前書き
私のこれまで経験と思っていることについて記載しております。
本記事はこれまで書いてきた品質保証やレビューに関する連載とは少し異なる視点の考察です。
明確な答えを持っているわけではありません。
むしろ、
「こんなことはできないだろうか」
という思考実験に近い内容になります。
はじめに
品質保証活動を改善する際、次のような議論をしたことはないでしょうか。
- レビューを強化するべきか
- 自動化を進めるべきか
- 要求分析を強化するべきか
- QA要員を増やすべきか
しかし実際にはそれぞれの施策がどれだけ効果を持つのかを事前に知ることは困難です。
結果として、
- 過去の経験
- 個人の勘
- 類似プロジェクトの事例
などを参考に意思決定することになります。
もちろんそれは重要です。
しかし私は最近、
「品質保証活動そのものをシミュレーションできないだろうか」
と思うようになりました。
デジタルツインという言葉について
まず最初に補足です。
本記事でいうデジタルツインは、工場設備や車両で用いられる厳密な意味でのデジタルツインとは少し異なります。
一般的なデジタルツインは、
- 現実の状態を収集する
- 仮想空間で再現する
- シミュレーションする
- 結果を現実へフィードバックする
という流れを持っています。
私が考えているのは、
品質保証活動や開発プロセスの状態を観測し、仮想空間で施策を比較・検証する仕組みです。
厳密にはデジタルツインではないかもしれません。
しかし、
「現実をモデル化し、未来の意思決定に活用する」
という考え方には共通点があるように思います。
QAの世界では何をシミュレーションするのか
例えば、
- レビュー工数
- レビュー指摘密度
- 要求変更率
- 自動テスト率
- テスト自動化カバレッジ
- メンバー経験年数
- 手戻り率
といった情報を入力するとします。
そして、
- 案A レビュー強化
- 案B 自動テスト強化
- 案C 要求分析強化
を比較する。
すると、
- 品質リスク
- 工数
- 手戻り量
- 期待効果
などを予測できるかもしれません。
重要なのはどれが正解かを当てることではなく、
それぞれの施策で何が起こりそうかを比較できることです。
予測精度は必要なのか
ここで疑問があります。
シミュレーションが本当に使えるためには、高い精度が必要なのでしょうか。
私は必ずしもそうではないと思っています。
例えば、
- レビュー強化で品質向上が期待できる
- ただし工数は増加する
- 要求分析強化は効果が出るまで時間がかかる
という傾向が分かるだけでも価値があります。
現実のプロジェクトは人が関わるため、完全な予測は難しいでしょう。
しかし、施策比較のためのモデルであれば十分実用的かもしれません。
QAデジタルツインの価値は予測ではなく意思決定支援かもしれない
考えていく中で、私は予測そのものよりも意思決定支援に価値があるように思えてきました。
例えば、シミュレーション結果として、
- レビュー工数を20%増加
- 不具合流出率を20%低減
という結果が出たとします。
しかし、
- 納期が厳しい
- 人員が不足している
- 顧客要求が変化している
という状況もあります。
そのため、シミュレーション結果をそのまま実行することはできません。
最終的には、人が判断する必要があります。
つまり、QAデジタルツインは未来を決めるものではなく、
未来の選択肢を見せるものなのかもしれません。
QAの価値観はどこに入るのか
さらに大事なことは、同じ結果でも組織によって判断が変わることです。
例えば、ある組織は
- 安全性最優先
かもしれません。
別の組織は
- コスト優先
かもしれません。
さらに別の組織は
- 開発速度優先
かもしれません。
シミュレーション結果は同じでも、意思決定は異なる。
つまり、品質保証活動の中には価値観が存在しているのです。
そして、その価値観こそが最終判断を左右します。
QAの未来は意思決定支援なのかもしれない
近年は生成AIによって、
- レビュー支援
- テストケース生成
- 不具合分析
などが進化しています。
今後さらに多くの作業が自動化されるかもしれません。
しかし、どの施策を選ぶのかという意思決定は残り続けるように思います。
むしろQAの役割はレビュー実施者から、
品質保証活動の意思決定支援者へ変化していくのかもしれません。
おわりに
品質保証活動を改善する際、私たちは多くの場合、経験や勘に頼って判断しています。
それは決して悪いことではありません。
しかし、もし品質保証活動そのものをモデル化し、
複数の施策を比較できる仕組みがあればどうでしょうか。
完全な未来予測はできないかもしれません。
それでも、意思決定を支援する道具としては十分価値があるように思います。
QAのデジタルツインという言葉が適切かどうかは分かりません。
ただ、品質保証活動を仮想空間で検証し、
現実の意思決定へ活用する世界は、今後考えていく価値があるテーマではないでしょうか。