はじめに
先日、振動解析Webアプリ WaveAxis の有料版(Pro)を公開しました。
今回はProの目玉機能である CSVデータ読み込み を使って、手元にあった扇風機の振動を実際に解析してみます。計測器はiPhone + 無料アプリ「Phyphox」だけ。特別な計測機器は一切不要です。
使用した機材・環境
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 計測器 | iPhone 15 + Phyphox(無料) |
| 対象機器 | 扇風機 SANYO EF-30SM(2005年製、5枚羽) |
| 計測位置 | モーター直上、iPhoneの中央をモーター部に載せる |
| 計測軸 | CH1:前後、CH2:左右、CH3:上下 |
| サンプリング周波数 | 100 Hz |
| 解析ツール | WaveAxis Pro |
計測位置について
最初はモーター上面+背面カバーの取っ手に当てた3点接触で計測していましたが、置き方によって結果がばらつきました。取っ手(背面カバー)への接触をやめ、iPhoneの中央をモーター部だけに載せるようにしたところ、再現性が大幅に改善しました。スマホ計測では接触方法が結果に直結します。
計測開始直後と終了前はボタン操作の衝撃がCH3(上下)に混入するため、処理範囲スライダーでその区間を除外して解析しています。
解析結果
各風量で3回計測し、再現性を確認したうえで代表例として3回目を掲載しています。
今回は測定時間や窓長の影響を受けにくく、ピーク比較がしやすいPSD(Welch法)を主に使用しました。
ソフト(最低風量)
| ピーク | 周波数 | 主な検出軸 |
|---|---|---|
| 第1ピーク | 10.5 Hz | CH2(左右) |
| 第2ピーク | 31.6 Hz | CH1(前後)★卓越 |
| 第3ピーク | 47.0 Hz | CH1(前後) |
CH1(前後)の31.6 Hzが最大ピークとして目立ちますが、後述の考察で触れるように、これは共振の影響と考えられます。CH2(左右)の10.5 Hzがモーターの回転数を反映している可能性があります。
弱
| ピーク | 周波数 | 主な検出軸 |
|---|---|---|
| 第1ピーク | 13.9 Hz | CH2(左右)★卓越 |
| 第2ピーク | 32.8 Hz | CH1(前後) |
| 第3ピーク | 41.6 Hz | CH1(前後) |
CH2(左右)の13.9 Hzが最大ピーク。41.6 Hzは13.9 Hzの約3倍であり、3次高調波と考えられます。
一方、32.8 Hzは整数倍ではなく、構造共振やモーター内部の別成分が重畳している可能性があります。
強(最大風量)
| ピーク | 周波数 | 主な検出軸 |
|---|---|---|
| 第1ピーク | 18.8 Hz | CH2(左右)★卓越 |
| 第2ピーク | 43.9 Hz | CH1・CH3 |
CH2(左右)の18.8 Hzが最大ピーク。43.9 Hzは回転周波数の整数倍とは一致しておらず、構造系の固有振動やモーター由来の別振動成分が重畳している可能性があります。
考察:2つの視点で読み解く
① CH2(左右)の卓越周波数 = モーター回転数
各風量のCH2左右方向の卓越周波数を並べると:
| 風量 | CH2卓越周波数 | 推定回転数 |
|---|---|---|
| ソフト | 10.5 Hz | 約630 rpm |
| 弱 | 13.9 Hz | 約834 rpm |
| 強 | 18.8 Hz | 約1128 rpm |
ソフト→弱→強できれいに単調増加しており、風量に応じた回転数の変化として自然な挙動です。
なぜ左右方向に回転数成分が出るのか。モーターの回転軸は扇風機の前後方向(CH1軸)に一致しているため、羽根やローターのわずかな質量アンバランスによる遠心力は回転軸に垂直な面内、すなわちCH2(左右)とCH3(上下)に働きます。今回の計測条件では、CH2(左右)に回転数由来と考えられる成分が最も強く現れました。
② ソフト時にCH1(前後)で31.6 Hzが卓越する理由
10.5 Hz(ソフトの回転数)の3次高調波は 10.5 × 3 = 31.5 Hz ≈ 31.6 Hz です。
回転機械では基本周波数の整数倍成分(高調波)が必ず発生します。通常これらは小さな成分ですが、構造の固有振動数と一致すると共振して大きく増幅されます。
今回のケース:
- 扇風機の前後方向(CH1)の固有振動数が約31〜32 Hz付近に存在する可能性がある
- ソフト運転時、回転数10.5 Hzの3次高調波(31.5 Hz)がこの固有振動数と一致
- その結果、CH1前後方向だけで31.6 Hzが大きく増幅されて卓越ピークとして観測された
弱・強では回転数が変わるため3次高調波の周波数も変化し、固有振動数との一致が外れます。そのため弱・強では31 Hz付近のCH1ピークは相対的に小さくなり、回転数成分(CH2卓越)が素直に観測されます。
実際の回転機械診断でも、回転次数成分と構造共振が重なることで、特定方向だけ振動が増幅されるケースはよく見られます。
まとめ
| 風量 | 推定回転数(CH2基準) | CH1方向の強い共振ピーク | 備考 |
|---|---|---|---|
| ソフト | 10.5 Hz(630 rpm) | あり(31.6 Hz) | 3次高調波が前後方向共振と一致 |
| 弱 | 13.9 Hz(834 rpm) | なし | 共振条件が外れる |
| 強 | 18.8 Hz(1128 rpm) | なし | 共振条件が外れる |
「ただ置いて計測しただけ」のスマホデータから、モーターの回転数推定と構造共振の痕跡まで読み取ることができました。
計測・解析のポイント(スマホ計測のTips)
実際に計測してみて分かったことをいくつか:
- 接触方法が再現性に直結する:カバーや付属品への接触を減らし、計測対象(モーター)に直接・安定して接触させることが重要
- 開始・終了のノイズは処理範囲で除外できる:WaveAxis Proの処理範囲スライダーで該当区間をカット
- 複数軸を同時に見ることで解釈が深まる:1軸だけ見ていると共振による見かけ上の卓越ピークを誤解する可能性がある
WaveAxis Proについて
今回の解析で使用した WaveAxis Pro は、ブラウザで動く振動解析Webアプリです。
主な機能(Pro版)
- CSV読み込みによる実測データ解析
- 複数チャンネル同時表示・色分けトグル
- PSD(Welch法)・パワースペクトル・スペクトログラム
- バターワース・チェビシェフ等のデジタルフィルタ
- データは完全にブラウザ内で処理(サーバーに生データは送信されない)
🔗 WaveAxis — 合成サイン波・ランダム振動波の解析は無料でお使いいただけます。
おわりに
iPhone + Phyphox という手軽な組み合わせでも、複数チャンネルのPSD解析をすることで、単なる「振動が大きい/小さい」を超えた情報を引き出すことができました。
そして何よりも21年前の扇風機でも回転成分は非常に安定しており、PSD上もそれほど気になるノイズもなく大きな異常兆候は見られなかったのがよかったです。(まだまだ使うぞー)
「振動解析って難しそう」と思っている方も、まずは身近な家電で試してみてはいかがでしょうか。






