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はじめに

この記事は13本目の補足です。
本編を読んでいなくても読めますが、13本目の続きとして読むと意図が分かりやすいです。

前回の記事では、問う側を支援するには、良い問いの例文を渡すだけでは不十分だと考えました。
13. 問う側をどう支援するか? 良い問いを個人のセンスにしないために

特に重要なのは、

相手が考えているなら待つ。
考えたいが整理できていないなら、足場を渡す。

という判断でした。

ただ、実際のレビューでは、それだけでは済まない場面があります。

相手が正解確認に寄ってしまうこともあります。
詳細に入りすぎて、レビューのスコープから外れることもあります。
疲労や防御的な反応が強くなり、その場で続けることが難しくなることもあります。
また、影響範囲が大きく、その場で結論を出さずに持ち帰った方がよい場合もあります。

そこで本記事では、補足編として、

  • 見せる
  • 戻す
  • 止める
  • 持ち帰る

という判断について、もう少し考えてみたいと思います。

なお、ここで扱うのは、レビューを機械的に進めるための手順ではありません。
問う側が、相手の状態やレビューの局面を見ながら、どのように関わり方を切り替えるかを考えるための整理です。

問う側の判断は、問いの言葉だけでは見えにくい

レビューの場で、問う側は質問をしているように見えます。

しかし実際には、質問文だけを考えているわけではありません。

相手が考えられる状態なのか。
防御的になっていないか。
今は全体を見る場面なのか。
それとも詳細を見る場面なのか。
この場で続けるべきなのか。
持ち帰るべきなのか。

こうした判断をしながら、問い方や関わり方を変えています。

たとえば、同じ「なぜそう考えましたか?」という問いでも、相手の状態によって意味が変わります。

相手が考え始めているなら、待つ方がよいかもしれません。
相手が整理できず止まっているなら、問いを重ねるより足場を渡した方がよいかもしれません。
相手が正解を探し始めているなら、問いの目的を戻した方がよいかもしれません。
疲労や頑なさが見えるなら、いったん止めた方がよいかもしれません。

つまり、問う側に必要なのは、問いを投げ続ける力ではなく、状況に応じて関わり方を切り替える力なのだと思います。

判断の全体像

前回の記事では、次のような整理をしました。

相手・場の状態 問う側がすること 意図
相手が考え始めている 待つ 思考を邪魔しない
考えたいが整理できていない 足場を渡す 言語化・モデル化を助ける
考え方の例が必要 少し見せる 思考の進め方を示す
正解確認になっている 戻す 判断理由を確認する場に戻す
詳細に入りすぎている スコープに戻す レビュー目的を守る
疲労や頑なさが見える 止める 問いが負荷になりすぎるのを防ぐ
影響が大きい・時間が足りない 持ち帰る 無理に結論を出さず、次の行動に変える

この表は、答えを出すためのものではありません。

実際には、同じ相手でも状況によって変わります。
レビューの初めなのか、中盤なのか、終盤なのかによっても変わります。
相手がレビューに慣れているかどうかによっても変わります。

それでも、このような表があることで、問う側は自分の判断を振り返りやすくなります。

今回は、この中でも「見せる」「戻す」「止める」「持ち帰る」をもう少し掘り下げます。

見せる:問う側の思考を少し開示する

足場を渡す方法の一つに、問う側の思考を少し見せることがあります。

たとえば、

私はこの要求から、こういう振る舞いも考えました。

と伝える。

これは、答えを示すためではありません。
考え方の一例を見せるためです。

問われる側からすると、問う側がなぜその問いをしているのかは見えにくいことがあります。

何を確認されているのか。
どこまで説明すればよいのか。
正解を求められているのか。
判断理由を聞かれているのか。

ここが分からないと、相手は防御的になったり、正解を探したりしやすくなります。

そのような時に、問う側が自分の思考を少し見せると、相手は「何を考えればよいのか」をつかみやすくなることがあります。

ただし、見せる時には注意が必要です。

問う側の思考を見せる目的は、正解を提示することではありません。
候補を広げ、絞り、除外する判断の過程を見せることです。

たとえば、結論を急ぐ傾向がある相手には、あえて最終的には除外する候補に至る考え方を見せることもあります。

この要求からは、この振る舞いも一度は考えられます。
ただし、今回のテスト目的からすると、この候補は除外してよさそうです。

このように、いったん候補を広げたうえで、なぜ除外するのかを示す。

これにより、相手は「何を考えるか」だけではなく、「何を捨てるか」の判断基準も学べます。

レビューでは、正しい答えを早く出すことだけが重要なのではありません。
どの候補を考え、どの候補を残し、どの候補を除外したのか。
その過程にも、品質に関わる重要な判断が含まれていると思います。

一方で、問う側の思考を見せすぎると、相手がレビュアの思考を待つようになる可能性があります。

まずレビュアの考え方を聞いてから直せばよい

となってしまうと、問う側が思考を支援しているのではなく、思考を代行している状態に近づいてしまいます。

この加減は、私自身もまだ明確な答えを持っているわけではありません。

ただ、少なくとも言えるのは、問う側の思考を見せる時には、

これは答えではなく、考え方の一例である

という前提を忘れないことが大事だということです。

戻す:正解確認から、思考確認に戻す

考え方を問うレビューでは、相手が正解確認に寄ってしまうことがあります。

たとえば、

では、こうですか?
これで合っていますか?

という反応が続く場合です。

もちろん、正解確認そのものが悪いわけではありません。
レビューでは、最終的に成果物を正しくする必要があります。

ただ、考え方を問うレビューで確認したいのは、結論だけではありません。

どの前提で考えたのか。
どの情報を入力として使ったのか。
どのように候補を出したのか。
なぜその結論を選んだのか。

そこを確認したい場面で、相手が正解確認に寄ってしまうと、思考の過程が見えなくなります。

その場合は、問いの目的を戻す必要があります。

たとえば、

今すぐ結論を出さなくてもよいです。
まず、どの前提でそう考えたかを確認したいです。

あるいは、

合っているかどうかの前に、そこに至った考え方を一緒に見たいです。

と伝える。

これは、相手の答えを否定するためではありません。
レビューの場を、正解確認から思考確認に戻すためです。

また、レビューのスコープから外れ始めた時にも、戻す判断が必要になります。

たとえば、全体構成を見るレビューなのに、相手が詳細な記述や個別の修正方法に入り始めることがあります。

その場合は、

今見ているのは詳細ではなく、全体構成です。

と伝える。

これも、相手の話を遮ることが目的ではありません。
今のレビューで何を見るのかを明確にし、問いの焦点を戻すためです。

問う側は、問いを投げるだけではなく、問いの目的やスコープがずれた時に、場を戻す役割も担っているのだと思います。

止める:問いを続けない判断

問いは、続ければ続けるほどよいわけではありません。

相手が疲れている。
防御的になっている。
頑なになっている。
「指摘通りに直します」と投げやりになっている。
問う側にも余力がなくなっている。

このような時に問いを続けても、良い方向に進まないことがあります。

むしろ、問いが支援ではなく負荷になってしまうことがあります。

その場合は、いったん止める判断が必要です。

止めることは、考えることをやめることではありません。
その場で続けることが、相手の思考を開くことにつながらないと判断することです。

たとえば、

ここは一度整理してから、改めて見ましょう。

あるいは、

今この場で結論を出すより、前提を整理してからもう一度確認した方がよさそうです。

と区切る。

これは、レビューを諦めることではありません。
問いを機能させるために、いったん場を立て直すことだと思います。

特に、相手が防御的になっている時には、問いを続けるほど相手が閉じていくことがあります。

そのような時に必要なのは、さらに鋭い問いではなく、目的を言い直すことや、場を区切ることかもしれません。

ここで責めたいわけではなく、次に同じ判断ができるように考え方を確認したいです。

と伝える場合もあるでしょう。

あるいは、そこまで言葉を重ねず、いったん持ち帰る方がよい場合もあると思います。

止める判断は、問う側にとっても難しいです。
続ければ何か見えるのではないか、と思ってしまうこともあります。

しかし、相手が考えられる状態ではなくなっているなら、問いを続けること自体が逆効果になることがあります。

良い問いを投げる人は、問い続ける人ではありません。
問いを止める判断もできる人なのだと思います。

持ち帰る:問いを次の行動に変える

レビューでは、その場で扱いきれない問題が見つかることがあります。

影響範囲が大きい。
全体構成に関わる。
前提条件を確認し直す必要がある。
その場のメンバーだけでは判断できない。
時間が足りない。
納期との兼ね合いがある。

このような場合には、持ち帰る判断が必要になります。

持ち帰ることは、問いを止めることではありません。
その場で無理に結論を出さず、次の思考につなげることです。

ただし、持ち帰りは放置ではありません。

持ち帰るなら、次に何をするのかを決める必要があります。

たとえば、

  • 何を整理してくるのか
  • どこまで考えてくるのか
  • 誰に確認するのか
  • 次にどの観点で見るのか
  • 次回レビューをいつにするのか
  • それまでのリスクをどう扱うのか

を決める。

これは、本質的ではないように見えるかもしれません。
しかし、かなり重要です。

なぜなら、問いを深掘りし続けるだけでは、プロジェクトは前に進まないからです。

考えすぎても良くありません。
納期もあります。
レビューの時間も有限です。

その場で深掘りすることに価値がある場合もあれば、次の行動に変換した方がよい場合もあります。

特にレビューの終盤では、学習や探索よりも、リスクと次アクションを明確にすることを優先する場合があります。

その意味で、持ち帰る判断は、レビューを曖昧に終わらせるためのものではありません。

ここから先は、この場で結論を出すより、次の行動に変えた方がよい

と判断することです。

持ち帰ることで、問いはその場で終わるのではなく、次の検討につながります。

問う側を支援するために、何を残すか

ここまで、「見せる」「戻す」「止める」「持ち帰る」について考えてきました。

これらを個人のセンスに任せると、良いレビューが属人的になります。

問う側が経験を積むことはもちろん重要です。
しかし、経験だけに任せると、他のレビュアーに展開しにくくなります。

では、問う側を支援するために何を残せばよいのでしょうか。

私は、問いの例文だけでは足りないと思っています。

必要なのは、問う側がレビュー中に何を見て、どのように判断したのかを振り返れる形です。

たとえば、レビュー後に次のような観点で振り返ることが考えられます。

  • 待つべきところで待てたか
  • 足場を渡すべきところで問いを重ねていなかったか
  • 問う側の思考を見せすぎていなかったか
  • 相手が正解確認に寄った時に、思考確認に戻せたか
  • 詳細に入りすぎた時に、スコープに戻せたか
  • 疲労や防御的な反応が見えた時に、止める判断ができたか
  • 持ち帰るべきところで、無理に結論を出そうとしていなかったか
  • 持ち帰る場合に、次の行動を決められたか

このような振り返りを通じて、問う側の判断が少しずつ見えるようになります。

また、難しいレビューを一人で抱えないことも重要だと思います。

サブリーダーやレビュアーが、レビュー後に相談できる。
自分の問いかけがどう受け取られたかを振り返れる。
うまくいかなかったレビューを、失敗として責めるのではなく、次にどう支援するかを考えられる。

そうした場があると、問う側の判断は育ちやすくなるのではないでしょうか。

良い問いを組織に残すためには、問いの言葉だけではなく、問いの裏側にある判断を残す必要があるのだと思います。

おわりに

本記事では、前回の記事の補足として、「見せる」「戻す」「止める」「持ち帰る」という判断について考えました。

問う側は、単に質問をしているわけではありません。

相手の状態を見ています。
レビューのスコープを見ています。
問いが正解確認に寄っていないかを見ています。
疲労や防御的な反応を見ています。
その場で続けるべきか、持ち帰るべきかを見ています。

良い問いを投げる人は、問い続ける人ではありません。

時には待つ。
時には足場を渡す。
時には自分の思考を少し見せる。
時には問いの目的に戻す。
時には止める。
時には持ち帰る。

これらを切り替えながら、相手が考えられる場を作っているのだと思います。

だからこそ、問う側を支援するには、良い問いの例文を渡すだけでは足りません。

問う側が何を見て、どのように判断しているのかを分解し、振り返れるようにする必要があります。

それが、良い問いを個人のセンスにしないための第一歩なのだと思います。

問う側の判断を分解していくと、問いそのものだけでなく、問いが機能する場の状態も重要だと分かります。
次は、その問いが機能するレビューの場では、何をそろえる必要があるのかを考えてみたいと思います。
14. 問いが機能するレビューの場を考える ~レビュー開始前・開始時に何をそろえるべきか~

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