はじめまして、りょーつといいます。高専出身の大学院2年生です。もうすぐ博士課程1年生になります.研究の専門は力学や機構学ですが,Qiitaでは主に制御工学や数学に関する記事を書いています。今週は,高専に通っていた頃にお世話になった数学の先生から教わった,$n$次元球の話をまとめてみようと思います.
目次
1.はじめに
2.球の方程式の一般化
3.円の面積
4.球の体積
5.おわりに
1. はじめに
今回は$n$次元球について紹介します.$n$次元球はその名のとおり,球の方程式を高次元に拡張したものであり,面白い性質を持っています.最終的には$n$次元球の体積を計算したいのですが,いきなりそれを計算するのは大変なので,今回は$n$次元球のイメージや,球の方程式の一般化,$n$次元球の計算に繋がる方法を用いた球の体積の計算などを紹介しようと思います.
高次元の話は抽象的で分かりづらいですが,数学を用いることで比較的容易に扱うことができる,ということを示せたらいいなと考えています.
大学の一般教養に登場する,重積分の知識や,物理にでてくる慣性モーメントとかのイメージがあると理解しやすいかと思います.
2. 球の方程式の一般化
球面の方程式は$x$,$y$,$z$の3次元空間において,以下のような形式で与えられます.
x^2 + y^2 + z^2
=
r^2
\tag{1}
ここで,$r$は球の半径を意味します.同じノリで円の方程式は$x$,$y$平面上で以下のような形式で与えられます.
x^2 + y^2
=
r^2
\tag{2}
なんとなく形式が似ていますね.これは,円と球面はどちらも原点からの距離が一定の点群で構成される,という点で共通しているからです.
(1)式と(2)式はベクトルを使うことでうまくまとめることができます.原点からの位置ベクトルを$\boldsymbol{x}$としたとき,その大きさが半径$r$に一致すればいいので,球の方程式は以下のように記述することもできます.
|| \boldsymbol{x} ||
=
r,
\ \ \ \
\boldsymbol{x} \in \mathbb{R}^3
\tag{3}
ここで$\boldsymbol{x} \in \mathbb{R}^3$は3次元空間のベクトルであることを意味しており,(3)式が(1)式に対応していることを表現します.つまり,(2)式のような円をベクトルで表現するためには以下のようにすればよいのです.
|| \boldsymbol{x} ||
=
r,
\ \ \ \
\boldsymbol{x} \in \mathbb{R}^2
\tag{4}
とても簡単ですね.
じゃあ$n$次元の球はどうなるのでしょうか?なにも難しくありません.(3)式を$n$次元にするだけです笑.数式で書くと以下のようになります.
|| \boldsymbol{x} ||
=
r,
\ \ \ \
\boldsymbol{x} \in \mathbb{R}^n
\tag{5}
$n$次元位置ベクトル$\boldsymbol{x}$を
\boldsymbol{x}
=
\begin{bmatrix}
x_1 \\
x_2 \\
\vdots \\
x_n \\
\end{bmatrix}
\tag{6}
としたとき,(5)式は以下のように成分表示できます.
x_1^2 +x_2^2 + \cdots + x_n^2
=
r^2
\tag{7}
これが$n$次元球面の方程式です.数学者には「円 = 2次元の球」に見えているということです.逆に1次元の球も存在します.数式で書くと以下のような形になりますね.ただの点ですが,これはだれがなんと言おうと1次元の球です(^▽^)/
|| x ||
=
r,
\ \ \ \
x \in \mathbb{R}
\therefore
x
=
\pm \ r,
\tag{8}
1次元の球はイメージしずらいと思うので,円や球と比較する図を用意してみました.
図1 1~3次元の球面
4次元以上の高次元の球面は図として可視化することができませんが,(5)式のようなベクトルで記述することでシンプルにできることが分かりますね.こちらの記事の内容にも通ずるところがあります!
3. 円の面積
$n$次元球の体積は積分を使って計算する必要があります.いきなり$n$次元の積分をし始めるとわけが分からなくなるので,いったん低次元から始めてみましょう.$n$次元球の体積の計算は円の面積の計算に似ています.円の面積$V_2$は誰もが知っている通り,以下の計算式で求まりますが,本章では積分を使ってこれをもとめてみようと思います.
V_2
=
\pi r^2
\tag{9}
積分を使って面積を求めるときは,図形を細かく分割して,それらを合計することで計算します.ここでは円を短冊状に切り刻みます.短冊の位置を$t$としたとき,短冊1つあたりの面積$dV_2$は,以下のように計算できます.
dV_2
=
2\sqrt{r^2 - t^2} \ dt
\tag{10}
図2 円を分割して得られる短冊の面積
円の面積は,$t=-r$~$r$について,短冊の面積を合計したものとして計算されるので,以下の積分で計算可能です.
V_2
=
\int
dV_2
=
\int_{-r}^r
2\sqrt{r^2 - t^2} \ dt
\tag{11}
では実際に計算してみましょう.そのまま積分するのは大変なので,以下の置換積分をします.
t
=
r \sin{\theta}
\tag{12}
dt
=
r \cos{\theta} \ d\theta
\tag{13}
積分区間は$-r$~$r$から$-\frac{\pi}{2}$~$\frac{\pi}{2}$にかわります.まとめると
V_2
=
\int_{-r}^r
2\sqrt{r^2 - t^2} \ dt
=
\int_{-\frac{\pi}{2}}^\frac{\pi}{2}
2r\cos{\theta} \sqrt{r^2 - r^2 \mathrm{sin}^2 \theta}
\ d\theta
=
2r^2
\int_{-\frac{\pi}{2}}^\frac{\pi}{2}
\cos{\theta}\sqrt{1 - \mathrm{sin}^2 \theta}
\ d\theta
=
2r^2
\int_{-\frac{\pi}{2}}^\frac{\pi}{2}
\cos{\theta}\sqrt{\mathrm{cos}^2 \theta}
\ d\theta
\therefore
V_2
=
2r^2
\int_{-\frac{\pi}{2}}^\frac{\pi}{2}
\mathrm{cos}^2 \theta
\ d\theta
\tag{14}
ここで,(14)式が偶関数の積分であることと,前回の記事で紹介したウォリス積分を使うと解が以下のように得られます.偶関数の積分は積分区間が対称的な場合に積分区間を半分にできます.
V_2
=
2 \times 2r^2
\int_0^\frac{\pi}{2}
\mathrm{cos}^2 \theta
\ d\theta
=
2
\times
2r^2
\times
\frac{1}{2}
\times
\frac{\pi}{2}
=
\pi r^2
\tag{14}
たしかに(9)式が正しいと分かりました!
次の4章では,同じようなノリで球の体積を求めてみます.このノリが伝われば,来週以降の$n$次元球の計算もラクにできるでしょう.
4. 球の体積
本章では$n$次元の積分を考える練習として,球の体積も積分で計算してみようと思います.球の体積$V_3$は誰もが知っているとおり以下の公式で計算できます.
V_3
=
\frac{4}{3} \pi r^3
\tag{15}
ですが,またここでは積分で計算していきます.積分の分割方法は沢山ありますが,ここでは輪切り方式を使用します.輪切りをしたときにできる円(2次元球)を使いたいからです.
図3 球の輪切り分割
積分を使って体積を求めるときは,球体を細かく分割して,それらを合計することで計算します.輪切りでできた円柱の位置を$t$としたとき,円柱1つあたりの体積$dV_3$は,以下のように計算できます.
dV_3
=
\pi \Big(\sqrt{r^2 - t^2} \Big)^2 \ dt
\tag{16}
ここで,(12)(13)式と同じように(16)式を置換してみましょう.すると,$dV_3$が$V_2$を用いて表現できることが分かります.
dV_3
=
\pi \Big(\sqrt{r^2 - r^2 \mathrm{sin}^2 \theta} \Big)^2 r\cos{\theta} \ d\theta
=
\pi r
\Big(
\sqrt{r^2 \mathrm{cos}^2 \theta}
\Big)^2
\cos{\theta} \ d\theta
=
\pi r^3 \mathrm{cos}^3 \theta \ d\theta
=
r V_2 \mathrm{cos}^3 \theta \ d\theta
\tag{16}
したがって,球の体積は以下のようにもとまります.もちろんここにもウォリス積分がでてきます.
V_3
=
\int
dV_3
=
\int_{-\frac{\pi}{2}}^\frac{\pi}{2}
r V_2 \mathrm{cos}^3 \theta \ d\theta
=
2r V_2
\int_0^\frac{\pi}{2}
\mathrm{cos}^3 \theta \ d\theta
=
2r V_2
\times
\frac{2}{3}
=
\frac{4r}{3} V_2
\therefore
V_3
=
\frac{4}{3} \pi r^3
\tag{17}
たしかに(15)式と一致しましたね.ここで重要なのは,「球の体積が計算できたこと」ではなく,球の体積$V_3$の計算に,円の面積$V_2$が登場したことです.このように,球の計算には,1つ前の球の情報を使用します.
ということは,4次元の球の体積の計算には3次元の球が出てくるのでは..?と想像できますよね.詳しくは来週解説します!
5. おわりに
今週の記事では,$n$次元球の導入として,方程式の導出と,基本となる円の面積および球の体積を積分によって計算しました.来週は,これらの応用として,$4$次元球の体積を計算してみたいと思います.
今週も最後まで読んでいただき,ありがとうございました~