この記事で考えたいこと
レビューには、文面で進めた方がよい場面と、同期レビューで合わせた方がよい場面があります。
文面レビューは、記録が残り、時間をかけて確認できるという良さがあります。
一方で、前提や方向性がそろっていない状態では、コメントの往復が増えるだけで、問いがうまく機能しないこともあります。
同期レビューは、その場で認識を合わせたり、方向性を決めたりするには有効です。
しかし、同期レビューで話せば、必ず問いが機能するわけでもありません。
この記事では、文面レビューと同期レビューを、どちらが優れているかではなく、問いが機能する場を作るために、どのように比重を切り替えるかという観点で考えてみます。
この記事の中心に置きたいのは、次の考えです。
レビュー形式は、成果物の成熟度だけでなく、認識のそろい方と、相手が考えを出しやすい形式によって決まる。
想定読者
この記事は、レビューコメントの往復が増えがちなレビュア、レビューの進め方を改善したいQA担当・リーダー、要求仕様や設計資料のレビューで認識合わせに悩む方を主な読者として想定しています。
コードレビューだけでなく、要求仕様、設計、アーキテクチャなど、考え方や判断の流れを確認するレビューを念頭に置いています。
はじめに:文面か同期か、ではなく問いが機能するか
レビューコメントを何度も返しているのに、なかなか認識が合わないことがあります。
指摘した箇所は直っている。
けれど、次の版を見ると、また同じ考え方のずれが別の場所に出ている。
そのようなとき、必要なのはコメントを増やすことではなく、レビュー形式を切り替えることかもしれません。
文面レビューと同期レビューは、どちらか一方を選ぶものではなく、問いが機能する状態を作るために比重を変えるものだと思います。
その形式によって、相手が考えられるか。
前提がそろうか。
問いの意図が伝わるか。
判断理由が残るか。
次の行動につながるか。
レビュー形式は、問いが機能する場を支えるための手段なのだと思います。
前回までの整理
前回の記事では、問いが機能するレビューの場を作るには、レビュー開始前・開始時に次のようなものをそろえる必要があると考えました。
14. 問いが機能するレビューの場を考える ~レビュー開始前・開始時に何をそろえるべきか~
- 何のためにレビューするのか
- 何を対象に見るのか
- どこまでをこの場で扱うのか
- 相手にどのような反応を期待するのか
- 指摘したいのか、考え方を確認したいのか、認識を合わせたいのか
問いは、ただ投げれば機能するものではありません。
問いが機能するには、問いを受け取るための場が必要です。
今回はその続きとして、問いが機能する場を、文面レビューと同期レビューという形式の面から考えてみます。
この記事での文面レビューと同期レビュー
ここでいう文面レビューとは、コメント、ドキュメント、表、図、差分、チケットなどを通じて、主に非同期で確認するレビューを指します。
一方、同期レビューとは、会議や通話だけでなく、共同編集やオンラインホワイトボードなどを使って、その場で認識を合わせるレビューを指します。
この記事では、文面レビューと同期レビューを固定的な分類としてではなく、問いが機能する状態を作るために切り替える形式として扱います。
文面レビューが有効な場面
文面レビューが有効なのは、方向性がある程度決まっており、詳細を確認したい場合です。
たとえば、以下のような場面です。
- 詳細を時間をかけて確認したい
- 記述の整合性を確認したい
- 表、図、マインドマップなどで構造を確認したい
- 方向性は決まっていて、具体化された内容を精査したい
- 判断理由や根拠を文面として残したい
- レビュイーとレビュアの間で、見たい観点がある程度共有されている
もう少し現場に寄せると、要求仕様の方向性は合っているが、用語の揺れ、例外条件、境界条件の書きぶりを確認したい場合があります。
あるいは、設計資料の大枠は合っているものの、各コンポーネントの責務、インターフェースの粒度、図と説明文の整合性を読み込んで確認したい場合もあります。
このような場面では、同期レビューで一気に話すよりも、文面で時間をかけて確認した方が、問いの意図や判断理由を残しやすくなります。
文面レビューの良さは、考える時間と記録を残せることです。
コメントを受け取った側は、その場で即答しなくてもよい。
自分の考えを整理し、疑問点を見つけ、必要なら成果物の構造を見直すことができます。
また、レビューで何を確認したのか、何が論点だったのか、どの判断をしたのかも後から見返せます。
問いが機能するためには、相手に考える余白が必要です。
文面レビューは、その余白を作りやすい形式だと思います。
特に、表や図、マインドマップなどで考えを表現するのが得意な人にとっては、必ずしも同期レビューで話す必要はありません。
むしろ、構造化された資料として表現してもらった方が、考え方や整理の仕方が見えやすいこともあります。
同期レビューが有効な場面
一方で、同期レビューが有効な場面もあります。
たとえば、以下のような場合です。
- 方向性を決めたい
- 成果物の完成イメージを共有したい
- 前提やスコープがそろっていない
- 図や表の見方が人によって違っている
- コメントの往復が増えている
- 相手が何に詰まっているのかを確認したい
- 文面だけでは意図が誤解されそう
- リアルタイムに問い返しながら考えたい
もう少し現場に寄せると、レビューコメントで「この前提は何ですか?」「ここは対象外ですか?」「この図はどの粒度で見ればよいですか?」という確認が何度も往復している場合があります。
また、成果物の完成形を言葉だけで説明し続けているものの、レビュアとレビュイーでイメージしている図や構造がずれている場合もあります。
このような場面では、文面コメントを増やすよりも、一度同期レビューで前提や完成イメージを合わせた方が、問いが機能しやすくなることがあります。
同期レビューの良さは、その場で認識を合わせられることです。
要求仕様、設計、アーキテクチャのように、前提、スコープ、抽象度、構造の切り方が重要になる成果物では、文面だけで確認しきれないことがあります。
何が書いてあるかだけではなく、なぜその切り方にしたのか。
どの前提を置いたのか。
何を対象外にしたのか。
どの粒度で議論しているのか。
こうしたことを合わせるには、同期レビューの方が進めやすい場合があります。
ただし、目的が曖昧なまま同期レビューにすればよいわけではありません。
何を合わせたいのか、何をその場で考えたいのか、何を文面に戻して残すのかを決めておかないと、「話したことで分かった気になる場」になってしまうことがあります。
レビュー対象によって比重は変わる
レビュー形式の判断は、レビュー対象によっても変わります。
コードレビューのように、差分、規約、静的解析、テスト結果と相性がよい対象であれば、文面レビューで進めやすい場面が多くあります。
一方で、要求仕様、設計、アーキテクチャのような文書では、前提や構造の共有がより重要になります。
ただし、本記事では対象ごとの差異を深掘りするのではなく、文面と同期の比重を考えるための前提として扱います。
大事なのは、コードか文書かだけで機械的に決めることではなく、何を確認したいのか、判断基準がどこまで共有されているのかを見ることです。
文面で進め、必要に応じて同期し、文面に戻す
文面レビューと同期レビューは、どちらか一方を選ぶものではありません。
むしろ、次のように往復させることが有効な場合があります。
文面で目的・前提・確認したいことを渡す
↓
相手が咀嚼する
↓
同期で疑問や認識を合わせる
↓
決まったことを文面に戻す
文面で渡すことで、相手は考える時間を持てます。
同期で合わせることで、前提やイメージのずれを解消できます。
最後に文面に戻すことで、合意したことや次の行動を残せます。
同期レビューは、その場で納得感を作りやすい一方で、内容が流れてしまうことがあります。
そのため、同期レビューで話した後には、何を決めたのか、何を持ち帰るのか、次に何を確認するのかを文面に戻すことが重要です。
問いが機能したのであれば、その問いによって何が分かったのか、次に何を考えるのかも残したいところです。
同期とは、話すことではなく、その場で認識を合わせること
同期レビューというと、会議で話すことを想像しがちです。
しかし、同期レビューで行いたいことは、必ずしも口頭で説明することではありません。
たとえば、オンラインホワイトボードを使うことも一つの方法です。
オンラインホワイトボードでは、カーソルの動き、書く順番、消した箇所、言葉の選び直し、図の置き換えなどが見えることがあります。
これは、相手がどこで迷っているのか、何を整理しようとしているのかを見る手がかりになります。
また、カメラをオンにして話すことが苦手な人にとっては、顔を見ながら話すよりも、図や言葉を動かしながら考える方が思考を出しやすい場合もあります。
これは、相手に過度に合わせるためではありません。
どの形式なら問いが機能するかを判断するためです。
話すことが得意な人もいれば、図で整理する方が得意な人もいます。
文章で考える方が得意な人もいれば、共同編集しながら考える方が考えを出しやすい人もいます。
レビュー形式を選ぶときには、口頭か文面かだけでなく、どの表現形式なら相手の考えが見えやすいかも考える必要があります。
文面レビューが機能しなくなったサイン
文面レビューを続けていても、うまく進まないことがあります。
たとえば、次のような状態です。
- コメントの往復が増えている
- 相手が「つまりこう直せばよいですか?」に寄っている
- 前提の理解がずれている
- 図や表の見方がそろっていない
- 指摘は消えているが、考え方が変わっていない
- レビュア側も、何を確認したいのか説明し直したくなっている
これらは、文面レビューが悪いという意味ではありません。
ただ、文面レビューを続ける前提が崩れている可能性があります。
前提がずれている。
意図が伝わっていない。
相手が考えるよりも、指摘を消すことに寄っている。
そうした状態では、コメントを増やすよりも、レビュー形式そのものを切り替えた方がよい場合があります。
つまり、これらのサインは「同期レビューに切り替えるべきかもしれない」という合図として見ることができます。
サインに気づいたら、形式を切り替える
レビュー形式は、最初に決めたら最後まで固定するものではないと思います。
文面レビューで始めても、前提がずれていることが分かれば、同期レビューで認識を合わせる必要があります。
逆に、同期レビューで方向性を合わせた後は、文面に戻して詳細を確認した方がよい場合もあります。
大事なのは、文面か同期かを最初に決め切ることではなく、レビューの途中で「今の形式が機能しているか」を見直すことです。
そのためには、成果物の状態だけでなく、相手がコメントをどう受け取っているか、どこで詰まっているか、どの形式なら考えを出しやすいかを見る必要があります。
文面レビューが機能しなくなったサインは、レビューが失敗している証拠ではありません。
形式を切り替えるための判断材料です。
問いが機能していないと感じたとき、さらに問いを重ねるだけではうまくいかないことがあります。
その場合は、問いの内容ではなく、問いを届ける形式を変える必要があるのかもしれません。
レビュー形式を決める判断軸
ここまでの内容を整理すると、文面レビューと同期レビューの比重を考えるときには、次のような観点がありそうです。
迷ったときは、「成果物の状態」と「相手が考えられる状態」の両方を見るとよさそうです。
| 判断軸 | 文面レビューが向く場合 | 同期レビューが向く場合 |
|---|---|---|
| 方向性 | ある程度決まっている | これから決める |
| 確認内容 | 詳細、整合性、根拠確認 | 前提、認識、イメージ合わせ |
| 成果物の状態 | 読める形になっている | まだ形にする前、構造が粗い |
| レビュー対象 | コード、詳細設計、表、チェック観点が明確な文書 | 要求、構想、アーキテクチャ、方向性が未確定な資料 |
| 判断基準 | 明文化されている、共有済み | 暗黙知が多い、合意が必要 |
| 相手との共通理解 | 観点や期待値が共有済み | 観点や期待値がまだそろっていない |
| 相手の状態 | 自分で咀嚼できる | 詰まりや誤解が見える |
| 表現形式 | コメント、表、図、差分確認 | 会話、共同編集、ホワイトボード |
この表は、どちらが正しいかを決めるものではありません。
その場で何を確認したいのか。
相手がどの形式なら考えやすいのか。
どの段階で認識を合わせた方がよいのか。
それらを考えるための目安です。
相手の状態も、レビュー形式を決める判断材料になる
判断軸を見ていくと、レビュー形式は成果物の状態だけでは決まらないことが分かります。
方向性が決まっているか。
判断基準が共有されているか。
相手が自分で咀嚼できる状態か。
どの表現形式なら考えを出しやすいか。
これらは、成果物だけを見ていても分かりません。
レビューの場で、相手の反応やコメントの返し方、図や表の作り方、問いへの向き合い方を見る必要があります。
ただし、相手の状態を見ることは、相手に過度に合わせるという意味ではありません。
どの形式なら問いが機能するかを判断するために、状態を観察するということです。
つまり、レビュー形式は、成果物の成熟度と関係性の成熟度の両方で決まるのだと思います。
今回は扱わなかったこと
今回は、文面レビューと同期レビューの比重に絞りました。
そのため、問い・相談・指示が混ざる問題、レビューコメントの受け取られ方、問う側に必要な観察力については深く扱いません。
これらは、問いが機能する場を考えるうえで重要な論点なので、別の記事で考えてみたいと思います。
おわりに
文面レビューと同期レビューは、どちらが優れているかで考えるものではないと思います。
文面レビューには、考える時間を確保できる、記録が残る、詳細を確認しやすいという良さがあります。
同期レビューには、前提やイメージを合わせやすい、相手の詰まりどころを見つけやすいという良さがあります。
大切なのは、どちらか一方に固定することではなく、問いが機能する状態を作るために比重を切り替えることです。
文面で渡す。
相手が咀嚼する。
同期で合わせる。
文面に戻して残す。
この往復を設計することで、レビューは単なる指摘のやり取りではなく、考え方を確認し、認識を合わせ、次の行動につなげる場になります。
レビュー形式は、成果物の成熟度だけで決まるものではありません。
相手が考えられる状態なのか、認識がそろっているのか、どの表現形式なら考えを出しやすいのか。
そうした状態を観察しながら、文面と同期の比重を決める必要があります。
レビュー形式もまた、問いが機能する場を作るための一部なのだと思います。
次は、レビュアが成果物を見たときに感じる「あれ、何か違うぞ」という違和感について考えてみたいと思います。
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