はじめまして、りょーつといいます。高専出身の大学院2年生です。研究の専門は力学や機構学で、Qiitaでは主に制御工学や数学に関する記事を書いています。本記事は微分幾何学を布教する1つ目の記事です.
微分幾何学は微分可能な滑らかな曲線や曲面を扱う幾何学であり,ロボット工学や相対性理論など,さまざまな分野で応用されています.私は工学系出身なので講義で微分幾何学を扱うことはなかったのですが,趣味で独学してから世界が変わったのでぜひ布教したいと思い,この記事を書くに至りました.
非数学系の人が微分幾何学を学ぶ際の助けになればいいなあと思います.
目次
1.はじめに
2.非直交座標系におけるベクトルの射影
3.反変ベクトルと共変ベクトル
4.おわりに
1. はじめに
今回の記事では反変ベクトルと共変ベクトルの図的イメージを紹介しようと思います.正確には,反変ベクトルと共変ベクトルの定義には触れず,非直交座標系におけるベクトルの表現方法が2種類存在し,それらが反変ベクトルと共変ベクトルに対応している,ということを示します.
線形代数に登場する,ベクトルの内積の知識と,ベクトルの基底や座標に関する知識があれば理解しやすいと思います.
2. 非直交座標系におけるベクトルの射影
まずは正規直交座標系におけるベクトルの内積について簡単におさらいしましょう.こちらの記事で紹介されているように,正規直交座標系では,ベクトルと基底の内積を取るとその成分が抽出できるのでした.例えば正規直交基底$\boldsymbol{e_x},\boldsymbol{e_y}$以下のように定義されるベクトル$\boldsymbol{a}$について考えてみましょう.
\boldsymbol{a}
=
A_x \boldsymbol{e_x} + A_y \boldsymbol{e_y}
\tag{1}
内積をすれば以下のように成分が抽出できるはずです.
A_x
=
\boldsymbol{a} \cdot \boldsymbol{e_x}
\tag{2}
A_y
=
\boldsymbol{a} \cdot \boldsymbol{e_y}
\tag{3}
念のため(1)~(3)式のイメージを図1にまとめてみました.内積は同じ方向を持つ成分を抜き出す操作である,というイメージをしていただくと分かりやすいかと思います.
図1 正規直交座標系におけるベクトルの成分の抽出
では次に単位ベクトル$\boldsymbol{u_1}$と$\boldsymbol{u_2}$を基底に持つ非直交座標系を考えてみましょう.このとき座標$B^1$と$B^2$を用いることで,ベクトル$\boldsymbol{b}$は平行四辺形の法則により,以下のように表現できます.
\boldsymbol{b}
=
B^1 \boldsymbol{u_1} + B^2 \boldsymbol{u_2}
\tag{4}
$B^1$と$B^2$の右上の数字は指数ではなく添え字であることにご注意ください.図2に(4)式のイメージ図を用意しました.
図2 (4)式の図的イメージ
ではベクトル$\boldsymbol{b}$からも(2),(3)式と同じように成分を抽出することができるのでしょうか?実は(2),(3)式のような操作はできません.
B^1
\neq
\boldsymbol{b} \cdot \boldsymbol{u_1}
\tag{5}
B^2
\neq
\boldsymbol{b} \cdot \boldsymbol{u_2}
\tag{6}
(5),(6)式のイメージは図にまとめると分かりやすいので図3にまとめてみました.
図3 非直交座標系における内積結果
ですが,内積が使えないのは不便なので,無理やり以下のように内積を定義してみましょう.$B^1$と$B_1$,$B^2$と$B_2$は別物であることに注意してください.
B_1
=
\boldsymbol{b} \cdot \boldsymbol{u_1}
\tag{7}
B_2
=
\boldsymbol{b} \cdot \boldsymbol{u_2}
\tag{8}
(7),(8)式のイメージを図4にまとめてみました.非直交座標系で内積を取ると,変な部分の寸法が出てくるってところが面白いですよね.
図4 非直交座標系におけるベクトルの合成と内積結果のズレ
3. 反変ベクトルと共変ベクトル
2章では,非直交座標系で内積をとると変な場所の寸法が出てくることが分かりました.ただ「変な寸法が得られた」だけで終わらせるのはもったいないのでもう少しコネコネしてみましょう.
では,(7)(8)式で得られた寸法を使ってベクトル$\boldsymbol{b}$が作れるような基底$\boldsymbol{u^1}$,$\boldsymbol{u^2}$を図5に示すように定義してみましょう.ここで,注意すべきなのは基底$\boldsymbol{u^1}$,$\boldsymbol{u^2}$が単位ベクトルでなくてもよいこと,$\boldsymbol{u^1}$と$\boldsymbol{u_2}$,$\boldsymbol{u^2}$と$\boldsymbol{u_1}$は直交するという点です.すると,ベクトル$\boldsymbol{b}$は以下のようにも表現することができますね.
\boldsymbol{b}
=
B_1 \boldsymbol{u^1} + B_2 \boldsymbol{u^2}
\tag{9}
図5 新しく作った基底でベクトルを表現する方法
つまり,ベクトル$\boldsymbol{b}$には以下に示すように2通りの表現方法があるということです.
\boldsymbol{b}
=
B^1 \boldsymbol{u_1} + B^2 \boldsymbol{u_2}
=
B_1 \boldsymbol{u^1} + B_2 \boldsymbol{u^2}
\tag{10}
なぜそうなるのか,どうして直交するようにしたのか,という疑問は来週の解説にまかせるとして,(10)式で示したベクトルがそれぞれ「反変ベクトル」,「共変ベクトル」と呼ばれるものになります.座標の添え字が右上にくるものを「反変ベクトル」,右下に来るものを「共変ベクトル」とする書籍が多いですね.本記事でいうと,(2)式が反変ベクトル,(9)式が共変ベクトルとなります.
つまり,反変ベクトルと共変ベクトルは基底の取り方が違うだけで本質的な違いはない,ということになります.あとあと便利だから「反変」とか「共変」というふうに分類しているイメージです.
図6に反変ベクトルと共変ベクトルのイメージをまとめておきました.
図6 反変ベクトルと共変ベクトル
4. おわりに
本記事では,非直交座標系における内積の図的イメージから,反変ベクトルと共変ベクトルを定義してみました.多くの書籍では,いきなり座標変換の性質から,反変ベクトルと共変ベクトルを定義されることが多いですが,直感的に理解するには難しすぎると感じたのでこのようなアプローチをとってみました.急に変な基底を登場させたのが吉と出るか凶と出るかって感じですね.
今後,計量などを考える際にも内積をたくさん使うことになるので,内積をベースに理論を組み立てるのも悪くないかなと思います.
来週は反変ベクトルと共変ベクトルの座標変換についてまとめてみようかと思います.今週も最後まで読んでいただき,ありがとうございました~.