はじめに
最近、チームのリーダーがChatGPTなどのAIを使いこなすようになってから、地味に面倒な仕事が増えたと感じることはないでしょうか。
「AIに聞いたらこう言っていたけど、実際どうなの?」
こう聞かれること自体は悪いことではありません。むしろAIを判断材料の一つとして取り入れる姿勢は歓迎すべきです。しかし、その裏にある「本人が現状をきちんと理解していない」という状態が透けて見えると、話は別です。この記事では、AI活用が進んだことで新たに生まれた「無責任な調査依頼」という問題と、リーダーがAIとどう向き合うべきかについて書きます。
よくある光景
たとえばこんなやり取りです。
リーダー「AIに聞いたらこの設計はこうすべきって言ってたんだけど、どうなの?」
自分「なぜそれが必要だと考えたんですか?」
リーダー「いや、チャッピー(ChatGPT)がそう言ってたから、詳しくはわからないんだけど」
この時点で、質問した本人は自分の意見を一切持っていません。AIの出力をそのまま右から左に流しているだけです。その結果、受け取った側は「AIがなぜそう言ったのか」「その前提は現場に合っているのか」を一から調査する羽目になります。本来リーダー自身が一次情報として持っておくべき文脈を、逆にメンバーが埋め合わせる構図になっているわけです。
さらに厄介なのは、調査の末にAIの意見とは異なる結論を伝えたときの反応です。
自分「調べた結果、AIの提案とは違ってこうしたほうがいいと思います」
リーダー「AIはこう言ってたけど、みんながそう言うならいいよ」
一見、メンバーの意見を尊重しているように聞こえますが、これは裏を返せば「AIの意見をデフォルトの正解として信頼し、メンバーの意見はそれを覆すだけの根拠がある場合にだけ採用する」という態度です。結果として、AIは信じているのにチームメンバーは信じていない、というメッセージになってしまいます。これはメンバーのモチベーションを地味に、しかし確実に削っていきます。
何が問題なのか
AIを使うこと自体には何の問題もありません。問題は次の3点に集約されます。
1. 発言の責任がどこにあるか曖昧になる
AIの回答をチームに共有するのであれば、それを選んで伝えた本人に責任が発生するはずです。「AIがそう言っていた」という言い方は、実質的にその責任をAIに転嫁しています。AIは責任を取ってくれません。最終的に意思決定をするのは人間であり、その人間が根拠を説明できないまま提案を投げてくるのは、リーダーとして無責任だと言わざるを得ません。
2. 一次情報を持たないまま議論を始めようとする
現場の状況、過去の経緯、技術的な制約といった一次情報を理解していないと、AIの回答が現場にフィットするかどうかを判断できません。それを判断せずに「これどう?」と投げるのは、思考のプロセスをまるごとメンバーに丸投げしているのと同じです。本来リーダーが担うべき「AIの回答を現場と照らし合わせて検証する」という工程が抜け落ちています。
3. 無駄なタスクが発生する
投げられた側は、AIの提案が妥当かどうかを一から調べ直す必要があります。もしリーダー自身が先にひと通り検証していれば発生しなかった調査コストが、そのままチームの工数として積み上がっていきます。AIによって効率化されるはずが、逆にチームの負荷を増やしているという皮肉な状態です。
AIを使うなら、こうあってほしい
AIを判断材料に使うこと自体は否定しません。むしろ積極的に活用すべきです。ただし、AIに聞いた内容をチームに共有する前に、最低限これくらいはやってほしいと思います。
- AIの回答を鵜呑みにせず、なぜそう言っているのか、根拠や前提を自分の言葉で説明できるようにする
- その提案が今の現場の状況、制約、これまでの経緯と矛盾しないかを自分なりに照らし合わせる
- 本当にチーム全体で議論する必要があるテーマなのか、自分の判断で決められる話ではないのかを見極める
- 共有するときは「AIがこう言っている」ではなく「自分はこう考える、AIの回答も参考にした」という形で、自分の意見として発言する
要するに、AIは相談相手であって、意思決定の代行者ではありません。AIの回答をそのまま右から左に流すだけなら、リーダーを介す意味がなくなってしまいます。AIに聞いて終わりではなく、AIに聞いた「あと」の思考にこそ、リーダーとしての価値があるはずです。
まとめ
AIの登場によって、誰でも一定水準の一般論や仮説にすぐアクセスできるようになりました。これは間違いなく良いことです。しかしそれは同時に、「AIに聞いた」という事実だけでは何の付加価値にもならない時代になったことも意味します。
AIの回答を自分の意見としてチームに伝えるなら、その責任は発言者自身にあります。根拠を説明できない提案を投げて、周囲に無償の検証タスクを発生させることのないよう、AIを使う一人ひとりが「聞いて終わり」ではなく「聞いてからが仕事」という意識を持てるといいなと思います。
もし「AIがこう言っているので」以上のことを何も語れないのなら、正直なところリーダーはAIに任せてしまったほうが早いかもしれません。少なくともAIは、聞かれたことに対して自分の言葉で根拠を説明してくれます。