概要

関数型プログラミングは“考え方”であり、“制約”ではない。
JavaScriptでもその思想を取り入れることで、コードは明確に、状態は安全に、ロジックは再利用可能になる。

本稿では、以下の視点から関数型思考をJavaScriptへ導入する：

副作用（Side Effect）とその管理
純粋関数とテスタビリティ
不変性（Immutability）と構造共有
高階関数と関数合成
実用ライブラリ（Ramda, Lodash/fp等）の活用

1. 副作用（Side Effect）の定義と排除

副作用とは、関数の外部世界に影響を及ぼす操作のこと。

例：DOM操作、ログ出力、API通信、グローバル変数の変更

// ❌ 副作用あり
function saveUser(user) {
  localStorage.setItem('user', JSON.stringify(user));
}

// ✅ 副作用を外に逃がす
function serializeUser(user) {
  return JSON.stringify(user);
}

→ ✅ 副作用は関数外へ押し出し、純粋ロジックと処理を分離

2. 純粋関数とは？

✅ 同じ入力 → 同じ出力
✅ 外部状態に依存しない
✅ 外部状態を変更しない

function add(a, b) {
  return a + b;
}

→ ✅ テストが簡単、再利用しやすく、構成可能

3. 不変性（Immutability）の維持

// ❌ オブジェクトを直接変更
user.name = 'Toto';

// ✅ 新しいオブジェクトを返す
const updatedUser = { ...user, name: 'Toto' };

→ ✅ データ構造を破壊せず、安全に状態管理ができる

4. 高階関数（Higher-Order Functions）

✅ 関数を“受け取る”または“返す”関数

function map(arr, fn) {
  const result = [];
  for (const item of arr) {
    result.push(fn(item));
  }
  return result;
}

map([1, 2, 3], x => x * 2); // [2, 4, 6]

✅ 抽象化と再利用のための中核パターン
✅ .map, .filter, .reduce もすべて高階関数

5. 関数合成（Function Composition）

✅ 関数をつなぎ、パイプライン化

const trim = (s) => s.trim();
const toUpper = (s) => s.toUpperCase();

const cleanAndUpper = (s) => toUpper(trim(s));

→ ✅ 小さな関数をつないで大きな機能を構築する

RamdaやLodash/fpの活用例

import { pipe } from 'ramda';

const cleanAndUpper = pipe(
  (s) => s.trim(),
  (s) => s.toUpperCase()
);

→ ✅ データフローを左→右で直感的に記述可能

6. 実用例：ユーザーの年齢フィルタ → 名前抽出 → 大文字変換

const users = [
  { name: 'toto', age: 28 },
  { name: 'momo', age: 18 },
  { name: 'kiki', age: 35 }
];

const result = users
  .filter(u => u.age >= 20)
  .map(u => u.name.toUpperCase());

→ ✅ 副作用なし、純粋関数による安全なデータ変換チェーン

設計判断フロー

① この関数は同じ入力で同じ出力か？ → 純粋関数か確認

② 外部状態を変更していないか？ → 副作用を外部へ

③ 状態を破壊していないか？ → イミュータブルに扱う

④ 処理を関数で分けられるか？ → 高階関数で抽象化

⑤ 合成して流れにできるか？ → pipe / composeの導入

よくあるミスと対策

❌ 関数内で外部変数を更新

→ ✅ 状態を引数で受け取り、出力で返す構造に

❌ 再利用性のない巨大な関数

→ ✅ 小さな純粋関数に分解し、合成する設計へ

❌ map内で副作用操作（console, fetchなど）

→ ✅ .map() は純粋関数だけに使うことを徹底

結語

関数型思考とは「ロジックを“構造化”し、状態を“制御可能”にする設計戦略」である。

副作用を隔離し
関数を分解し
データを変換で流し
構造を組み合わせる

予測可能性、テスタビリティ、再利用性――
そのすべてが“純粋な関数”から生まれる。