳細
AP
・2022年12月リリース開始型番
・チャネル自動調整
・チャネル幅は20MHz(ボンディングなし)
・電波出力は条件によって手動変更
有線側PC
・Windows 11(有線アダプタ:Realtek PCIe GBE Family Controller)
無線側PC
・Windows 11 (無線チップ:Intel(R) Wi-Fi 6E AX211 160MHz)
使用する無線規格
・802.11ax
測定項目
測定ツールにiPerf3を使用。
・有線側PC
iperf3.exe -s
・無線側PC
①TCP上り
iperf3.exe -c <有線側PCのアドレス> -t 180
②TCP下り:
iperf3.exe -c <有線側PCのアドレス> -t 180 -R
※-t:秒数。180秒間測定。
※-R:逆向き(下り)を指定。
3. 結果
4.考察
RSSI別
今回の測定では、5GHz・2.4GHzともに、RSSIが低くなるにつれて通信速度も低下する傾向が確認できました。
5GHzでは、RSSIが高・中・低と変化するにつれて、上り・下りともに通信速度が段階的に低下しました。特に下り速度は、RSSIが高い場合の159.8Mbpsから、低い場合には37.69Mbpsまで低下し、低下率は約76%となりました。
2.4GHzでは、下り速度がRSSIの低下に伴って段階的に低下しました。一方、上り速度は、RSSIが高い場合と中程度の場合ではほとんど差がありませんでしたが、RSSIが低い場合には大きく低下しました。この結果から、通信速度はRSSIの低下に比例して一定に落ちるとは限らず、ある程度までは速度を維持できても、電波状態がさらに悪化すると急激に低下する場合があると考えられます。
※今回の測定では、上りよりも下りの方が、RSSI低下に伴う通信速度の落ち込みが大きくなりました。APと端末の送受信性能などが影響した可能性がありますが、詳細な原因の特定には追加測定が必要です。
※通信品質を判断する際は、実際にはRSSIだけでなくSNR(Signal to Noise Ratio:無線信号とノイズの比率)も確認する必要があります。今回の測定でも、SNRが低い条件ほど通信速度が低下する傾向が見られました。
壁の有無
壁あり・なしの比較では、周波数帯によって異なる結果となりました。
5GHzでは、RSSIが高い条件の場合、壁を挟んでも下り速度にはほとんど差がなく、上り速度の低下も比較的小さい結果となりました。一方、RSSIが中程度の条件では、壁ありの場合に上り・下りともに速度が低下しました。この結果から、5GHzにおける壁の影響は、端末の電波の受信状態によって異なる可能性があります。
また、5GHzのRSSI中条件では、壁あり・なしでSNRが近い値であったにもかかわらず、通信速度には差が生じました。このことから、Wi-Fiの通信品質はRSSIやSNRだけでは完全に判断できず、遮蔽物による反射や回折などに伴う伝搬状態の変化やフレームの再送など、測定値に現れにくい要因も影響している可能性があります。
一方、2.4GHzでは、今回の測定において壁による明確な通信速度の低下は確認できませんでした。2.4GHzには、壁や床などの遮蔽物に強く、広い範囲に電波を届けることができるという特徴があります。(引用元:「Wi-Fiの2.4GHzと5GHzって何が違うの? それぞれの違いを解説します!」:https://flets-w.com/chienetta/pc_mobile/cb_other59.html )
今回、2.4GHzで壁による明確な速度低下が見られなかった結果は、こうした2.4GHzの遮蔽物に強い特性が影響した可能性があります。
※2.4GHzでは全体的に壁あり条件の方が通信速度が高くなりましたが、2.4GHzはWi-Fi以外の家電製品などにも使用されているため、電波干渉によって通信が不安定になる場合があります。今回の結果にも、周囲の電波環境やチャネルの使用状況、測定位置などによる変動が含まれていた可能性があります。
5. まとめ
以上の結果から、今回の測定では、RSSIの低下が通信速度の低下につながること、および壁の影響は通信速度に影響するが、周波数帯や端末の受信状態によって異なることを実測値から確認できました。
実際に測定することで、Wi-Fiの通信速度とRSSI、周波数帯、遮蔽物との関係について理解を深めることができました。今回の結果は測定環境や使用機器に依存する一例ではありますが、本記事が皆さんにとってもWi-Fiの特性を振り返るきっかけになれば幸いです。
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