はじめに
こんにちは!BIPROGY株式会社の千葉です。
皆さんは XP についてご存じでしょうか? テスト駆動開発(TDD) や ペアプログラミング(ペアプロ) などのプラクティスについては知っていても、そのルーツであるXPについては深く知らないという方も多いのではないでしょうか。
先日9/5に、そんなXPの 国内最大級のコミュニティ である、 XP祭り2026 に社内企画の一環として有志メンバーで現地参加してきました。XPに興味がある方はもちろん、XPについて深く知らない方でも楽しめるような興味深い内容が盛りだくさんでした。今回は、自身の学びや気づきを整理する意味も込めて、講演の概要と感想を皆さんに共有しようと思います。
また、後日公式YouTubeチャンネル(Scrum Tokyo)で録画が公開されますので、より詳しい内容を知りたい方はぜひそちらをご覧ください!
本記事の対象者
- アジャイル、XPに興味関心のある方
- XPのプラクティスについては知っているが、XPについては詳しく知らない方
- XP祭りの講演内容を概要レベルでキャッチアップしたい方
基調講演|サンキュー、XP
- タイムテーブル:
- 登壇資料:
- 登壇者:角 征典さん
-
概要:
- 映画『サンキュー、チャック』に倣い、第3幕 → 第1幕 と時間を遡る構成でXPの歴史を振り返りながら、30周年を迎えるXPに感謝を伝える
- 第3幕(現在)サンキュー、XP:
- アジャイルは「成功」したからこそ「終わり」を迎えた
- 解釈可能性が高いからこそ広く普及した → 今ではビジネス用語に
- 広く普及したからこそ本来の意味は薄れていった → アジャイルの形骸化が進む
- XPも同様に「成功」したからこそ形骸化が進んだ
- また、現代のソフトウェア開発の当たり前の概念として組み込まれ、XP由来である点が意識されなくなった
- XPは、内気で弱気なギークのためのもの
- 方法論や組織論よりも開発者一人ひとりの主導権を取り戻す
- 書籍『シンプリシティ』:「agency(行為主体性)」を取り戻すための方法「simplicity」
- 書籍『クラフトマンシップ』:「クラフトマンシップ(何かをうまくやれる方法を知っている状態)」を獲得するための規律、基準、倫理
- 人間関係の変化によって「ギークが安全に感じる世界」を実現する
- 書籍『Tidy Together』:信頼される行動を取る → コードの信頼性を生む(信頼工場)→ 人間関係の変化(ソーシャルチェンジ)→ 世界で安全に感じる
- 方法論や組織論よりも開発者一人ひとりの主導権を取り戻す
- Big Question「そうして開花したギークの才能を何につかうのか?」 → 書籍『加速する社会』の「共鳴」で考える
- 水平軸(社会的共鳴):同僚や顧客との関係性 → ペアリング、週次計画、顧客をチームに含める
- 斜め軸(物質的・実践的共鳴):構築するプロダクト → リファクタリング、継続的デプロイ、オブザーバビリティ
- 再帰的軸(自己関係的共鳴):自身が書くコードに対する自信 → プログラマーテスト、継続的インテグレーション
- 垂直軸(実存的共鳴):自分たちの存在を超えた何か → XPが唯一教えてくれないこと、あなたの理想は何ですか?
- アジャイルは「成功」したからこそ「終わり」を迎えた
-
第2幕(全盛期)XPプログラマーたち
- XPは弱き人間中心の規律
- 「恐怖」には「経験」が、「経験」には「積極性」が、「積極性」には「勇気(XPの価値の一つ)」が必要
- 会話は必ずしも「共鳴」ではない
- x: ときめかない、伝わらない、影響を受けない、意外性がない
- o: 「中動態」にある
- 主体が能動的であり受動的でもある
- ex. 踊っているのか、踊らされているのか
- XPの提唱者、ケント&ウォードも互いに「リスペクト(共鳴)」していた
- XPは自ら「共鳴」しながらソフトウェアを開発する方法
- 共鳴には変化を伴う:
- →「変化」しやすい設計 = 「シンプルな設計」
- → まだ決まっていない(変化する可能性がある)ものを受け入れる
- あなたにも、リスペクト(共鳴)する人はいますか?
- XPは弱き人間中心の規律
-
第1幕(過去)XPにはたくさんのものがある
- グレース・ホッパーとエドガー・ダイクストラの思想の対立
- 思想:実用主義 vs 形式主義
- 手法:デバック vs 証明
- 未来:規律 vs 学問
- 本当に対立しているのか?
- 計算機でうまく問題を解きたい
- 複雑性を排除したい
- 教育の必要性を認めている
- → 住んでいる環境によって考え方が異なるだけ(森と砂漠)
- 森を砂漠に変える(ギャングスター園芸家)
- 小さなことから始めるだけでは不十分
- セクシーにやることが重要
- XPにもセクシーさが足りない?老子の器になろう!
- 世の中には相反する概念があるが、二元論で語るべきでない
- x: 片方だけに「エクストリーム」になる
- o: 両方を含めた「エクストリーム」な大きさの器を持つ
- 世の中には相反する概念があるが、二元論で語るべきでない
- グレース・ホッパーとエドガー・ダイクストラの思想の対立
-
感想:
- XPを数年前に知った自分にとって、XPの中で提唱されている価値やプラクティスについては把握できても、XPが生まれた背景や歴史、込められた想いについて知る機会がほとんどなかったので、大変興味深く拝聴しました
- ユーモアに溢れ、軽快な語り口で非常に聞きやすく、90分間があっという間でした。ぜひ録画を視聴してみてください
- 講演の中で特に印象に残った箇所は「XPは信頼工場」という見方です
- 生成AIが登場し、コードの生産は加速したが、信頼の生産が追い付いていないという指摘は、生成AIを使って日々コードを書いている自分が感じていた違和感を鮮やかに表現していると感じました
- 共鳴の話、中動態の話など、他にも多くの興味深い話題があったのですが、そちらについては後述の講演と交えて紹介したいと思います
セッション|説明できない熱量の正体 ― 衝動に委ねて進むということ
- タイムテーブル:
- 登壇資料:
- 登壇者:小泉 岳人さん
-
概要:
- アジャイルの実践やアジャイル組織の編成、発信活動など、活動的に取り組んできた
- 「モチベーション」では説明しきれない、自分の行動の源泉にある「衝動」の正体を書籍『人生のレールを外れる衝動のみつけかた』を手掛かりに探る
- ここでいう衝動とはなにか:
- x:強い熱量がある、綺麗な目的がある、役に立ち成果に直結する
- o:いつのまにか戻ってきてしまう、内側にあるのに外からとりつかれるように動く、見方と行動を書き換える
- 「内発的動機(モチベーション)」は動きやすさをつくり、「衝動」はどこへ進みたいかを立ち上げる
- 衝動(深く持続した偏愛)を見つめる:
- 衝動の中でも「強さ」「一瞬の盛り上がり」ではなく「深さ」「地味な持続」に着目する
- 衝動は「説明のしやすさ」に回収され、見えなくなりやすい
- 普段見ている「表現の花」ではなく、地中深くに様々な方向に延びた「探究の根」に着目する
- 衝動はどうすれば自分にとりつくか?
- 衝動は、外の対象に引っかかり、自分から「ジャックイン」したときに立ち上がる
- 衝動がとりつきやすいような場所に身を置く
- 個人の衝動をストーリーで共有することで、他者が入る余白が生まれる
- 聞いた人が自分の文脈で考え、動きたくなる
- それが「触発(誰かの衝動が別の人の衝動や行動に接続されること)」を引き起こす
-
感想:
- 衝動に委ねて進む、という表現に心当たりがあり拝聴していました
- 私は興味関心に突き動かされて動く感覚が好きで、その感覚に導かれるまま行動することがあります。特に趣味ではその傾向が顕著で、一時的に深く熱中しては次の対象へ関心が移り変わることを繰り返してきました
- そんな衝動に突き動かされる生き方に対して、特別な思い入れを持つきっかけとなったのは大学生時代の経験でした
- 大学の講義の中で数理生物学に出会った際、自分の中で長年抱き続けていた疑問とのつながりを感じ、突き動かされるように教授のもとを訪ねました。その行動が、共同研究や人工生命という分野との出会い、そして外部の大学院への進学へと繋がり、最終的には自分なりの答えを見出すことができました
- このときの公私で衝動の領域が重なった際に生まれた強い推進力に突き動かされる感覚を忘れられず、仕事上でも同様の推進力を生む対象を探しているところでした
- 基調講演の言葉を借りれば、私は「中動態」を追いかけて生きており、仕事においてもその状態に近づくために、「共鳴」における「垂直軸」を探している、と言い表せるかもしれません
- そのため、これまでも仕事に対してきちんと向き合うことや、外部のイベントへの参加、興味の芽を感じるものに対して意識的に時間を割くことを心掛けてきました。しかし、まだ衝動と仕事の両者の接点をうまく見いだせずにいます
- 講演を拝聴している中で得られた一番の気づきは、熱量の「強さ」ばかりに着目していたことです
- 行動の移り変わりは表に出やすく自覚しやすいですが、「地味な持続」については自分の中で当たり前になりすぎていて、十分に認識できていない可能性があると感じました
- また、登壇者の小泉さんは、ゲームのパーティ編成・コントラバス・アジャイル、という一見全く異なる活動から共通項を見出されていました
- 私自身も、熱中してきた対象の共通項について、フロー状態や予測可能性といった観点で整理してきましたが、まだまだ探究の余地が残されていると感じました
- また、共通項についてさらに深掘りするだけでなく、見出した共通項を別の具体的な対象に派生させ試してみることで、自分自身への理解を深めていきたいと思いました
ワークショップ|To Make The End of Miscommunication ~ 認識の齟齬からチームを救うために ~
- タイムテーブル:
- 登壇者:大和(メイド長)さん
-
概要:
- 意思疎通の失敗や伝達ミスによる認識のズレを防ぎ、正確性を求めるコミュニケーション(Unmiscommunication)を実現するために役立つスキルや知識を学ぶワークショップ
- 下記の技法の基礎について、与えられた文章を修正しながら実践を通じて学ぶ
- TOCfEのCLR(明瞭性の懸念、存在の懸念、因果関係の懸念、十分性の懸念)
- TOC-TPのCLR(上記に加え、追加原因の懸念、因果関係の逆転の懸念、予期せぬ結果の懸念)
- NLP(神経言語プログラミング)のメタモデルの3分類(省略、歪曲、一般化)、12項目
-
感想:
- 基調講演にて、SEに「コミュニケーション力」を求めるなど「文明に対する脅威」「最も浅はか」「滑稽でナンセンス」というダイクストラのフレーズが紹介されていたのですが、自身のコミュニケーション能力に課題を感じているエンジニアの一人として参加してみました
- ワークショップを通じて、自分のコミュニケーションスタイルに対する理解が深まったので共有します
- 聞く:
- 私はお悩み相談の相手として選んでもらいやすいのですが、よくカウンセラーと話しているみたいだと言われます
- 私としてもお悩み相談を受ける動機があり、話を整理しながら自分と異なる背景や認知を理解することで、自己分析の種としている節があります
- 今回のワークショップで紹介いただいた技法であるNLPのメタモデルは、戦後に活躍した3人のカウンセラー(ミルトン、フリッツ、サティア)が患者と会話の中で確認していた観点を体系化し生まれた、事実関係を確認するための観点だそうです
- 話を聞く際に、相手の背景や認知を理解しようと事実関係を整理していたからこそ、カウンセラーみたいだという感想を持たれていたのだと理解しました
- ただ、日常会話の中では、CLRのうちの一つである「存在の懸念」を抱いてもあまり表に出さずに会話していることに気づきました
- その結果として、実態としてはエンパシー(相手の立場に立って理解する)であっても、相手視点ではシンパシー(情緒的な共感)に見えるという効果を生んでいたのかもしれないと気づきました
- とはいえ「存在の懸念」を表明しながらもエンパシーや共感を示すことは可能だと思うので、今後はそのバランスを意識してみようと思いました
- 話す:
- コミュニケーションの中でも、特に私が苦手意識を感じているのは話す方です
- ワークショップにおける実践を通じて、CLRのうちの「明瞭性」が課題であることに気づきました
- 「明瞭性」とは、その言葉を自分と相手が同じ意味で理解しているか、という観点のことです
- 話すとなると、思考を言語化することにリソースがとられ、自分の中にあるコンテキストに閉じてしまっている感覚があります(本記事の感想も、それがよく表れていると思います)
- この点をどう克服していくのかはまだ模索中ですが、それを探索する足掛かりとなるような気づきが得られたと感じています
おわりに
今回のXP祭り2026を通じて、XPの背後にある想いや歴史、価値観について理解し、XPの魅力や可能性について改めて感じることができました。また、現地参加することでXPコミュニティの熱量を肌で感じられた点や、一緒に参加した方々とコンテキストを共有した状態をつくれた点も大きな収穫でした。本記事が、XPのよさに触れ直すきっかけになれば嬉しいです。
BIPROGYグループの技術への取り組み
We Are Hiring!