本稿は、2026/02/19に開催された「ポートフォリオのつくりかた ─ 編集とデザインの視点から presented by GMOペパボ」の講演内容をまとめたものです。
https://connpass.com/event/380791/
本イベントは、GMOペパボ株式会社が主催し、就職活動を控えるデザイナーに向けてポートフォリオ作成のヒントを共有するトークセッションとして開催されました。デザイン専門誌の編集長を歴任し『作品集のつくりかた』などの著書を持つ宮後優子氏、デザインストラテジストとして幅広く活躍する大﨑優氏、そしてGMOペパボのシニアデザインリードである関口裕氏の3人が登壇。それぞれの専門領域である「編集」と「デザイン」の視点から、ポートフォリオの本質や採用側が求めるポイント、そして効果的な作成方法についてざっくばらんに語られました。
ポートフォリオの本質と目的
対話の道具としてのポートフォリオ
ポートフォリオは単なる作品集ではなく、「対話の道具」であることが強調されました。これは、応募者と採用担当者との間で、作品やプロジェクトの背景にある思考、意図、情熱、そして人間性を深く理解するための媒介となるものです。見る側と見られる側のコミュニケーションを円滑に進めるための重要な役割を担っています。
言語化がもたらす深い理解
ポートフォリオの作成においては、自身の成果物をまとめるだけでなく、「なぜそれを作ったのか」「どういう結果として捉えているのか」「独自の目線はどこにあったのか」といった、プロジェクトに対する深い思考を言語化するプロセスが非常に重要であると指摘されました。これらの情報がポートフォリオに明確に書かれていることで、面接時の会話が「地下2階」で終わらず、「地下3階、4階」まで深く掘り下げて探れるようになると述べられています。応募者の思考の深さや課題解決へのアプローチをより詳細に把握できるため、機会損失を防ぐ上でも、ポートフォリオが応募者の内面と本質を伝える「ヒント」となる情報を含むことが不可欠です。
ポートフォリオを支える利他的思考と想像力
ポートフォリオ作成の根底には、利他的な思考と想像力が不可欠であると指摘されました。「利他的」とは、ポートフォリオを「見る人」、つまり採用担当者の視点に立って物事を考えることを指します。また「想像力」とは、自分とは違う立場の人が今どういうことを考えているのかを一生懸命想像してみる力です。この利他的思考と想像力を働かせることで、採用担当者が何を求めているのか、どうすれば情報が伝わりやすいのかを深く考察できるようになります。これはポートフォリオ作成に限らず、社会人として求められる基本的なコミュニケーション能力の基盤となると語られました。
採用の現場が求める視点
ビジネス貢献と「同僚になりたいか」という問い
採用担当者は、単に作品のクオリティだけでなく、応募者が「ビジネスドメインにどう貢献できるのか」を評価しています。最終的な選考基準は、突き詰めると「同僚になりたいかどうか」に集約されると述べられました。これは「一緒に働きたいと思えるか」「一緒に働くイメージができるか」という具体的な問いに繋がり、スキルだけでなくパーソナリティや「カルチャーマッチ」も非常に重視されるポイントです。応募者の綺麗事だけではなく、「えぐみ」、すなわち本質的な動機や、どんなことを大事にしていて、どんな行動原則があり、何を大事にしたいと思っているのかといった深層にあるものを知りたいと考えており、ポートフォリオはこうした応募者の本質を垣間見せる重要な情報源となることが強調されました。
企業階層で異なる「共に働く」の捉え方
「一緒に働きたい」という思いは、企業内の立場によって捉え方が異なります。現場のメンバーは「一緒に働いて、一緒に成果が出せそう」という「同志性」を重視する傾向があります。一方、経営層のメンバーは「これまでなかった成果を出してくれそうだ」「会社組織を変えてくれそうだ」という「異質性」を重視します。この違いを理解せずにポートフォリオを企業にカスタマイズしすぎると、同質性が高くなり、応募者自身の「異質性」が見えなくなってしまうという指摘がありました。経験を積んだ面接官は、採用側に合わせて作られたポートフォリオを見抜くことができ、個性が埋もれてしまう可能性も示唆されています。カスタマイズは全体の2割程度に留め、自分らしさを失わないバランスが重要です。
読者(採用担当者)を意識する「編集者の視点」
「みんなと同じ」「自分らしさを出す」という二項対立ではなく、まずは「担当者視点で欲しい情報を伝えられているかどうか」が最も重要です。この点で「編集者の視点」が非常に有効であると指摘されました。編集者は常に読者がどう思うかを考えながらコンテンツを作成します。自分がどう作りたいかという視点だけでなく、「読者はどう受け止めるか」「これを見る人はどう感じるかな?」という基点からポートフォリオを構築するべきです。作成に熱心になるあまり、見る人の視点が抜け落ちているケースが多く見られるため、一生懸命作ったポートフォリオを何日か置いてから、第三者の目線で見直すことが推奨されました。
「伝わる」ポートフォリオを実現する
「伝わる」ポートフォリオとは、「相手が必要とする情報を、相手の現在の状況にあわせて、最適な優先順位で伝えること」と定義されました。この定義を実現するための具体的な方法が議論されています。
「自分らしさ」の表現と画一化からの脱却
採用側は、企業が求める「正解」に合わせようとする画一的なポートフォリオではなく、応募者なりの考えや「自分らしさ」を求めています。「余計なことをやっているかのような感じ」や、定型的なデザイン思考のフレームワークに縛られず、自分の感覚で見せ方も含めて試すくらいの表現が評価されることがあります。「私はこれに打ち込みました」「これがすごい好きです」といった熱量が伝わるポートフォリオは、その人となりを明確に示し、採用担当者の心を動かすとされています。一方で、良いものを持っているのにまとめ方や説明が不十分なために実力が伝わりきらない「ポートフォリオで損をしている人」も存在します。見る人が見やすいように作る、説明をちゃんと入れるといった「テクニック」でカバーできる部分も多く、第三者に見てもらいアドバイスをもらうことで格段に良くなっていくことが語られました。
情報を最適に伝えるための工夫
ポートフォリオは、採用担当者が「なぜそれをしたのか」「どういう結果として捉えているのか」「独自の目線はどこにあったのか」を知りたいというニーズに応えるべきです。これを最適な優先順位で伝えるために、「見出し」の活用が非常に重要であると挙げられました。見出しだけを拾い読みして意味が伝わるように構成することで、採用担当者は短時間で全体像と応募者の強みを把握できます。また、デザインを専門とする学生は文字数を減らしがちですが、面接官は「ちゃんと読む」前提で記述すべきです。冗長な文章は避けるべきですが、伝えたいことはしっかりと載せ、長文になる場合は段落分けやブロック分けで読みやすくする工夫も必要です。
第三者の視点を取り入れる実践
自分自身で客観的な視点を持つことは困難であるため、積極的に他者の意見を取り入れるべきです。具体的な実践方法として、学生同士での交換、社会人経験者(特に採用に関わっている人)からの意見、そして最も効果的なのは希望する会社の社員に直接見てもらうことが提案されました。カジュアル面談などを活用し、事前に連絡を入れた上でアドバイスを求めることは非常に有効です。多様な意見を聞くことは重要ですが、全てを鵜呑みにせず、最終的には「自分は何をしていて、何が強みなのか」という自身の軸に立ち戻って選択することが大切であると締めくくられました。
グループワーク記載における誠実さ
最近はポートフォリオにグループワークの記載が増えていますが、企業側もそれが一人だけの成果ではないことを理解しています。重要なのは、「ディレクターの役割」のように、自身の具体的な役割や貢献度を明確にすることです。ビジュアルがなくても、プロジェクトにおける自身の役割、その文脈や背景、そしてどんな学びや成果があったかを具体的に記述することが求められます。自身の役割を自分の言葉で誠実に書くことが重要であり、実際の業務では「連絡係」のような多様な役割が存在するため、社会人はそうした役割を気にする必要はありません。しかし、自身の役割以上のことをプレゼンテーションしてしまうと、虚飾と捉えられ、「誠実ではない人」という印象を与えかねないため、ポートフォリオ全体を通して誠実さが非常に見られていることが強調されました。
ポートフォリオ作成の実践的ヒント
量産から厳選へのプロセス
「よくわからないけど、このポートフォリオはすごい!」と思わせるような、熱量で押し切るものも良いとされます。その熱量を支えるのが「圧倒的な物量」です。デザインの世界では、たくさんの作品を作り、その中から良いものを取捨選択していくプロセスがクオリティを上げます。例えば、3つだけ作ったポートフォリオと、10も20も作った上で厳選した3つが載っているポートフォリオでは、面接官にはその違いがはっきりと伝わると語られました。量を作ることで良いものが生まれ、それを厳選して見せるのがデザインの基本であるという考えが示されています。
個性を最大限に伸ばすアプローチ
「全部をまんべんなく押さえようとするのは無理」だと理解し、自分の得意なところを伸ばすことに注力すべきであると推奨されました。例えば、ビジュアルコミュニケーションに強いこだわりがあり、伝え方は視覚的な方法に絶対妥協したくないのであれば、他のところが多少疎かになったとしても、それがその人らしさであり、評価されるべき個性です。リサーチに強みがある人なら、数年かけて集めたデータやロジックがしっかりしている作品に美学を見出す、といった具合です。「良い」「悪い」という単純な判断ではなく、「自分は何をしていて、何が強みなのか」というところに必ず立ち戻ってポートフォリオを構築し、選択していくことが求められます。
読みやすさを追求した文章表現
ポートフォリオの文章量が少ないと感じることが多いという指摘がありました。デザインを学ぶ学生は「文字が多いポートフォリオはデザインとして良くない」という感覚を持つかもしれませんが、面接官は内容を読み込みたがっています。ただし、ただ文章が多いだけでなく、パッと見て目に入ってきて意味が取れるくらいの文章量が読みやすいとされます。キャプションは短くし、きちんと説明すべき箇所は説明する。長文になる場合は、段落ごとにブロックで分けるなど、読みやすくする工夫が不可欠です。前述の「見出し」の活用も、読みやすさを向上させる上で極めて有効であるとされました。
提出形式と確認のポイント
現在の採用では、PDFでの提出が主流であり、物理的なポートフォリオは広告系代理店などを除けばほとんど見られなくなっています。重要な注意点として、採用担当者は基本的に13インチ程度の画面でPDFを見ることが多いため、文字が小さすぎると読みづらく、評価者の負担になる点が挙げられました。PDFを作成したら、13インチ画面でどう見えるかを確認することが強く推奨されることが共有されました。
関連情報:推薦書籍と採用機会
議論の締めくくりには、ポートフォリオ作成やキャリア形成に役立つ書籍、および登壇企業の採用情報が紹介されました。
推薦書籍
- 『作品集の作り方』 (宮後優子氏著、昨年2月出版): 編集者としての視点から、本を作る上で気を付けるべき編集とデザインのテクニックをまとめた書籍です。見開き完結でサクッと読め、学生から社会人まで幅広く推奨されています。
- 『デザイナーのビジネススキル キャリア5年目からの壁の越え方』 (大﨑優氏著、昨年9月出版): デザイナーがビジネス現場で直面する課題と対応策を具体的に解説しています。キャリア5年目からとありますが、学生にとっても社会人デザイナーの動き方や課題が参考になる一冊です。
企業からの採用情報
- コンセント: デザインを通じた本質的な課題解決をしたい方、幅広くデザインに取り組みたい方を募集しています。新卒採用を通年で行っており、冬ターム募集(2月26日まで)、春ターム募集(3月23日開始予定)があります。カジュアル面談も実施しており、気軽に社員と話す機会が提供されています。
- GMOペパボ: ミッション「人類のアウトプットを増やす」の下、様々な事業を展開しています。新卒採用(22年卒)や社会人中途採用を実施しています。「ペパボデザイン」というデザインポータルサイトや、有志によるデザイナー向けポッドキャストも公開されており、企業文化やデザイナーの考え方を知ることができます。