概要
本記事は,超微細なデバイス開発を目指して,量子力学を概観していきます.今回は量子力学ってどんなものであるか,自由粒子はどのように記述でき,どんな性質を持つのかをシミュレーションを通じて考察していきます.
はじめに
ナノスケールのデバイス開発,特に,電子単位で動作・駆動するデバイス開発とそれを補助するためのシミュレータ開発を再開しています.それにあたって,基本的な量子力学的な物理モデルを理解しておく必要があったため,その基礎をまとめるために本記事を書いています.
この記事では,ナノスケールの自由粒子と一般解についてまとめる.
原理
量子論の基礎
物質が波の性質を持つということは,波を記述する関数が存在し,それの従う方程式が存在することを意味する.この物質波を表す関数を波動関数とよび,従う以下の方程式をシュレディンガー方程式と呼ぶ.
$$
i\hbar \frac{\partial \psi}{\partial t}\psi (t, \mathbf{r}) = \left(-\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2 + U(t, \mathbf{r})\right) \psi(t, \mathbf{r})
$$
ここで,$i = \sqrt{-1}$は虚数単位,$\hbar = h/2\pi$は換算プランク定数,$m$は粒子の質量,$U(t, \mathbf{r})$はポテンシャルエネルギーである.
この式は電子や陽子などの量子力学的粒子が従う基本方程式である.ナノデバイスの設計では,ポテンシャル$U(t, \mathbf{r})$をどのように与えるかを考えることが重要である.
自由粒子
自由空間を運動する粒子について考える(自由粒子と呼ぶ).この粒子は$U(t, \mathbf{r}) = 0$としてシュレディンガー方程式を解くことで粒子の波動関数を求めることができる.すなわち,
$$
i\hbar \frac{\partial}{\partial t} \psi(t, \mathbf{r}) = -\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2 \psi(t, \mathbf{r})
$$
を$\psi(t, \mathbf{r})$について解くことになる.この式の解は
$$
\psi(t, \mathbf{r}) = A \exp\left( i(\frac{\mathbf{p}\cdot\mathbf{r}}{\hbar} - \frac{E}{\hbar}t) \right) = A \exp\left( i({\mathbf{k}\cdot\mathbf{r}} - \omega t) \right)
$$
となる.ここで重要なのは,粒子の運動を特徴づける運動量$\mathbf{p}$とエネルギー$E$を用いて,波の式を構成している点である.
アインシュタイン=ド・ブロイの関係式
\begin{align}
E &= \hbar \omega = h \nu \\
\mathbf{p} &= \hbar \mathbf{k}
\end{align}
粒子の波(物質波)に関する関係式であり,粒子の運動に関する特徴量(エネルギー$E$,運動量$\mathbf{p}$)と波の運動に関する特徴量(周波数$\nu$,波数$\mathbf{k}$)を結びつけるものである.
- $h = 6.62606957 \times 10^{-34} \quad \mathrm{J\cdot sec}$ : プランク定数
今一度,波動関数$\psi(t, \mathbf{r})$を整理すると
$$
\psi(t, \mathbf{r}) = A \exp\left(i \frac{\mathbf{p}}{\hbar} \cdot \mathbf{r}\right) \exp\left( -i \frac{E}{\hbar}t \right) = A \varphi(\mathbf{r}) T(t)
$$
となる.この式をよく見ると,$\mathbf{r}$に依存する項と$t$に依存する項によって構成されている.この波動関数$\psi(t, \mathbf{r})$をシュレディンガー方程式に代入すると,次の方程式を得ることができる.
\begin{align}
\left\{ -\dfrac{\hbar^2}{2m}\nabla^2 + U(\mathbf{r}) \right\}\varphi(\mathbf{r}) = E \varphi(\mathbf{r})
\end{align}
この式を時間に依存しないシュレディンガー方程式と呼ぶ.
ポテンシャル$U(t, \mathbf{r})$を$U(\mathbf{r})$としているのは,$\psi(t, \mathbf{r})$と相互作用して変化してしまうため.
ポテンシャルが時間に依存する場合は,重ね合わせの状態で係数を時間依存させる必要がある.(後の記事で執筆予定)
1次元の自由粒子(ガウス波束)
さて,可視化してみましょう.1次元空間における量子力学的自由粒子は次式の波動関数によって表現される.
\begin{align}
\psi(t, x) &= A \varphi(x) T(t)\\
&= A \exp\left\{ i\left( \dfrac{p_x}{\hbar}x - \dfrac{E}{\hbar}t \right) \right\}\\
&= A \left\{\cos\left( \dfrac{p_x}{\hbar}x - \dfrac{E}{\hbar}t \right) +i \sin\left( \dfrac{p_x}{\hbar}x - \dfrac{E}{\hbar}t \right)\right\}
\end{align}
これで可視化するのは困難なので,ガウス波束で自由空間を進む量子粒子を可視化しました.ガウス波束では,波動関数と確率密度の解析解が求まっている.詳細は参考文献を参照.
先にも述べた通り,波数$k_0$と運動量$p_x$が対応づく.ここでは,波数$k_0$,偏差$\sigma_0$を変化させたときについて考察する.
- 波数(偏差は固定: $\sigma_0 = 0.5 \ \mathrm{nm}$)
- 条件1: $k_0 = 0.5 \times 10^{10} \ \mathrm{m}^{-1}$
- 条件2: $k_0 = 1.0 \times 10^{10} \ \mathrm{m}^{-1}$
- 条件3: $k_0 = 1.5 \times 10^{10} \ \mathrm{m}^{-1}$
- 偏差(波数は固定: $k_0 = 0.5 \times 10^{10} \ \mathrm{m}^{-1}$)
- 条件1: $\sigma_0 = 0.5 \ \mathrm{nm}$
- 条件2: $\sigma_0 = 1.0 \ \mathrm{nm}$
- 条件3: $\sigma_0 = 1.5 \ \mathrm{nm}$
波数の違い
条件1
条件2
条件3
偏差の違い
条件1
条件2
条件3
考察
波数の大きさは運動量に比例するので,波数が大きくなると,波の進行速度が上がっている.また,波数が大きくなるほど波束が崩れる速度も上がっていることがわかる.
一方,偏差を変えると波束の広がりが変化していることがわかる.これは,不確定性原理により,位置と運動量が同時に決定されないため,偏差を小さくすると位置を確定させることができる一方で運動量のブレが大きくなる.そのため,波束を構成する波の速度が大きく変動し,波が崩れやすくなったためと考えられる.
まとめ
今回は,量子力学に基づく自由粒子について簡単に考察してみました.波が空間をどのように進むかがわかったかと思います.今度はナノスケールデバイス開発に応用できる井戸型ポテンシャルについて解説,考察したいと思います.





