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学生ロケットで動翼を作ってみた

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1. はじめに

こんにちは!東京科学大学ロケットサークルCREATE電装班です。

私たちCREATEは、ハイブリッドロケットの製作・打上げを行う東京科学大学の技術系公認サークルです。ロケット開発を通して、学生団体として、またものづくりに携わる技術者として、自分たちの限界を超えることを目指して活動しています。

CREATEのロケットは、構想から打上げまで約1~2年をかけて開発されます。機体ごとに目標が設定され、到達高度の向上や機体の姿勢制御など、難易度の高いミッションにも取り組んでいます。

所属する学生の興味もさまざまです。ロケットや宇宙が好きな人だけでなく、航空機、エンジン、電子回路、プログラミングに興味がある人や、単純にものづくりがしたい人も在籍しています。工学院だけでなく、理学院や生命理工学院など、幅広い専攻の学生が集まっていることも特徴です。

その中で電装班は、飛行データの計測・記録・ダウンリンク、飛行状態の判定、パラシュート開放機構の制御などを担当しています。

現在、最上級生である24Bが中心となって、C99Lというロケットを開発しています。C99Lの大きな特徴の一つが、飛行中にフィンの角度を変える「動翼」による姿勢制御です。

今回は、動翼を実際のロケット上で動作させるために製作した新しいミッション基板と、その周辺機構について紹介します。

C99Lの全体構成を図1に示します。機体中央部には、互いに向かい合うように2枚の動翼を配置しています。動翼用モータやミッション基板は、その周辺の機体内部に搭載します。

image_1024.png
図1 C99Lの全体構成。機体中央部に配置した2枚のフィンを動翼として使用する。

実際にミッション基板から動翼を駆動した様子を次に示します。この試験では、動翼を指定した角度へ動かせることと、エンコーダから取得した角度を用いて0度付近へ戻せることを確認しました。

C99L動翼機構の地上動作試験

動画 C99Lの動翼機構を地上で動作させた様子。

2. 動翼では何をするのか

C99Lでは、機体のロール角を一定に保つことを目標としています。

ロールとは、ロケットの機軸を中心とする回転です。機体やフィンのわずかな非対称性、取付誤差、飛行中の外乱などによって、ロケットにはロール方向の回転が発生します。

そこでC99Lでは、機体中央部に配置した2枚のフィンを飛行中に動かします。フィンの角度を変えると空気から受ける力が変化し、機体のロール方向にモーメントが発生します。この力を利用して機体の回転を抑え、ロール角を保ちます。

ただし、動翼を制御するには、少なくとも次の処理が必要です。

  1. ロケットが離床したことを検知する
  2. 機体のロール角速度を計測する
  3. ロール角の変化を把握する
  4. 現在の動翼角度を計測する
  5. 必要な動翼角度を計算する
  6. モータを正転・逆転させる
  7. 指定した角度まで動いたか確認する
  8. 頂点付近や異常時には動翼を0度へ戻す
  9. センサ値やモータ指令を記録する

また、動翼が発生させる力は対気速度によって変化します。速度が高いときと低いときでは、同じ動翼角度でも得られるモーメントが異なります。そのため、C99Lでは差圧計を用いた対気速度の計測も行います。

これらの処理を行うため、通信基板がGNSSや地上局との通信を担当し、ミッション基板が姿勢計測、動翼駆動、飛行状態の判定、ログ保存などを担当する構成としました。

必要な機能 搭載したもの
機体の加速度・角速度の計測 ICM-42688-P
動翼の駆動 Maxon A-max 22 DCモータ
動翼モータの正逆転・PWM駆動 TB67H450FNG
動翼角度の計測 AS5047Dを搭載した自作エンコーダ基板
離床検知 ICM-42688-P、LPS25HB
対気速度の計測 SSCDRRN005PD2A5、LPS25HB
メインMCU ESP32-S3
飛行データの保存 microSD
他基板との通信 CAN、LT3960
電源切替・瞬断対策 TPS2121、スーパーキャパシタなど

3. ミッション基板の構成

動翼制御に必要な機能をまとめるため、新しいミッション基板を製作しました。
図2の左側はKiCad上の基板レイアウト、右側は部品実装後の実物です。円形の基板外形は、機体内部の円筒形状に合わせています。

ミッション基板 img_1456_1024.jpg
KiCad上の基板レイアウト 部品実装後のミッション基板

基板には主に次の機能を搭載しています。

  • ESP32-S3
  • ICM-42688-P
  • 動翼用モータドライバ
  • 自作エンコーダ基板との接続端子
  • microSD
  • CANトランシーバ
  • LT3960
  • パラシュート開放機構との接続
  • 電源MUX
  • 5 V系保護回路
  • スーパーキャパシタ
  • USB Type-C
  • 状態表示LED

3.1. メインMCU

メインMCUにはESP32-S3を使用しています。

ESP32-S3は、IMUの取得、離床検知、動翼モータの制御、エンコーダの読み取り、microSDへの保存、CAN通信、電源制御などを担当します。

動翼制御では、複数の処理を並行して実行する必要があります。特に、IMUの取得周期やモータ制御周期がmicroSDへの書き込みによって乱れないよう、IMUとmicroSDには別々のSPIバスを割り当てています。

また、モータ、エンコーダ、CAN、遠隔I²C、USB、LED、電源制御など、多数の信号を接続する必要がありました。ESP32-S3には多くのGPIOがありますが、PSRAMや起動条件、USBとの兼ね合いもあり、実際の割当にはほとんど余裕がなく、何度もデータシートを確認し、各機能に使用できるGPIOを絞り込みました。

3.2. 姿勢計測

機体の加速度と角速度を測定するため、ICM-42688-Pを基板上に搭載しています。

加速度は主に離床検知に使用し、ジャイロから得られる角速度はロール運動の計測に使用します。打上げ前にはジャイロのバイアスを測定し、飛行中の計測値から差し引きます。

ICM-42688-PはESP32-S3とSPIで接続しています。動翼の制御周期を保ちながら飛行データを保存する必要があるため、取得周期、FIFO、SD書き込み方法について実機試験を重ねています。

3.3. 動翼モータの駆動回路

動翼の駆動にはMaxon A-max 22 DCモータを使用しています。

モータドライバにはTB67H450FNGを使用しています。ESP32-S3から2本のPWM信号を入力し、モータの正転、逆転、ブレーキ、空転を切り替えます。

モータの起動時やマイコンの再起動時に動翼が意図せず動かないよう、初期化時にはモータ出力を安全な状態にします。また、制御を終了した場合は動翼を0度へ戻します。

3.4. 自作エンコーダ

動翼モータには、2022年11月に打ち上げられた姿勢制御ロケット「59J」で使用したMaxon A-max 22を再利用しています。

このモータにはMaxon純正のエンコーダが取り付けられていました。しかし、動作確認を行ったところ、エンコーダが故障しており、正常な回転信号を取得できませんでした。

動翼角度が分からなければ、指定角度で止めることも、外力を受けたときに元の角度へ戻すこともできません。そこで、磁気式角度センサのAS5047Dを搭載したエンコーダ基板を新たに設計しました。

自作エンコーダでは、モータ軸へ取り付けた磁石の向きをAS5047Dで読み取ります。ミッション基板とはSPIまたはA/B相信号で接続できるようにし、角度計測方法の比較や試験を行っています。

設計では、次の点を考慮しました。

  • センサと磁石の中心位置
  • センサと磁石の距離
  • 機械的な0度とセンサ上の0度
  • モータ回転方向と角度の正負
  • 再起動後の基準角度
  • 約30 cmの配線による信号品質
  • モータ周辺の磁界やノイズ
  • 基板の取付方法と機械的強度

自作エンコーダの詳細については、基板設計や取付方法を含めて別の記事で紹介する予定です。

図3の左側がMaxon純正エンコーダ、右側が今回製作したエンコーダ基板です。純正品を単純に複製したわけではなく、磁気式角度センサAS5047Dを用いて、現在の動翼機構に合わせた基板を設計しました。

6078_1024.jpg 5740_1024.jpg
maxonモータのデフォルトエンコーダ付きモータ 自作したエンコーダ基板

3.5. 電源回路

近年の機体では、コネクタの接触不良や配線の問題などによる電源喪失が課題になっていました。そこで今回のミッション基板では、電源系統の冗長化を試みました。

C99Lには、大きく分けて次の2系統の電源があります。

  • ESP32-S3やIMUなどへ供給するlogic系統
  • 動翼やパラシュート開放機構へ供給するmotor系統

通常はそれぞれの電池から電源を供給します。しかし、片方の系統が失われても最低限の機能を継続できるよう、2入力1出力の電源MUX ICであるTPS2121を複数使用し、logic系統とmotor系統が相互にバックアップできる構成としました。

電源MUX周辺
図4 TPS2121を用いた電源切替回路。logic系統とmotor系統の一方が失われた場合に、もう一方の電源へ切り替える。

TPS2121は、2つの入力電源を監視し、使用する電源を自動的に切り替えるICです。これにより、logic側またはmotor側の一方が失われた場合でも、もう一方の電源から重要な回路へ供給できます。

さらに、基板上にはスーパーキャパシタを搭載しています。現在の基板では、10 F・5.5 Vのスーパーキャパシタを直列にしたバンクをlogic側とmotor側に設けています。

スーパーキャパシタは、電源切替時や瞬間的な電源断が発生した際に、電圧を短時間保持するために使用します。特に、打上げ直後に両方の主電源が失われた場合でも、状態保存やパラシュート開放処理を行うための時間を確保することを狙っています。

また、5 V系にはTCKE800NAを用いた保護回路を設けています。短絡や過電流が発生した場合に、センサや外部基板へ供給する5 V系統を切り離せる構成です。

3.6. 通信基板との接続

通信基板とはCANを用いて通信しています。

CANトランシーバにはMCP2562を使用しています。CANは差動信号で通信するため、機体内部の配線で発生する同相ノイズの影響を受けにくく、複数基板間の通信に適しています。

通信基板からは飛行シーケンスの開始・停止などのコマンドを受信し、ミッション基板からは動作状態やセンサ情報を送信します。

3.7. 上部差圧計基板との接続

対気速度の計測に使用する差圧計と、周囲の気圧を測定する気圧計は、ミッション基板が収められている電装水密区画の外に配置する必要があります。

そこで、差圧センサSSCDRRN005PD2A5と気圧センサLPS25HBを搭載した専用基板を機体上部へ設置しています。

この基板とミッション基板の間は約1 m離れています。通常のI²Cをそのまま長距離配線すると、配線容量や外来ノイズによって通信が不安定になる可能性があります。

そこで、LT3960を使用しました。

LT3960は、I²CのSDAとSCLをそれぞれCAN物理層の差動信号へ変換します。CANの通信プロトコルを使用しているわけではなく、I²Cの通信内容を差動信号によって長距離伝送する構成です。

LT3960周辺

図5 LT3960を用いたI²C差動伝送回路。SDAとSCLをそれぞれ差動信号に変換する。

ミッション基板と差圧計基板の間にはEthernetケーブルを使用し、次の信号をまとめて配線します。

  • 電源
  • GND
  • SDAの差動信号
  • SCLの差動信号

Ethernetケーブルは入手しやすく、ツイストペアを利用して差動信号を配線できることから採用しました。

上部差圧計基板

図6 上部差圧計基板。差圧センサ、気圧センサ、LT3960、RJ45コネクタを搭載している。

4. 基板の製造

今回のミッション基板は、JLCPCB様からご支援をいただき、製造と部品実装を行っていただきました。

JLCPCB_id0ZkbRC8G_2.jpeg

4.1. 4層基板の採用

今回の基板では、部品数と信号数が増加したため4層基板を採用しました。

主な理由は次のとおりです。

  • GNDプレーンを確保する
  • 電源配線のインピーダンスを下げる
  • SPIやCANなどの信号経路を整理する
  • モータ電流が流れる経路とセンサ信号を分離する
  • 円形かつ限られた基板面積へ各機能を収める

図7に、KiCad上で各銅箔層だけを表示した状態を示します。表面と裏面には主に部品と信号線を配置し、内層にはGNDや電源の広い銅箔面を配置しました。

image.png image.png image.png image.png
1層目 2層目 3層目 4層目

4.2. PCBA

表面実装部品の多くは、JLCPCBのPCBAサービスで実装しました。
TB67H450やTCKE815NA、ICM42688などは表面実装部品であるため、PCBAサービスで実装していただけるのはとてもありがたかったです。

JLCPCBで部品実装されたミッション基板

図8 JLCPCBから到着した実装済み基板。コネクタや大型部品は到着後に手実装した。

4.3. JLCPCBでのPCB発注方法について

  1. 作りたい基板をCADで設計する。スクリーンショット 2026-03-16 12.49.39.png

  2. 完成したらgbrファイルを作成する。(ファイル→製造用出力→gbrファイル)スクリーンショット 2026-03-16 12.50.15.png

  3. 「ドリルファイルを生成」→「生成」を押して、ドリルファイルを生成する。設定項目はデフォルトで基本的に問題ない。(Kicadのプロジェクトファイルと同じところに生成される)スクリーンショット 2026-03-16 12.53.29.png

  4. 「プロット」を押して、ファイルを生成する。(これらも同じようにプロジェクトファイルに生成される)

  5. 今作成したすべてのファイルを一つのフォルダにまとめて、zip圧縮する。

  6. JLCPCBのサイトを検索して開く。

  7. アカウントを持っていない場合作成する。(googleアカウントやappleアカウントでログインできるので便利)

  8. 右上の「発注する」ボタンから発注する。

  9. 先ほど作成したzipファイルを「ガーバーファイルをアップロード」のところにアップロードする。
    スクリーンショット 2026-03-16 12.56.05.png

  10. 基板の色など、設定項目を調整する。
    Pasted image 20260316144401.png

  11. JLCPCBでは、クーポンが豊富に用意してあるので、使えるクーポンがないか、確認する。

  12. カートから発注したい基板を選択して次に進む。

  13. 届け先の住所などを入力する。

  14. クレジットカード情報、配送会社の指定などを入力し、料金を払う。

  15. プリントが開始されると、メールが来るので確認する。(製造上の確認事項やデータ上の問題がある場合は、JLCPCBから連絡が届くことがあります。)

  16. 約1-2週間後に基板が届く。
    Pasted image 20260316144742.png


感想
JLCPCB様のいちばんの魅力は気軽に発注できるところであると感じました。フリーソフトのKiCadで基板を作成することができ、KiCadからJLCPCB様で発注するまでの手順も簡単です。さらに一番魅力的なのが、基板発注だけなら日本円で約500円で5枚も発注できることです。基板の製作は配線ミスなどで何回か発注しなくてはいけない場面などが出てきます。その時に安く発注できることで開発の効率が大幅に上がっています。JLCPCB様いつもありがとうございます。


是非JLCPCBで発注してみましょう!
JLCPCB様のサイトを活用すると簡単に基板制作に取り組めます。是非新たに基板製作に挑戦しようとしている方はJLCPCBを活用してみてください。
IMG_0838.JPG

下のリンクからお得なクーポンをゲットできます。
https://jlcpcb.com/JPV
また、日本のユーザーには$123クーポンと多くの割引があります。
jlcpcb.com/jp?from=discountjp

5. おまけ

開発初期には、別の動翼モータとパラシュート開放用モータを前提とした基板も製作しました。しかし、その後の機構設計で使用するモータと通信方式が変更され、回路が新しい構成に対応できなくなったため、搭載を見送りました。

搭載を見送った旧ミッション基板

図9 モータ構成の変更によって搭載を見送った旧ミッション基板。

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