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ITエンジニアも使える思考法 「イェール大学集中講義 思考の穴」

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はじめに

以下は去年に発売された「イェール大学集中講義 思考の穴」という書籍です。

去年本屋に行った際、タイトルに惹かれて手に取りページをめくったところ、面白そうだなと思い購入しました。読み終えた感想としては、ソフトウェアやシステム開発などITエンジニアリングにも活用できると思い感銘を受けました。

本記事では書籍に出てくるキーワードを基に、ITエンジニアの観点も踏まえながらまとめています。

流暢性効果

仕事でタスクの見積もりを行う場合、想定より時間がかかることは誰でもあると思います。

以下は書籍からの引用1です。

頭のなかで容易に処理できるものは、人に過信をもたらす。そうして生まれる過信のことを「流暢性効果」と呼ぶ。流暢性効果はそっと私たちに忍び寄り、さまざまな錯覚を生じさせる。

書籍では韓国の人気グループであるBTSの曲を例に、切り取った動画を踊ることができると錯覚してしまう流暢性効果について書かれています。

ITエンジニアリングで新しい技術などをシステム開発に取り入れる場合、思ったより実装に時間がかかったりするのは、まさに流暢性効果ではないでしょうか。

書籍ではこのような話を踏まえて、対策として実際にやってみることが最高の対抗策であると述べています。

学習のサイクルとして、先にインプットを行いアウトプットを行う方法が一般的だと思いますが、逆にアウトプットしてからインプットを行う方法もあると思います。何も考えずに行動することは、手段が目的になりやすいため、気を付けるべきです。しかし、効率的に学ぶためには、多少手を動かすことで、実際に感覚を養いながらバイアスを修正することも重要だと思いました。

確証バイアス

確証バイアスとは、自分が正しいと思える証拠ばかりを集める傾向のことです。

認知バイアスの一種で最初の考えに固執してしまう心理現象です。書籍では医師の診察や数字のゲームのエピソードを例として紹介されています。

ITエンジニアだと障害が発生した際の原因調査やデバッグなどで確証バイアスが発生しやすいと思います。デバッグ時の確証バイアスとして、以下のシナリオを例に考えてみましょう。

Aという機能で障害が発生し、Aを構成しているBのコードに原因があるのではないかと考えて「障害の原因はBのコードに記述しているデータベースの接続設定に違いない」と、仮説を立てたとします。

開発者がこの仮説に固執して他の可能性を考えない場合、確証バイアスが発生する可能性があります。その場合、次のような行動を取るかもしれません。例えば、データベースの設定に関するコードのみに注目してそれ以外のコードを考慮しません。

従って、実際の障害の原因はデータベース設定ではなく、フロントエンドのコードのミスや、APIの呼び出し方など全く別の部分にあるにも関わらず、これらの可能性を見逃して問題解決に時間がかかってしまいます。

確証バイアスは仕事や日常生活など様々な場面で発生しやすいと思います。また、思い込みによって人生にも与える影響が大きいことを学びました。

因果関係

障害調査を行っていて思い当たる節があるとき、ある程度条件を満たしていると、この事象を引き起こしている原因ではないかと考えるケースはあると思います。

書籍では人が因果関係を結論付けるための手がかりとして、類似性、十分性と必要性、可制御性などの性質を紹介しています。どの手がかりを重視するかで因果関係の結論付けが変わります。

以下は書籍からの引用2です。

この例から、同じ出来事でも、なぜ原因に帰するものが人によってたいてい異なるのか、その理由の一旦が見て取れる。何を普通とし、何を異常とするかは、各人の視点によって変わるのだ。

書籍ではアメリカの銃社会を例に、銃乱射事件は合法的に銃が購入できてしまうことが問題ではなく、事件が起きた場合、事件を引き起こした人物に問題があるという論理として類似性の性質を述べています。

ITエンジニアは色々な場面で因果関係について思考を働かせるケースが多いと思います。改めて普段無意識で行う思考について、客観視することで違った視点に気づきやすくなるのではないでしょうか。

データサイエンスの思考法

認知心理学では、具体的な事例の方が抽象的な説明よりも説得力があるほか、影響力があると言われているそうです。

書籍では具体的な事例やエピソードは影響力を発揮しすぎることが多々あり、その危険性などについて書かれています。人間が統計データがあるのにも関わらず、理屈に合わない判断など偏った思考を行わない為の対策として、以下3つの概念を提唱しています。

人の思考は基本的に知覚を通して行われています。SNSでエビデンスよりインフルエンサーなどの根拠のない情報に踊らせている人を見ると、書籍に書かれている危険性がもたらす効果について納得しました。

世の中の多くの事象は正規分布であふれています。データサイエンスが本職の人は既に身に付けているスキルだと思いますが、改めて統計学の知識を思考に取り入れる必要性を感じました。

ネガティビティバイアス

本質的には同じでも伝え方によっては、人によって解釈が異なることがあります。

以下は書籍からの引用3です。

心理学の分野には、人はポジティブな情報よりネガティブな情報を重視すると実証した実験がたくさんある。しかもその傾向は、製品だけでなく人を見定めるときにも当てはまる

例えば、ベンダーがクライアントに対してシステムの要件定義を行うにあたり「SLAの稼働率は99%」と伝えるのと「サービス停止を伴うダウンタイムが1%の確率で発生」では、前者の方がポジティブな印象を受ける方が多いのではないでしょうか。

人はネガティブな情報に影響を受けてしまう傾向が強いことをネガティビティバイアスと呼びます。米国の心理学者ダニエル・カーネマン氏らは、ネガティビティバイアスが様々な経済行動に影響を与えていることを明らかにし、2002年にノーベル経済学賞を受賞しました。

ネガティビティバイアスは、システムに関する数字の報告やマーケティング、または採用など様々な場面で効果を発揮します。

認知の歪み

初頭効果とは、最初に与えらえた情報がその後の判断などに影響を与えることです。

書籍では著者の事例を踏まえて、最初の思い込んだことを信じ続けようとする行為について「因果関係の刷り込み」という名前を付けています。端的に言うと、このような性質も確証バイアスの一種で、人には自分が信じるものを信じ続けようとする傾向があるとのことです。

確証バイアスの箇所で書きましたが、デバッグなどを行なっている中、最初の考えに固執して結果、原因調査が捗らない経験をする人は多いのではないでしょうか。

完璧な人間はいません。人は必ず認知の歪みがあるのが正常です。そう思うことで、自分を客観することができて、気持ちが少し楽になったように思いました。

問題解決のスキルとして、批判的思考力という考え方があります。認知の歪みを取り除くことはできなくても、批判的思考力を活用することで、考え方を最適化することはできると思います。

自己中心性バイアス

自己中心性バイアスとは、自分を中心に物事を考える認知バイアスです。

自分の価値観や感情を基に過大評価してしまう傾向のことを指し、日常生活からビジネスまで様々な場面で無意識に行なっているのではないでしょうか。

書籍を読むと、心理学者でさえ自分を過大評価してしまうことが述べられているように、とても扱いにくいバイアスだと改めて感じました。

改めて仕事を柔軟に進めるためには、都合の良い風に自分の視点だけで物事を見るのではなく、相手の立場に立って物事を考えることが重要だと思いました。

人と対話する際に話が噛み合わない場合、基本的には前提が揃っていないことがほとんどだと思います。ITエンジニアの場合、前提が揃っていない理由として、業務知識にしろ技術面にしろ、認識の差異によるものだと思います。従って相手の話を聞く場合は、しっかりと相手の話に耳を向ける。逆に自分が主体となり話す場合は、行間などを考慮しながら共通認識を作り込むことが重要です。

ストレスは期待値とのギャップという解釈もできると思います。例えば、コンビニなどに行き長蛇の列が発生していて、中々レジにたどり着けないことなどはあるのではないでしょうか。このようなときは、期待値を下げること(時間に余裕を持つなど)でストレスを緩和できると考えています。

確実性効果

確実性効果とは、複数ある選択肢の内確実性の高いを選択を好む傾向のことです。

仕事で確実に見込みあるクライアントにアプローチする場面や競馬で馬券を購入する際、オッズが低い馬券を購入するときなどギャンブルなど様々な場面で発揮する効果ではないでしょうか。

以下は書籍からの引用4です。

人は自分にとって重要な成果の内容が不確かな状態にあると、意思決定の能力が機能しなくなるのだ。

行動経済学でAllais paradoxの理論は有名です。人は合理的な生き物と考えられているものの、以下の様な例ではいかに人は逆説的に動くかが分かります。

AWSのインフラを管理している方の場合、コスト最適化を目的にリザーブドインスタンス (RI) の購入を検討するケースがあると思います。このような状況では、いかに確実性の高さを踏まえて割引率の高い選択を行うことが求められます。

短期的にすぐもらえる報酬または、長期的だがより高い報酬など心理的な距離に悩むことは多々あると思います。このような心理的な距離にとらわれないようにするためには、長期的な未来をより現実的なものと想像して自分の思考を信じることです。

おわりに

人はバイアスなど認知の歪みを完全に取り除くことできません。

しかし、バイアスの危険性を理解してバイアスに対する考え方を補正することで、思考の最適化はできると思います。

  1. アン・ウーキョン:著 花塚恵:訳者.イェール大学集中講義 思考の穴.ダイヤモンド社.
    2023,p.24

  2. アン・ウーキョン:著 花塚恵:訳者.イェール大学集中講義 思考の穴.ダイヤモンド社.
    2023,p.138

  3. アン・ウーキョン:著 花塚恵:訳者.イェール大学集中講義 思考の穴.ダイヤモンド社.
    2023,p.205

  4. アン・ウーキョン:著 花塚恵:訳者.イェール大学集中講義 思考の穴.ダイヤモンド社.
    2023,p.339

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