SaaSを初めとするサブスクリプション型の多くのビジネスでは、顧客は実際にサービスを試して、価値を感じたときに有料にプラン切り替えます。
SaaSの世界では、このようにサービスの価値を身をもって体感する瞬間を「アハ・モーメント」と呼びますが、「アハ・モーメント」を「特定のアクションを実行した状態」として定義できれば、「アハ・モーメント」に達した顧客の割合から、将来の顧客のコンバージョンが増えるのか、あるいは減るのかを推定することができたり、あるいは、「アハ・モーメント」に達していない顧客を重点的にサポートできます。
しかし、何をもって顧客がプロダクトやサービスの価値に気付いたのか、言い換えれば、「アハ・モーメント」の測り方を説明できる人は多くはいません。
この「アハ・モーメント」を測る決まったやり方はありませんが、1つのやり方を紹介するブログポストがありましたので、こちらに要訳として紹介します。
- Finding aha moment - Two approaches - リンク
はじめに
「アハ・モーメント」を探すときによくある間違いは、特定のアクションを取っているかどうかで、リテンション率が変わってくるかを調べたりと、すぐに定量的な分析を始めてしまうことです。
「アハ・モーメント」を探すときのより良いアプローチは、定性的な手法で想定される「アハ・モーメント」を洗い出し、定量的な手法で「アハ・モーメント」の定義を調整していく進め方です。
定性的な方法で「アハ・モーメント」を候補を出す
アハ・モーメントを探索したければ、あなたのプロダクトやサービスの価値を理解し、それを定期的に使用しているユーザーに対して詳細なインタビューを行い、以下のような質問をすることから始めてください。
- あなたのプロダクトやサービスは、どういったったタスクをこなすことに強みやを持っていますか?
- そのタスクを達成するために利用できる代替サービスやプロダクトは何ですか?
- そういった代替品と比較したときに、あなたのプロダクトやサービスはどのような付加価値がありますか?
例えば、Web会議ツールのZoomに対するインタビューを行うと、Zoomの価値は、高い接続品質にあること、言い換えれば、「アハ・モーメント」は、Web会議の参加者全員が、接続の問題に直面しないグループ通話ができた瞬間かもしれません。
また、Facebookを運営するMetaのWorkplace from Meta(訳者注: 会社内のコミュニケーション・プラットフォーム。チャット、ニュースの投稿、ナレッジの集約機能を提供する)の場合、それはユーザーが1週間たらずでこれまで以上に会社や同僚について多くのことを学べた瞬間でした。
この例における「アハ・モーメント」は、同僚の投稿を10回閲覧したり、あるいは、コメント・メッセージの送受信・「いいね!」など、何らかのアクションを10回起こした瞬間かもしれません。
このステップのポイントは、ユーザーが「プロダクトやサービスの価値を実感した」、と捉えられる具体的な行動を定義して、いくつかの候補を挙げることにあるため、この時点で「アハ・モーメント」の瞬間を、1つ絞り込み、厳格に定義する必要はありません。
定量的な手法で「アハ・モーメント」を定義する
「アハ・モーメント」の候補を絞り込むことができたら、定量的なアプローチで、「アハ・モーメント」の定義していきます。
このとき以下の3つのポイントを抑える必要があります。
- 特定のアクションを実行するユーザーは、成功する可能性が高くなる。言い換えれば、あなたのプロダクトやサービスを定期的に利用し続けてくれることになります。
- 特定のアクションを実行しないユーザーは、成功しない可能性が高くなる。言い換えれば、彼らはあなたのプロダクトやサービスを定期的に利用してくれない、ということです。
- ユーザーの行動とユーザーの成功の間には因果関係に近い関係があるべき。
そこでよく使われるアプローチとして、「アハ・モーメント」を「サインアップ後 Y 日以内に Xのアクションを実行した」という形式で、定義するやり方があります。
このときのアクション(X)に相当するのが、先程のセクションで紹介した方法を使って検討した内容になります。なお、時間に制限を設けているのは、全ての新規ユーザーは、あなたのプロダクトやサービスを試し続ける無限のモチベーションを持ち合わせてはいないからです。
しかし、このとき1つの問題が生じます。それは、「Y」 をどのくらいの長さに設定するべきか、ということです。この設定は、プロダクトやサービスのタイプによって変わってきます。
日常的に利用されるようなサービスの場合、サインアップ後1日または数日の期間で十分ですし、旅行に関わるようなサービスの場合、その期間は数ヶ月に渡るかもしれません。
例えば、Workplace を例に考えると、Workspcaeはビジネスユーザー向けの製品のため、「アハ・モーメント」を測るときには登録後1週間(7日間)の活動に注目すると考えることが可能です。
上記とこれまで検討した内容を踏まえると、Workplaceの「アハ・モーメント」について、以下の2つの仮説を立てられます。
- ユーザーはサインアップした7日間でX件の投稿を閲覧した
- ユーザーはサインアップした7日間でX回、コンテンツに関連するアクションを起こした
「アハ・モーメント」とユーザーの「成功」の関係
「アハ・モーメント」に関する仮説を立てた後に知りたいことは、それぞれのアクションの最適な実行回数です。このことを理解するために、以下の関係に注目します。
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「アハ・モーメント」に達することと、長期的なユーザーの成功(例:サインアップから4週間後もサービスの利用を継続している)の関係
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「アハ・モーメントは」に達しないことと、長期的にユーザーが成功しないことの関係
理想は、特定のアクションを実行するユーザーの成功確率が一番高くなることであり、同時に、同様のアクションが実行されなかった場合、より多くのユーザーの失敗確率が高まるところに、最適な実行回数を指定することです。
なお、ここでは何をもってユーザーが「成功」しているかを決める必要があります。
例えば、先程のWorkplaceでは、「サインアップ後、4週目にユーザーが再び戻ってきたか、あるいはサービスを継続しているかどうか」をユーザーの成功基準として設定するようなイメージです。
この4週間という指標は、Workplaceユーザーのリテンションカーブ(訳者注: サービスの利用を始めてからの経過時間ごとのリテンション率を可視化した曲線。詳細はこちらで紹介しています)が平坦になるタイミングです。
成功の基準が決まったら、ユーザーごとのデータを取得します。今回の例では、4週間以上前にサインアップした新規ユーザーのデータを取り出します。そして、特定のユーザーが成功したかどうか、つまり4週目にアクティブであったか、どうかを判断する列を追加します。
最終的に1行が1ユーザーになっていて、以下の情報を列を持つデータを作ります。
- 最初の7日間に1件以上の投稿を閲覧したかどうか
- 最初の7日間に2件以上閲覧したかどうか
- 最初の7日間でN件以上の投稿を閲覧したかどうか
このデータを使って、以下のように、N件以上の投稿を閲覧したユーザーの成功率(4週目以アクティブであったかどうかの割合)を計算します。
例えば、最初のバーは最初の7日間に1件以上投稿を閲覧したユーザーが成功した割合(確率)で、2つ目のバーは最初の7日間に2件以上の投稿を閲覧したユーザーが成功した割合(確率)になるわけです。
次に知りたいのは、以下のような、設定したアクションを実行しなかったユーザーのうち、自分達の、プロダクトやサービスの価値を理解せず、成功に至らなかった(4週目にアクティブでなかった)ユーザーの割合です。
最初のバーは最初の7日間に1件以上、投稿を閲覧しなかったユーザーが、成功しなかった割合(確率) で、2つ目のバーは、最初の7日間に2件以上の投稿を閲覧しなかったユーザーが成功しなかった割合(確率)になるわけです。
さらに、ここで知りたいのは、これらの2つの指標が最適になるタイミングです。
そのタイミングを決める方法はいくつかありますが、1つのやり方は、2つの指標を掛け合わせて、結果が最大になる値を選択する方法です。(訳者注: ここでいう、「特定のアクションを取った人が成功する確率」は、設定したアクションを実行することが、成功する人をどれだけ多く予測できているかの指標と言えます。また。「特定のアクションを取らなかった人が失敗する確率」は、設定したアクションを実行しないことが、失敗する人をどれだけ多く予測できているか指標といえます。この両者を掛けることで、特定のアクションを実行する/実行しないことと、ユーザーの成功/失敗の両者をよりうまく、分けられるしきい値を探ろうとするアプローチになるかと思います。)
すると、今回のケースでは「最初の7日間で5件以上の投稿を閲覧したかどうか」と決めることができるわけです。
「アハ・モーメント」の調整
これで、「アハ・モーメント」をどのように定義するかが見えてきました。あとは、どの「アハ・モーメント」の候補が一番、データに合っているかを確認します。
例えば、次のようなケースを考えてみます。
登録から7日以内に5件の投稿を閲覧したユーザー
- このアクションを行ったユーザーの成功率は65%でした。
- このアクションを行わなかったユーザーの失敗率は55%でした。
登録から7日以内に7回、インタラクションが発生したユーザー(訳者注: コメント・メッセージの送受信・「いいね!」などのアクションを起こしたユーザー)
- このアクションを行ったユーザーの成功率は85%でした。
- このアクションを行わなかったユーザーの失敗率は75%でした。
成功率と脱落率がそれぞれ100%に近づけば近づくほど、両者を掛けた指標が、ユーザーが感じた価値と連動するため、上記のケースでは、2番目のアクション(「登録後7日間に7回コンテンツを利用した」)の方が成功率と脱落率の両方をよりよく表現しているため、より定義と考えることができます。
「アハ・モーメント」と成功の関係の検証
これまでの説明で、「アハ・モーメント」定義の仕方を説明してきました。
しかし、ここで気を付けるべきことがあります。それは、今回定義したユーザーの行動とユーザーの長期的な成功との相関関係は、因果関係を意味するものではないということです。
そのため、最終的は、指定したアクションを実行されることで、ユーザーがプロダクトやサービスに価値を感じ、使い続けてくれるかを確認する必要があります。
上記を確認する唯一の方法は、実験を行うことです。A/B テストは、この目的のために頻繁に使用されます。A/Bテストを通して、指定したアクションを実行したことによって、ユーザーの成功率があがるかを確認できます。(訳者注: 今回のケースに当てはめて考えると、例えば特定のユーザーに対して、7日間に7回以上コンテンツを利用するように介入し、その結果によって、サインアップしてから4週間以降、サービスを使い続けてくれる割合が増えるか、言い換えれば成功率が増えるかどうかを調べるとになるかと思います)
以上、要約終わり。
あとがき
今回は、「アハ・モーメント」を探索して、定義する方法を紹介しました。
記事で触れられていた、「アハ・モーメント」の見つけ方自体は、そこまで複雑な内容ではありませんでしたが、例えば、アクションの最適な実行回数を計算をするためのデータを集計する作業や、二つ(成功率とと失敗率)のデータを掛け合わせる作業をスピーディーに行うためには、データベースからデータを抽出し、集計、結合、計算するスキルが求められると言えそうです。
また、実際に定義した「アハ・モーメント」が本当にユーザーの成功と相関しているかを調べるためのA/Bテストを実施するためには、プログラミングのスキルが求められることも少なくありません。
そこで、データの加工、可視化、分析、レポーティングのためのUIツールのEpxploratoryを使うと、UIを通して、複雑な条件を元にした集計やA/Bテストを、UIを通して、数クリックで簡単に行うことが可能です。
サブスクデータ分析: トライアルツアー
上記にて紹介したA/Bテストなどの分析手法とは別に、サブスクリプション型のビジネスに特有な指標の作成・可視化や分析の手法をコードを書くことなく、ハンズオンを通して無料かつ短時間で学んでいただけるコンテンツをまとめています。
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