スタートアップにとって、まず重要なことは、顧客にとっての問題を理解した上で、その解決のためのプロダクト開発に力を入れることです。
また、顧客にとって価値のあるプロダクトを開発できたら、次はそうした問題を持っている人たちが多くいるマーケットに集中し、新規ユーザーの獲得と、ビジネスの成長に焦点を当てた活動である「グロース」に投資します。
スタートアップの世界では、顧客に価値があるようなプロダクトを顧客に提供できていて、そのマーケットの規模が大きいことを「プロダクト・マーケット・フィット」と呼びますが、特にビジネスの立ち上げ当初は、自分達がグロースのフェーズにいるのかを理解するために「プロダクト・マーケット・フィット」しているかどうかを気にします。
一方で、この「プロダクト・マーケット・フィット」については、有名な測定方法がいくつかあるものの、決まったやり方があるわけではありません。
そこで、少し古い記事ではありますが、マーケティング・オートメーションサービスのHubspotでグロースの最高責任者を担当していた方から、「プロダクト・マーケット・フィット」を測るいくつかの手法、その特徴と欠点、そして利用すべき手法の順番をまとめる記事がありましたので、こちらに要訳として紹介します。
- The Never Ending Road To Product Market Fit - リンク
私は、スタートアップの「プロダクト・マーケット・フィット」は以下の4つの「チェックポイント」を使って、より確実に測定できると考えており、この記事では、この4つのチェックポイントを紹介します。
1. 先行指標調査
最も一般的で、よく知られているプロダクト・マーケット・フィットを測る方法は、次の 2 つの調査です。
プロダクト・マーケット・フィット・サーベイ
この調査はSean Ellis(訳者注:Dropboxの創業期のグロース担当者で、グロースハックという言葉の生みの親)が考案した測定方法です。
プロダクト・マーケット・フィット・サーベイでは、「あなたのプロダクトやサービスを使用できなくなったらどう思いますか?」という質問をします。(訳者注: こちらに質問に対しては、「非常に残念」、「やや残念」、「残念ではない」、「すでに利用を辞めている」の4段階で回答してもらいます)
そして、回答者の40%以上が「非常に残念」と回答した場合、プロダクト・マーケット・フィットを達成していることになります。(訳者注: こちらに、プロダクト・マーケット・フィット・サーベイに関する記事がありますので、ぜひご参考ください。)
NPS(ネット・プロモーター・スコア)
NPS(ネット・プロモーター・スコア)は、顧客の幸福度を測定する方法であり、成長の先行指標として多くの企業で利用されています。(訳者注: NPSは顧客に「自分たちの会社やプロダクトを、友人や同僚に推奨する可能性はどのくらいあるか?」と聞き、9以上のスコアの人の割合を、6以下のスコアの人の割合で引いた指標です。一般的に50を超えると素晴らしいものとされ、70を超えるとワールドクラスと言われます。詳細はこちらをご覧ください。)
こういった調査は有用ですが、回答者の実際の行動に裏打ちされていない、「XXをしようと思う」といった言葉よりも、実際に彼らが「何をしているか」をもって、プロダクト・マーケット・フィットをより正確に測るべきです。
そのため、私はこのような調査が明らかにするのは、これからプロダクト・マーケット・フィットを達成できるかどうかというよりは、プロダクト・マーケット・フィットしているかどうかと考えています。
ただし、こういった先行指標調査には、実施が簡単で必要なデータ量も少ないという利点があり、これから紹介する3つのチェックポイントと比較して、最もスピーディーに実践できるアプローチと言えます。
一方で、先行指標調査には 以下の2つの欠点もあります。
- (本来、ポジティブではないはずなのに)ポジティブな結果を誤検知してしまう可能性が高い
- 自分達のプロダクトの潜在的な市場サイズを見積りづらいため、今後の成長のために、どの程度投資をすればいいかを決めづらい
上記の2つの理由から、後続のチェックポイントで調査結果の裏付けを取るべきなのです。
2. エンゲージメント・データ
先行指標調査は、人々が「これから何をするか」や「どう感じているか」を指標として教えてくれるものとでした。
次のステップでは、実際にユーザーが言っていることに行動が伴っているかを、データを使って検証します。
このことを検証するためには、「ユーザーが製品から価値を得ている」ことを証明できる以下のデータが必要です。
- 写真共有サービス: ユーザーが毎日または毎週共有している写真の数
- メッセージング・サービス: メッセージを送った人数
- 請求書の作成支援サービス: 企業ごとに処理された請求書の数
なお、エンゲージメント・データを取得するときには以下の点に注意する必要があります。
- エンゲージメントは閲覧数(例: ビュー数、PV数)ではなく、イベントまたはアクションで計測する
- 上記のイベントまたはアクションは、プロダクトのコアな体験に関わるものとなる(訳者注: 何をもってエンゲージメントを測るのかや、しきい値をどこに設定すべきかの参考情報がこちらにありますので、ぜひご覧ください。)
しかしこの方法も完璧ではなく、以下の2つの欠点があります。
- データが少ない状態でプロダクト・マーケット・フィットを測ることになる
- 自分に都合が良いような理屈づけができてしまう(バイアスがかかってしまう)
そのため、私はこの手のデータを、プロダクト・マーケット・フィットを測る潜在的な先行指標とみなす一方で、ステップ3やステップ4に進むべきと考えます。
3. リテンション・カーブ
プロダクト・マーケット・フィットの3番目のチェックポイントはリテンション・カーブです。(訳者注: リテンション・カーブに関する詳細はこちらから確認いただけます)
リテンション・カーブは、ユーザーがサービスやプロダクトを使い始めてからの経過時間ごとにアクティブ率やリテンション率を可視化したチャートで、横軸は経過時間、縦軸が例えばアクティブ率(プロダクトを継続して利用している顧客の割合)を表しています。
もし、あなたのプロダクトのリテンション・カーブが上図のプロダクトAのように、ある時点で横ばいになっているのであれば、少なくともあなたのプロダクトは「特定のマーケット」において、プロダクト・マーケット・フィットを達成したと想定できます。
次に注目したいのは、その特定のマーケットがどのようなマーケットで、その規模はどの程度なのか、ということです。
上記は、あなたのプロダクトを継続的に利用するユーザーと、そうならないグループを調べることで理解が可能です。違いが出るグループを見つけられなければ、それはプロダクトがフィットするマーケットを見つけられていない、ということです。
そして、そういったことを調べるために有効な以下の2つの方法があります。
- リテンション・カーブをセグメントに分ける
- 定性調査を利用する
1つ目のリテンション・カーブをセグメントに分けるときに、よく利用するのは以下の3つの軸です。
- 統計データ (性別、年齢、所在地、業界、企業規模などプロダクトのタイプに紐付く情報)
- 時間(訳者注: こちらはプロダクトの利用時間であることが想定されます)
- 流入経路
上記以外にも、ビジネスやプロダクトの種類に応じて、ユーザーをいくつかのセグメントに分けて、リテンション・カーブを確認してください。
2つ目の方法は、サービスを継続して利用した人とそうでなかった人の違いを特定するやり方です。
なお、リテンション・カーブにも欠点があり、それはデータの収集に時間がかかるということです。
もちろん、日単位でのリテンション率をモニターすることになるメッセージング、ゲーム、写真などのコンシューマーをターゲットにしたプロダクトやサービスの場合、比較的短時間でデータの収集が可能です。
一方で、例えば、旅行などの季節の影響を受けるサービスや、B2BのSaaSサービスでは、毎月のリテンション率を使ってリテンション・カーブを描くことになるため、データの収集に時間がかかります。
しかし、顧客のリテンションがなければ、収益が増加していても意味がないことも踏まえると、リテンション・カーブはプロダクト・マーケット・フィットの最高の証となります。
4. 3つの指標を使った最後の確認
例えば、SnapChat(例: 米国発の写真共有サービス。)がプロダクト・マーケット・フィットを達成していることはいうまでもありません。彼らは以下の3つのポイントを同時に満たしていました。
- 収益の成長(例: 20万回のダウンロード)
- 顧客のプロダクトのコアな体験に関わるアクションの実行(例: 1日平均10 枚の写真の送付)
- 高いリテンション率(例: ユーザーの50%が毎日サービスを利用)
これらの3つが揃っている場合、プロダクト・マーケット・フィットが確実に達成されていると言えます。
プロダクト・マーケット・フィットの検証は一度では終わらない
これまで説明してきた3つのステップのチェックは一度きりで終わるものではありません。
なぜなら、マーケットは絶えず変化し続けているため、その変化に合わせてあなたはプロダクトを常に改善することになるからです。
そのため、プロダクト・マーケット・フィットを維持し続けられているかをモニターするために、繰り返し3つのステップを検証し続ける必要があるわけです。
また、企業はビジネスを大きくするために、ターゲットの顧客を拡張する傾向があります。そういったときにも、プロダクト・マーケット・フィットを維持できているかを理解するために、今回紹介したプロセスを繰り返し実行することが重要です。
以上、要約終わり。
あとがき
今回は、「プロダクト・マーケット・フィット」を測る4つのチェックポイントを紹介しました。記事の中で紹介されていた測定方法の大半は複雑なものではありませんでしたが、いざ、自分達のプロダクトやサービスのデータを使って実践してみようと思うと、データベースからデータを抽出し、集計、結合、計算するスキルが求められると言えそうです。
また、記事の中では、リテンション・カーブに違いがあるグループを見つけることで、自分達のプロダクトがフィットしているマーケットを見つけられることが紹介されていましたが、考えられる全ての要素でリテンション・カーブを作っていては途方もない時間がかかってしまいます。
そこで、データの加工、可視化、分析、レポーティングのためのUIツールのEpxploratoryを使うと、UIを通して、データの集計や計算を、UIを通して、数クリックで簡単に行うことが可能です。
さらにUIを通して、「生存モデル」と呼ばれる統計や機械学習の予測モデルを使って、複数の変数(要素)の中で、どの変数がリテンション・カーブに影響を与えているのか、その中でも最も影響強い変数が何かも簡単に分析できます。
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