はじめに
私は工場で生産管理システムの開発、間接業務のDXを行っています。
ですが現状、DXという名だけが先に走ってしまい、単なる自動化だけで終わり根本的な改善が何もできていない状況です。
DXを自動化だけでなく、業務プロセスから根本的に変えて最も良い形に持っていくにはどうすればいいか?
本記事では「 ツール導入より先に、業務文化の変革と信頼づくり 」を軸に、DXを成功させるための考え方を整理しました。
※記事は主に事務系のDXを想定して作成していますが、他の分野のDX(金融DX、小売DX、医療DX等)にも通ずる話と考えます。
1. なぜ事務系DXは難しいのか
まず、事務職のDXは、他の業界のDXに比べ「やる事が明確になっておらず」難しいという現状があります。
ホワイトカラーの仕事は知識集約型であり、評価軸やKPIが曖昧になりがちです。
例えば、レストラン・工場などの「ライン業務」と事務職で比較してみましょう。
| 観点 | レストラン/工場(ライン業務) | 事務職(間接業務) |
|---|---|---|
| 業務内容の明確さ | 作業手順・動線・成果物が明確。どの順で何をするかが決まっている。 | 業務の成果物・手順が人ごとにバラバラ。暗黙知が多い。 |
| 可視化のしやすさ | モノの流れが目に見える(製品・食材・工程)。データ化しやすい。 | 情報の流れが見えにくい(紙・メール・野良Excel)。データ構造が不明瞭。 |
| 標準化のしやすさ | レシピ・作業標準・マニュアルが整備されやすい。新人教育しやすい。 | 標準化しにくい。個別対応・例外処理が多く、新人がOJTで覚えることが多い。 |
| 自動化のしやすさ | ロボット・機械・システムで置き換え可能な動作が多い。 | 判断・調整・承認など「知識労働」要素が多く、RPA化しても例外処理で止まりがち。 |
| 成果・効果測定 | 生産数・提供時間・歩留まり・廃棄率など、定量で測れる指標が多い。 | 業務量・判断スピード・社内調整コストなど定性指標が多く、効果測定が難しい。 |
| 部門横断性 | 工程の境界が比較的明確。役割分担が固定化されている。 | 複数部門に跨る業務が多く、責任の所在や業務範囲が曖昧。 |
食品系・製造系の改善(自動化)であれば、手順や成果物が明確になっている物が多く、モノの流れや作業時間などが数値で可視化でき、改善効果も測定しやすく比較的進めやすい分野です。
一方で事務・間接業務は成果物が目に見えず、人ごとに手順が異なり、部門横断で分散しているため全貌の把握や標準化が困難です。
また、事務職の仕事は様々(見積書・計画表・企画書・保守等)で、共通の指標がない事も悩ましいです。その影響で、DXの効果が数値化しづらいことも投資判断を難しくしています。
そのため事務系DXでは、ツール導入だけでなく「業務の見える化」「標準化」「文化づくり」から着手する必要があります。
2. DXは自動化だけではない
DXはそもそも「デジタル化を通じて業務プロセスから変革し、新しい価値を生み出す事」と定義されており、自動化はそれの「一部」にすぎません。
ですが「ツールを売る」というビジネスが成立している以上、DXとツールがセットで語られるセミナー・Webページが多くなってしまうという現実があります。
ですが、実際ツール先行でDXを進めようとしても上手くいかない事が多いです。
以下に失敗パターンを記します。
3. よくある失敗パターン
1.ツールを入れればいいと思っている
日本型の企業では、終身雇用が主流だったころの名残で、企業内で積み上げてきた業務のやり方をそのまま仕組みに落とし込む、いわば「システムを業務に合わせる」風土が強く残っています。
そのような文化のままで、果たしてツールを入れただけで業務の生産性が改善されるのでしょうか?
実際は、導入先の部門から「使えない」と言われて全く使われなくなるだけです。
かといって、企業内で積み上げたやり方があまりにもオリジナリティが溢れていると、導入時のカスタマイズ量がものすごい事になり費用もかさむので、この時点でDXプロジェクトが失速してしまう危険性があります。
2.自動化だけすればいいと思っている
「RPAによる業務自動化」とDXが完全イコールで考えられているケースも良く見受けられます。
自動化はDXの「手段」にしかすぎません。
そもそも、事務処理は実際に全てをフローに起こしてみると、色々なデータを参照していたり、条件によってフローが全く異なっていたり、条件判断が勘に頼っていたり、人によってやり方が違うなど、様々な業務フローの問題を抱えているケースも珍しくありません。
そのような状況で自動化するのは至難の業です。
自分たちの首を絞めないためにも「業務プロセスの改善」から入るのが理にかなっています。
3.完璧な計画から入ろうとする
最初から完璧を求めすぎて、DXプロジェクトが進まないこともあります。
特に委託やマネジメントを細かく行う必要があるとこういった計画が必要になってきて、最初に全体像を洗い出し、そこからどのようにDXをSTEP分けして進め、最終的に何を求めるのかを細かく求められることもあります。
事務系業務は「知識労働」が多く、アウトプットの評価軸が曖昧なため、そもそもどこまで自動化・標準化できるかが測りづらい、という構造的な難しさがあります。
特に「データの流れ」は目に見えないため、全貌把握が難しいです。
そのため、「どこまで自動化できるか」を判断するために、「どういったデータを使用しており、何処から取っているかを」洗いざらい導入先の職場で調べる事になります。事務職では情シスで管理してない野良Excel内のデータで業務が進む事は当たり前ですからね。
ですがトップダウンで「DX」ときて疑心暗鬼になっている、かつノウハウも一切ない部署に「どういったデータを使って、どのような業務をしているのか」を纏める事は難しいでしょう。
かといって情シス部門がその情報を纏めようと思っても必ず抜け漏れが発生すると思いますし、全部門を見ようとすると工数もとんでもなくかかります。
ツール先行の失敗パターン(1と2)から学べる事
1と2の両者の失敗ケースで共通しているのは、「業務を変える」という文化・発想が無いことです。
長年築き上げた業務フローは、確かに安心感と信頼性を与えるものですが
昨今のデジタル時代においては、より効率的な方法があったり
そもそも積み上げすぎて業務が冗長化・複雑化していることも珍しくありません。
DXには「データ」と「標準化された業務フロー」が必要です。
なぜなら、システムの根本は「0」と「1」のデジタル信号で予めプログラムされた通りに動くものなので、人間の頭脳のような柔軟さがありません。
そのため予め「こういう時はこうする」と全て「定義」しておく必要があります。(活用するツールが生成AIであれば柔軟性がありますが、代わりに正確性に保証が持てなくなります。)
なのでExcelや勘に頼りきりの業務プロセスでは、デジタル化に落とし込むことが困難なのです。
そのため、業務プロセスを変えない前提で行くと、標準化されているごく一部の業務しかDX化できず、効果が限定的になってしまうのです。
どうでしょうか。「DXには業務プロセスの変革も必要」といった理由が何となく見えてきましたか?
計画先行の失敗パターン(3)から学べる事
計画を元に体系的にDXを行うには、まず各部門の業務を洗い出す必要がありますが、
現実として業務担当にはそんなスキルもノウハウも余力もない事が殆どです。
そのため、後述しますが、「最初は業務の自動化に特化」して、
各部門の工数を削減しながら、少しずつ「業務改善」「情報整理」のノウハウを自動化を通じて積み重ねていくことで、いずれ部門主導でもDXを推進できるようなレベルにしていくことが重要と考えます。
ここまで来て初めてトップダウン式の計画ベースのDXが有効になってくると考えています。
もしくは、DXを行う業務を絞り込んで、業務部門とシステム部門でうまく連携して、現状分析→課題抽出→改善計画作成→実施 というプロセスを確立させるという作戦もあります。
どちらもマネジメント層との落としどころなので明言はできませんが()
より細かい計画を求められた場合の説得材料として
- 事務職には標準化されていない業務が多くある事(なるべく具体名を出す)
- そのような業務の影響により、どのような業務体系が正解なのか答えを出す事は難しい
- 具体的な実行計画を作るには、部門間の意思統一や業務標準化からやる必要がある事
と明言するといいでしょう。
4. 導入先の「変化に対する抵抗感」を乗り越える
以上の理由から、最も重要なのはシステムやツールを元に「業務を根本から変えていく」という文化を醸成すること、である事が見えてきました。
とはいえ、最初から業務プロセスを変化させていくのはかなりハードルが高い内容です。
特に長年仕事のやり方を変えてこなかった部署では、ちょっとした変化だけでも慎重になりやすいです。そのため、まずはとっつきやすい「業務の自動化」から入るのはかなりアリです。
まずはスモールスタートで良い
0から1にするのはかなり根気がいる作業です。「最初に何を入れるか」となった時に、大規模で複雑なものを入れようとすると、開発コスト・導入先の抵抗感・実態との乖離 によって手戻りリスクが大きくなるため、
私は「スモールスタート」を推奨しています。
- RPAツールの導入により改善を進めようとしている場合は、まず小規模な業務を自動化してみる
- システムパッケージが全て使えなくても、一部使えるのであればまずそこから使ってみる
何はともあれ入れる事さえできれば、それを起点にどんどん大規模なシステムパッケージの導入の話や、部門をまたがったRPA化の話などが徐々に規模が広がっていくはずです。
勿論、ただ入れただけではなく「効果があった」という成功体験が社内に広がっていくことで、どんどん話題に上がりやすくなる>結果的により大規模な話に繋がる という訳です。
この方法で社内の活気を高めれば、経営層も「DX」を一過性のブームでなく、永続的に考えていく内容になっていくはずです。
会話から風土を作る
小規模な自動化だとしても、実際の業務を見せて貰ったり、導入の準備をする時に担当者と話す機会があると思います。
そしてその会話が「風土作り」「意識づけ」のチャンスです。
「まずはちょっとした自動化をやるが、いずれもっと楽に出来る仕組みにしたい。その際には関連部門も巻き込んで業務プロセス全体を根本から変える必要も出てくるかもしれない」
「業務プロセスを変える事は怖いかもしれないが、それが原因で問題が起きた時の責任は我々も請け負う」
「少しずつ変えていけば大きな問題になる事も少ない。リスクがある部分は常に確認を取りながら徐々に変えていきましょう」
こういった考え方を導入先に常日頃から投げかけることで、少しずつ企業内に「変化するのが当たり前という感覚」や「DXの本質」を浸透させていきます。
特に管理職や業務のリーダー的な立ち位置の人にこの考え方が浸透しているのがベストです。業務を変えるか否かは最終的には上の立場の人が決める事も多いためです。そうすれば、DXプロジェクトを手段先行ではなく、長期的な目で見る事が逆に「当たり前」になっていき、逆に自動化だけのプロジェクトに導入先の上司から「待った」がかかるようになって行くはずです。
「信頼」が最も重要
何かしらのツールを入れて「業務をラクにした」という実績は、そのまま信頼に直結する上に、職場に「変化したことによる成功体験」を持たせることになります。
部門からの信頼を得ればより大規模な改善にも協力してもらいやすくなりますし、前回入れたツールの延長線で改善活動を進めることが出来るので、何より心理的抵抗感が減る筈です。
このように、地道ながらも着実に変化に寛容な文化を醸成していくことが実は大事なのではないでしょうか。
成功に向けた二段構えアプローチ(トップダウン×ボトムアップ)
以下の様に、トップダウンとボトムアップ、両方のアプローチを進めて、どこかで両者の流れを統合するというやり方を考えました。
| トップダウン | ボトムアップ |
|---|---|
| 業務の棚卸をする | 従業員アンケートを取り、業務の困り事を案件としてヒアリング |
| 全体を俯瞰し、負荷が高い業務を調べる | すぐに出来て、効果が高い案件を抽出 |
| その業務に対して、DXでどう改善していくか計画・改善案を立てる | 実際にどのように改善するか担当者と案出し |
| 業務プロセスの見直し・標準化を進め、ムダを削いでいく | スモールスタートで見える化・自動化を進めて、職場の業務負荷を削減 |
| ムダが最小限になった業務を自動化・システム化する | 導入したシステムから発想を膨らませて、更なるDXによる業務改善を進める |
| ボトムアップで進めてきた自動化・業務改善をトップダウンの改善活動に取り込み、開発工数を削減。計画の実現を目指す | トップダウンの改善方針と合わせ、業務プロセスの改革による更なる業務改善を目指す |
まとめ:DXを“普通の改善活動”の延長線上に置く
事務系DXが難しい理由は、業務が非定型かつ可視化・標準化しづらく、効果測定も難しいという構造的な特徴にあります。
だからこそ「ツール導入」や「自動化」だけに頼るのではなく、まずは業務の見える化・標準化・文化づくりをセットで進めることが不可欠です。
その第一歩として、小さな業務から自動化・改善を行い、成功体験を積み重ねて信頼を得ることが有効です。これにより「変化することが当たり前」という文化が根づき、次第にトップダウン型の大規模なDXにも耐えられる組織へと変化していきます。
「DXは“ツール”ではなく“文化”から始まる」
と提唱してこの記事を閉めたいと思います。
ありがとうございました。