1. はじめに:製造業の「資材多すぎ問題」とどう向き合うか
製造部門から「資材の種類を減らして、コストを抑えたい」という相談を受けました。
発注点の管理や在庫スペースの圧縮、調達単価の交渉強化などを目的とした現場の声でした。
ただ、調達コストの削減といっても単純に品目数を減らせば良いという話ではありません。
資材の強度や見た目、加工精度といった製品仕様に深く関わるため、無理に集約してしまうと製造工程に支障が出てしまいます。
そこで今回は、「どこまで集約できれば効果がありそうか?」をデータで検証してみました。
目標は調達コストの10%削減(KGI)です。
2. 課題の整理と仮説の立て方(KGI → KSF → 仮説)
■ KGI:調達コストを10%削減する
■ KSF(成功のカギ)
- 資材の品目数を可能な限り減らすこと
- 1品目あたりの発注量を増やして、ボリュームディスカウントを得ること
- 可能であれば取引先数の集約も目指すこと
■ 仮説として考えたこと
仮説 | 想定される課題 | 結果 |
---|---|---|
樹種ごとに集約する | 木目や強度などの違いにより、製品側での調整が難しい | 不採用 |
最も使用頻度の高いサイズに集約する | 他サイズとの差が大きく、板取効率が著しく悪化 | 非現実的 |
厚みを揃えた上で、一番集約しやすいサイズを選定する | 板取のシミュレーションで効率検証が可能 | 採用 |
最終的には、「厚みを揃えた上で、集約しやすいサイズを探す」という仮説を立てて検証を進めることにしました。
3. 分析条件とシミュレーション設計
■ 分析の前提条件
(Excelシート「前提条件」より)
- 集約の単位は「厚み(t)」ごとに設定しました
- 同一厚みグループ内で、もっとも多くの既存サイズに対応できるものを代表サイズとします
- 歩留まり(=切り出し効率)を考慮し、現実的な必要枚数を算出します
- 集約後の代表サイズを使ったコスト試算が、削減目標内に収まるかを検証します
■ 板取の条件について
- 本来であれば、製品部品からの板取パターンをもとに検証したかったのですが、SKU数が数万点にのぼる上、データ整備も未完了のため断念しました
- そこで今回は、原版(板)から原版(別サイズの板)を採るという、あえて非効率な前提でのシミュレーションを行っています
- 板の90度回転も許容したうえで、何枚切り出せるか(切り出し数)をベースに歩留まり率を計算しました
4. シミュレーションの実施と結果概要
代表サイズを仮定し、各厚みグループごとに以下のような指標で評価を行いました:
- 歩留まり率(=理論必要枚数 ÷ 現実必要枚数)
- 現実に必要となる調達枚数(歩留まり考慮後)
- 割引率(目標単価 vs 現状単価)
- 削減目標との乖離
以下は一例として、2.5mm厚の分析結果をぼかしてまとめたものです。
厚み | 最大サイズ候補 | 歩留まり率 | 現実必要枚数 | 想定単価差 | 集約評価 |
---|---|---|---|---|---|
2.5mm | 920×2440 | 約80% | ○○○○枚 | ▲3% | 集約効果あり(交渉余地あり) |
2.5mm | 960×2440 | 取れない | – | – | 非採用 |
- 歩留まりが80%を下回ると、必要枚数が増加し、単価優位性が消えてしまう傾向がありました
- サイズによっては、そもそも切り出しができない(=歩留まり0%)ケースも存在します
5. 難しさと今後の展望
本来目指したかったのは、「製品部品(SKU)」から板を切り出す実運用ベースでの分析でした。
しかし、SKUデータが未整備な状況では、現実的にそこまで踏み込めませんでした。
ただ、今回のような「板から板を切り出す」形の簡易シミュレーションでも、一定の示唆を得ることができました。
6. まとめ
- 板材の集約は「単価」だけではなく、「歩留まり」や「対応可能サイズ」の観点を含めた総合判断が必要です
- 特に「厚みごとの代表サイズを設ける」という考え方は、現場負荷を最小限にしつつ集約を進める上で現実的なアプローチと感じました
- 今後はデータ基盤を整えつつ、より精緻な最適化や、発注単位の自動設計にも挑戦していければと思っています