はじめに
昨年、我が家の洗濯機が突然「ガガガガガガガ!!!」という激しい異音を出して完全に沈黙しました。
原因はベアリング破損。業者に修理してもらっていちおう動いているのですが、「本当に健康体に戻ったのか?」気になったので、iPhoneで振動計測してPSD解析してみました。
対象は、ベアリング交換歴ありの年代物のパナソニック製縦型洗濯機。
解析には自作Webアプリ WaveAxis Pro を使っています。
計測器はiPhone15 + Phyphox(いつもの装備)、計測位置は天板の真ん中です。
WaveAxis Proはブラウザで動く振動解析Webアプリです。CSVをアップロードするだけでFFT・PSD・スペクトログラム解析ができます。データはすべてブラウザ内で処理されるので、業務データでも安心して使えます。
計測条件
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 計測器 | iPhone15 + Phyphox(gを含まない加速度) |
| 洗濯機 | Panasonic NA-FA80H2(縦型、製造年月日不明) |
| 計測位置 | 天板の上、真ん中 |
| 洗濯物 | 作業着のみ(家族に一緒に洗うなと怒られたため🥲) |
| モード | 洗い / すすぎ / 脱水 |
| 軸定義 | X:洗濯機左右、Y:洗濯機前後、Z:洗濯機上下 |
| サンプリング周波数 | 100 Hz |
| PSD算出条件 | nperseg=1024、Hanning窓、オーバーラップ50% |
結果と考察
1. 洗いモード
| 軸 | 主なピーク周波数 | RMS ($m/s^2$) |
|---|---|---|
| 左右 (X) | 10.5 Hz、11.2 Hz | 0.0753 |
| 前後 (Y) | 11.2 Hz、11.6 Hz | 0.0722 |
| 上下 (Z) | 10.5 Hz、32.7 Hz、33.4 Hz | 0.0891 |
洗いモードでは 10〜12 Hz付近に複数のピークが密集しています。
縦型洗濯機の洗い動作は、底にある羽根(パルセーター)が正転・逆転を繰り返しながら水流を作ります。一定方向に回り続けるわけではないので、振動も規則正しいサイン波にはならず、近い周波数にピークが複数散らばる形になります。
注目したいのは上下方向です。10.5 Hzに加えて、その約3倍にあたる 32〜33 Hz付近にもピークが出ています。
これは「高調波」と呼ばれる現象で、機械振動ではよく見られます。パルセーターの往復運動は単純な正弦波ではなく、正転・停止・逆転を繰り返す動きなので、基本の周波数以外の成分も生まれます。それが構造を伝わる過程で特定の周波数(ここでは上下方向)が増幅されて現れたのが一因と考えられます
2. すすぎモード
| 軸 | 主なピーク周波数 | RMS ($m/s^2$) |
|---|---|---|
| 左右 (X) | 13.0 Hz | 0.8683 |
| 前後 (Y) | 13.0 Hz | 0.3095 |
| 上下 (Z) | 13.0 Hz、26.0 Hz、37.5 Hz | 0.2093 |
すすぎモードは洗いとはガラッと変わります。13.0 Hzの鋭い単一ピークが左右・前後ともに現れ、時系列波形も規則正しいサイン波のような形になりました。
これは回転が安定しているサインです。すすぎはパルセーターを一方向に連続回転させる動作が多く、モーターが一定回転数で回り続けるため、スペクトルもスパッと一本のピークに収まります。
13.0 Hz = 780 rpm に相当します。洗いの10〜12 Hzより少し高いのは、すすぎの方がモーターの設定回転数がやや高めになっているためと思われます。
上下方向では 13.0 Hz に加え、その2倍の26.0 Hz、3倍の37.5 Hz も見えています。こちらも洗いモードと同様に上下方向にだけ高調波が出るパターンで、縦型洗濯機の構造的な特性がよく出ています。
3. 脱水モード
| 軸 | 主なピーク周波数 | RMS ($m/s^2$) |
|---|---|---|
| 左右 (X) | 11.1 Hz | 1.3329 |
| 前後 (Y) | 11.1 Hz | 0.4955 |
| 上下 (Z) | 11.1 Hz、22.2 Hz、33.5 Hz、44.6 Hz | 0.5643 |
脱水モードが一番インパクトがありました。
まず振幅のデカさ。左右方向のRMSが 1.33 $m/s^2$ と、洗いモード(0.075 $m/s^2$)の約18倍です。時系列波形を見ると、計測時間18秒ほどずっと ±2 $m/s^2$前後の大きな揺れが続いています。
次にスペクトルの形。11.1 Hzを基本として、22.2 / 33.5 / 44.6 Hz と、きれいに整数倍のピークが4本並びました。
これは洗濯物の偏り(アンバランス) が原因です。脱水時は洗濯槽が高速回転しますが、洗濯物は槽の中で均一には分布しません。重心が回転中心からずれた状態で回ると、その「ズレ」が1回転ごとに同じタイミングで力を加え続けます。この周期的な力が基本周波数とその整数倍の成分を生み出します。
整数倍のピークが綺麗に並ぶのは、回転系の非線形な振動や偏荷重の影響で、高調波成分が強く現れている可能性があります。今回は作業着だけだったのでバランスが悪く、その分ハッキリ出たのかもしれません。
3モードの比較まとめ
| モード | 基本周波数 | 左右RMS ($m/s^2$) | スペクトルの特徴 |
|---|---|---|---|
| 洗い | 10.5〜11.6 Hz(複数ピーク) | 0.075 | 近接した複数ピーク、上下に高調波 |
| すすぎ | 13.0 Hz(鋭い単一) | 0.868 | 鋭い単一ピーク、上下に高調波 |
| 脱水 | 11.1 Hz(鋭い単一) | 1.333 | 整数倍の高調波が4次まで出現 |
全モードを通じて共通していたのは、上下方向にだけ高調波が強く出るという点です。縦型洗濯機は構造的に重心が高く、上下方向に振動が伝わりやすいため、この方向に高調波成分が増幅されて現れたと考えられます。
ベアリング交換後の状態はどうなの?
正直なところ、今回のデータだけで「ベアリングの状態が良い/悪い」を判断するのは難しいです。ベアリングの損傷を振動で検知するには、その機械のベアリング型番から計算した特定の周波数を狙って分析する必要があるのですが、今回は型番不明でそこまで踏み込めませんでした。
ただ、脱水の左右RMS 1.33 $m/s^2$というのが正常範囲なのか気になるところです。比較対象が欲しい。誰か別の洗濯機でも計測してみてください(他力本願)。
ちなみに本当に壊れかけると?
ベアリング損傷が進行すると、
- 回転数と関係ない広帯域ノイズ
- 高周波成分の増加
- 周期的な衝撃波形
などが現れることがあります。
今回はそこまで危険そうな波形ではありませんでした(たぶん)。
使用ツール
WaveAxis Pro(個人開発)
- ブラウザで動く振動解析Webアプリ
- CSVをアップロードするだけで時系列・PSD・スペクトログラムを即座に可視化
- データはブラウザ内のみで処理(会社の計測データも安心して使える)
- マルチチャンネル対応(今回はX/Y/Zの3軸同時表示)
https://waveaxis-pro.vercel.app
おわりに
家電の振動解析、やってみると意外と面白いです。スペクトルのピークを見るだけで「今モーターが何回転で回っているか」や「どんな力が加わっているか」が読み取れて、普段ぼんやり動いている機械の"中身"が少し見えてくる感覚があります。
今回の洗濯機は、昨年ベアリング交換で一度復活した機体ですが、こうして改めて振動を見てみると、「ちゃんと働いてくれてるんだな」と妙に愛着が湧いてきました。
洗濯機って、普段は動いて当たり前の存在ですが、ひとたび沈黙すると急に生活が崩壊します。コインランドリー通いが始まり、雨の日には乾燥機待ちの行列に並ぶことになる。文明のありがたみを強制的に思い知らされます。
人間も機械も、壊れてからでは大変です。
たまには振動を見たり、健康診断をしたりして、「いつもと違う」を早めに見つけるのが大事なのかもしれません。
次は洗濯物の量を変えて、脱水時の振動がどう変わるか見てみたいと思っています。……家族の了承が得られれば。




