概要

Command（コマンド）パターンは、
「操作（命令）」をオブジェクトとして定義し、実行要求・取り消し・履歴管理・非同期処理などを柔軟に扱う設計パターンである。

操作の発行者（Invoker）と実行者（Receiver）を分離し、実行タイミングの制御やUndo処理の実装に適している。

1. なぜCommandが必要か？

❌ 操作の実行ロジックをその場で直接書くと、柔軟性に欠ける

button.on_click = lambda: editor.copy()

→ 操作の再実行・取り消し・記録が困難

✅ 操作自体をオブジェクト化し、どこからでも呼び出せるようにする

copy_command = CopyCommand(editor)
button.set_command(copy_command)

→ Commandにより、操作の発行と実行を分離・構造化できる

2. 基本構造

✅ Commandインターフェース

class Command:
    def execute(self):
        raise NotImplementedError

✅ Receiver（実際の処理を行う対象）

class Editor:
    def copy(self):
        print("コピー実行")

    def paste(self):
        print("ペースト実行")

✅ Concrete Command

class CopyCommand(Command):
    def __init__(self, editor: Editor):
        self.editor = editor

    def execute(self):
        self.editor.copy()

class PasteCommand(Command):
    def __init__(self, editor: Editor):
        self.editor = editor

    def execute(self):
        self.editor.paste()

✅ Invoker（実行を依頼する側）

class Button:
    def __init__(self):
        self._command = None

    def set_command(self, command: Command):
        self._command = command

    def click(self):
        if self._command:
            self._command.execute()

✅ 使用例

editor = Editor()
copy = CopyCommand(editor)
paste = PasteCommand(editor)

copy_button = Button()
paste_button = Button()

copy_button.set_command(copy)
paste_button.set_command(paste)

copy_button.click()  # コピー実行
paste_button.click()  # ペースト実行

3. Python的応用：関数やクロージャでもCommandを表現可能

class FunctionCommand(Command):
    def __init__(self, func):
        self._func = func

    def execute(self):
        self._func()

cmd = FunctionCommand(lambda: print("関数ベースで実行"))
cmd.execute()

→ Pythonでは関数もファーストクラスオブジェクトなのでCommandと相性が良い

4. 実務ユースケース

✅ GUIアプリケーションにおけるボタン・メニュー・ショートカット操作

→ ユーザー操作をCommandとして統一的に扱える

✅ Undo / Redo 機能

→ コマンドを履歴として保存し、undo()で逆操作を実行

✅ ジョブスケジューラ・非同期タスクキュー

→ 操作をCommandとしてあとから実行・再実行・遅延実行できる

✅ ロボット制御・ゲーム内アクションスクリプト

→ 各アクションをCommand化してシナリオ制御を柔軟に

5. よくある誤用と対策

❌ CommandがReceiverに強く依存しすぎる

→ ✅ 依存関係はインターフェース経由で渡すように設計する

❌ Commandの実装が増えすぎてクラス数が肥大

→ ✅ 関数ベースの簡易Commandや、Commandファクトリで整理する

❌ Undo/Redo用の逆操作をCommandに書きすぎる

→ ✅ Commandは“実行”と“取り消し”を分離して明示的に設計する

class UndoableCommand(Command):
    def undo(self):
        raise NotImplementedError

結語

Commandパターンとは、“操作そのものをデータとして扱い、実行の柔軟性を引き出す設計”である。

操作をオブジェクト化することで、履歴・再実行・非同期処理が可能に
実行と依頼の分離により、疎結合で再利用可能な構造を実現
Pythonでは関数・クラス両方で、極めて軽量かつ柔軟に実装可能

Pythonicとは、“動作を抽象化して渡すこと”。
Commandパターンはその動的操作性を、設計の表現力に変える技法である。