SaaSやサブスクリプション型のビジネスでは、ビジネスの効率的な成長を示す「健康度」を可視化するためにレイヤーケーキ・チャートがよく使われます。
レイヤーケーキ・チャートは、「利用開始時期」で顧客をグループ(色)分けした上で、それぞれのグループからの収益の推移を可視化したものです。(詳細はこちらをご覧ください)
うまくいっているビジネスでは、たとえ顧客のキャンセルによって、それぞれの顧客グループの顧客の数が減少し、得られる収益が減ったとしても、別の顧客がプランをアップグレードすることによって、1顧客当たりの収益が増え、下記のように収益が増える特徴があります。
では本当にうまくいっているSaaS・サブスク型の企業は、皆このようなレイヤーケーキ・チャートを描いているのでしょうか。
この質問に答えくれる記事を、直近数年でIPO(株式公開)したSaaS企業のレイヤーケーキ・チャートと、チャートに対する各社のコメントをまとめる形で、米国のベンチャーキャピタルの Blossom Street Venturesがまとめていましたので、こちらに要約として紹介します。
- Growing your SaaS Cohorts. Before we get into the meat of this - リンク
SaaSやサブスクリプション型のビジネスにとって重要なポイントは各「コホート(訳者注: 特定の時期に獲得した顧客グループのこと。例えば、2022年1月のコホートは、2021年1月に獲得した顧客を表す)の収益が成長しているか」です。そして、多くの場合、これはレイヤーケーキ・チャートを使って確認します。
各コホートから収益を増やすには、顧客に提供する価値を高め続けることが不可欠です。
これは、継続して新機能をリリースし、カスタマー・サクセスの体験を改善し、既存顧客の別部門の担当者にとっても役立つように、サービスやプロダクトを改善し続ける必要があるということです。
ここからは、ここ数年で株式公開を果たしたSaaS企業の目論見書(訳者注: 事業者が株式などの売出しの際に、投資判断の基準となる情報として開示する文書)から、各社がどのようにコホートを成長させているのかを、各社のコメントと共に紹介します。
Cloudflare
Cloudflare(訳者注:Webサイトにアクセスする際のリクエスト処理を最適化するサービスを提供する米国企業。2019年株式公開し、80%以上の市場シェアを占めている)は、お客様がWeb上のコンテンツを新たに追加したり、組織内で我々のプラットフォームの利用が拡大することに合わせて成長できる、ビジネス上の長所があるため、他には類を見ないサービスになっています。
Datadog
Datadog(訳者注: ITシステムのモニタリングSaaS。2019年に株式公開)のプラットフォームが顧客の環境にデプロイされると、顧客はカスタマー・サクセス・チームと連携し、セルフサービス方式でサービスの利用を進め、サービスの活用が進むことで、より多くの費用を払うようになり、大きな成長を実現できたのです。
いくつかのタイミングにおける当社のドルベースのネット・レベニュー・リテンション率(訳者注:プランのアップグレードや、アカウント増加に伴う収益増を考慮した収益のリテンション率。詳細はこちらをご覧ください)は以下となっています。
- 2017年12月: 141%
- 2018年6月: 146%
- 2018年12月: 141%
- 2019年6月: 151%
Blend
Blend(訳者注: 金融機関などの住宅ローンの貸し手に対して、住宅ローン関する手続きを簡素化するSaaS。2021年に株式公開。)が2018年と2019年に獲得したコホートから得られる収益が、時間の経過とともに増加していることから、長期的にビジネスが成長するポテンシャルを見てとれます。
このチャートからは、顧客との関係を強化するための「ランド・アンド・エキスパンド戦略(訳者注: 小規模の導入から始め、顧客との関係性を強化し、徐々にエクスパンションの機会を作り、収益を増やしていくための戦略)」がうまくいっていることを見て取れます。
新しい顧客を獲得し初期の展開を終えた後には、より多くの製品やマーケットプレイスを導入していただく体制を我々は整えています。
Braze
Braze(訳者注: 顧客エンゲージメントを高めるのたのSaaSサービス。2021年株式公開。)の「ランド・アンド・エキスパンド戦略」は、以下のいくつかのタイミングでおけるドルベースのネット・レベニュー・リテンション率からも成功していると言えます。
なお、2021年7月31日、2021年1月31日、2020年1月31日までの12ヵ月間、すべての顧客のネット・レベニュー・リテンション率はそれぞれ125%、123%、126%でした。
さらに、年間定期収益が50万ドル以上の顧客におけるネット・レベニュー・リテンション率はそれぞれ135%、133%、127%でした。
例えば、2016年のコホートでは、年間定期収益が640 万ドルでしたが2021には2,010 万ドルに増加しました。これは、2106年に獲得した顧客から得られる収益が約 3.2 倍増えているということです。
Forgerock
Fogerock(訳者注:シングルサインオンなどのアクセス管理SaaS。2021年に株式公開)は、お客様が私たちのプラットフォームから得られる価値を高めることに継続的に注力しています。
上記のチャートからは、各コホートの年間定期収益が増加していることを確認でき、既存顧客との強い関係を確認できます。
既存顧客からの収益を長期的に増加させることにより、営業・マーケティングへの先行投資に対するリターンを大幅に向上させることができています。
以上、要約終わり。
あとがき
今回は近年、株式公開したビジネスの成長が著しい企業のレイヤーケーキ・チャートを簡単に紹介しました。
ビジネスの領域を問わず共通して言えることは、紹介した企業全てにおいて、既存顧客からの収益が増えていること、さらには新規顧客から収益が増えることで、著しくビジネスを伸ばしているということです。
また、いくつかの企業において、「ランド・アンド・エキスパンド戦略」が言及されていましたが、レイヤーケーキ・チャートは「ランド・アンド・エキスパンド戦略」が機能しているかを計るには最適なチャートと言えそうです。
レイヤーケーキ・チャートの作り方
最後にレイヤーケーキ・チャートの作り方を簡単に紹介いたします。
レイヤーケーキ・チャートは以下のような、1行が1顧客の毎月の支払いを表し、その顧客の利用開始日を列に持つデータがあれば、作成できます。
例えば、データの加工、可視化、分析、レポーティングのためのUIツールのExploratoryでは、「エリアチャート」を使って、色に「サービスの利用開始日」を割り当てて、レイヤーケーキ・チャートを簡単に作成できます。
しかし、手元にあるデータに顧客のサービスの利用開始日の列がない場合もあります。
そういったときには、顧客のサービスの利用開始日の列を計算する必要がありますが、例えば、Exploratoryでは、「表計算」を使って、数クリックで、顧客ごとの「最初の支払い日」、つまりは「サービスの利用開始日」の列をデータに追加できます。
レイヤーケーキ・チャートの作り方を無料で学ぶ
サブスクリプション型のビジネスに特有な指標の作成・可視化や分析の手法を、コードを書くことなく、ハンズオンを通して短時間で学んでいただけるコンテンツをまとめています。
今回、紹介したレイヤーケーキ・チャートの作り方もこちらのトライアルツアーで学んでいただけます。
サブスクリプション型のビジネスのご担当者様は、ぜひご覧ください!