1. はじめに
プラントのプロセス設計業務において、ポンプ設計は避けて通れないテーマです。
本記事では、若手プロセスエンジニアがポンプ計算書のマニュアル作成を通して学んだことを整理します。
どうも、プラントエンジニアリング業界に勤める若手プロセスエンジニアです。
今回は実務でポンプ計算シートのマニュアル作成を担当する機会がありました。
ベテランが作成したシートが多数ある中、現プロセス部署のトップの方が「この計算シートを標準にする」と決めました。
そのため、社員全員が使えるようマニュアルが必要となりました。
その過程で、自分自身の理解が浅かった点や、
設計で本当に重要な視点に気づくことができました。
本記事では、ポンプ計算書のマニュアル作成を通して学んだことを整理します。
これから設計業務を始める方の手助けになれば幸いですし、
「ここも気を付けた方がいい」という点があれば、ぜひご教授いただけると嬉しいです。
2. 設計の基本
初めてポンプ計算書を見たとき、
A4一枚にびっしりと並んだ数字に、正直なところ抵抗感がありました。
しかし一つずつ読み解いていくと、
計算自体は意外と基礎に忠実であり、
大学レベルの流体力学や熱力学の知識を理解していれば、
最低限の内容は追えることに気づきました。
以下では、ポンプ設計で最低限押さえておきたい計算項目を簡単に整理します。
2.1 ヘッドの計算
ポンプヘッドは、流体をどれだけの高さ・圧力差で移送するかを表す指標です。
吸込側と吐出側の圧力差、高さ差、配管圧損などを合計して算出します。
式で表すと
(吐出側の圧力)-(吸込側の圧力)
とシンプルですね。
計算式自体は単純ですが、
どの運転ケースを設計条件とするかが重要になります。
2.2 NPSHaの計算
NPSHa(Net Positive Suction Head available)は、
ポンプ吸込側でキャビテーションが発生しないための余裕を示します。
これも式で表すと、
(吸込側の圧力)-(蒸気圧)
とシンプルな式になります。
ここでは「どの圧力」「どの温度を基準にするか」が設計者の判断になります。
2.3 軸動力の計算
軸動力は、流量とヘッドから求められ、
モーター容量選定の基準となります。
後述しますが、
この値は「設計点」だけでなく、
運転条件の変化も意識して確認する必要があります。
3. 設計の注意点
ここからが、今回一番伝えたい内容です。
計算書マニュアルを作成する中で、
実際に計算書を作成したベテランエンジニアに
設計上の注意点をいくつか教えていただきました。
3.1 ヘッドを予測してから計算する
まずは計算を始める前に、
「だいたいこのくらいのヘッドになるはず」
という当たりをつけることが重要だと教わりました。
吸込・吐出機器の圧力条件や高さ関係が分かっていれば、
ヘッドはおおよそ予測できます。
例えば水の場合、
- 配管を10m以上立ち上げる必要があれば、それ以上のヘッドが必要
- 圧力差が100kPa程度あれば、約10mのヘッドに相当
といった感覚です(H[m] ≒ ΔP[kPa] / 9.8)。
計算結果がこの予測と大きくずれる場合、
配管径が小さすぎて圧損が大きい、
あるいはどこかで計算ミスをしている可能性があります。
3.2 NPSHaが現実的な値になっているか
前述の通りNPSHaは、
「吸込圧力 − 蒸気圧」で評価され、
キャビテーションに対する余裕を示します。
過去に、蒸留塔の強制循環ラインのポンプを計算した際、
蒸気圧の扱いで大きなミスをしてしまいました。
本来はタワーの運転条件を基準にすべきところを、
(高圧ガス保安法の勉強で)最近覚えたアントワンの式
を使って蒸気圧を求めてみました。
計算式にミスがあったのか、蒸気圧を過小評価した結果
NPSHaが300mという、明らかに非現実的な値になりました。
これは300m高いところに機器があるときと同様の余裕がある
ということになり、
数値を見た瞬間に「おかしい」と気づく感覚を磨く必要があると感じました。
3.3 オーバーローディングが起きないか
設計段階では、
将来の計器追加や配管変更に対応できるよう、
ヘッドに余裕を持たせることが一般的です。
ただし、余裕をつけすぎることにもリスクがあります。
実際に流れる流量は、
ポンプの性能曲線(Performance Curve)と
系統特性曲線(System Curve)の交点で決まります。
余裕をゼロとした場合
つまり、(設計ヘッド − 必要ヘッド = 0となる点)での流量を
Excelのゴールシーク機能などで算出し、
そのときの軸動力が選定したモーター容量を超えないか
を確認する必要があります。
「とりあえず大きめのヘッドにしておけば安心」
というわけではない、という点は印象的でした。
なお、吐出側に調節弁がある場合は、
弁で圧損を付与して余裕を調整することが可能です。
適切な差圧を確保できる調節弁を選定すれば、
オーバーローディングのリスクは低減できます。
4. まとめ
本記事では、
ポンプ設計の基本的な考え方と、
計算書マニュアル作成を通して学んだ設計上の注意点をまとめました。
計算書は、
単に数値を出すためのものではなく、
設計思想を反映した結果だと感じています。
内容についてのご意見や、
「自分はこう考えている」といったコメントをいただけると嬉しいです。