SaaSを始めとするとサブスク型のビジネスでは、顧客のリテンションが最重要なため、リテンション率などの指標をモニターします。
しかし、リテンション率は顧客の「サービスの利用期間」の影響を大きく受けてしまうため、サービスの利用期間が異なる顧客をひとまとめにすると、顧客のリテンションを適切に測れない問題が生じます。
そこで、SaaSの世界では、顧客を「サービスの利用開始時期」でグループに分けて、そのグループごとにリテンション率などの指標をモニターする「コホート分析」という手法がよく使われるのですが、このコホート分析で利用すべき指標をまとめて紹介する記事がありましたので、こちら要訳として紹介します。
- Your Complete Starting Guide To SaaS Cohort Analysis - リンク
はじめに
SaaSのビジネスで、顧客のリテンションを最も正確に測定する方法の1つがコホート分析です。
コホート分析は、顧客がサービスの利用を開始した時期や、顧客の属性やサービスの利用状況のデータをもとに、顧客をセグメントに分けて行うデータ分析の一種で、各セグメントのリテンション率などの指標が時間の経過とともに、どのように変化しているのかをモニターします。
例えば、6月に契約した顧客のリテンション率が、前月である5月に契約した顧客のリテンション率より大幅に高ければ、6月の顧客において何かがうまくいっている、と捉えられます。
また、ある特定の機能を利用している顧客セグメントが、他のセグメントよりもリテンション率が高い場合、ビジネスの成長や改善のためのヒントが隠れている可能性があります。
このように、コホート分析を行うことで、顧客のリテンションを的確に評価することができるだけでなく、データを元にプロダクトやリテンションに対する取り組みの改善を検討できるようになります。
コホート分析で見るべき指標
ここからは実際のビジネスでコホート分析をするときにモニターすべき指標を以下のテーブルを使って紹介します。
上記のテーブルでは、各行がコホート(例: 1月にサービスの利用を開始したグループ)を表しており、各列にはその経過月数における各指標の値が入っています。
1. 顧客数
サービスの利用を開始した時期(例: 月あるいは四半期)をもとに顧客をセグメントに分けることで、時間の経過とともに獲得した顧客がどれだけサービスを継続しているのかを理解できます。
2. リテンション率
コホートごとに顧客数の推移をモニターできたら、次にモニターすべきは、どの程度の顧客がサービスの利用を継続しているかの指標であるリテンション率です。
ここでの分母は、各コホートが利用開始をしたとき、言い換えれば各コホートの初月の顧客数になり、分子は任意の経過月までサービスの利用を継続している顧客数です。
例えば、下図のテーブルのように、1月に100人の顧客がサービスの利用を開始している場合、その顧客は1月のコホートに属していることになります。
また、そのうちの80人が2月の終わりまでサービスを継続しているとしたら、1カ月後の顧客のリテンション率は80%になります。
同じコホートに注目したときに、8月には50人の顧客しかサービスを継続していないため、8月までのリテンション率は50%となるわけです。
各コホートのリテンション率を計算することで、時間の経過に合わせてサービスに対するロイヤルティがどのように変化しているかを理解できます。
3. ネットMRR
複数の料金プランが設定されているサービスの場合、プランのアップグレードやダウングレードが生じるため、全ての顧客が同じだけの費用を毎月払っているとは限りません。
そのため、顧客数のリテンション率を計算しているだけでは、収益の変動を捉えきることがきません。そういったときには、MRR(月間定期収益)を指標として利用します。
収益のリテンション率を指標として利用することで、特定のタイミングにサービスの利用を開始したコホートからどれだけの収益を、継続して得られているかを確認できます。
なお、このときのMRRは以下を考慮した 「ネットMRR」 であるべきことに注意をしてください。
- エクスパンション: プランのアップグレードなどによって得られる追加収益
- コントラクション: プランのダウングレードなどによって失った収益
ネットMRRを利用することで、各コホートから継続してどれだけの収益を得られているかを把握することができます。
なお、各コホートから得られるネットMRRは、そのコホートに含まれる顧客から得られた当月の収益の合計値なので、複雑な計算は不要です。(訳者注: SaaSの世界では、各コホートから得られるネットMRR積み上げて、そのトレンドを可視化したレイヤー・ケーキ・チャートが非常によく利用されます。詳細はこちらをご覧ください)
4. ネット・レベニュー・リテンション率
ネットMRRより重要な指標は、ネット・レベニュー・リテンション率(訳者注:プランのアップグレードや、アカウント増加に伴う収益増を考慮した収益のリテンション率。詳細はこちらをご覧ください)です。
ネット・レベニュー・リテンション率を利用することで、各コホートから得られる収益を時間の経過とともに、どれだけ維持できているのか、あるいは増やしていけているのかを確認できます。
ネット・レベニュー・リテンション率を使ってコホート分析をするときは、コホートごとにその月に得られたネットMRRを、そのコホートから得られた初月の収益で割ることで計算できます。
例えば、1月に利用を開始したコホートの3カ月後のネットMRRに注目してみます。
ネットMRRは2,100ドルで、このコホートから得られる初月の収益は3,000ドルのため、ネット・レベニュー・リテンション率は70%になるわけです。
なお、ネット・レベニュー・リテンション率が重要なのは、長期にわたって「収益」をどれだけ維持できているかを理解できるからです。
ちなみに先程紹介したビジネスでは、ネット・レベニュー・リテンション率の値が100%を超えているコホートがあります。
これは、そのコホートから得られる当月の収益が、そのコホートから得られた初月の収益より増えていることを表しており、エクスパンションのための施策がうまくいっていることを想定できます。
5. 総収益
各コホートから得られる総収益も重要な指標です。
コホート分析の指標に総収益利用することで、特定のコホートから、サービスの利用開始から通算でどれだけの収益を得られているかを理解できます。
顧客があなたのサービスに熱中していれば、熱中しているほど、生涯収益は月を追うごとに増加します。逆に、キャンセル率が高ければ、総収益の増加は減っていき、最後は横ばいに近づいていきます。(訳者注: 各コホートから得られる総収益を使って、ビジネスの効率性を測る方法を過去に紹介しています。詳細はこちらをご確認ください)
以上、要約終わり。
あとがき
今回はコホート分析で利用すべき5つの指標を紹介しました。
コホート分析のコンセプト自体は難しいものではありませんが、実際に自分達のデータを使って、コホート分析を行おうとすると、顧客一人一人にサービスの利用開始時期のラベルをつけて、コホートごとに各指標を集計・計算することが必要です。
そのため、データベースからデータを抽出し、集計、計算をするプログラミングのスキルが求められることも少なくありません。
また、仮にある時点におけるコホート分析ができたとしても、その作業にあまりにも多くの時間がかかってしまうため、一回きりの作業で終わってしまい、継続してモニターできないこともあるかもしれません。
そういったときには、例えば、データの加工、可視化、分析、レポーティングのためのUIツールのEpxploratoryを使うと、プログラミングをすることなしに、コホート分析を実行することが可能なだけでなく、その計算を自動化することも可能です。
ご自身のデータを使って、コホート分析を試したい方は、下記のリンクより無料トライアルが可能ですので、是非、お試しください!
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