この記事はLITALICO Engineers Advent Calendar 2022の6日目の記事になります。
https://qiita.com/advent-calendar/2022/litalico
はじめに
LITALICO(株)でアシスタントマネージャをしている@H-asakawaです。
新卒で入社してから5年が経ちました、はやいものです。
私が所属している開発チームは人数が少ないときで開発者3名でしたが、そこからメンバーがどんどん増えていって現在は開発者8名の大所帯でワイワイ楽しくやっています。新しく参画してくれたメンバーからの疑問や改善提案は、曇った目や凝り固まった思考を解きほぐしてくれて、日々良い刺激を受けています。
この記事では今のチームにおける振り返り手法を最適化するべく、私がこれまでチームでやってきた振り返り手法について振り返りを行い、振り返り自体の改善に繋がる示唆やヒントを提供できればと思います。
正解の無いテーマだと思うので、他事業部や他社の方にとってもなにか参考になることがあれば幸いです。
目次
- KPT大臣として
- スプレッドシートではなく付箋を活用
- KPTのKPT
- KPTとFunDoneLearnを交互に運用
- KPT番外編の誕生
- Win Sessionとの出会い
- 振り返り手法は定期的に改善する
KPT大臣として
新卒2年目のとある日、マネージャーからKPT大臣をやってほしいと頼まれました。
弊チームでは、リファクタ大臣・KPT大臣など、開発チームの重要な営みに対しては大臣を任命して責任を持って推進してもらう文化だったためです。
KPT大臣となった私は、チームに必要な振り返りとはどういうものかを考え、実践していく役目を担いました。
そこで、まずは現状を分析しながらどこに課題があるのかを考えました。
当時のチームではスプレッドシート(以下、スプシ)を用いたKPT(Keep Problem Try)を行っていました。
私も研修生の時代からスプシを用いたKPTをずっとやってたので一番慣れ親しんでいます。
そのときの感想として、KPTはどうもProblemの話題にフォーカスしすぎてチームの雰囲気が暗くなっているなと感じていました。
同時期に他チームが社内で集まって振り返りをしている様子をみた際に、模造紙に付箋を貼ってワイワイやってるのを目撃してああいうの良いなぁって思ってました。
そこでまずは振り返りの場自体を楽しく明るい雰囲気に変えることができないかを試すことにしました。
これにより、メンバーの発言量が増加したり、新たな振り返りの言葉を紡ぎ出しやすくなればよいなと考えていました。
スプレッドシートではなく付箋を使う
当時、改善箇所として目をつけたのがスプレッドシート(以下、スプシ)です。
各自が事前にスプシにKPTを記入しておき、社内でチーム全員が集まって自分の席で自分のPC画面を見ながらKPTの内容をひとつずつ読み上げて確認していくスタイルをとっていました。
これでは楽しくワイワイやってる感が出ないのです。。
社内で運用されてるあの付箋のようなもの、あれはきっと人間を楽しくさせるアイテムなはずだ!という認識のもとに、付箋を使ったKPTをやってみることにしました。
社内のミーティング広場(コロニーと呼ばれる)に全員集まってもらい、付箋とマジックを用意して、付箋を書いては大きなテーブルの上に貼っていって最後に読み上げるスタイルに変えました。チームメンバー達も真新しいやり方を楽しんでくれてそこそこ好評でした。
自分の感想としても自席からコロニーに移動して、付箋とマジックを使って書くと気分が変わる、出てくる言葉が少し変わるような感覚を覚えました。
また、付箋とマジックで各人が直接字を書くので、字の個性がもろに現れるのも特徴的でした。
相手を理解するとか、そういった対人要素の側面でも少しポジティブな効果があったかもしれません。
学び
- 振り返りの言葉を紡ぎ出すにあたって、ひとはペン、キーボード、付箋、スプレッドシートなどのツール、会議を行う場所などの環境によっても影響される
- 振り返りに関する記述を事前に非同期で書く方式はMTG時間を有効に使える
- スプシは付箋よりも書き込める量が多いため、背景を口頭ではなく文書で共有できる点に強みがある
- 付箋の形状は書き込める文字数に対する一定の制約になり、頭で思いついた内容を付箋に書き込める分量にまとめ、背景は後で口頭共有することになるので言語化はその場で行う必要がある
- 付箋を書く、口頭での背景共有、などを全てMTG時間内にやろうとするとけっこう時間がかかってしまう
KPTのKPT
付箋を使ったKPTを始めて1年ほど経った頃、これまでのチームの振り返りがどうだったかを意見収集して次の改善に繋げようと考え、今までやってきたKPT自体を対象とした振り返り会をKPT方式で実施してみました。
これまでのチームでのKPT運用は、どこが良かったか、どこが課題か、どんな改善が可能かをみんなで意見を出し合って議論しました。
チームメンバーが今の振り返りの時間の使い方についてどう考えているか、日々の振り返りでは出てきづらい細部や深い部分まで意見を収集することができました。
KPT(2019年度)の総括
Keep
・気負いせず意見を出せる雰囲気
・準備物の少なさ
・KPTのわかりやすさと撮影(各回の @記録)の手軽さ
・1年前のをみるのが楽しい(1年振り返り回で)
・ネクストアクションが明確になってる
・だんだんProblem Tryをセットで出すようになったのがよかった
Problem
・チーム全体としてのKPTが議題に上がりにくい
・KPTの時間が30分で足りない(→振り返りの時間を1hに拡張)
・写真に日付入れたい
・日付がなくていつの頃の話だったかがわからない(過去ログ見返してて)
・イベントにひもづく振り返りをしたい
・Pだけの付箋が多い
・話に出て解決策がでてもTとして付箋に追加記載してない
(→ファシリテーターが書記役として意見が上がったら付箋を作成)
・2週間に1回だと、振り返る内容忘れる(1週目を忘れる)
・回を繰り返すごとにKPTが断続して回ってなかった
・Pが改善されたか分からない
・事業部としてエンジニアチームでどんな目標とタスクを追いかけてたときのKPTなのかが分からない
・前週Problemを忘れてしまってる気がする
・Pが同じものが並んでる(先週も出ていたPが今週もある)
・前回のネクストアクションの振り返りができてない
・前回のTryを振り返っていない
・週末だしお楽しみ要素が欲しい
・お疲れ様でした感(金曜にいつもやってるけど、みんな疲れてるよねという意見)
・金曜でなく月曜にやってみたい(朝会のように振り返りからはじめる)
Try
・スプシに書くよりも紙にペンで書くほうが気分転換になって楽しい
・緑の付箋(KPTにプラスしたなんでも書いてよい付箋)があると雑談できてよい
・3ヶ月か半年に1回、このような振り返りのフレームワーク使用における振り返りをしてもよいかも
また、ちょうどこの時期にコロナの影響で開発チームはフルリモートワークに移行しました。
チームビルディングの観点からも振り返りの時間の重要性がより高まった時期だったように思います。miroというオンラインホワイトボードを使って付箋を管理するようになり(のちにgoogleスライドへ移行した)、準備作業が楽チンになって、字の汚さも気にする必要がなくなりました。
メンバーからの改善意見を踏まえ、miroを使って付箋を管理するように変更し、KPTに加えてFunという単純に楽しかったこと、最近学んだことなどなんでも伝えたかったら書いて良いカテゴリの付箋を追加することにしました。
チームを取り巻く環境変化に応じて一体感をより増強するためのアイデアだったと思います。
学び
- 振り返り手法自体を振り返る時間を別途設けることが大事
- チームメンバーの意見や感想をちゃんと聞くことが大事
- なにか改善したいテーマを設定して振り返りを行うことでより議論は深まる
- 振り返りのフレームワークを自チームに適用してみて、不足を感じるところはカスタマイズしていい
KPTとFunDoneLearnを交互に運用
miroで付箋を使ったKPT(Funも追加)を運用していくなかで、Problemの改善は大事だが、Problemばかりにフォーカスしすぎても、改善に対する意欲や熱量を高く保っていなければ結局は改善することができなくて無意味では?と思い始めました。
課題を解決していくには、課題を発見し、改善策を考え、それを実行し切らないといけない。となるとけっきょく必要なのはまず健康・エネルギー・意欲な気はします。
したがって、チームの雰囲気が良い・チームが楽しく開発を進められている・チームのコンディションが良い、といった状態がこのエネルギーを生み出すにあたって前提条件として必要になり、それを支える振り返りとはどういうものかを考えるようになりました。
そんな時期に他チームでも運用され始めていたFun Done Learnというフレームワークがあることを知りました。これを使えばチームのコンディションをよりよい状態に保つことができるのではないかと思い、チーム内で相談してお試し導入してみることになりました。
Fun Done Learnの進め方はふりかえりでFun! Done! Learn!で紹介されていたやり方が非常に参考になったのでほぼ踏襲させていただきました。
Fun Done Learnはこれまで不足していた振り返りの楽しさや明るい雰囲気をもたらしてくれました。
この頃に、振り返りは改善箇所を見つけて成長していくための手段というだけでなく、チームの雰囲気や状態に対して合ったやり方を適用していくチームビルディングの一環でもあると実感しました。
当時は上記の記事の課題感に共感しつつ振り返りのあるべき姿を模索していましたが、Fun Done Learnを取り入れたことで、ある程度課題感は解決できたような気がしていました。
そして、フレームワークが変わると出てくる意見は変わるはずだし、振り返り自体のマンネリ化も防ぎやすいだろうと考え、2つのフレームワークの強みを活かして弱みを補えるように、両方とも隔週で交互に実施することになりました。
私のKPT大臣としての仕事はこのへんで節目を迎え、長い休憩タイムに入りました(サボり)。
あとは2年間ほどオンラインミーティングで隔週で交互にKPTとFun Done Learnを行う運用が続いていきました。
学び
- 振り返りのフレームワークが変わるとチームの振り返りの質や雰囲気が変わる
- Fun Done Learnは相手がどういう感情で仕事をしていたのかを知ることができるので相互理解に強みがある
- 互いに相手の気持ちを理解することで、チームの課題が解決していくこともある
- こういった機会だけに頼らず、1on1でよく話したり、相手の自己紹介スライドや資料をじっくり読んだりすることも大事
KPT番外編の誕生
業務に追われる日々のなかで、振り返りの時間の使い方に関して新たな課題が発生しました。
当時チームでは開発の進め方自体に変更を加えていて、スクラムガイドをもとにしたスプリント開発体制を導入していました。
しかし、スプリント開発体制自体の課題感やモヤモヤについて話し合える時間(いわゆるスプリントレトロスペクティブに該当するもの)が取れていなかったのです。
ガイドを読んだ私は、スプリントレトロスペクティブは既存の隔週の振り返りの時間で実施できると考え、特に深く考えずそれでヨシとしていました。
一方で、スプリント自体をどうすればうまく回していけるか模索している時期は、いつもの振り返りの時間だけでは到底話し合えるはずもないほどの課題で溢れていました。
そこで、あるメンバーがKPT番外編をすべきだと提案して主催してくれたことで、スプリントレトロスペクティブをしっかりと行える時間が別途確保されました。
こうして、週に1時間ほどKPT番外編と題して、現状のチームのスプリント開発の進め方の改善について話し合い、様々な改善提案を議論することができました。
学び
- 前回までの学びともかぶるが、特定のテーマを決めて振り返ることでより深い議論ができる
- 課題感が強く、込み入った議論になりそうで時間がかかりそうな場合は、定期的な振り返りの場(コンディションチェックも含まれる)に任せず、別途振り返りの時間を設定するほうがよい(必要経費)
- スクラムやるならスプリントレトロスペクティブを軽視してはいけない
Win Sessionとの出会い
とある日、リモートティータイム(毎日午後15時はお茶でも飲みながら雑談しようよのお時間)で「だれかを褒めることってあんまりできてないよね」とか「感謝していることはたくさんあるけど、面と向かって言葉でちゃんと伝えるってできてないよね」みたいな話をしていました。
そこで、新しくジョインしたメンバーが前職でWin Sessionをやっていて凄くよかったですよと紹介してくれました。
なんだなんだ、また新たな面白そうなフレームワークがあるのか、ということでさっそくその週の振り返りの時間(金曜日)はWin Sessionのフレームワークを試してみることにしました。
「多職種」のチームをつなぐ全体ミーティング。ファングリーのWin Sessionを紹介
上記の記事の中でWin Sessionでは議論禁止とあったのでそれに従ってやってみました。
すると、日々スプリントのチケットを沢山消化することに邁進して、いつも議論に明け暮れていたメンバー達が、互いに感謝を伝え合う尊い時間が生まれました(泣)。。
盛り上げよう、労おう、前向きになろう、という観点では最強のフレームワークなのかもしれません。
チームを盛り上げたい方は、ぜひ導入を検討してみることをおすすめします〜🎵
Win SessionはFun Done Learnよりもチームの雰囲気が明るくなることがわかりました。
最終的に私のチームではKPT・KPT番外編・Win Sessionの3つを取り入れて振り返りの時間に使っています!
学び
- 振り返りは月曜にやるか、金曜にやるかでメンバーの疲れ具合が違うため内容や質がけっこう変わる
- Win Sessionは労いあって終わるので金曜にみんなお疲れさま!の意識でやるのに非常に相性が良い
- スプリント開発をしているなら、スプリント単位の終わりの区切り目にWin Sessionをやるのが適していそう
- リモートで互いに感謝や尊敬を伝えづらくなっている場合は、チームビルディングの一環としても良い
振り返り手法は定期的に改善する
チーム振り返りは人間同士の営みなので、正解がないのだと思います。
振り返りの手法はたくさん出てくるけど、それを自チームに適用したときにうまくいくかどうかはやってみなければわかりません。よって、どんな振り返り手法が最適なのかは各チームの雰囲気や状態によって変わります。
振り返りを推進していくには、各フレームワークの持つ強みや弱みを理解しておくこと、チームがどういう状態ならどのフレームワークが有効に機能するのかを理解しておくことは重要そうです。
また、チームはいまどういう状態なのか、メンバーはどんなモヤモヤを抱えていて何を望んでいるのか、何がいまチームにとって必要なのかを考え抜くことこそが、最終的には最も大切なことだったのではないかと思っています。
私がKPT大臣を拝命した当時は、チームの課題改善を任されているにも関わらず、自分の感じている課題感・ツール・フレームワークにばかり関心が偏っていて、チームに対する視座や観察眼が抜け落ちていました。
自分の認識や関心が変化していくのと同様に、チームの認識や関心も変化していくし、チームを取り巻く環境自体も常に変化しています。
振り返りの時間の使い方に違和感を抱いた場合は、今のチームの状況に対して振り返り手法が合わなくなったサインだと考えるとよいはずです。
変化に追いつくためにも、振り返り手法を定期的に改善しなければいけないのだと思います。
今後の改善に向けて
- 振り返り手法が自チームの状況に合っていないこともあるので定期的に改善する
- 自チームにおける振り返りの時間の意義と目的をしっかり定義しておく
- 新しくジョインしたメンバーに正確に伝達し、全員でその認識を共有しておく
- 各ツール・フレームワークは目指す目的とチームの状態に対して有効に機能しているかどうかで評価する
これらを意識できていれば、あとは自チームにあったツール・フレームワークを試して運用しながら、満足のいく振り返り手法をみつけられるのではないかと思います。
大変長くなりましたが、ここまで読んでいただいてありがとうございました!
明日は採用部の@yuka_honda663さんがエンジニア採用についての記事を執筆してくれます。お楽しみに!