どうも!ExploratoryのIkuyaです。
前回は以下の記事で、SaaSビジネスにとってNorth Star指標がいかに重要であるかという話をしました。
- グロースハックの生みの親が、KPIの前にまずは北極星となる指標を定義しろと主張するわけ - リンク
そこで今回は、FacebookやNetflixなどのシリコンバレーのテック企業がどのようにNorth Star指標を設定しているのかについて書かれている記事があったので、そちらを紹介したいと思います。
- Every Product Needs a North Star Metric: Here’s How to Find Yours - リンク
以下、要約。
North Star指標とは何か、そしてなぜ重要なのか
プロダクトにとってのNorth Star指標というコンセプトは、最近よく使われる製品戦略のフレームワークの中で最も強力なものである一方で、最も誤解されているものでもあります。多くのプロダクト・チームはNorth Star指標を設定していなかったり、誤って設定してしまうことで、チームを悪い方向に導くことになったりしています。
またNorth Star指標はプロダクト・チームの成功にとって重要です。なぜかと言うとNorth Star指標は製品チームが解決しようとしている顧客の課題と、それを解決することで得られる収益との関係を的確に捉えているからです。
Norh Star指標は全ての会社にとって重要な以下3つの事柄に役立ちます。
- プロダクト・チームが集中すべきこと、かわりに諦めるべきことを明確にし組織間の連携を生み出す。
- プロダクト・チームがもたらすインパクトとその進捗を誰もが追えるようになり、結果として製品戦略にとって重要なイニシアチブのサポートが得られる。
- ビジネスの結果に対してプロダクト・チームが説明責任を負いやすくなる。
また、もしあなたが製品戦略を決めたり、その戦略を実行する立場にあるのであれば、North Star指標を理解するための2つの質問があります。
質問1:優れたNorth Star指標とは?
良いNorth Star指標は以下2つの要素を備えています。
- プロダクトのビジョンを体現している
- その時の製品戦略の重要な指標として機能する
例えばAmplitudeの現在のNorth Star指標は以下です。
AmplitudeのNorth Star指標
ビジョン:企業のより良いプロダクト開発をサポートする
より良い顧客体験をもたらすものが何であるかを、プロダクトを通して伝え、全ての顧客のビジネスの成長、プロダクトのビジョンの実現に役立つ。
North Star指標:1週間でクエリを発行したユーザの総数
(Amplitudeのユーザーがクエリを発行することで、彼らが顧客に対して抱く疑問を解消していくという意味において)Amplitudeが週に1度以上、ユーザーが抱く疑問に回答できたユーザーの総数。
現在、Amplitudeは急速に成長しているため、Weekly Querying Users(WQU)というNorth Star指標を設定しています。具体的にこの指標は少なくとも週に1度以上、価値を得ている顧客の数を反映していて、長期にわたってアカウント数を拡大・維持していくうえで主要な先行指標となっています。
優れたNorth Star指標は顧客が感じた価値と一致する
North Star指標は、顧客がプロダクトの価値を感じることがどのような状態であるのかを理解したうえで設定されるべきです。
それはビジネスへのインパクトと向き合うことと同じ意味です。それゆえデイリーアクティブユーザーやサインアップ数といった指標は良い指標にはなりません。その数字は顧客がプロダクトから得た価値について何も説明していないからです。
North Star指標が顧客の感じるプロダクトの価値に直接結び付いていない場合、ビジネスを間違った方向に導くリスクが生じます。
LinkedinのNorth Star指標
例えばLinkedinのデータサイエンス・チームは最近、興味深いケーススタディーを公表しました。それはエンドースメント機能(訳者注:自身のスキルをリストアップして、つながっている知人がそれを推奨する機能)のNorth Star指標を改善してもプロダクト体験は向上しないというものでした。
というのも彼らは「エンドースメントが承認されたか」をNorth Star指標に設定したのですが、リクルーターはこのエンドースメント機能による結果が間違っていることを恐れたためLinkedinのビジネスの改善には役立たなかったということがあります。
優れたNorth Star指標は成功の先行指標だ
顧客が感じるプロダクトの価値というのは、プロダクトによって異なるはずなので、North Star指標はプロダクトによって違うべきものです。そしてそれは将来の成功のための先行指標であるべきなのです。
例えば 月間定期収益や顧客あたりの平均売上といった遅行指標からは(製品戦略のイニシアチブ)による影響を事前に捉えることができません。未来の収益を予測する役には立たず、過去何が起こったかしか教えてくれないのです。
あるeコマース企業のNorth Star指標
フォーチュン100(訳者注:全米の総収入の上位100社のリスト。)に入る小売業者でもあった我々の顧客の1人は、モバイルを戦略的優先事項に据えていたため、モバイルコマースでのビジネスに注力していました。
彼ら・彼女らにとってのNorth Star指標はモバイルからのオーダーの納品数でした。この指標は彼ら・彼女らが戦略的に集中していた領域であるモバイル・アプリからのオーダー数だけでなく、支払い・配送・返品に関する問題がおきずに商品が届けられたこと、つまり良い顧客体験そのものを捉えています。
プロダクトの世界では、こういった体験を得た瞬間のことをアハ・モーメントと言ったりするのですが、顧客の定着につながる初期の行動が特定できれば、効果的なNorth Star指標を見つけることができます。
North Star指標は将来のビジネスの結果に対する主要な先行指標であるべきなのです。
FacebookのNorth Star指標
ちなみにFacegbookは初期の頃、「最初の10日間に7人の友人を追加したユーザー数」をNorth Star指標としていました。
DropboxやHubspotのNorth Star指標
DropboxやHubspotのようなBtoB向けのSaaS企業の場合、その指標は「トライアル開始から1週間で3人以上のアクティブなユーザーがいる企業の数」になるでしょう。
この指標はプロダクトに価値を見出している潜在的な企業の数を表しており、将来のコンバージョンやサブスクリプションによる収益の見通しに役立ちます。
またInstacart(訳者注:シリコンバレー発の買い物代行サービスを運営する企業)のように急成長している企業は、多くの場合、新しいユーザーのアクティベーション数、例えば最初の注文を完了した週ごとのユーザー数をNorth Star指標としています。この後アクティベートしたユーザーを維持し続ける術がわかっているのであれば、この「アクティベートした新規ユーザーの数」をビジネスの収益の先行指標としてモニターし、その改善にリソースを集中することができます。
まとめ
優れたNorth Star指標には3つの特徴があります。
1.顧客にとっての価値が定量化されている
優れたNorth Star指標は顧客があなたのプロダクトに価値を見出す瞬間を捉えます。
2.製品戦略を体現している
優れたNorth Star指標はそのときどきの製品戦略を体現します。
3.売上の先行指標である
企業が気にかける将来のビジネスの先行指標であるということです。
質問2:優れたNorth Star指標をどのように見つけるか?
ビジネスに見合ったNorth Star指標を見つけるうえで、最も重要なことは、自分が参加しているゲームを理解することです。
我々は11,000社を超える企業のプロダクトと3兆におよぶユーザー・アクションを調査して、すべてのデジタル・プロダクトが以下3つのゲームのどれかに参加していることが分かりました。
- アテンション・ゲーム:どれだけの時間をプロダクトの利用に費やしてもらえるか
- トランザクション・ゲーム:どれだけの商業トランザクションがプラットフォーム上で発生するか
- 生産性ゲーム:どれだけ価値の高いデジタルタスクを顧客がプロダクト上で処理できるか
このフレームワークを様々なプロダクトマネージャーに伝えると、「3つのゲーム全てが我々にとって重要だ」とよく言われます。
しかしプロダクト・チームはどのゲームに参加するかを決断し、そのゲームに勝つために集中することが求められます。1つのゲームに集中することは製品戦略にとって重要であり、それは優れたNorth Star指標を選択することに直結します。
以下は、これら3つのゲームに参加しているFacebookを始めとするテック企業で想定されるNorth Star指標の一例です。
同じゲームに参加していても、North Star指標は独自の製品戦略を反映しているため、根本的に異なる指標を持つことになります。
アテンション・ゲーム
企業 :Facebook
North Star指標:投稿内容に対して興味を持ち積極的に過ごした時間企業:Netflix
North Star指標:月あたりの視聴時間がX時間以上の購読者の数
FacebookのとNetflixの両方がアテンション・ゲームに参加する一方で、両者のビジネスモデルは根本的に異なっています。Facebookは(スクロールすることでより多くの広告が表示されるという意味において)ユーザーが興味を持ったフィードの量に比例して収益を得ています。
一方、Netflixはサブスクリプション型のビジネスモデルを採用しています。それゆえFacebookとは異なり、ただ単にサービスとしての総視聴時間をNorth Star指標とするのではなく、(SaaSは有料購読者の数だけ収益が増えるので)購読者数を最大化させる指標をNorth Star指標とするわけです。
トランザクション・ゲーム
企業:Amazon
North Star指標:プライム会員一人あたりの購入金額企業:Walmart
North Star指標:来店/訪問/セッションあたりの購入金額
またAmazonのリテール部門とWalmartも同じトランザクション・ゲームの参加者であるにも関わらず、大きく異なるNorth Star指標を持ちます。
Amazonのリテール部門は売り切りのビジネスだけをやっているように見えますが、Amazon プライムなど定期収益を得るサブスクリプション型のビジネスもしているので、LTV(訳者注: Life Time Value / 顧客生涯価値)最大化のためにプライム会員数とプライム会員に提供する価値を最適化することが必要です。
一方でWalmartは(売り切りのビジネスモデルを採用しているため)1回の訪問ごとの顧客の支出をできる限り多く獲得することに集中すると言えます。
生産性ゲーム
企業:Salesforce
North Star指標:顧客あたりの平均レコード作成数企業:Adobe
North Star指標:エンゲージメントが高いサブスクリプション・サービスの購読者数
生産性ゲームに参加しているSalesforceはB2B企業の顧客の情報源の中心になることを目指しています。そう言った意味においてSalesforceのNorth Star指標はユーザーの獲得数ではなく、彼らが保存している顧客のデータの量に集中するものべきであることを意味しています。
一方、Adobe Creative Cloudは個々の購読者に焦点を当て、継続的にサブスクリプションを購読し続けてくれるために十分なエンゲージメントがあるかどうかに注目しています。
以上、要訳終わり。
あとがき
本日はNorth Star指標とFacebookやNetflixなどのテック企業がどのようなNorth Start指標を設定しうるかについての記事を紹介しました。
本文でも言及されていたようにNorth Star指標は複数の指標を束ね、ビジネスの目的でもある収益の先行指標となります。
一方で誤ったNorth Star指標を設定しまうとビジネスはおかしなことになてしまいます。そこで正しいNorh Star指標を選ぶことが重要になってきます。
また一度、North Star指標が決まると、North Star 指標の数字を良くするために様々なアクションをしていくことになるのですが、この時に、このNorth Star指標に影響を与えることのできる別の変数をデータから探していくことになります。
この段階では統計や機械学習のアルゴリズムと業務知識を掛け合わせることで、アクションに結びつけることができるインサイトをデータから効率的に得ていくことになります。
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