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ロピタルの定理について

Last updated at Posted at 2025-05-24

 ロピタル (de L'Hospital) の定理と書くと,また大学入試の話か? と呆れられてしまいそうだが,不定形は実際の研究現場でも度々遭遇する形であり,あだやおろそかにできない.

例えば定積分の求積法への応用はその重要性が認知されやすい例であろう.
即ち,定積分の値を複素関数論によって求めようとする際,留数計算に帰着されることがあるが,その多くは不定形を呈するため,de L'Hospitalの定理を (しばしば無意識に) 使っている人が多いと思われるからである.

先日,この定理について考える機会があり,何冊か名著をあたって証明を眺めていたところ,自分がきちんと理解していないことに気づいた.
そこでネットをあたってみたところ,予想通りではあったがこれでもかというほど記事がヒットし,かなりの数が大学入試での使用の是非に関するもの,特にその使用条件について言及しているものだった.
しかしながら,これらは私の脳裏を掠めた問題とは目的が違っていたため,ここに独り言を書くことにした.

──と言いつつ残念ながらこの記事もその使用条件に関する内容である.ただし,言及するのは証明の中身についてである.

de L'Hospitalの定理は,証明を見たことのある人ならわかる通り,Cauchyの平均値の定理に基づいている.それゆえ,平均値の定理の前提条件がそのまま引き継がれ,それ以外に,新たな条件も1つ加わる (そして,これらの条件達が軽視されている状況をけしからんとする記事が大量に存在するわけである).

さて,この記事で考える de L'Hospital の定理は次の様である:
────────────
ある2つの実関数 $f(x), g(x)$ が$x=0$の近くで連続かつ$f(0)=g(0)=0$であり,$x\neq 0$で微分可能かつ$g'(x)\neq 0$とする.このとき,Cauchyの平均値の定理によって
$$ \frac{f(x)}{g(x)}=\frac{f'(c)}{g'(c)}\quad (0<c<x), $$
となるような$c$が存在する.ここで$x\to 0$とすると挟み撃ちの原理によって$c\to 0$であり,
$$\lim_{x\to 0}\frac{f'(x)}{g'(x)},\tag{0}\label{eq:0}$$
が存在するならば (追加の条件),
$$ \lim_{x\to 0}\frac{f(x)}{g(x)}=\lim_{x\to 0}\frac{f'(x)}{g'(x)}, $$
が成り立つ.
────────────
このような記述はそこかしこで見られるものであるが,追加の条件 ($\ref{eq:0}$) を次のようにしてはいけないのだろうか?
────────────
……ここで$x\to 0$とすると挟み撃ちの原理によって$c\to 0$であり,
$$\lim_{x\to 0}\frac{f(x)}{g(x)},$$
が存在するならば,
$$ \lim_{x\to 0}\frac{f(x)}{g(x)}=\lim_{x\to 0}\frac{f'(x)}{g'(x)}, $$
が成り立つ.
────────────

ところが後者には$g(x)=x$,$f(x)=x^2\sin(1/x)$ ただし $f(0)=0$ という簡単な反例が存在する:

\begin{align}
&\lim_{x\to 0}\frac{f(x)}{g(x)}=\lim_{x\to 0}x\sin\frac{1}{x}=0\quad\text{(exists}),\\\\
&\lim_{x\to 0}\frac{f'(x)}{g'(x)}=\lim_{x\to 0}\left(2x\sin\frac{1}{x}-\cos\frac{1}{x}\right)\quad\text{(does not exist}),
\end{align}

この反例を使って,一体どこに落とし穴があるのかを考えることにする.

考察

まず,証明に出てきた$c$は,$x$が動くと変化するということに気をつける.
陽にかけば,
$$ \frac{f(x)}{g(x)}=\frac{f'(c_x)}{g'(c_x)}\quad (0<c_x<x), \tag{1}\label{eq:1}$$
ということであり,上式は $c_x$が満たすべき方程式 であると見ることができる.Cauchyはこの方程式の解が (少なくとも1つは) 存在すると言っているのである.

上式に$f(x)=x^2\sin(1/x), g(x)=x$を代入してみると,
$$ x\sin\frac{1}{x}=2 c_x\sin\frac{1}{c_x}-\cos\frac{1}{c_x}\quad (0<c_x<x),\tag{2}\label{eq:2}$$
となる.両辺で$x\to 0$の極限を取ってみると,
$$\lim_{x\to 0} x\sin\frac{1}{x}=\lim_{x\to 0}\left(2 c_x\sin\frac{1}{c_x}-\cos\frac{1}{c_x}\right), $$
となる.右辺の $c_x$ は $x\to 0$ に合わせて ($\ref{eq:2}$) を満たすように適切に変化することに注意.従って,実はここまではあっていて,両辺共に$0$である.要するに,$x\to 0$に対して確かに$c_x\to 0$となるのだが,だからといって右辺の極限を
$$\lim_{x\to 0} x\sin\frac{1}{x}=\lim_{x\to 0}\left(2 x\sin\frac{1}{x}-\cos\frac{1}{x}\right), $$
と書き換えてはいけなかったのである.このように書いてしまった場合,$c_x$が満たしていた方程式 ($\ref{eq:2}$)の情報が右辺から失われる.この問題ではそれはやってはいけないのである.

では,条件 ($\ref{eq:1}$) の下,
$$\lim_{x\to 0}\frac{f'(c_x)}{g'(c_x)},\tag{3}\label{eq:3}$$

$$\lim_{x\to 0}\frac{f'(x)}{g'(x)},$$
に書き換えて良いというのはどういうときか?それはまさしく上式が存在するときであり,そのときに
$$\lim_{x\to 0}\frac{f'(c_x)}{g'(c_x)}=\lim_{x\to 0}\frac{f'(x)}{g'(x)},\tag{4}\label{eq:4}$$
が成立し,従って最終的には$c_x$が持っていた情報 ($\ref{eq:1}$) を忘れてしまっても
$$\lim_{x\to 0}\frac{f(x)}{g(x)}=\lim_{x\to 0}\frac{f'(x)}{g'(x)},\tag{5}\label{eq:5}$$
を結論して良いのである (($\ref{eq:3}$)式以降の流れはε-δ論法ですっきりと証明できる).
($\ref{eq:4}$)の差し替えによって $c_x$ の $x$ 依存性 ($\ref{eq:1}$) を忘れ,($\ref{eq:5}$) を主張する定理が de L'Hospital の定理 である.

補足1

($\ref{eq:2}$)の$c_x$についてもう少し考えてみよう.簡単のため非常に小さい$x>0$を考えてみると,左辺と右辺第1項は0に近いため,$c_x$として
$$ 0= -\cos\frac{1}{d_x}\quad (0<d_x<x), $$
の解を近似解にできる.上式の解は
$$d_x = \left[\pi\left(n_x+\frac{1}{2}\right)\right]^{-1},$$
である.ただし,$n_x$は$0<d_x<x$を満たす整数である.
このような$n_x$は無数に存在するため,$c_x$は (少なくとも$x$が充分小さいときは) 無数に存在している.$x\to 0$に対する全ての$n_x$について$n_x\to\infty$であるから,$d_x$は不連続な振る舞いをしつつ$0$に向かうことがわかる.このとき,$\sin(1/d_x)=(-)^{n_x}$ と $\cos(1/d_x)=0$ に注意すると

\begin{align}
\lim_{x\to 0}\left(2 c_x\sin\frac{1}{c_x}-\cos\frac{1}{c_x}\right)
&=\lim_{x\to 0}\left(2 d_x\sin\frac{1}{d_x}-\cos\frac{1}{d_x}\right)\\
&=\lim_{n_x\to \infty} 2  \left[\pi\left(n_x+\frac{1}{2}\right)\right]^{-1}(-)^{n_x} \\
&=0,
\end{align}

となって正しい極限値に収束することが確かめられる.しかしここでも,$n_x$は整数に制限されていることに注意が必要である.
以上の計算は,いわば Cauchyの平均値の定理による極限計算 となっており,極限値の存在条件 ($\ref{eq:0}$) が不要である (そもそもこの極限値は存在しない).従ってこの意味においてもやはり,極限値の存在条件 ($\ref{eq:0}$) が de L'Hospital の定理の本質 であると言ってよいであろう.

補足2

類似の意識から,以下のような問題が考えられる:
$$\lim_{x\to a} g(x)=\alpha,$$
に対して
$$\lim_{x\to a} f(g(x)),$$
が存在するとき,次の極限値は存在するか?(I)
$$\lim_{y\to \alpha} f(y),$$
及び,存在したとして
$$\lim_{x\to a} f(g(x))=\lim_{y\to \alpha} f(y),$$
は成り立つか?(II)

この記事で扱ったように,「一般には (I):存在しない」であるし,また,「(I):存在する,かつ,(II):成り立たない」の場合も作ることができるのである.

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