PONOS Advent Calendar 2025の15日目の記事です。
はじめに
みなさんは「光線銃」タイプのビデオゲームを遊んだことはありますか?
おもちゃの銃をモニタ画面に向かって構え、画面内のターゲットを狙い撃ちするあのデバイスです。ゲームセンターの筐体は勿論、家庭用でもファミコンやプレステ、セガサターンなどの周辺機器として数多く発売されていました。
今も中古市場などで手に入るアイテムですが、購入の際は一つ重要な注意点があります。実は、現代の一般的な液晶テレビでは遊ぶことができません。
なぜならば、あの光線銃の中には、ブラウン管(CRT)モニタ特有の物理特性を逆手に取った、非常に巧妙な技術が詰め込まれているからです。
今回はこのレトロなガンゲームの仕組みについて、技術的に少し掘り下げて紹介させていただきます。
ブラウン管のしくみ
まず、前提となる昔のブラウン管モニタの挙動についておさらいしましょう。
現在主流の液晶や有機ELのモニタとは異なり、ブラウン管テレビは画面全体を一度に表示しているわけではありません。電子ビームが左上から右下へ向かって、猛烈なスピードで点(画素)を順番に光らせて描画しています。これをラスタースキャンと呼びます。
人間の目には残像効果によって「1枚の絵」に見えますが、ハイスピードカメラなどで撮影すると、輝点が走っている様子や、上から下へ描画線が流れていく様子が確認できます。
余談:NTSCとフレームレート
日本の古いテレビ放送規格(NTSC)では、1秒間に約60回(60Hz)、画面を走査しています。
厳密には1回の走査で走査線を1本おきに描画し(奇数線・偶数線)、2回の走査で1枚の絵(フレーム)を完成させる「インターレース方式」が採用されていました。つまり、1/60秒という極めて短い周期で画面の書き換えが行われていることになります。
光線銃のしくみ
ここからが本題です。
人間の目には「絵」に見えている画面も、ガンコントローラ(光線銃)の目(フォトダイオードなどの光センサ)には、猛スピードで移動する光の点として映っています。
光線銃の技術は、大きく分けて2つの世代(方式)があります。
1. ラスタースキャンタイミング方式(座標検出)
アーケードゲームやスーパーファミコン(スーパースコープ)、プレイステーション(ガンコン)などで採用された、より精度の高い方式です。
判定のプロセス:
- 引き金を引く: プレイヤーがトリガーを引くと、コントローラ内の光センサが有効になります。またこの時、一瞬だけ画面全体を真っ白に光らせる制御を行うのが一般的です。照準を合わせている場所の映像が暗いと、銃のセンサーが走査線の光を検知できないため、強制的に画面を明るくして信号を拾いやすくしています。
- 光をキャッチ: 走査線(電子ビーム)が銃口の向いている位置を通過した瞬間、センサがその強い光を感知します。
- 時間を計測: ゲーム機本体は、「画面の描画開始(左上)から、銃が光を感知するまでに何マイクロ秒かかったか」を計算します。
- 座標の特定: 走査線の速度は一定なので、経過時間がわかれば、画面上のX座標とY座標(着弾点)を正確に割り出すことができます。
つまり、銃から光線が出ているのではなく、銃が画面の光(走査線)を見ているというのが正解です。また、トリガを引いた瞬間に画面がパカッと光るのは、演出ではなくセンサーに光を届けるための技術的な必要性がありました。
2. バイナリ判定方式(当たり判定のみ)
これよりさらに古い、初期のファミコン(『ダックハント』など)では、ハードウェアの性能制約から、もっと単純な方法が使われていました。
判定のプロセス:
- トリガーを引いた瞬間、次のフレームで画面全体を一瞬真っ黒にします。
- その次の瞬間、標的(カモなど)の部分だけを白い四角で光らせます。
- 銃のセンサーが「光」を感知すれば「当たり」、「闇」のままなら「外れ」と判定します。
標的が複数ある場合は、1フレームごとに「Aの敵だけ光らせる」→「Bの敵だけ光らせる」と順番に行い、どこを撃ったかを判別していました。
なぜ現代の液晶テレビでは使えないのか?
冒頭の「液晶テレビでは遊べない」理由について、技術的な観点からまとめると以下の2点になります。
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描画方式の違い(走査線の不在)
液晶や有機ELは、全画素を同時に書き換える(あるいは前の状態を保持する)「ホールド型」の表示に近い特性を持ちます。ブラウン管のように「一瞬だけ強烈に光る点が移動する」というピーク輝度が発生しないため、センサがタイミングを拾うことができません。 -
遅延(ラグ)の問題
現代のテレビは高画質化処理などのため、入力されてから表示されるまでに数ミリ秒〜数フレームの遅延(ラグ)が発生します。マイクロ秒単位のタイミング同期を前提としている光線銃にとって、このズレは致命的です。
現代のガンシューティング技術
ブラウン管方式は使えなくなりましたが、現代では別の技術を使って「画面を狙い撃つ」体験が実現されています。
- 赤外線マーカー方式: Wiiリモコンのように、テレビの近くに置いた赤外線LED(センサーバー)の位置をカメラで読み取る方式。
- 画像認識方式: 銃口のカメラでテレビ画面そのもの(または画面枠・マーカー)を認識して位置を計算する方式。
- ジャイロセンサー方式: Nintendo SwitchのJoy-Conのように、傾きや動きを検知して照準を動かす方式。
ただ、ブラウン管方式のほうが、ターゲットを狙い撃つ感覚としてより直感的に体験できていたようにも思います。想い出補正が効いているのかもしれませんけどw
最後に
昔のエンジニアが、当時のテレビの「弱点」とも言えるちらつきや描画方式を、逆に利用して入力デバイスにしてしまった発想は本当に素晴らしいですね。街中でレトロゲームを見かけた際は、その裏側にある工夫に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
明日は @gif-hara さんの記事です。お楽しみに!

