Composable 関数内で、Hilt によって @Provides や @Binds で提供されたオブジェクトを直接的に扱いたい場面があります。

通常、Hilt を用いた依存性注入は ViewModel を経由して行います。たとえば @HiltViewModel に依存性注入し、Composable からその ViewModel を利用することで間接的に依存オブジェクトへアクセスします。

しかし、以下のようなケースでは ViewModel を使わずに依存オブジェクトを直接取得したい場合があります：

Composable 内に ViewModel の概念を持ち込みたくない
トーストや Analytics、ログ出力などの処理を、シンプルにその場で呼び出したい
単一の Composable に対して一時的に依存オブジェクトを使用したい

本記事では、Composable 関数から直接 Hilt の依存オブジェクトを取得する方法を紹介します。

エントリポイントとは

Hilt は Composable に対して直接的な DI を提供していません。そのため、Hilt 管理下のオブジェクトを取得するには「エントリポイント（Entry Point）」を定義する必要があります。

エントリポイントとは、@Inject が使用できない場所（Composable 関数や主要な Android のクラス以外）から、Hilt が管理する依存オブジェクトへアクセスするためのインターフェースです。

エントリポイントは次のように、@EntryPoint と @InstallIn を使って定義します：

@EntryPoint
@InstallIn(SingletonComponent::class)
interface FooEntryPoint {
    val foo: Foo
}

エントリポイントは、EntryPointAccessors を使って取得します。対象のコンポーネントがどこにインストールされているかに応じて、使用する Context が変わります。たとえば SingletonComponent にインストールされている場合、ApplicationContext を使用します。

つまり、コンポーネントに合った Context があれば、任意のタイミングで Hilt の依存オブジェクトへアクセスできます：

val entryPoint = EntryPointAccessors.fromApplication<FooEntryPoint>(applicationContext)
val foo = entryPoint.foo

Composable 内でエントリポイントを取得する

Composable 関数では LocalContext.current によって Context を取得できます。それにより、Composable 関数内でエントリポイントを取得し、依存オブジェクトにアクセスできます：

@Composable
fun rememberFoo(): Foo {
    val context = LocalContext.current
    return remember {
        EntryPointAccessors.fromApplication<FooEntryPoint>(context.applicationContext).foo
    }
}

複数のエントリポイントを扱う場合は、以下のように汎用的な関数を定義しておくと便利です：

@Composable
inline fun <reified T : Any> rememberSingletonEntryPoint(): T {
    val context = LocalContext.current
    return remember {
        EntryPointAccessors.fromApplication<T>(context.applicationContext)
    }
}

Composable にスコープを定義する

アプリ全体で共有する SingletonComponent ではなく、Composable 専用のスコープで依存関係を管理したい場合もあります。

そのような場合は、独自のスコープとコンポーネントを @DefineComponent を使って定義します。以下は、ActivityComponent の子として ComposableComponent を定義する例です：

@Scope
annotation class ComposableScoped

@ComposableScoped
@DefineComponent(parent = ActivityComponent::class)
interface ComposableComponent

@DefineComponent.Builder
interface ComposableComponentBuilder {
    fun build(): ComposableComponent
}

この場合、エントリポイントの取得には Activity が必要になります。Compose 環境では LocalActivity.current により取得できます：

@Composable
inline fun <reified T : Any> rememberComposableEntryPoint(): T {
    val activity = checkNotNull(LocalActivity.current)
    return remember {
        val builderEntryPoint =
            EntryPointAccessors.fromActivity<ComposableComponentBuilderEntryPoint>(activity)
        EntryPoints.get(builderEntryPoint.builder.build(), T::class.java)
    }
}

@EntryPoint
@InstallIn(ActivityComponent::class)
interface ComposableComponentBuilderEntryPoint {
    val builder: ComposableComponentBuilder
}

まとめ

Composable 関数から直接 Hilt の依存オブジェクトを扱うには、エントリポイントを定義します
EntryPointAccessors を使い、スコープに応じた Context を用いることでエントリポイントを取得できます
必要に応じて独自スコープ（ComposableScoped）とコンポーネント（ComposableComponent）を定義することで、より細かい依存関係の制御が可能です

参考文献