この記事で考えたいこと
前回の記事では、レビュアが感じる違和感を、
違和感
↓
確認すべきレビュー観点
↓
レビュイーへ返す問い
へ変換する流れを考えました。
しかし、問いを返せばレビューが進むとは限りません。
回答から新しい論点が見つかることもあります。
複数の選択肢を検討する必要が生じることもあります。
参加者の認識をそろえる必要があることもあります。
そして、認識がそろっても、判断権限を持つ人による判断がなければ先へ進めないこともあります。
レビューでは、問い、相談、認識合わせ、判断、指示が行き来しています。
これらを単なる「発言の種類」として見るのではなく、
レビュー活動の中で、思考と判断の状態が遷移している
と考えることはできないでしょうか。
今回は、この仮説を考えてみます。
前回の記事はこちら:
16. レビューで感じる「あれ、何か違うぞ」の正体を考える ~違和感をレビュー観点に変えるには~
今回示すのは、レビュー会議の進行手順ではない
最初に、このモデルの位置付けを明確にしておきます。
ここで示す状態遷移は、
-
特定のレビュー形式
-
一回のレビュー会議の進行
-
必ず守るべき手順
を表すものではありません。
レビュー活動の中で、
現在、何を目的としているのか
次へ進むために、何がそろう必要があるのか
を捉えるための、思考と判断の抽象的なモデルです。
実際には、レビューの目的、形式、参加者、同期・非同期などによって、各状態で行うアクションや進め方は変わります。
また、すべての状態を毎回、決められた順番で通るわけでもありません。
今回の図も、すべての遷移や例外を網羅した正式な状態遷移図ではなく、概念を理解するためのものとして扱います。
本記事では、レビュー会議そのものだけでなく、レビューで生じた論点が判断され、必要な対応が実施・確認されるまでを広く「レビュー活動」として捉えます。
レビューにおける6つの状態
現時点では、レビューにおける思考と判断を、次の6つの状態として考えています。
| 状態 | 目的 | その状態で形成するもの |
|---|---|---|
| 論点探索 | 今回何を確認・検討・判断するかを明らかにし、次の進め方を定める | レビュー目的、論点、必要情報、不足情報、参加者の状態 |
| 共同検討 | 判断に必要な材料を作る | 選択肢、評価観点、根拠、比較結果、制約、リスク |
| 認識整合 | 判断材料について関係者の理解をそろえる | 一致点、相違点、未確認事項、残る論点 |
| 判断確定 | 判断権限を持つ人が方針を決める | 判断内容、判断主体、判断理由、受容したリスク |
| 実行指示 | 判断を実行可能な内容へ変換する | 実施内容、担当、範囲、期限、完了条件、確認者 |
| 実行確認 | 実施結果が判断内容を満たしているか確認する | 完了可否、残課題、新たな論点 |
概念的な流れは、次のようになります。
ここで、修正、追記、追加調査などは、思考や判断の状態そのものではありません。
そのため、実行指示 と 実行確認 の間で行われる外部アクションとして扱っています。
また、終了も思考や判断の状態ではなく、今回のレビュー活動を終えられる条件を満たしたことを表します。
ここから、この図の中でも特に、判断までの思考を作る
論点探索
↓
共同検討
⇄
認識整合
の3つから見ていきます。
判断材料を作る3つの状態
論点探索:何を考えるべきかを明らかにする
論点探索は、単に「質問を考える状態」ではありません。
レビューの入口として、
-
今回のレビューで何を達成したいのか
-
何を確認・検討・判断すべきなのか
-
判断に必要な情報は何か
-
何がそろい、何が不足しているのか
-
参加者、特にレビュイーがどのような状態にあるのか
-
次にどの活動へ進むべきなのか
を明らかにします。
たとえば、レビュイーがすでに複数案を比較し、判断材料を説明できる状態なら、共同検討を省略して認識整合へ進めるかもしれません。
一方、選択肢そのものが不足していれば、共同検討が必要です。
その場では情報がそろわず、追加調査が必要だと分かることもあります。
ここで重要なのは、すべての情報がそろうことを待つ必要はないという点です。
論点探索から次へ進む条件は、
現在の情報の充足状況と参加者の状態を把握し、次に取るべき活動を選べるようになったこと
と考えられます。
共同検討:判断材料を作る
共同検討では、判断そのものを行うのではなく、その前提となる材料を形成します。
たとえば、
-
選択肢を出す
-
評価観点を整理する
-
根拠を確認する
-
制約を明らかにする
-
リスクを整理する
-
未確認事項を明らかにする
といった活動です。
これらを通じて、
何を、どの観点で比較し、何を根拠に判断するのか
を形にしていきます。
ここでいう「共同」は、全員が同じ時間、同じ場で議論することだけを意味しません。
重要なのは、参加者の知識や観点を使いながら、判断可能な材料を作っている状態であることです。
また、共同検討は必須の状態でもありません。
判断材料がすでにそろっていれば、直接認識整合や判断確定へ進むこともあります。
認識整合:判断材料の理解をそろえる
共同検討と認識整合は、実務では境界が分かりにくくなりがちです。
今回のモデルでは、次のように分けます。
共同検討
=判断材料を作る
認識整合
=判断材料をどう理解しているかをそろえる
認識整合では、
-
今回の論点は何か
-
どの選択肢があるか
-
何を評価観点としているか
-
どこまで一致しているか
-
どこに意見の相違があるか
-
何がまだ未確認か
-
どのリスクが残っているか
を確認します。
ここでいう認識整合は、全員が同じ案に賛成することではありません。
意見が異なっていても、
-
何について意見が違うのか
-
それぞれ何を根拠としているのか
-
何が未確認なのか
-
誰が最終判断するのか
を共通に理解できていれば、認識は整合しています。
また、「分かりました」と返答したことだけで、本当に理解がそろったとは限りません。
各状態を質高く成立させるには、その状態に適した問いと、相違点や未確認事項を表明できる場が必要です。
この問い方や場の設計については、これまでの連載で考えてきた内容と接続しますが、本記事では状態と遷移条件に焦点を当てます。
共同検討と認識整合は往復する
共同検討が完全に終わってから、認識整合へ進むとは限りません。
実務では、
共同検討
↓
認識整合
↓
不足が見つかる
↓
共同検討
↓
認識整合
という往復が起こります。
たとえば、選択肢を比較した後に認識を合わせた結果、
保守コストという評価観点が抜けている
と分かれば、再び共同検討へ戻ります。
これは後戻りや失敗ではありません。
新しい判断材料が増え、判断可能な状態へ近づいているのであれば、必要な往復です。
問題なのは、同じ主張や質問を繰り返しているだけで、判断材料や理解が増えていない場合です。
認識から判断、実行へ進む
判断材料が作られ、その理解がそろったとしても、レビューはそこで終わりません。
ここから、
認識整合
↓
判断確定
↓
実行指示
↓
実行確認
へ進みます。
この境界にも、いくつか重要な違いがあります。
認識がそろうことと、判断が決まることは違う
参加者が状況を理解したとしても、それだけで正式な判断が確定したわけではありません。
認識整合から判断確定へ進むには、
-
判断対象が明確である
-
選択肢と評価観点が整理されている
-
一致点と相違点が明確である
-
未確認事項と残リスクが明示されている
-
判断権限を持つ人が明確である
-
判断可能な情報がそろっている
ことが必要です。
判断確定とは、参加者全員が同じ意見になった状態ではありません。
異なる意見や懸念が残っていても、それらを含む判断材料を踏まえ、判断権限を持つ人が方針を確定することはできます。
そのとき、
誰が判断したのか
何を判断したのか
なぜその判断をしたのか
何を優先したのか
どのリスクを受容したのか
が明確であることが重要です。
判断が決まることと、実行できることは違う
判断権限を持つ人が方針を決めても、それだけで実際の対応が進むとは限りません。
たとえば、
今回は方式Aを採用します。
という判断だけでは、
-
誰が対応するのか
-
何を変更するのか
-
いつまでに行うのか
-
何をもって完了とするのか
までは分かりません。
そのため、判断確定から実行指示へ進む前には、判断内容だけでなく、判断理由、優先した観点、受容したリスクや残る懸念が関係者に共有されている必要があります。
そのうえで、実行指示では、
-
実施内容
-
担当
-
実施範囲
-
期限
-
完了条件
-
確認者
を明確にします。
ここでいう「指示」は、強い口調で命じることではありません。
確定した判断を、実行可能な内容へ変換すること
と考えています。
また、レビューで論点を指摘した人が、そのまま判断者や指示者になるとは限りません。
この区別が曖昧になると、判断済みの内容が問いや提案の形で伝えられ、「まだ相談中なのか、すでに対応が必要なのか」が分からなくなることがあります。
設計レビューの例で、状態遷移を追ってみる
ここまでの状態を、一つの例で通してみます。
状況
ある機能について、設計書では方式Aが採用されています。
しかし、
-
なぜ方式Aを選んだのか
-
方式Bと何を比較したのか
-
どのリスクが残っているのか
が十分に記載されていません。
状態遷移
| 状態 | レビューで起きること |
|---|---|
| 論点探索 | 「なぜ方式Aを選んだのか」「方式Bとの比較は行ったか」を確認し、変更容易性や保守コストの検討が不足していることを明らかにする |
| 共同検討 | 性能、変更容易性、既存構成への影響、保守コスト、残リスクを評価観点として方式Aと方式Bを比較する |
| 認識整合 | 「Aは性能面、Bは変更容易性で有利」「保守コストは未確認」など、一致点・相違点・不足情報を共有する |
| 共同検討へ戻る | 保守担当から新しい制約が提示され、判断材料を追加する |
| 認識整合 | 追加した情報を含めて、判断材料と残る相違点を再確認する |
| 判断確定 | 判断権限を持つプロジェクト責任者が方式Aを採用し、変更容易性に関するリスクを受容すると判断する |
| 実行指示 | 設計担当者へ、採用理由、比較結果、影響範囲、残リスクを設計書へ追記するよう具体化する |
| 外部アクション | 設計担当者が設計書を修正する |
| 実行確認 | 修正内容が判断結果と整合し、必要事項が記録されていることを確認する |
このように見ると、同じレビューの中でも、
問いを出している
選択肢を考えている
理解をそろえている
判断している
実行内容を明確にしている
という目的の違いが見えてきます。
このモデルで見えるレビューの停滞
状態と遷移条件を意識すると、「レビューが進まない」という状況も少し分解できます。
| 停滞している状態 | 起きていること |
|---|---|
| 論点探索 | 質問は多いが、何を判断したいのかが明確にならない |
| 共同検討 | 同じ主張を繰り返し、選択肢や評価観点が増えない |
| 認識整合 | 「分かりました」で進み、一致点・相違点・未確認事項が見えない |
| 判断確定の手前 | 材料はそろっているが、判断権限を持つ人がいない |
| 実行指示の手前 | 判断は出たが、担当・範囲・期限・完了条件が決まっていない |
| 実行確認 | 対応したことだけ確認し、判断内容を満たしたかを確認していない |
単に、
話がまとまらない
レビューに時間がかかる
と見るのではなく、
いま、どの状態で、次へ進むための何が足りないのか
を見ることで、停滞の原因を具体的に考えられるのではないでしょうか。
現時点で残る問い
今回のモデルは、レビュー実務を理解するための仮説です。
まだ、少なくとも次の問いが残っています。
-
各状態を質高く成立させるために、どのような問いや場が必要なのか
-
複数の論点が、それぞれ異なる状態にある場合、レビュー全体をどう進行するのか
-
判断や状態遷移から、組織として何を残すべきなのか
これらは、今回すべてを扱うより、必要に応じて別に考えた方がよさそうです。
おわりに
今回考えた状態遷移は、レビューで守るべき新しい手順を作るためのものではありません。
重要なのは、
現在、何を達成しようとしているのか。
次へ進むために、何が不足しているのか。
誰が判断し、誰が実行へつなげるのか。
を見えるようにすることです。
問い、相談、認識合わせ、判断、指示が入り混じるレビューでも、それぞれの発言が「現在の状態をどう進めようとしているのか」と考えると、レビューの停滞や責任の曖昧さを捉えやすくなるのではないでしょうか。
そして、レビューで論点が整理され、判断が進んだとしても、その思考や判断がレビューの場だけで消えてしまえば、次の人や次のプロジェクトには残りません。
次回は、
レビューで判断が進んだ後に、組織は何を残すべきか
について考えてみたいと思います。
この連載の全体像はこちら:
車載ソフトウェア品質保証を考える:連載まとめ