前書き
私のこれまでの経験と思っていることについて記載しております。
本記事は、品質保証やQAについて考える中で生まれた疑問を整理している連載の一つです。
この連載について
品質保証プロセスの改善やQAの役割について考える中で、いくつかの疑問を持つようになりました。
記事一覧
- QAは品質を保証しているのか?
- レビューは品質を保証しているのか?
- AI時代にQAが保証するものは何か?
- レビューの価値は学習ではないか?
- プロセスは思考を設計しているのか?
- 良い思考はどのように伝わるのか? ← 今回
前回の記事では、
「品質は成果物そのものではなく、その背後にある思考から生まれているのではないか」
ということについて考えました。
もしそうであれば、次に気になることがあります。
その思考はどのように伝わるのでしょうか。
今回はそのことについて考えてみたいと思います。
はじめに
レビューの場で、
「なぜそのように考えたのですか?」
と質問することがあります。
また、「私はこう考えたので、この指摘をしました」と説明することもあります。
レビューというと成果物の確認や不具合の発見をイメージしがちですが、私自身は以前から、考え方を共有することも重要だと感じていました。
なぜなら、成果物の修正方法だけを伝えても、次に同じような場面になった時に応用できないからです。
しかし最近、「そもそも思考は簡単に伝わるものなのだろうか」という疑問を持つようになりました。
私自身が感じていた違和感
私がテスト設計を学び始めた頃、テスト技法や手順については教わりました。
しかし、「どのように考えれば良いのか」については、あまり教わった記憶がありません。
もちろん書籍や研修の中には説明があります。
しかし実際の業務の中では、
- なぜその観点を選んだのか
- どのようなリスクを考えたのか
- なぜそのテストケースが必要なのか
といった考え方は、個人の経験に委ねられているように感じました。
そのため、自分がレビューする立場になった時には、成果物の修正だけではなく、考え方も伝えたいと思うようになりました。
正解を教える方が楽である
しかし、考え方を伝えることは簡単ではありません。
レビューであれば、「ここを修正してください」と言えば数分で終わることがあります。
一方で、
「なぜその設計になったのですか?」
「どのような観点で考えましたか?」
という対話を始めると、長時間になることがあります。
実際、通常30分程度で終わるレビューが、2〜3時間になったこともありました。
それでも私は、考え方を共有する価値があると感じていました。
なぜなら、その場だけの修正ではなく、次回以降の判断につながる可能性があるからです。
ただし、これは大きなコストを伴います。
そのため、多くの現場では成果物の修正に留まり、思考の共有まで踏み込めないこともあるように思います。
思考は会話だけでは伝わらない
さらに難しいのは、考え方を説明したからといって、それがそのまま相手に伝わるわけではないことです。
その場では理解したように見えても、次の案件では同じ指摘が発生することがあります。
私自身、思考の伝承は会話だけでは成立しにくいと感じています。
会話は共有のきっかけにはなります。しかし、それだけでは定着しません。
経験や実践を通じて初めて、自分の考え方として取り込まれていくのではないでしょうか。
思考が伝わるために必要なこと
では、思考が伝わるためには何が必要なのでしょうか。
最近は、
「前提を揃えること」
が重要なのではないかと考えています。
例えば、
- 品質とは何か
- この活動の目的は何か
- なぜこのプロセスを実施するのか
といった前提が揃っていない状態では、同じ言葉を使っていても理解が一致しません。
また、
- プロセス理解
- 品質観
- 目的意識
といった共通基盤があることで、初めて思考の共有が成立するように感じています。
心理的な安心感も大切ですが、その前に同じ土俵で会話できる状態が必要なのかもしれません。
思考は成果物に残るのだろうか
ここで一つ疑問があります。
私たちは成果物を見て、
「この人はこう考えたのだろう」
と想像することがあります。
しかし、それは本当に正しいのでしょうか。
もしかすると、成果物から思考を読み取っているのではなく、自分自身の経験を投影しているだけなのかもしれません。
一方で、要求分析資料やアーキテクチャ検討資料、設計検討のメモなど、中間成果物には思考の痕跡が残ることがあります。完成した成果物だけでは見えない判断過程が、そこには存在します。
思考を共有するためには、最終結果だけではなく、その途中経過を共有することも重要なのかもしれません。
レビューは共通基盤を作る場なのかもしれない
ここまで考えてきて、レビューの見方が少し変わってきました。
レビューは不具合を見つける場でもあります。
しかしそれだけではなく、考え方を共有し、前提を揃え、共通基盤を作る場でもあるのかもしれません。
最初は時間がかかります。
しかし共通基盤が形成されると、長い説明をしなくても意図が伝わるようになります。
レビューとは成果物を改善する活動であると同時に、思考を共有する活動でもあるのではないでしょうか。
おわりに
今回の記事では、
「良い思考はどのように伝わるのか?」
について考えてみました。
品質につながる思考は重要です。
しかし思考そのものを直接伝えることは簡単ではありません。
そのためには、
- 前提を揃えること
- 共通基盤を作ること
- 思考の途中経過を共有すること
が必要なのかもしれません。
ただし、それでも一つ疑問が残ります。
個人の中で共有された思考は、どのように組織へ残されるのでしょうか。
次回は、
「良い思考はどのように組織知になるのか?」
について考えてみたいと思います。