1. はじめに
先日、作業の合間にサーバーエンジニアさんからふと質問をいただきました。
「電源の効率・・ってあるじゃないですか?アレっていったいどういうことなんでしょう……?」
(そうですねえ。どこから語ったら判りやすいか…… 交流を、トランスで降圧してー、ブリッジダイオードで整流してー、電解コンで平滑してー、電圧制御は秋月のキットでも組み込めば……なんて超アナログな手作り回路の話から入れば“効率”もイメージとして伝わる……か?)
……と脳内シミュレーションは完結したのですが、ホワイトボードも無く、お昼休みに語るには時間が短すぎる!
というわけで、今日のテーマは 「電源」 です。
今回はコンセントの向こう側から、電源ユニットのお話までご紹介させていただきますね。(脱線しそう。激しく。)
2. AC(交流)と DC(直流)の違い
まずは基本となる電気の種類についておさらいしておきましょう。(電源作ったことのある方は読み飛ばしてください)
- DC(直流): プラス(+)とマイナス(−)の極性が常に固定されている電気です。CPUやメモリなどの半導体は、すべてこのDCで動いています。
- AC(交流): 1秒間に50回または60回(50Hz / 60Hz)、プラスとマイナスが交互に入れ替わる電気です。壁のコンセントから流れてくるのはこのACですね。
【さっそく脱線】活線や検電前には「手の甲」から触れるべし!
人間は感電すると筋肉が強烈に収縮します。手のひら側で電線に触れて感電すると、そのまま電線を 「グッと握りしめてしまい」 自力で離れなくなってしまいます。一方、手の甲側から触れておけば、筋肉が収縮した瞬間に手がグッと縮んで電線から 「弾き飛ぶ(離れられる)」 ため、生存率が上がるのです。(※もちろん無電圧確認と耐電手袋の着用が最優先です!)
高圧 というと、10代の頃に聞いたこんな話を思い出します。
3. なぜ発電所/変電所からDCのまま届けてはいけないのか?
「半導体がDCで動くなら、最初からDCで送電すればいいのでは?」と思われるかもしれません。しかし、そこには物理的な壁が存在します。
- 送電損失($P = I^2 R$)との戦い: 電線を通して遠くまで電気を運ぶ際、電流 $I$ が大きいと電線が熱を持ってエネルギーが逃げてしまいます。損失を減らすには、超高電圧にして電流 $I$ を小さくする必要があります。
- 変圧のしやすさ: ACであれば「トランス(鉄心に電線を巻いた変圧器)」を置くだけで、高圧から低圧へと変圧ができます。昔の技術ではDCを高電圧にするのが難しかったため、交流送電が主流となったのでしょう。
[ 発電所 ] (1万〜2万V)
│
│ (1) 巨大なトランスで「超高電圧」へドカンと昇圧!
▼ (電圧 V を激アゲ ➔ 電流 I が激サゲ)
[ 超高圧変電所 ]
│
│ ┌─────────────────────────────────────────────────┐
├─┤ 超高圧送電線(50万V / 27.5万V などの巨大鉄塔) │
│ │ ★ 電流 I が小さいので $P = I^2 R$ の │
│ │ 「熱損失」が最小限に抑えられる! │
│ └─────────────────────────────────────────────────┘
▼
[ 1次・2次変電所 ] (6.6万V ➔ 2.2万V)
│
│ (2) 街に近づくにつれて段階的に安全な電圧までダウン
▼
[ 柱上トランス ] (6,600V ➔ 電柱の上のバケツ)
│
│ (3) 100V / 200V に落として最終お届け
▼
[ ご家庭 ]
4. アナログなDC電源(リニア電源)の仕組み
昔ながらのDC電源は、コンセントのACを以下のような手順でDCに変換していました。(色々省略して書いています。主要なところのイメージだけをお届け。)
[ AC 100V ] ─── ( トランス ) ─── ( ダイオード ) ─── ( コンデンサ ) ───> [ DC出力 ]
│ │ │
降圧 整流 平滑
【また脱線】工作のススメ
ドラクエでは勇者が16歳になったらバラモスを倒しに冒険を始めましたが、私は16歳になった年に人生初のDC電源を作りました。(勇者は世界を救い、私は学校のブレーカーを落としかけていました。)
アルミの切り粉まみれになりながら、リーマーで少し大きくなった穴に泣きそうになりつつ、電極やらFUSEホルダーやらLEDやらトランスやらをちまちま半田付けしていくあの作業。令和のこの時代、そんな狂気のアナログ工作をする必要は少しもございません。
ただ、電気工事士やら工事担任者やらの資格あたりを勉強のきっかけとして、低いレイヤ(電気)のことも知っておくと毎日のお仕事が楽しくなってくる……かもしれません。
5. スイッチング電源とは
アナログなDC電源が現在のNWやSV機器に多く使われているか?というとそこは少し違います。大体は 「スイッチング電源」 です。

今回の主役となるユニット式スイッチング電源(スロットイン可能なホットスワップ対応モデル)

例:左はCisco Nexus、右はARISTAから抜いたもの。形状はまちまちです。
-
仕組み: 入力されたACを一度直流(DC)に変換したあと、半導体(MOSFETなど)を使って「超高速(数万〜数十万Hz)」でスイッチをON/OFFして高周波のACに変換します。これを超小型化したトランスで低い電圧に落とし(降圧)、最後に再び整流・平滑化してキレイなDCを取り出します。
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メリット: 高周波化することでトランスを大幅に小型・軽量化できます。
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注意点: 高速スイッチングに伴うノイズ(高調波やリップル)が発生します。
6. 変換効率の規格「80PLUS」(Gold, Platinum...)
コンセントから供給されたACをDCへ変換する際、入力したACエネルギーの全てが綺麗にDCへ変換されるわけではありません。
回路の抵抗で 熱 になったり、トランスの振動で 「ジィー…」と音 になったり、時にはスパークする光であったり。電源内部では少なからず必ずエネルギーの損失が発生します。
この「入力した電力(AC)に対して、どれだけ無駄な損失を出さずにDCへ変換できたか」という割合(変換効率)を示す指標が 「80PLUS」 規格(Bronze, Silver, Gold, Platinum, Titaniumなど)です。
昔のスイッチング電源には無かったのですが、2008年頃からでしょうか。
変換効率を表すこんなシールが貼られたり印刷されたりするようになりました。

7. 「W(ワット)」と「VA(ボルトアンペア)」の違い
電源周りを計算する際によく混同されるのが「W」と「VA」です。
- W(有効電力): 実際に機器が目的の仕事(CPUやメモリを動かす)として消費する電力です。
- VA (皮相電力 ひそうでんりょく Apparent Power): 設備(電線、ブレーカー、UPS)が耐えなければいけない見かけ上の全体電力です。
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力率(PF): $\text{W} = \text{VA} \times \text{力率}$ という関係になります。
この関係、飲み屋で出てくる 「ジョッキに注がれたビール
」 を想像していただくと一発で理解できます。
- W(有効電力) = 液体(うまみ)
- VA(皮相電力) = ジョッキ全体の量(液体+泡)
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力率(PF) = 液体率(どれだけ泡を減らせたか)
最近のサーバー電源には「PFC(力率改善回路)」が搭載されているため、力率はほぼ 0.95〜0.99 (ほぼ泡なし!)と非常に優秀です。ただし、現場でブレーカー容量やUPSの負担を計算する際は、「VA」を基準に確認します。
8. 実物の電源ユニット
折角なので、身近にあった電源を抜いてご紹介。

昔のF5電源は色んな色がありましたね。高級なラインナップでは赤い!とか、そんな時代もありました。

これはF5 2Uサイズの筐体(6900とか10000とか)に積まれていた大きい電源ですね。
Power-One製ですが、掃除機を付けたような爆音がします。もし家で通電する時には時間を選びましょう。

こちらは触ったことのある方もいるかも。Catalyst 3650世代の電源です。
ここまでしっかりしたACケーブル留めがあるのは良心的。このあたりの優しさは是非FortiG@teにも欲しいところ。

左:大昔のPower-One 300W電源。右:最近の650W電源*2。
進化していきますね。大きさも容量も。
さて、ここからは少し趣向を変えて、電源ユニットのラベルからわかったことを。
1)実物ラベルの謎:GE と ABB で同じ型番?
右: GE Power Electronics, Inc. 名義のラベル((型番: CSAC0250BZ / 製造元住所: 601 Shiloh Road, Plano, TX)
左: ABB Power Electronics Inc. 名義のラベル(型番: CSAC0250BZ / 製造元住所: 601 Shiloh Road, Plano, TX)
「中身も製造工場もまったく同じPlatinum 250W電源なのに、ロゴだけが違う?」と不思議に思いました。
2)買収に次ぐ買収。。
物知りGeminiさんに教えてもらいました。(まぁ、ホントかどうかは話7割で
)
この電源ユニットのルーツを辿ると、元々は電話交換機などで伝説的な実績を誇る**Bell Labs(ベル研究所)**の流れを汲む電源部門のちの Lineage Power)に行き着きます。
- GE(General Electric)時代 (2011年〜): GEが Lineage Power を買収し、「GE Power Electronics」として展開しました。
- ABB による買収 (2018年): スイスの重電大手 ABB が GE のエレクトリフィケーション事業(GE Industrial Solutions)を買収しました。これにより電源部門も ABB 傘下となり、型番やプラノ工場を維持したままラベル表記が「ABB Power Electronics」へと切り替わりました。
- AcBel Polytech への譲渡 (2023年): さらに2023年、ABB は事業ポートフォリオ見直しの一環として、このパワーコンバージョン部門を台湾の電源大手 AcBel Polytech(康輸科技) へ売却しました。
つまり、手元にある「GE」と「ABB」の電源は、まさに事業移籍の過渡期(リブランド期)に製造された同胞ハードウェアだったのです。
そして実は ABB は、2018年に GE系(Lineage Power)を買収する5年前の 2013年 に、すでに高効率電源や太陽光インバーターの大手であった Power-One 社を買収していました。
いやはや。Power-One名義の電源も見ないなと思っていたら、無くなっていたのですね。
時代の流れを感じます。
9. おわりに
電源。
今回は“効率”という言葉をキッカケにツラツラと書いてみましたが、いかがでしたでしょうか。(長い。)
本当は、DC内の配電盤~PDU配線にまつわる泥臭い話や、電柱の上でドスンと鎮座している「柱上トランス」の中身の話(PC..ゲフン)などマニアックな脱線ネタも用意していたのですが……これ以上書くとお昼休みどころか、夜の懇親会まで居残りで語り明かすことになってしまうので、今回はこのへんで筆を置くことにいたしましょう。
この記事を読んだSV/NWエンジニアのみなさんが、次に機器の裏側に回って電源ケーブルを抜き差し
するとき、ほんの10msでも「おお、スイッチング電源。知ってるよ君のこと。」と、愛着の眼差しを向けていただけたならイイなと思います。





