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上場企業勤務のデータサイエンティストの自腹論文購読リストを大公開します

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はじめに

こんにちは、事業会社で働いているデータサイエンティストです。

最近は友人からどんな論文をいくらで購読しているの?みたいな相談を受けました。同じ質問に何回も答えるのは工数的によろしくないので、Qiitaで記事化して世界に公開しようと思います。

前提

まず、前提を説明します。

  • 民間企業勤めの方向けの感想のため、ビジネスでの有用性を過度に強調する場合がある
  • 論文購読は日本時間2024年4月3日19:00現在、全て私個人の財産で賄っている
  • 感想はあくまでも日本のトップクラスの人材系IT企業に務めている、政治学出身のデータサイエンティストの見解
  • 実際の論文アクセス権限は学会の会員資格に付随するものなので、学会単位での説明になる
  • 学会資格で複数のジャーナルを閲覧できる場合、その中の一部のジャーナルしか紹介しない場合がある
  • 学会の会費は購読者の居住地や年収などによって変動する場合がある。本記事は基本的には東京都在住の年収1000万円以下の民間企業所属のデータサイエンティスト状況を想定している
  • 学会の会費などは改定される可能性があるが、本記事は基本的には更新されない
  • おすすめ度の満点は5

になります。

政治学

American Political Science Association

リンク

会費

年間83ドル

ジャーナル

American Political Science Review

おすすめ度:3

政治学の代表的なトップジャーナルの一つです。

のような既存手法の応用系の論文の他にも、新しい分析手法

や新しい実装方法

を紹介する論文もたくさんあります。

また、政治学の理論やゲーム理論による分析なども載っていてバランスがいいです。

Political Analysis

(Organized SectionのPolitical Methodologyに入会する必要がある。追加で年間30ドル)

おすすめ度:5

政治学の計量分析の領域のトップジャーナル。

因果推論、

ベイズ統計学、ベイズ機械学習の計算原理、

ベイズ機械学習モデル、

機械学習でいうembedding系のモデルと発想が極めて似ている項目反応理論、

深層学習

など、全てを網羅的に掲載しています。

どんな分析でも、基本的には困ったらPolitical Analysisで論文を探してみればどうにかなると思います。

基本的には実装用のR言語のパッケージがついています

Midwest Political Science Association

リンク

会費

2年間149ドル

ジャーナル

American Journal of Political Science

おすすめ度:1

2024年1月からアクセスできません。メールを送っても回答になったいない回答しかありません。金を返してほしいです。

エラー画面はこんな感じです。

Screen Shot 2024-04-03 at 19.45.18.png

というサービスレベルの低さの問題もありますが、ジャーナルの内容自体は優秀です。

テキストアズデータ(自然言語処理)関連の手法の多さが印象的です:

他にも、ベイズ統計モデルの応用

や項目反応理論の仮定に対する理論的な考察

など、分析の実務に役立つ論文が多数掲載されています。性格はAmerican Political Science Reviewに近いです。

サービスレベルの問題がなければおすすめ度は4です。

Peace Science Society (International)

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会費

年間60ドル

ジャーナル

Journal of Conflict Research

おすすめ度:2

計量政治学の手法よりは、紛争論の定量的な分析に重点を置いています。

もちろん、このような新規手法の提案に近い内容の論文

もありますが、比較的単純な統計学的手法を国際政治学、特に紛争論のドメインに応用する論文が多いです。

比較的単純な統計学的手法はいい結果を出せないと主張するつもりは一切ありませんが、単純な統計学的手法の応用が見たいならPolitical AnalysisとAmerican Political Science Reviewなどにもたくさんあるので、わざわざJournal of Conflict Researchを購読する必要はないと思います。

なので、紛争論の定量分析自体に興味がなければ購読しなくてもいい気がします。

ただ、国際政治学の定量分析系のトップジャーナルなので、業界に入っても国際政治学の研究を続けたい方は購読した方がいいです。

Journal of Peace Research

おすすめ度:2

強調する側面に違いがありますが、全体的にはJournal of Conflict Researchの性格に近いです。

Journal of Conflict Researchと同様、紛争論の定量分析自体に興味がなければ購読しなくてもいい気がします。

ただ、同じく国際政治学の定量分析系のトップジャーナルなので、国際政治学の研究を続けたい方は購読した方がいいです。

Southern Political Science Association

リンク

会費

年間85ドル

ジャーナル

Journal of Politics

おすすめ度:4

American Political Science ReviewとAmerican Journal of Political Scienceに近い性格のジャーナルです。

最先端の因果推論の手法の論文はもちろん

テキストアズデータの実証研究

と利用方法の解説論文

もあります。

経済学

The Econometric Society

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会費

年間175ドル

ジャーナル

Econometrica

おすすめ度:2

経済学ないし社会科学全体のトップオブトップのジャーナルです。

第二次世界大戦が終わる前の論文も目を通す価値があります。

ただ、Econometricaはどちらかというと理論研究を強調するジャーナルなので、目の前の分析課題にすぐ転用できる知識はほぼないです。

内容は極めて難解なため、このように、内容がかっこ良さそうだけど、結局この論文のことを理解して何が嬉しいかが分かりにくいものが多いです:

また、手法を提案しても、数学的な厳密性を強調しすぎて、実装しにくい形で紹介されることが多いです。紹介される手法も、論文のテーマに特化しすぎて別の分析課題に転用しにくいものが大半です。もちろん、R言語などのパッケージも基本的にはないです。

なので、北米のトップ大学の経済学博士課程レベルの知識の高みを目指さなければ、購読しなくてもいいです。

American Economic Association

リンク

会費

年間50ドル

ジャーナル

American Economic Review

おすすめ度:3

経済学のトップジャーナルです。

分析手法を提案する論文

もありますが、基本的にはEconometricaよりわかりやすいかつ実装しやすいものが多いです。

ただ、どちらかというと中央銀行と規制当局(政府)観点のものが多いため、ビジネスで直接利用できる内容はかなり限られていますが、それでも分析のヒントを得ることができます。

Journal of Economic Literature

おすすめ度:3

文献紹介に特化したジャーナルです。

このように因果推論の手法を取り上げて詳細を紹介する論文もあります。

勉強用だけでなく、分析手法を批判的に俯瞰する観点が欲しい時や、思考を整理したい時に役立ちます。

INFORMS

リンク

会費

年間176ドル

ジャーナル

Marketing Science

おすすめ度:4

内容としては、ビジネス側がほしがるユーザーの選好の推定

や需要の弾力性の推定方法

などの伝統的な経済学的な内容の他にも、画像処理

やテキストアズデータ

の手法に関する論文もあります。

Management Science

おすすめ度:3

性格はMarketing Scienceに似ています。

需要の弾力性の推定方法を紹介する論文

やベイズ統計モデル系の手法

などがあります。

ただ、内容は全体的にMarketing Scienceより硬く、リスク管理や投資戦略の話が多いので(まあ、Management Scienceなので当たり前なんですが)、個人的にはMarketing Scienceの方が好きです。これは本当に個人の好みの問題です。

方法論(統計学・機械学習)

American Statistical Association

リンク

会費

年間195ドル

ジャーナル

Journal of the American Statistical Association

おすすめ度:4

統計学の伝統的なジャーナルで、機械学習に関連する論文

も多いです。

Econometricaのような難解な論文もあるですが、Rのパッケージがついていたり、モデル構造の説明がわかりやすく、すぐ実装できるものが多いです。

なので、分析で困ったときはよくここでアイデアを探します。

The American Statistician

おすすめ度:5

統計学の知識の説明を目的とするジャーナルです。性格はJournal of Economic Literatureに近いです。

業界での因果推論を紹介する論文

などがあります。

複雑な内容を噛み砕いて説明してくれるので、ある手法の全体像を把握したいときに使いやすいです。

Journal of Business & Economic Statistics

おすすめ度:3

応用計量経済学に特化したジャーナルです。

Econometricaのように独自手法を提案する論文もありますが

感覚的にはそこまで多くはなく、既存の統計学の手法を応用する論文

もあり色々参考になります。

Journal of Computational and Graphical Statistics

おすすめ度:4

これはAmerican Statistical Associationのジャーナルの中でも特に理論的に凝った論文を載せるジャーナルのイメージです。

一部の著者は研究の理論的なディテールを切り離してこのジャーナルに載せますイメージがあります:

統計学と機械学習の深い理論背景に興味がある時に頼りになるジャーナルです。

お会計タイム

さて、まずRとPythonで一年当たりの合計金額を計算しましょう。

XXXXXX % R

R version 4.2.0 (2022-04-22) -- "Vigorous Calisthenics"
Copyright (C) 2022 The R Foundation for Statistical Computing
Platform: aarch64-apple-darwin20 (64-bit)

R is free software and comes with ABSOLUTELY NO WARRANTY.
You are welcome to redistribute it under certain conditions.
Type 'license()' or 'licence()' for distribution details.

  Natural language support but running in an English locale

R is a collaborative project with many contributors.
Type 'contributors()' for more information and
'citation()' on how to cite R or R packages in publications.

Type 'demo()' for some demos, 'help()' for on-line help, or
'help.start()' for an HTML browser interface to help.
Type 'q()' to quit R.

[Previously saved workspace restored]

> 83 + 30 + (149/2) + 60 + 85 + 175 + 50 + 176 + 195
[1] 928.5
XXXXXX % python3
Python 3.8.9 (default, Oct 26 2021, 07:25:53) 
[Clang 13.0.0 (clang-1300.0.29.30)] on darwin
Type "help", "copyright", "credits" or "license" for more information.
>>> 83 + 30 + (149/2) + 60 + 85 + 175 + 50 + 176 + 195
928.5

年間928.5ドルですね。

日本時間2024年4月3日21時30分でレートを確認した結果、日本円で年間14万1021.51円になります。

高いな、、、

高いですが、データサイエンティストとして持続的にインプットしないと、アカデミアでもビジネスでも良質なアウトプットができないと思いますので、これからは購読ジャーナルを増やしていく予定です。

皆さんもぜひ、自分のニーズに合ったジャーナルを購読してみてください!

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