概要

Chain of Responsibility（責任の連鎖）パターンは、
複数のオブジェクトを連結し、要求を順に処理者に渡していくことで、柔軟な責任分散と処理制御を可能にする設計パターンである。

認証・バリデーション・エラーハンドリング・イベント処理など、順次処理を必要とする場面に最適。

1. なぜChain of Responsibilityが必要か？

❌ 全ての処理を一箇所にまとめると、責務が集中してしまう

def handle_request(request):
    if is_valid(request):
        if is_authenticated(request):
            if is_authorized(request):
                ...

→ 処理フローがネストし、責務が密結合になる

✅ 責任を分割し、必要に応じて次のハンドラに委譲する

handler = AuthHandler(ValidationHandler(LoggingHandler()))
handler.handle(request)

→ 処理の連鎖が明示化され、柔軟なフロー制御が可能に

2. 基本構造

✅ Handler 抽象クラス

class Handler:
    def __init__(self, next_handler=None):
        self._next = next_handler

    def handle(self, request):
        raise NotImplementedError

    def next(self, request):
        if self._next:
            self._next.handle(request)

✅ 具体的なハンドラ

class LoggingHandler(Handler):
    def handle(self, request):
        print(f"[LOG] リクエスト受信: {request}")
        self.next(request)

class ValidationHandler(Handler):
    def handle(self, request):
        if not request.get("data"):
            print("バリデーションエラー: data がありません")
            return
        self.next(request)

class AuthHandler(Handler):
    def handle(self, request):
        if request.get("auth") != "secret":
            print("認証エラー: 認証トークンが無効です")
            return
        print("認証成功")
        self.next(request)

✅ 使用例

chain = AuthHandler(ValidationHandler(LoggingHandler()))

req = {"auth": "secret", "data": "payload"}
chain.handle(req)

出力:

認証成功  
[LOG] リクエスト受信: {'auth': 'secret', 'data': 'payload'}

3. Python的応用：関数型での実装も可能

def chain(*handlers):
    def wrapped(request):
        for handler in handlers:
            if not handler(request):
                break
    return wrapped

def log_handler(request):
    print(f"[LOG] {request}")
    return True

def auth_handler(request):
    if request.get("auth") == "ok":
        return True
    print("Auth failed")
    return False

request_chain = chain(auth_handler, log_handler)
request_chain({"auth": "ok"})

→ 軽量なデコレーションベースで処理連鎖を構成可能

4. 実務ユースケース

✅ Webリクエストの中間処理（ミドルウェア）

→ 認証・ログ・バリデーションなどを処理チェーンとして分離

✅ イベントディスパッチャ（キーボード、UI入力）

→ 入力を優先順位付きに順次ハンドリング

✅ ログ処理（複数ハンドラで出力形式を切り替え）

→ コンソール → ファイル → リモート送信などの多段構成

✅ AIパイプラインやETLの処理段階制御

→ 入力 → 正規化 → 検証 → 推論 → 書き出しなどの連鎖的処理

5. よくある誤用と対策

❌ ハンドラが次の処理を呼び忘れて処理が止まる

→ ✅ next()の呼び出しルールを明確に設計し、ベースクラスで統一

❌ 状態の共有が難しい（各ハンドラが独立しすぎる）

→ ✅ 共通の context や request オブジェクトを共有する設計に

❌ 例外処理やフロー制御が入り乱れやすい

→ ✅ エラー時の中断やログ出力の責任を分離設計する

結語

Chain of Responsibility パターンとは、“責任の順序を構造で定義し、流れるように処理を受け渡す設計”である。

処理を段階的に分離し、動的な連鎖を可能にする
単一責任原則に従い、ハンドラの再利用・差し替えが容易
Pythonではクラスでも関数でも、簡潔かつ拡張性のある実装が可能

Pythonicとは、“処理を柔らかく分けて、流れでつなげること”。
Chain of Responsibility パターンは、その柔軟性と秩序を、処理の連なりに刻む技法である。