0
0

Delete article

Deleted articles cannot be recovered.

Draft of this article would be also deleted.

Are you sure you want to delete this article?

同意チェック一つで、ループはもう自動で回り始めていた ── 5プロジェクト並走で気づいたループエンジニアリングの実感

0
Last updated at Posted at 2026-08-13

同意チェック一つで、ループはもう自動で回り始めていた ── 5プロジェクト並走で気づいたループエンジニアリングの実感

タグ:AI ClaudeCode ループエンジニアリング Supabase プロダクト開発

はじめに

昨日の夜、19時02分から20時03分までの1時間で、私は同じチェックボックスの文言を5回書き直していた。

作っていたのは「心の重り偏差値マップ」という診断ツールだ。

Figure_holding_glowing_barbell_o…_202608132023.jpeg

ACEs(Adverse Childhood Experiences/逆境的小児期体験)と呼ばれる、子ども時代に負った心理的な負荷を、科学的根拠に基づいて数値化するツール単体に絞る予定だったが、それだけでは飽き足らずエビデンスベースの研究結果を7本を統合し、限りなく人生のライフイベントを全網羅するように努めた。現在は任意団体であるが一般社団法人に移行予定の ACEs CARE HUB JAPAN のツールの一つだ。

その夜、私がやっていたのはこういう作業だった。Claude に「これでpushして」と言う。Claude が1〜2行で変更内容を要約してくる。私が「OK」と返す。コミットされて、push される。また直す。また「これでpushして」。

git のログを見返すと、笑ってしまうくらい正直に残っている。

19:02  同意チェックボックスの文言を修正し任意性を明記
19:10  同意チェックボックスの文言を簡潔化
19:50  同意チェックボックスの文言を2行以内に短縮
19:55  同意チェックボックスの文言から補足を削除し1文に短縮
20:03  同意チェックボックスの文言に「政策提言」を追加

同じ画面の、同じチェックボックスの、同じ一文を、1時間で5回。しかもその1時間前の18時01分には、スコアの重み付けを見直して、判定区分を9段階に細分化するという、もっと大きな修正も入れている。

神は細部に宿るという、少しでもユーザーが使いやすく、みやすく、気軽に試せるように妥協はしない設計だ。

このチェックボックスは、ただの同意文言ではない。診断結果のページで、このチェック一つを入れるだけで、匿名化されたデータが自動で Supabase に記録される仕組みになっている。つまり私が1時間かけて磨いていたのは、UI コピーである以上に、ループの入口そのものだった。

この記事は、その一晩の作業を、いま話題になっている「ループエンジニアリング」という枠組みで数え直してみた記録だ。そして書いている途中で、自分自身がこの記事の中で一度、事実誤認をして訂正を受けている。その顛末も含めて書く。

TL;DR

  • 「ループエンジニアリング」は2026年6月、元 Google の Addy Osmani 氏が言葉にし、Anthropic が公式に定義づけた考え方。「AI にプロンプトを打つ」から「AI が回るループを設計する」への転換を指す
  • 私がやっていた「これでpushして」の繰り返しは、この枠組みでいう最も原始的な形のループ(ターン駆動ループ)にすでに当てはまっていた
  • 同意チェックひとつで匿名データが Supabase に自動記録される仕組みはすでに動いており、これは同じ型を使う4つのプロジェクトを並走させたことで、初めて「ループが回っている」という実感につながった
  • 5回書き直した理由は「文言が長くて読みにくかった」という単純な話。結果判定を9区分に分けた理由は「当事者の実感と区分がズレていた」という、もっと大事な話だった
  • この記事の初稿には、私自身の見落としがあった。「フィードバックは手動でしか反映していない」と書いたが、実際には自動記録の仕組みがすでに動いていた。訂正した経緯も記録として残す
  • 判定できるものと、できないもの。この線引きが、次に何を仕組み化すべきかを教えてくれた

ループエンジニアリングとは何か

まず、言葉の出どころを整理しておく。

2026年6月、AI エージェント開発者の Peter Steinberger 氏が「エージェントにプロンプトを打つのはやめて、プロンプトを打つループを設計しろ」という趣旨の発言をした。ほぼ同じ頃、Claude Code のリード開発者である Boris Cherny 氏も、自分はもうプロンプトを打っていない、ループを書いていると語っている。

これを言葉として整理し、広めたのが Addy Osmani 氏だ。2026年6月7日、自身のニュースレターに「Loop Engineering」という記事を公開し、6月22日には O'Reilly Radar にも転載されている。

Loop Engineering | by Addy Osmani – Elevate
https://addyo.substack.com/p/loop-engineering

同じ頃、Claude を開発する Anthropic 自身も公式ブログでこの考え方を定義した。

Loop engineering: Getting started with loops | Claude by Anthropic
https://claude.com/blog/getting-started-with-loops

Anthropic の定義を私の言葉に直すとこうなる。

止まる条件が満たされるまで、作業のサイクルを繰り返すエージェント。
それがループエンジニアリングだ。

短い定義だが、ここに核心がある。「止まる条件」が定義の中に入っている。
逆に言えば、いつ終わるかが決まっていないものは、そもそもループとは呼ばない。

Anthropic の記事では、人間の関与が多い順にループを4種類に分類している。

種類 何で止まるか 向いている仕事
ターン駆動 AI 自身が「完了」と判断したとき 短い、一度きりの作業
ゴール駆動 別のモデルが条件達成を確認したとき、または上限回数に達したとき 終わりを判定できる作業
時間駆動 人間が止めるか、作業が完了したとき 定期実行、監視
先回り駆動 タスクごとにゴールで終わるが、仕組み自体は動き続ける 定型化された繰り返し作業

そして安野貴博氏(エンジニア、起業家、政治家)が2026年7月末、自身の YouTube チャンネルでこの流れを日本語で解説している。

【ゆる解説】ループエンジニアリングって何?/なぜ第一線のエンジニアが「プロンプトを書くな」と言っているのか/"Human in the Loop"から"Human on the Loop"へ
https://www.youtube.com/watch?v=K6KX41tLH2s

安野氏の整理では、AI との関わり方はプロンプト→コンテキスト→ハーネス→ループの4段階で進化する。ハーネスは「AI が安全に、検証されながら作業できる足場」、ループは「その足場の上で、人間が毎回ボタンを押さなくても回り続ける仕組み」にあたる。

自分のログを、この定義に当ててみる

昨夜の作業を、上の表に当ててみる。

「これでpushして」の繰り返しは、ターン駆動ループの、さらに手前の形だった。

私「同意チェックボックスの文言、長すぎるから直して」
  ↓
Claude が文言を書き直す
  ↓
Claude が1〜2行で変更内容を要約
  ↓
私が画面を見て「OK」と判定
  ↓
コミット・push
  ↓
(気に入らなければ)また直す

止まる条件は、私の頭の中にしかなかった。「もういいな」と思ったら止める。それだけだ。だから5回かかった。1回目で「まだ長い」、2回目で「まだ堅い」、3回目で「まだ2行を超えている」、4回目で「まだ言葉が足りない」、5回目でようやく「これでいい」。

Anthropic の定義でいう「ターン駆動ループ」は、まさにこれだった。AI 自身の判断で止まるのではなく、私が毎回、目で見て止めていた。 名前を知らなかっただけで、形としては完全にループの中にいた。

そして、この5回の書き直しの先にあったものが、次の話につながる。

そのチェックボックスは、ループの入口だった

このチェックボックスにチェックが入ると、匿名化された診断データが自動で Supabase に記録される。ユーザーが操作するのはチェック一つだけで、その先の記録・保存はすべて自動だ。

つまり私が1時間かけて磨いていたのは、単なる同意文言の読みやすさではなかった。観測(Observation)の入口の精度を上げていたことになる。読みにくい同意文言は、チェックされる率を下げる。チェックされなければ、データは集まらない。データが集まらなければ、そもそもループは回り始めない。

そしてこの仕組みは omori-hensachi 一本だけの話ではない。同じ「同意→自動記録」の型を使ったプロジェクトを、いま4本並走させている。1本ずつ見ていたときは「まだ手作業に近い」という感覚だったが、4本を同時に回してみて初めて、データが積み上がっていく実感が生まれた。1本のループは細くても、4本束ねると、ようやく「回っている」という手応えになる。

二つの修正は、似ていて別物だった

同意文言の5回は、私一人で完結していた。読んで、長いと思ったら削る。判定材料は「読みやすいかどうか」で、これは私の目の前の画面だけで判定できる。

結果判定の9区分への細分化は、そうではなかった。理由は、従来の区分では当事者の実感とズレていたからだ。「自分の背負ってきた重さが、この診断だと正しく反映されない」という違和感が先にあって、それを埋めるために区分を増やした。

この違いは、Anthropic の記事にも安野氏の解説にも出てくる、ある一線と重なる。

AI(あるいは開発者本人)が自分で「できた/できていない」を判定できる仕事は、ループが強く効く。判定材料が自分の外側にある仕事は、外からのフィードバックなしには回らない。

同意文言の修正は前者だった。だから1時間で5往復もできた。9区分の修正は後者だ。当事者の実感というのは、私の画面の中には存在しない。診断を実際に受けた人が「これは違う」と言ってくれなければ、私には永遠に分からない種類の情報だった。

ただし、その「外からのフィードバック」を受け取る経路自体は、もう自動化されている。同意チェック→匿名データが Supabase に溜まる、というところまでは仕組みになっている。まだ仕組みになっていないのは、その先だ。溜まったデータを、いつ・どういう条件で見直しの判断材料として拾い上げるか。ここはまだ、私が気が向いたときにデータを見て、手で判断している。

この記事自体が、一度ひっくり返った

正直に書いておきたい。この記事の投稿で、私は「当事者からのフィードバックを受け取る仕組みが、まだループになっていない」と書いた。手で区分を直しているだけの、ワークフローだと。

それは事実ではなかった。同意チェック一つで匿名データが自動で Supabase に記録される仕組みは、すでに動いている。だから改めて、この記事を書き直した。

これは、調べていた Loop Engineering の議論の中に出てきた話と、そのままつながる。AI に何かを作らせて、最後に「確認してください」と付け足しても、精度はほとんど上がらない。しかし、別の目で検分させると、伸び幅は大きくなる。 自分の答案を自分で採点させない、という原則だ。

この記事の下書きは Claude が書いた。「フィードバックはまだ手動だ」という誤った一文も、Claude が書いたものだ。それを見つけて訂正したのは、実装の詳細を知っている私自身だった。AI が知らないことを、人間だけが知っている。今回それは、ACEs の当事者心理の話ではなく、自分のインフラ構成の話だった。

つまりこの記事そのものが、小さな Human on the Loop の実例になっている。AI が下書きを書き、人間が事実関係を検分し、間違っている箇所だけを押し戻す。そうやって初稿から今の形に直った。

残っている宿題

数え直して、まだ足りていないものが2つある。

一つ目。止まる条件を、事前に書いていない。

昨夜の5回は、たまたま5回で収束した。しかし止まる条件を決めていなかったので、6回目、7回目に続いていた可能性もある。Anthropic の記事は、ゴール駆動ループには最低でも2つの停止条件を持たせるべきだとしている。目的を達成したかどうかの条件と、それとは別に、上限回数や時間による強制停止の条件だ。私にはどちらも書かれていなかった。

二つ目。溜まったデータを、判断材料として拾い上げる周期が決まっていない。

観測(同意→自動記録)は自動化されている。しかし、そのデータを「そろそろ重み付けを見直そう」という判断に変える部分は、まだ私の気分次第だ。定期的に、あるいは一定件数が溜まった時点で、見直し候補として自動的に浮かび上がってくる仕組みにする。そこまでやって、ゴール駆動ループに一歩近づく。

いまの私が持っているのは、ハーネスの一部と、ターン駆動ループと、自動化された観測の入口だ。ゴール駆動ループへの一歩は、まだ踏み出していない。

事実と見立ての切り分け

事実。omori-hensachi のツールは実在し、上記のコミット履歴・時刻は git ログに記録されている実データである。同意チェックにより匿名データが Supabase に自動記録される仕組みは実装済みであり、同じ型を使ったプロジェクトを4本並走させている。Loop Engineering という言葉が2026年6月に Addy Osmani 氏によって整理・発信されたこと、Anthropic が公式に定義を出したこと、安野貴博氏が2026年7月末に日本語で解説動画を公開したことは、いずれも公開情報として確認済みである。

見立て。「5回の修正がターン駆動ループに当てはまる」という分類は、私(田前)自身によるこの記事のための解釈であり、Anthropic や Osmani 氏がこの事例を評価したものではない。「5本束ねて初めてループの実感が生まれた」という感覚も、私個人の体感であり、データで裏づけたものではない。

正直な線引き。この記事は、ループエンジニアリングの教科書ではない。自分の一晩の作業ログを、後から知った枠組みに当てて数え直しただけの記録である。溜まったデータを見直し判断に自動的に変える仕組みは、まだ設計段階にあり、実装はしていない。

おわりに

「これでpushして」を繰り返していたとき、私は方法論のことは何も考えていなかった。ただ、同意文言が長いと感じて、削っていただけだ。

それが後から「ループエンジニアリング」という名前で世界に整理されていたと知って、少し意外だった。しかも、名前を知って初めて、自分のやり方の中で何がすでに仕組みになっていて、何がまだ私の勘に頼っているだけなのかが、はっきり見えるようになった。しかもその見え方自体、一度は間違えて、指摘されて直った。

ACEs CARE HUB JAPAN で目指しているのは、優しさが偶然や自己犠牲に頼らず、制度として機能する仕組みを作ることだ。その一番小さな入口である同意チェックボックスが、実はもうその制度の起点になっていた。気づいていなかったのは、私の側だった。

次にやるべきことは、たぶん新しい概念を輸入することではない。止まる条件を先に書くこと。溜まったデータが見直しの判断に自動的に上がってくる周期を決めること。それだけだ。

今夜もまた、同じチェックボックスを直すことになるかもしれない。そのときは、何回目で止めるかを、先に決めてから始めようと思う。


参考文献・引用元

関連キーワード

ループエンジニアリング / Loop Engineering / ハーネス / Harness Engineering / Claude Code / AIエージェント / ACEs / Supabase / Care Capitalism / 工場主

0
0
0

Register as a new user and use Qiita more conveniently

  1. You get articles that match your needs
  2. You can efficiently read back useful information
  3. You can use dark theme
What you can do with signing up
0
0

Delete article

Deleted articles cannot be recovered.

Draft of this article would be also deleted.

Are you sure you want to delete this article?