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積極性と強い問題意識を要求する「振り返り」は、もうたくさん

「この人たちのために成長したい」といつも自分を駆り立ててくれる、大好きな職場のみなさんに本稿は捧げます。

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はじめに

これからの人生で、チームで「振り返り」をする可能性が1%でもある方々に本稿は贈らせていただきます。
皆さんの「振り返り」が行われる前にもう一度、読んでいただき、参考にしていただければ幸いです。

 「振り返り」への違和感

「積極性」と「強い問題意識」を持ったメンバーがいることを前提とした方法論ばかりが叫ばれることに私は強い違和感を感じています。

その目的や背景は置いといて、「過去に起きた出来事をチームメンバーと共に目を向ける過程全般」を本稿では「振り返り」と呼びます。
業務改善、PDCA、KPT、スクラムのレトロスペクティブ、といった過程の一部に含まれており、「振り返り」は広く知られた活動と言えます。

しかし、これらの内容は、

  • 「問題があれば主張し、必ず、議題にあげる」という個人主義的な文化圏にメンバー全員がいる前提である
  • 「1人の優秀な人間が推進し改革する」というコンサルテイスト(BP改善)

といった内容が見受けられ、そのまま実行すれば、成功が保証されるような代物ではないように思われます。

なぜなら、次のような状況にチームが立ち向かう必要があるからです。

  • 本音を話すことができないメンバーがもちろんいるので、すべての問題が机に並ばないことがある
  • 無関心なメンバーがいる場合、チームの活動として継続しにくい
  • 課題の捉え方やその温度感が揃わず、チーム全体がなかなかうまくまとまらない

こうして考えてみると、現実の「振り返り」の場には、様々なメンバーがいて、「やる気があり問題をどんどん挙げてくれる」メンバーだけではないことがわかります。

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実際に、振り返りを始めたばかりの頃など、「消極的なメンバーが7割で、積極的だけど課題感がずれているメンバー2割」というような状況はよくあるのではないでしょうか。

自分の意見を外に出すのが苦手なメンバーを軽視した方法や全員が最初からやる気がある前提のプロセスをいきなり導入しても、必ずボロが出ていずれ崩壊します。

一般的な「振り返り」の方法論は、メンバーが積極的に参加してくれて問題意識を強く持っている夢のような状態でのみ成立するものばかりで、私自身、現実とのギャップに苦しみました。

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では、どのようにしてこの状況を乗り越えればよいのでしょうか?

「振り返り」の共感度が高いチーム

「振り返り」の質をあげるプロセスをつくる前に、「振り返り」の共感度が高いチームをつくる

この1年間、10数個のチームを隣でみてきて出した私なりの答えです。
そして、チームの成否を分けた要素であったとも思っています。

「振り返り」の共感度が高いチームとは、「メンバーが課題に対して自分の仮説を常に持ち(積極性)、問題意識の方向や温度感が揃っている(問題意識あり)」ようなチームです。

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このためには、できるだけ多くのメンバーを「積極的」×「問題意識あり」の領域に引き込むことが大切です。

本稿では、このような状況をつくるための方法を、
1.「積極的」の領域に引き込む
2.「問題意識あり」の領域に引き込む
という2つの切り口から紹介します。

自分は「振り返り」の資格をもった専門家でもなければ、「振り返り」を1万時間以上やりこんだプロでもありません。

この1年間私たちが行なってきた事例をもとにした、1つの分析結果として参考にしていただけますと幸いです。

1.「積極的」の領域に引き込む

「振り返り」に対して消極的なメンバーを減らし、積極的なメンバーを増やすために実践したことをまずは紹介します。
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この上で、消極的なメンバーの心理を分析します。

A. 心理的安全性がない
問題意識は持っているがそれを正直に伝えられない、本音を妨げている要因がある状態。

B. 無関心
問題意識を特に感じておらず、振り返りの価値やおもしろさも知らない状態

それぞれ2つの領域に分かれ、その対応方針も異なります。

A.「心理的安全性がない」を変える

 「心理的安全性がない」=「消極的」×「問題意識あり」

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心理的安全性について深く知るために、心理的安全性ガイドライン(あるいは権威勾配に関する一考察) をぜひご一読ください。

「心理的安全性がない」メンバーを変えるためには、正直な気持ちを伝えることを阻害する要因を見つけ取り除いでいきましょう。

しかし、消極的なメンバーが阻害要因を自発的に教えてくれるケースは稀です。
そのため、阻害要因を顕在化するための工夫を私たちはチームで施しました。

「机の上に問題があげられたならば、99%は解決できる」という言葉を聞いたことがありますでしょうか?
私たちも、阻害要因が顕在化してしまえば、そのあとの対策は「対話を重ねて認識や期待を合わせていく」という手段を愚直に実行していき内容としてはシンプルなものが多かったです。

そのため、本稿では阻害要因を発見するために実践した方法に絞って紹介します。
状況の緊急性に応じて次の2つを使い分けました。

【劇薬】本音を言う会
ベテランやマネージャーに席を外してもらうことで、一時的に、心理的安全性が高い状態をつくり、まとめて阻害要因を洗い出す方法。精神的にかなりの労力となるので、ここぞという時に使う。
【持薬】人間関係の行間を読む
「振り返り」で出た発言や行動からメンバーの本音を察する方法。洞察の深さと継続的な観察の原動力となる他人への関心が求められる。

【劇薬】:本音を言う会

ベテランやマネージャーに席を外してもらい、一時的に、心理的安全性が高い状態をつくったあとで、メンバーに本音を打ち明けてもらう方法です。

手順
1. メンバーが本音を打ち明けにくいベテランやマネージャーといった方々に、部屋から一度退出してもらう
2. 各メンバーが匿名で本音を付箋に書き出す(もちろん、合意を取った上で)
3. 本音が書き出されたら、再度、ベテランやマネージャーといった方々に入室してもらい、挙げられた付箋を1つ1つ読み込んでもらう
4. その都度、メンバーとベテランやマネージャー陣、両者の本音を聞いていき、期待や認識を合わせていく

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私自身、1年間でこの会に2回参加しました。不満や要望がわかるので解決の糸口はもちろん見つかります。
しかし、それ以上に、仕事への想いや過去の経験、将来の夢に話が発展することが多く、仕事の関係を超えて、1人の人間として「何を思っているか?」を知れるような機会に2回ともなりました。
また、誰からのサポートも受けることができずメンバーからの過度な要求をこらえていた「マネージャーの孤独」をメンバーが知る機会にもなり、よりチームが一体になれた瞬間でもありました。

【持薬】:人間関係の行間を読む

消極的なメンバーの発言や行動を観察することで、本音を打ち明けるのを阻害する要因を発見する方法です。
方法自体はとてもシンプルです。
しかし、阻害要因を見極める「深い洞察力」と、普段からメンバーを観察をし続ける「継続力(人への関心)」がなければ、なかなか実現しません。

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私たちの現場でも次のようなエピソードがありました。

あるメンバーのパフォーマンスが明らかに悪いものの、その原因が誰にもわからないという状況がありました。
いろんなメンバーが質問を通して深掘りをしたものの、原因が謎のままに終わり停滞感が漂いはじめていました。
しかし、山下というメンバーが、「会社の先輩でもある、チームのリーダーが怖くて、アラートを正しく伝えられなかった」様子をみていて、「無茶なタスク量をこなしていたのでは?」という仮説を持ち出しました。
山下が、「こういう立場だと、よくある」と伝えると、あるメンバーは
「いくら、無理だと言っても、常に工夫することはできないのか?という押し問答を受けて辛かった」
「実は、ずっと、ぎくしゃくした関係だった」
という本音を明らかにしてくれました。(そのあと、定期的に1on1を開き、正直な気持ちを聞く場が設けられました)

このときは山下の経験則や観察力を頼りに、阻害要因を探しました。
しかし、いまなら、先日投稿された心理的安全性ガイドライン(あるいは権威勾配に関する一考察)という記事の権威勾配を構成する変数にまとまっている観点を頼りにより早く・正確に発見ができるでしょう。

権威勾配を構成する変数

「チームメンバーの人間関係」と「上図の各要素」を一問一答形式で照らし合わせていく「阻害要因ドリル」をつくるなど、今後は様々な方法を試していきたいです。

B. 「無関心」を変える

 「無関心」=「消極的」×「問題意識なし」
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「振り返りの意義がわからないし、問題意識も特にない」という、いわば、「無関心」なメンバーを「積極的」に変える方法には、2つの切り口があります。

【論理で動いてもらう】
「振り返りは価値がある」と理解してもらい、メンバーがひとりでに行動が変えていく方法
【感情で動いてもらう】
「振り返りはおもしろそう」と感じてもらい、周りに巻き込まれながら行動が変わっていく方法

【論理で動いてもらう】

「振り返りは価値がある」と理解してもらうためには、「振り返り」によって起きる変化を観測して、その効果を理解してもらう必要があります。
「定量」・「定性」の観点で、実践した2つの方法を紹介します。

 定量:フォーカスサーベイで、改善を数値化

前回までの「振り返り」で決めたアクションプラン(Try)の効果を、モチベーションクラウドを使って数値化しました。
目に見える形で、振り返りの価値を伝えて理解してもらおうとした試みです。

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定量観測の対象は、1週間前に決めたアクションプランだけでなく、これまで決めたすべてのアクションプランです。
これによって、1度決めた過去のアクションプランたちがちゃんと継続されているか?といったことが、現場の満足度を通じて把握できます。

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振り返りの効果を伝えるために、あらゆるデータを可視化しました。
「1週間で対応するタスクの重さ」をStorypointにて、また、「1週間に使った労力」を作業時間にて測り、さらに、計画時点での予定とスプリント終了時点での実績をそれぞれに出すようにしていました。
しかし、フォーカスサーベイの結果ほど、チームの変化を実感できる指標はなく、「振り返り」の価値を伝える上では1番の方法だと気づきました。

実際に運用していく上で、「期待度が下がり、満足度が上がった」という状態に直面しました。
このときは既存の改善活動には満足していてお腹いっぱい、次のアクションに移ってもよいGOサインが出たチームで出た状態とみんなで結論づけたのですが、おもしろい洞察として記憶に残っています。

 定性:「習慣化」した行動を見える化する

KPTのKeepでチーム内で数週間続いていた行動を意識的に取り上げて、「習慣化」というタグをつけました。
振り返りで決めたアクションがチームに根付いていることを見える化して、振り返りの価値を理解してもらおうとした試みです。

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「振り返り」のあとに、チームに定着した価値観や行動は無意識に溶け込みます。
1度、これらが当たり前として定着してしまうと、改めて、言語化するのはしつこいと思われるかもしれません。
しかし、振り返りがチームに良い変化をもたらしたことをメンバーに理解してもらうために、泥臭いですがみんなで伝えあることを意識しました。

私たちの現場ではできなかったですが、1週間前のKeepと今週のKeepを見比べていく方法も、「廃れたKeep」や「無意識層に潜り込んだKeep」がわかって面白いかもしれません。

【感情で動いてもらう】

もちろん、論理で人を動かすことができれば良いです。

しかし、チームが劇的に変わった成功体験がない限り、論理で説得はできても納得を生み出すのは難しかったりします。
また、頭よりも心で判断するようなメンバーもいる(特にものづくりをする職場では)ことでしょう。

そのような状況で、メンバーの積極性を促すためには、ムーブメントを興すということを実践しました。
「言語領域」・「非言語領域」の2つの切り口で紹介します。

言語領域:失敗の標語化

チームで起きた成功体験や失敗を共通言語にして、わいわい楽しく使う試みです。端からみて「なんだか楽しそう」という雰囲気をつくるだけでなく、チームが気をつけるべき事柄が一気に広まる効果もありました。以下がその一例です。

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言語領域:名言の実況

チームで「振り返り」をしたあとに、その内容を第3者に共有してフィードバックをいただく機会が定例で設けられていたのですが、そこで出たキーワードをslackに投稿する試みです。目的は失敗の標語化に近いです。

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定例に参加していないメンバーからすると、作業中に突然、名言風の投稿が流れてくるわけです。ここで「何があった?」と興味を持ち、詳細を聞きにくるメンバーやこのフィードバックの時間にぜひ参加したいと志願するメンバーも出てきました。

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非言語領域:聞き手が盛り上げる

盛り上げの責任を、話し手でなく聞き手が持つことです。
「振り返り」だけでなく、チーム活動自体が「なんだか楽しい」と思ってもらえるようにするために行う工夫なのですが、ガヤと呼ばれる行為に近いかもしれません。
チーム全体の熱量が高く、あの渦に巻き込まれてみたいとメンバーに思ってもらうことを目指します。

そのためには、膝に手を当てて静かに話を聞く文化ではなく、聞き手が話し始めても問題ない空気をつくっていきましょう。。

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私たちの現場でも次のようなエピソードがありました。

「アイスブレークマン」と後に呼ばれる男がいて、チーム活動を毎回、盛り上げてくれていました。
しかし、冷静に彼の話を思い出してみると、特段おもしろいわけでもなくどちらかというと小話に近いものが多かった気がします。
そんな彼が場を盛り上げることに成功していた理由は、彼の「場をなんとか盛り上げようとする」勇姿にメンバーの心が動かされて、「よっ!」「おおお!」「出た!」というような応援に近い合いの手が生まれていたからでした。
彼のアイスブレークは、ライブ会場のパフォーマーとそれを応援するファンたちのような関係をメンバー間に生み出したのです。
ここから話し手だけでなく、聞き手こそが盛り上げ役としての役割を果たす大切さを学びました。

2.「問題意識あり」の領域に引き込む

「問題意識なし」というメンバーを減らし、「問題意識あり」というメンバーを増やすための方法を紹介します。

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このためには、チーム内で意識すべき問題を揃えて、その温度感を徐々に高めていく必要があります。
その上で私たちは次のようなことを実行しました。

・向き合う対象は「過去」でなく「未来」
・進捗の副詞に気をつける
・発言と言動を切り分ける

しかし、こちらはまとめる時間がなかったため、割愛させてください。
内容としては、私の尊敬する偉大なチームリーダー、キタさんやなさんの記事に書かれていることでもありますので、そちらを参考にしていただければ幸いです。

スクラムマスターを経験して味わった成功体験と失敗体験

スクラム未経験者がチームメンバーと共に暗黒の時代を抜けて、エンゲージメント・レーティングをAAまであげた1年を振り返る

 おわりに

本記事は、モチベーションクラウドアドベントカレンダーGoodpatch UI Design Advent Calendarの24日目の記事です。
チームで新しい取り組みを行うとき、そこには必ず、「人」がいます。
「人」の感情を無視して手法やプロセスを組み込むのではなく、その多様性を尊重・感謝する。
私自身、これを忘れずにいたいと思います。