概要
パフォーマンスとは「最速」ではなく、**「知覚的に快適であり続ける設計」**である。
それは一時的な高速化ではなく、構造的に“劣化しない”ことを保証する戦略である。
本稿では、JavaScriptアプリケーションにおけるUI性能・計算効率・メモリ管理・非同期負荷などに着目し、体感速度を担保するための設計原則と実装戦略を提示する。
1. 再レンダリングの最小化
✅ 状態の粒度で分離
const [title, setTitle] = useState('');
const [count, setCount] = useState(0);
- ❌ 状態を一つにまとめると更新時に全部再レンダリング
- ✅ 責務ごとに分離して更新の波及を抑える
✅ React.memo / useMemo / useCallback の正しい適用
const MemoizedComponent = React.memo(MyComponent);
const memoizedValue = useMemo(() => computeExpensiveValue(a, b), [a, b]);
- ✅ 無駄な再評価・再生成を抑える
- ✅ 過剰なmemoは逆効果 → 「再生成コストが高い場合」に限定適用
2. 計算コストの分離と非同期化
✅ UIブロッキング処理をオフロード
// 重い処理をWeb Workerに逃がす
const worker = new Worker('./heavy.js');
worker.postMessage(largeData);
- ✅ メインスレッドのブロッキングを防ぎ、UIレスポンスを維持
- ✅ タスク分割 or
requestIdleCallback
の活用も有効
3. イベント負荷の制御:debounce / throttle
const handleScroll = throttle(() => {
console.log('scrolling...');
}, 100);
- ✅
debounce
: 連続入力の末尾1回だけ(例:検索入力) - ✅
throttle
: 一定間隔で制限(例:スクロール検出)
→ ✅ 高頻度イベントには意図的な制御レイヤーを
4. 非同期処理の最適化と並列戦略
// ❌ 逐次処理(時間がかかる)
await fetchA();
await fetchB();
// ✅ 並列処理
await Promise.all([fetchA(), fetchB()]);
- ✅ 並列化でレスポンスタイムを短縮
- ✅ 非同期関数は不要にawaitしない(パフォーマンス劣化)
5. メモリリークの予防と検出
✅ よくあるリークポイント
- 未解除のイベントリスナー
- 未破棄のTimer/Interval
- グローバル変数に保持された参照
- useEffect のクリーンアップ漏れ
useEffect(() => {
const id = setInterval(doSomething, 1000);
return () => clearInterval(id);
}, []);
✅ DevToolsによる監視
- Chrome DevTools → Memory → Heap snapshot
- ガベージコレクション後も残る参照を調査
設計判断フロー
① 状態更新が必要以上に再描画を引き起こしていないか? → 粒度分割とmemo化検討
② 高頻度イベントに直接関数を渡していないか? → debounce/throttle導入
③ 非同期処理が逐次実行されていないか? → Promise.allで並列化
④ メモリが増え続けていないか? → useEffect内でクリーンアップ設計
⑤ 重い処理をメインスレッドで動かしていないか? → WorkerやIdleCallbackを検討
よくあるミスと対策
❌ useEffectで登録したイベントを解除せずリーク
→ ✅ 明示的な return でイベント削除・タイマー解除を設計
❌ 高頻度イベント(スクロール・入力)でハンドラが毎回実行される
→ ✅ throttle / debounce で処理頻度を制御
❌ 非同期APIを逐次awaitしてレスポンスが遅い
→ ✅ 並列化できる部分はPromise.allに集約
結語
パフォーマンスとは「速いこと」ではない。
それは**“快適さが保たれる構造”を保証する設計行為**である。
- 計算を分離し
- 状態を細分化し
- UIレスポンスを設計し
- 未来のメモリを守る
JavaScriptにおけるパフォーマンス設計とは、
“最適化し続けるのではなく、最初から壊れない構造を選ぶ”という戦略である。