概要
ループ処理は「配列を回す」単純な構文ではない。
それは**“データ変換・集約・副作用処理の意図を明示し、パフォーマンスと可読性のバランスを取るための設計戦略”**である。
for
/ forEach
/ map
/ filter
/ reduce
などの構文選択は、
処理内容の意図や責務を読み取る「設計言語」としての役割を持つ。
本稿では、代表的なループ構文の使い分けと選定基準、設計的に意味のある選択方法、可読性と性能の最適バランスを解説する。
1. for
/ for...of
:最も低レベルなループ構文
for (let i = 0; i < items.length; i++) {
process(items[i]);
}
for (const item of items) {
process(item);
}
- ✅ 明確なインデックス制御や途中 break/continue が必要な場合に適切
- ❌ 副作用ベースの処理が多くなりがちで、処理の意図が読みにくい
2. forEach
: 副作用ループに最適
items.forEach(item => {
console.log(item); // 副作用
});
- ✅ ループの各要素に副作用(ログ、描画、DOM更新など)を与える
- ❌ return や break が機能しないため、制御が限定的
3. map
: 値の変換・新しい配列生成に最適
const names = users.map(user => user.name);
- ✅ 入力 → 出力の変換(1対1) に最も適した構文
- ❌ 副作用や条件分岐には不向き(責務がずれる)
4. filter
: 条件に合致する要素の抽出
const activeUsers = users.filter(user => user.active);
- ✅ 元配列から条件に応じて絞り込む用途に特化
- ✅ 副作用は避け、純粋な述語関数を使うのが原則
5. reduce
: 累積処理・集約処理に強い
const total = prices.reduce((sum, price) => sum + price, 0);
- ✅ 数値の合計、グルーピング、オブジェクト集約など
- ❌ 初学者には読み解きにくい抽象度があるため、設計意図の明示が重要
6. 選定基準まとめ
処理の目的 | 推奨構文 | 理由 |
---|---|---|
副作用を発生させたい | forEach |
return不要・純粋な副作用向き |
新しい配列が欲しい | map |
値変換の意図が明確 |
条件で抽出したい | filter |
条件式での構造的な分離 |
合計や集約したい | reduce |
累積構造を表現できる |
高速処理が必要 | for |
JITに最も近く、低レイヤーで制御可能 |
設計判断フロー
① 値を返す構文か? → map / reduce / filter を優先
② 副作用のみ? → forEach or forを選択
③ 集約 or 累積的処理? → reduceが最適
④ 途中で break したい? → for / for...of で制御可能性を取る
⑤ 曖昧な map/filter の混用をしていないか? → 処理目的を明示化
よくあるミスと対策
❌ map
を使っているのに返り値を使っていない(副作用目的)
→ ✅ forEach
に置き換えて意図を明確にする
❌ forEach
で return を期待して break 書いても効かない
→ ✅ break 可能な for
へ置き換える
❌ reduce
で何でもやろうとして読みにくいコードに
→ ✅ 必要に応じて map + filter + reduce の分離を検討
結語
ループ構文は「データを1件ずつ処理するため」ではない。
それは**“データ処理の意図と責務を明示し、構文選択で表現するための設計戦略”**である。
- 目的と構造に応じた構文選択が、コード全体の明瞭さを支える
- ループの中で「何をしているか」ではなく、「なぜその構文を使っているか」が設計の本質
- 可読性と抽象度のバランスを見極め、責務を分離して設計する
JavaScriptにおけるループ設計とは、
“処理の意図と構造を構文として明文化することで、保守と共感性を最大化する戦略である。”