こんにちは。Blitz1127です。
前回、3相全波整流回路を解析しましたが、今回は高調波について議論していきたいと思います。
高調波の概要
高調波とは、基本周波数の整数倍の周波数成分のことです。信号解析をしたことがある人ならば、信号をフーリエ変換などで時間成分を周波数成分に変換したことがあるかと思います。電気業界では、交流50/60Hzを基本成分として、その整数倍を議論しています。
本記事は、フーリエ変換でただお遊びしたという話ではなく、パワーエレクトロニクス業界では問題になりやすいということをシミュレーションしたいと思います。
高調波の発生害とその発生原因
まずは高調波がどのような害をもたらすか説明します。図1は高調波による波形ひずみを示した図になります。青破線は単相交流回路の波形を示します。朱色破線は30%の3次高調波の波形を示します。黄色実践は高調波が重畳した時の波形を示します。高調波により、波形がひずんでいることがわかるかと思います。このように波形がひずんだ結果、高調波発生機器の周辺機器が異常動作をすることがあります。例えば、工場の電源系統において、モータ駆動用インバータが大量の高調波を発生させた結果、周囲のコンデンサに大電流が流れ込み過熱したり、工場構内の変圧器が異常な振動をすることがあります。
高調波の発生原因は、パワーエレクトロニクス機器になります。例えば、3相全波整流回路では、1周期の間に6回スイッチングをするので、6次高調波付近が発生します。偶数次数はフーリエ変換と偶関数の特性から0になります。そのため、5次と7次の高調波含有量が増えます。
このように、パワーエレクトロニクスの分野では、半導体素子を高速でスイッチングするがゆえに、高調波問題が発生してしまいます。
図1 高調波による波形ひずみ(基本波+30%の3次高調波)
MATLABで3相全波整流回路を解析
それでは、パワーエレクトロニクス機器により高調波が本当に発生しているか調べてみましょう。回路としては、図2のような3相全波整流回路を活用します。回路パラメータは表1のとおりです。
高調波は、パワーエレクトロニクス機器から交流側に流れ込むので、パワーエレクトロニクス機器の前段の波形を取得します。ブロックとしては「Three-Phase V-I Measurement」を活用します。
表1 回路パラメータ
回路素子 | パラメータ |
---|---|
電源 | 6.6kVrms<50Hz> |
ダイオード | オン抵抗 1mΩ 電圧降下 0.8V スナバ抵抗 500Ω スナバコンデンサ 250nF |
インダクタ | 1mH |
コンデンサ | 1uF |
抵抗 | 1kΩ |
3相全波整流回路の解析結果
図3は交流系統側の電流波形です。正弦波の波形とは大きく異なった波形になっていると思います。これが高調波による影響です。
次にこの波形を解析します。MATLAB/Simulinkでは「Powergui」ブロックで様々な解析を行えるようになっています。ここでは「Powergui」ブロック内の「FFT Analysis」を選択することで、高調波解析を行うことができます。高調波解析するにあたり、注意点が二つあります。一つは、「Scope」ブロックの計算結果を「時間付き構造体」でワークスペースに出力すること。もう一つは、「モデル設定」です。これは、「単一のシミュレーション出力」のチェックを外しましょう(この設定に気が付かず、数日調べまくっていました…。)。
図4はFFTをした波形になります。FFTするには、ある程度の時間を確保する必要がありますので、0.01sからの1サイクルでFFTをかけました。(Rだけの回路なので、すぐに定常状態に至っていると思いますが、スナバにより定常状態に至っていないかもしれません…。)
結果、基本波電流が98.5Apeakであり、5次高調波が22.6%、7次高調波が11.3%…となり、THDが30.7%含まれていることがわかりました。予想通り5次,7次の高調波が流出していること、以降6n±1次の高調波が流出していることがわかりました。
まとめ
今回はパワーエレクトロニクス機器で高調波が発生することを説明し、MATLAB/Simulinkでは一例として3相全波整流回路を取り上げ、高調波が発生することを確認しました。3相全波整流回路では、THD30%と非常に高い高調波を漏らしており、このままでは、高調波トラブルを引き起こしてしまいます。
これから、高調波の対策方法の解析などを行いたいと思います。