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この連載について

本記事は、車載ソフトウェア開発における品質保証活動について考察する連載の第8回です。

連載一覧

  1. 車載ソフト開発で品質保証プロセスが根付かない理由
  2. 品質保証は品質を保証しているのか?
  3. QAは何を保証するのか?
  4. レビューの価値は学習なのか?
  5. プロセスは思考を設計しているのか?
  6. 良い思考はどのように伝わるのか?
  7. 良い思考はどのように組織知になるのか?
  8. 良い思考はどのように身につくのか?(本記事)

これまでの記事では、

  • 品質保証活動の目的
  • レビューの価値
  • 思考プロセス
  • 思考の伝承
  • 組織知

について考えてきました。

本記事は「良い思考シリーズ」の一区切りとして、良い思考を身につけるプロセスについて考察します。

「良い思考はどのように身につくのか?」
について考えてみたいと思います。

品質保証の話から少し離れているように見えるかもしれません。
しかし、私自身はこれも品質保証の一部だと考えています。

継続的に良い品質を実現するためには、良い成果物が必要です。
そして良い成果物を生み出すためには、良い思考が必要になります。

良い思考は才能なのか

現場では、

  • 成長が早い人
  • 成長に時間がかかる人

がいます。

私自身はどちらかと言うと後者でした。
小学生の頃から勉強は得意な方ではなく、親に教えてもらったり塾に通ったりしながら理解していました。
大分手を煩わせてしまった記憶があります。

社会人になってからも、

  • ロジカルシンキング
  • 階層構造による分解
  • 抽象化と具体化

について研修や書籍で学びました。
そして学んだことを業務で繰り返し使うことで、少しずつ身につけてきたように思います。

そのため私は、
良い思考は才能だけで決まるものではなく、訓練によって身につく部分が大きい
と考えています。

もちろん、土台となる能力の違いはあります。
しかし、身につくまでの時間に差はあっても、身につかないとは考えていません。

私が思考プロセスに興味を持ったきっかけ

思考プロセスを意識するようになったきっかけは、顧客からの質問でした。
当時、テスト設計書のレビューを担当していました。

私はサブリーダーの立場でレビューを行っていましたが、顧客から次のような質問を受けました。

なぜそのテストで十分だと言えるのですか?

私は答えられませんでした。

テスト設計書は存在していました。

しかし、

「なぜ、そのテストケースになったのか」

「どのような思考を経てその結論になったのか」

を説明できなかったのです。
正確には、全網羅でテストケースを作ったりしてしまっていました。
そのため、各テストケースが必要な理由が答えられなかったのです。

この経験から成果物そのものだけではなく、

成果物に至るまでの思考プロセスが重要なのではないか

と考えるようになりました。

良い思考が身についた状態とは何か

私は次のような段階があるように思っています。

レベル1:成果物を作れる

まずは正しい成果物を作れる状態です。
しかし、この段階ではまだ十分ではありません。

レベル2:説明できる

次に、

  • なぜ、そう考えたのか
  • なぜ、その結論になったのか

を説明できる状態です。

ここで重要なのは、単に説明できることではありません。

  • 詳細にも説明できる
  • 簡潔にも説明できる
  • 抽象化できる
  • 具体化できる
  • 論理の飛躍がない

ということです。

私はこの段階が非常に重要だと思っています。

レベル3:応用できる

別の案件や問題に対しても同じ考え方を適用できる状態です。

レベル4:他人へ伝えられる

自分だけでなく、他人へ考え方を伝えられる状態です。
組織知になるためにはこの段階が必要になると思います。

良い思考はどこで鍛えられるのか

私の経験では、最終成果物だけを見ていても成長は分かりにくいと感じています。

むしろ、

  • 中間成果物
  • 設計判断の記録
  • レビューでのやり取り
  • 議論の内容

に成長が現れます。

なぜなら、そこには思考の過程が残っているからです。

最終成果物だけでは、偶然そうなったのか、
過去の成果物を参考にしたのか、本当に理解して作成したのか、が分からないことがあります。

しかし中間成果物を見ると、どのような考え方をしたのかが見えてきます。

思考の整理とは何か

私は思考の整理とは、結論を整理することではないと思っています。

重要なのは、

最初の入力から最終的な出力までの思考の経路が見えること

です。

途中では、

  • 分岐
  • 派生
  • 検討
  • 統合

があって当然です。

しかし、最終的にどの経路を通って結論に至ったのかが分かる状態であることが大切です。
必ずしも難しい方法である必要はありません。

例えば、

  • 番号を振る
  • 枠で囲う
  • 図にする

だけでも大きく変わります。

思考を整理しようとする姿勢そのものが重要なのかもしれません。

成長が早かった人とそうでなかった人

私がこれまで見てきた中で、成長が早かった人には共通点がありました。

  • 思考プロセスを使おうとしていた
  • テンプレートを活用していた
  • 中間成果物を残していた
  • フィードバックを積極的に受けていた

一方で、

  • 指摘を修正するだけ
  • 思考を整理して残さない
  • なぜ、そう考えたかが見えない

という状態では成長に時間がかかる傾向がありました。
考えていないわけではありません。

しかし、思考が整理されていないため、本人も振り返れず、
レビュアも確認できない状態になっていました。

良い思考は環境によって育つ

思考訓練は個人の努力だけでは成立しません。

例えば、

  • 質問してもよい雰囲気
  • 考え方を議論できる文化
  • 挑戦を評価する環境
  • 適切なフォロー

が必要です。

逆に、

  • 前例通りやればよい
  • 早く終わらせることだけが重要
  • 質問すると馬鹿にされる

という環境では、良い思考は育ちにくいと思います。

そのため、思考訓練は個人育成だけでなく、組織設計の問題でもあると考えています。

おわりに

私自身、決して理解が早い方ではありませんでした。
だからこそ、良い思考を身につけるには時間がかかることも知っています。
そして同時に、もっと効率的な方法があるのではないかとも考えています。
良い思考は訓練によって身につく部分があります。

しかし、その訓練には半年から一年以上かかることも珍しくありません。
では、その期間を短縮する方法はあるのでしょうか。

私は、思考訓練そのものを設計する必要があるのではないかと考えています。

このテーマについては、また別の記事で考えてみたいと思います。

この連載の全体像はこちら:
車載ソフトウェア品質保証を考える:連載まとめ

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